即戦力を獲得するには

「即戦力が欲しい」と口にする企業が目立つようになって久しい。そんなセリフを口にする人事担当者や経営者自身は就職した時代にはじっくり育ててもらえた側ではないのか、という気もするが、どの企業も10年単位や100年単位で未来を見据えて人を育てるという余裕がなくなってきたのかもしれない。

前置きはともかく、即戦力となる新人を獲得するにはどうすればよいか。結論を言うと現業と同じ業務フローを採用試験で受験者にやらせて、その改善提案を試験で行えばよいのだ。具体的には以下のフローで行う。

事前準備:企業の採用試験担当者は現業について業務マニュアルを整備し、受験者に配布できる形態(製本、PDFなど)で準備する。

事前課題:試験日の1ヶ月前や1週間前に業務マニュアルを受験者に配布し試験日までに精読させる。

実技試験:試験日に現業で使うツールを用いて現業の業務フローを受験者に行わせる。人事担当者は以下の観点で後述の面接試験への進出者を選抜する。
・業務フロー完了までに要した時間。
・業務フローの成果物の出来栄え。

面接試験:以下のテーマで経営陣や業務責任者に向けて受験者にプレゼンさせる。
「実技試験で体験した業務フローについて改善できる点は何か」
人事担当者は以下の観点で採用者を選抜する。
・プレゼンの提案内容が実際に組織の発展につながるか
・プレゼンの提案内容が現行の技術で実現可能か(夢物語になっていないか)
※面接試験にありがちな「志望動機の質問」「履歴書の読み上げ」といったものは行わない。確認するのは上記のテーマ唯一つである。

なぜ上記がよいのかだが、まず一般的に言われる「即戦力」とは具体的には以下の要件を満たす人を指す。
①売上を最速であげられる(=業務フローを最速で完遂できる)こと
②現状の問題点に気づく力があり、その問題の改善案を創造できること
③ルールを違反しないこと。ここでいうルールとは法律のような社会のルールや、組織内の独自ルールといった「複数の人同士で議論した上で制定したルール」を指す。誰とも議論せずにでっち上げた「俺様ルール」は含まれない。

「即戦力」の要件を満たす人を見極めるのに適した方法が前述の試験である。
・①は実技試験の業務フロー完了までに要した時間で見極める。
・②は面接試験のプレゼン内容で見極める。
・③は実技試験の業務フローの成果物の出来栄えで見極める。ズルをしてできあがった成果物には不備がある。人事担当者は不備の有無を見極める。

前述の試験については反論があるだろう。
・「顧客ごとに事情が異なるから業務を定型化できず業務マニュアルを整備できない」という声があるかと思う。しかし組織で動くということは業務を定型化して業務マニュアルを整備するのと同義である。組織というものは担当者の入れ替わりがあるのが当然であり、担当者が変わっても成果物の品質を維持しなければならない。一部のスーパービジネスマンによって売上が確保され、そのスーパービジネスマンがいなくなった途端に売上が落ちたとなったら、経営者が望む「経営指標の安定化」が実現できず、組織を維持できないのだ。業務マニュアルをつくらなくてよいのは一代限りの個人経営だけである。
・「業務マニュアルは売上の核心であり企業秘密で門外不出」という声があるかと思う。それならば入社試験で即戦力かどうかを見極めることはできないので、即戦力を獲得するのをあきらめるしかない。
・「現業の業務フローを最速で処理できても、性格的に問題がある人が選抜されるかもしれない」という声があるかと思う。では現行の採用試験で、性格的に問題がある人を排除できているのかと問いたい。人間の性格はどんな環境で長年暮らしてきたかで変わるものだ。高々数回の面接で見極めることはできないし、採用後の組織の環境でも性格は変わるものだ。

長々と書いたが私が言いたいことはシンプルである。「足し算を最速かつ正確に処理できる人が欲しいのに、採用試験で一般常識や日本史の知識を問うのか?」ということである。

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