20180909日野市立図書館__1_

図書館とは

はじめに

あなたは住んでいる街や通っている街の図書館を普段使うことはあるだろうか。市町村や都道府県の公立図書館でもいいし、学生であればその学校の図書館でも構わない。おそらく下記のような人が大半ではないだろうか。
・学校の図書館は入学直後に使い方の説明を受けたきり行ってない
・大学の図書館には論文作成の参考文献さがし、街の図書館には試験勉強や暇つぶしのために行ったことがあるけど、定期的に行く習慣はない
・昔は調べ物をするために行ったけどインターネットで手元のPCやスマートフォンで調べられるようになったので行かなくなった
・静かなところ、空調のきいたところに滞在したいときに行く。図書館にあるもののうち利用するのは座席だけ

また、あなたが図書館と聞いて思い浮かぶ印象はどんなだろうか。おそらく下記のような人が大半ではないだろうか。
・本棚がたくさんあるけど読みたい本がない(だから読みたい本は本屋かネットで買う)
・子ども向けの絵本を並べたコーナーがあり、図書館に来るのは子どもと試験を控えた学生と年配者が大半。年配者はたいてい新聞コーナーに集まってる
・本を貸してくれる(でも借りたことがない)
・カウンターにいる職員は暇そう
・建物全体が静かで、大声を出すと周りの人から注意される
・読書好きが集まるところ

もしあなたが上記にあてはまるのであれば朗報である。この記事を読んだあなたは図書館に対する印象を覆し、図書館に足を運ぶことが増えるようになる。現代の図書館はあなたが思っている以上に様々なサービスを提供しており、あなたはそのサービスをフル活用すべきだ。特に、住んでいる街の公立図書館は住民の税金で運営しているため、フル活用しないと税金を払った分だけ損をする。

本文

まず、近所の図書館に読みたい本がないとお嘆きのあなたへ。あなたが図書館に足を運んで、さわれる本棚に置いてある本が、その図書館が持っている本のすべてとは限らない。カウンターの奥の職員しかさわれない本棚に欲しい本があるかもしれない。職員に読みたい本の所在を聞いてみよう。本のタイトルがわかるならばそれを、わからなければどんな本かざっくりとでも職員に伝えれば、職員が探してくれる。このように職員が相談に乗って探してくれるサービスはレファレンスサービスと呼ばれている。さらに現代の図書館は、他の図書館や博物館や美術館と連携するネットワークが組まれており、あなたが行った図書館で持ってない本でもネットワークを介して取り寄せてくれたり、他の施設を紹介してくれたりする。このように職員が他の施設を紹介してくれるサービスはレフェラルサービスと呼ばれている。いずれにせよまずは職員に読みたい本のリクエストを出すことだ。そこから先は職員がなんとかしてくれる。あなたに必要なものはただひとつ、図書館のカウンターにいる職員に話しかける勇気だけだ。

続いて、図書館というとその名の通り図書、すなわち本を読むための施設ととらえがちなあなたへ。考えを改めよう。図書館はあなたに情報を提供する施設だ。それも世の中の数多の情報の中から、あなたが望む情報、それも信頼できる情報を最速で提供する施設だ。図書館に本が多いのは人類の歴史上、情報を記録・伝搬するメディアとして長年主流だった形が本であるからに過ぎない。直近の数十年の間に人類はマイクロフィルムやビデオテープやCDやDVDを発明し、本ではないメディアに情報を記録するようになった。図書館は「図書の館」という施設名でありながら本ではないメディアも収集するようになった。それは図書館が本を集めて提供する施設ではなく、情報を集めて提供する施設だからだ。さらに人類はインターネット上のデータベースで情報を配信する仕組みを発明し、手に取る形を持たぬ情報を扱うようになった。図書館はパソコンを設置してデータベースを閲覧できるようにした。それは図書館が形を持つメディアを集めて提供する施設ではなく、情報を集めて提供する施設だからだ。

図書館は信頼できる情報を最速で提供する施設、というとあなたは「わざわざ図書館に行かなくても手元のスマートフォンでGoogle検索した方が速い」と反論するかもしれない。ではあなたに問う。
・Googleの検索結果の上位に出た文書は、あなたが欲しい情報だろうか?さらに言えばGoogleの検索結果を全件見れば、あなたが欲しい情報が見つかるだろうか?
・Googleの検索結果の上位に出た文書は、信頼できる情報源だろうか?たとえばあなたが論文を執筆するときに、Googleの検索結果に出た文書を参考文献として使って、有識者のレビューに耐えられる品質の論文になるだろうか?さらに言えばGoogleの検索結果を全件見れば、信頼できる情報源は出てくるだろうか?
・そもそもあなたがGoogleで検索するために入力したものは、あなたが欲しい情報を得るために最適なものと言えるだろうか?あなたはあなた自身が情報検索のスペシャリストだと胸を張って言えるだろうか?

Googleをはじめとした検索エンジンは、インターネット上に公開されていてクローラがさわれる文書のみを対象に収集し、検索する人が入力したものに最も合致しそうなものを機械的なアルゴリズムで列挙する。当然クローラがさわれない情報源は提供できないし、検索結果の上位に来たものが信頼できるとは限らない。HTMLのmetaタグを駆使して検索結果の上位に来るように仕掛けが施された、中身の薄っぺらな文書がヒットするかもしれない。

そもそも「情報を探す」という行為をあなたが苦労してがんばらなくていいのだ。図書館に行けば司書という情報検索のスペシャリストがいるのだから彼らの力を借りるべきだ。もしあなたが「そう言われても図書館って本を探すところでしょ」というならば、再度言うが図書館は信頼できる情報を最速で提供する施設だ。そして図書館という施設の礎となっているのは日本国憲法の「表現の自由」と対になる「知る権利」なのだ。あなたが「知りたい」と思ったことがあれば、それを探すのは図書館のミッションであり、その根拠は日本国憲法なのだ。あなたに必要なものはただひとつ、図書館のカウンターにいる職員に話しかける勇気だけだ。

もちろん司書だってGoogleは使う。ただし司書が使いこなす数多のツールのうちの1つがGoogleであるというだけだ。司書はあなたから検索に必要な情報を綿密にヒアリングした上で、ツールと経験を駆使してスピードと信頼性のある情報検索をする。ここで気をつけるべきことは、司書は物知りではないということだ。司書はあくまでヒアリングと情報検索の仕方、そしてその図書館で持っている本にどんなものがあるかおおまかに知っているだけで、歴史学者より歴史に詳しかったり、医者より医学に詳しかったりするわけではない。そしてもうひとつ気をつけるべきことは、司書は検索した結果見つかった情報源をいくつか提示してくれるが、それらのうちどれを選ぶか、またはどれも選ばないかは、あなた自身が判断することであるということだ。たとえば「小学1年生におすすめの絵本は何がありますか」と相談すれば、司書はよく読まれた実績がある本やブックレビューに取り上げられることが多い本を何冊か提示してくれるだろう。そこからどれを選ぶかはあなたのミッションだ。もしあなたが「そんなこと言われても選べない」というなら、一番簡単なのは提示されたものを全部もらうことだ。

さて図書館というと本やCDなど、保管しているものを貸してくれる施設だと思っているあなたへ。この貸出サービスはあくまで、あなたが情報を知るための手段の1つに過ぎない。はるか昔の図書館は貸出サービスを提供しておらず、「税金で購入した『自治体の財産』を住民に貸すとは何事か」という意見もあり、図書館が貸出サービスを実現するまで先人の大いなる努力があったわけだが、重要なことはあなたが図書館を利用することで、「知りたい」を「知った」に変えることだ。この状態遷移をスムーズに実現するための手段の1つが貸出サービスであって、仮に本を借りる人がひとりもいなくても、司書の情報検索が鮮やかに行われてすべての利用者が「知った」という状態に至ることができるならば、図書館はその役目を充分に果たしているのだ。なぜこんなことに言及しているかというと、公立図書館は毎年の利用者登録数と貸出資料数の統計をとっており、その傾向をもって図書館の利用状況を分析する人がいるからだ。貸出資料数が伸びないからといってその図書館が役目を果たしていないとは言い切れないのだ。

次に、図書館というと静かで空調が効いていて勉強したりリラックスするのにぴったりだと思っているあなたへ。図書館は信頼できる情報を最速で提供する施設であり、座席は情報を得るために図書館が持っている資料を閲覧する人が使うためにある。あなたが座席を使うならば図書館が持っている資料を閲覧するのが筋であり、知りたいことを知ることができたら速やかに席を空けるべきだ。ただ、この話には一筋縄ではいかない事情が横たわっていて、図書館は住民の自発的な成長を促す教育施設という側面と、住民の生活をよりよいものにする公共施設という側面がある。座席で試験勉強することで成長し、座席でリラックスすることで生活がよりよいものになるならば、図書館の役目としてはアリだろうという考え方である。そして公立図書館は住民の税金で運営しているのだが、
・意見1:図書館はすべての住民が情報を知るためのツールであり、図書館を建てた目的は住民の成長に基づく自治体の発展だ。図書館は自治体の成長戦略に沿って税金を投入する戦略的施設であり、憩いの場などという生ぬるい施設ではない。すべての住民が利用し、司書が高速に情報提供することで一人あたりの利用時間は最短を目指すべきだ。
・意見2:図書館は住民の税金で運営しており、図書館の座席に使う机や椅子、座席確保のための土地だって住民の税金が元手だ。住民は図書館を心ゆくまで使う権利がある。長居する権利もある。
というどちらの意見も筋が通るのだ。まあ利用者同士や職員との間で賢く仲良く座席を譲り合うのが良いのだろうと思う。

ただ、図書館に静けさは不要だと思う。少なくとも、図書館内での会話を制限するのは違うと思っていて、前述の通り図書館は信頼できる情報を最速で提供する施設であり、静粛を求めるということは情報通信(コミュニケーション)を遮断するということだ。利用者と職員は活発に会話して情報をやりとりする頻度を高めるべきだと思うのだ。さらに利用者と職員の会話に別の利用者が参加して群衆の叡智(三人寄れば文殊の知恵)が生まれたりすれば、その方が自治体の発展につながるだろう。職員が蓄積した情報を提供するだけでなく、図書館にいる人をどんどん巻き込んで情報伝達を活発にする、そういう施設を志向するべきだと思う。図書館はもっと活気ある施設であるべきだ。

次に、図書館のカウンターにいる職員は暇そうだと思っているあなたへ。勇気を持って職員に話しかけて職員の仕事を増やしましょう。特に司書は情報検索のスペシャリストだが、その高度なスキルが発揮されるにはあなたからの相談が必要だ。答えづらそうな相談でも臆せず話しましょう。これはあなたの「知りたい」を「知った」に変えるためでもあるし、司書のためでもある。実は図書館の職員という職業は一般的に収入が低いのだ。公立図書館の正職員であれば公務員の水準に即した給与が与えられるが、最近の図書館は指定管理者制度という「図書館の運営を企業に丸投げ」や、非正規雇用の職員が増えている。背景は住民のうち図書館を利用する人が少ないことと、高度なスキルを必要とするレファレンスサービスを利用する人が少ないことだ。図書館があまり使われず、職員がやることといえば本棚の整頓と貸出手続きくらいならば、役所としては「それなら誰でもできるから人件費抑えよう」と図書館のコストダウンを図りたくなるというわけだ。図書館側からすれば地位向上のための対抗策として「利用者のニーズに応えるために難易度の高い仕事をしている」という裏付けが欲しくなる。その裏付けがあなたからの相談なのだ。あなたが勇気を持って職員に話しかけることで、あなたもハッピーになるし職員もハッピーになれるのだ。

次に、図書館は読書好きが集まるところだと思っているあなたへ。よく「趣味は読書」と自己紹介する人がいるが、そもそも読書という行為は好きとか嫌いとか趣味とかで括れるものではなく、現代人の必須スキルだ。別に長編小説を読めと言っているわけではなく、絵本や専門書、ネット上のニュースでも構わない。読むもののジャンルを問わず、文章を読んで筆者が伝えようとしている情報を正しく理解すること、これが読書であり、読書ができなければ現代人は生き残れないのだ。現在の日本は平和を維持するため国内・国外問わず戦争をしない国であるが、情報に関しては「いかに速く新しく特筆すべき情報を生み出し、いかに速く広くそれを伝搬するか」と企業間・自治体間・国家間で激しい競争をしているのだ。そんな社会で「文章読めません」などと言っていたら競争に負けて生き残れない。それに自治体が高い税金をはたいて「趣味が読書の人のための施設」なんてものをつくるわけがない。すべての住民が生き残るためのスキルを磨き、その自治体の発展につなげる、自治体はそんなシナリオを描いて図書館という施設を設けるのだ。あなたは生き残るために、図書館の先に広がる情報の海に飛び込むべきだ。

おわりに

さあ、これであなたは図書館の通だ。知りたいことがあれば図書館の職員に相談しよう。もちろん検索端末(OPAC)を使いこなせる自信があればフル活用しよう。

あなたが図書館に足を運ぶ機会を増やすことを願う。もちろん図書館以外の公共サービスも同様に、税金で運営しているので住民の権利としてフル活用しよう。もし自宅から徒歩圏内に図書館がないのならば、公立図書館が運営する移動図書館を利用することをおすすめする。さらにあなたが身軽であれば図書館の近くに引っ越すという手もあるだろう。さらにあなたが積極的であれば住んでいる自治体の教育委員会に図書館を増やすよう進言するという手もあるだろう。

最後に、この記事の冒頭の写真は東京都日野市の中央図書館である。日本の図書館の歴史上、この図書館は「市民の図書館」の代表的な場所として知られている。

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