ドラゴンクエスト ユア・ストーリーの残念だった点とファンが喪った未来【ネタバレあり】

先週、ドラゴンクエスト ユア・ストーリーを観てきました。

ヤバい評判がたくさんTwitterのタイムラインに流れてきて、これは致命的なネタバレを食らう前に観てきた方がいいな、と。幸い、私はドコモを長年使っている上級ドコモ民なので、ドコモチューズデーで1100円で観ることができました。

さて、自分は自分はあのオチは「ないわー」派です。

ドラクエV部分のストーリーは大胆にトリミングされ、良く言えばテンポ良く進みます。「日本でもこんなに綺麗なCGで全編作れるようになったんだなぁ」と感心した美麗なグラフィックとコミカルなアクションは、「まあ今風で、これはこれでいいんじゃないか」と楽しく観ていました。結婚式まわりのイベントの解釈もまあアリです。ビアンカもなんか田舎娘っぽさを出したキャラデザですがこれはこれでかわいいじゃないですか。声もいわゆる俳優起用ですが粗もあんまり感じません。

「ラストが良くない」という噂を耳にしつつも、「あのシーン」のほんの1秒前まで、「このまま終わってくれればすごくいい感じなのに。このままでは終わらないんだよな。」と。大河ドラマで石田三成を応援しつつも関ヶ原で小早川秀秋が裏切るシーン直前を見る心境。大坂夏の陣で真田幸村を応援する心境。

でも、あの映画は「ドラゴンクエストV」ではなく、「とあるドラゴンクエストをモチーフにしたどこかの誰かのストーリー」だったのです。

陳腐だの、使い古しだの、冒涜だの。言いたいことはいくらでもあるのですが、それはともかく本題はここから。

日本映画が目指す先として、一つのお手本はハリウッド映画なのは間違いないと思います。しかし、予算、人材、機材などなど、様々な「超えられない壁」が日本映画とハリウッド映画の間にはまだまだ存在します。しかし、シン・ゴジラなど、クリエイターの努力で少しずつ日本映画はハリウッドに追いついてきているのでは、と思っていました。そして、今回映画館で「ユア・ストーリー」を見始めたとき、「日本でもこんなに綺麗なCGで全編作れるようになったんだなぁ」と感心したのです。これだけの映像を作れて、あのドラゴンクエストのシナリオを映画化できているのであれば、もしかしてもしかすると、ディズニー映画の向こうを張って世界に討って出られる作品になり得るのではないかと。匹敵とは言いませんが足下くらいまでは到達できたのではないかと。

しかしラストを見た瞬間、自分の期待はもろくも崩れ去りました。

「ああ、また日本の原作つき作品の悪い癖が…」と頭を抱えました。

なんなんでしょうね、あの「自分の考えたオリジナル要素を加えて改変しないと自分が携わった意味がない」みたいなアレ。

ハリウッドでは、ディズニーやマーベルなどで、かつて絵本やコミックスだったコンテンツが次々と映画化されて世界に発信されています。ハリウッドの培った技術や人材が、「あのコミックスが現実世界だったらこんな感じなんだろうな」「あのイラストがそのまま動き出したらこんな風になるんだろうな」という素晴らしい映像とストーリーの映画が日々作られています。

それの多くは原作をリスペクトし、原作に向き合った忠実な映画化だったり、原作にあってもおかしくないようなIFであって、ストーリーのおしりにそれまで見ていた原作ファンを足蹴にするような改変をしたようなものはまあ無いわけです。(中にはあるのかもしれませんけども)

青臭い言い草ですが、わりと自分は日本のゲームのソフトパワーを信じているのです。いつか日本がハリウッドに追いついたとき、日本のゲームのコンテンツが日本人によって忠実に映像化されたものが世界に発信され、世界中のファンがそれを見て楽しむことになるんだと。(別に2時間映画でなくても、ゲームオブスローンズのような連続ドラマでもいいんです。むしろ長いRPG原作はその方がいいのかもしれません。) (とはいえGOTはまさに結末の改変が物議を醸している作品でもあるのですがそこはそれ。)

しかし残念ながら本作はそんな内容ではありませんでした。アレはドラクエをモチーフにした何かであって、あんなものは海外に「僕たちが子供の頃夢中になったドラゴンクエストVだ」とはとても言えるものではないのです。

「ドラクエをモチーフにした何か」でしかなかったとしても、外見上はドラゴンクエストVです。おそらく今後10年や20年は「ドラゴンクエストVの映画化」の企画は作られることはないでしょう。子供の頃、スーパーファミコンのドット絵を通じて見た親子三代に渡って大冒険をしたあの世界が映画やドラマになって、海外のファンに「これこそが俺の子供の頃に大好きだったドラゴンクエストVという作品なんだ」と胸を張れる機会は自分が生きている間にはもうなくなってしまったかもしれません。少なくともすぎやまこういち氏が生きてる間には作られることは無い気がします。

ドラゴンクエスト ユア・ストーリーは、そんな誇らしい作品になってもおかしくなかったのに、制作者のくだらない自己顕示欲によって凡百の日本映画に成り下がってしまいました。場合によっては「日本のゲームコンテンツをそのまま忠実に映像化して世界に問うことができるのではないか」といういつか来る機運すら20年は後退させてしまったのではないでしょうか。とても残念で残念でなりません。

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