クィアで聴き解くGARNET CROW③~「最後の作品」を考える

前回の「クィアで聴き解くGARNET CROW②~「clockwork」のもうひとつの仮説」では、「clockwork」の歌詞をクィアな視点に立って考察することで、GARNET CROWの中心メンバーである「ゆり七」が二人の「JUDY」であるという可能性を見出した。こうした前回の結論、そして今回の考察は、もはや完全に原曲のイメージや発表された時期などから筆者が考察した限りなく論拠の乏しい「妄想」であると言える。しかし、「わからないことは原典から考察すべし」を信条としている身として、楽曲から構想を膨らませることはあながち間違った方法ではないとも思っている。すべての答えは楽曲にある。

今回は、GARNET CROWの「最後の作品」についてクィアな視点を交えてに迫りたい。

GARNET CROWの最後の作品はなにかということには、ガネクラの間で議論があるようだ。最後の作品の候補にあがるのは、ラストシングルであり、ラストアルバムの1曲目を飾る「Nostalgia」、「Nostalgia」のカップリング曲である「風の中のオルゴール」、ラストアルバムの最後の曲「closer」、そしてラストライブで初めて披露された「バタフライ・ノット」の4曲である。

後期のGARNET CROWの作品、肌感覚としてはラストアルバムの一つ前のアルバム「メモリーズ」のあたりからグループの「終幕」を暗示させるかのような作品が増えてくるように思うのだが、取り分けラストアルバムの「Terminus」が「終着点」という意味であることから、当初から「ラスト」を意識して制作されたことは間違いないだろう。このことから、「Terminus」に収録された「Nostalgia」と「closer」がまずは「最後の作品」の候補に上がると思う。ラストシングル最後のカップリングを飾る楽曲であるという点で、「風の中のオルゴール」もまた「最後の作品」の候補にあげて良いだろう。

「Terminus」の最初を飾るのが「Nostalgia」で、トリを飾るのが「closer」、そしてシングル盤「Nostalgia」のカップリング曲「風の中のオルゴール」である。このような事実から、まずは「closer」「風の中のオルゴール」と「Nostalgia」の関係性を、それぞれの楽曲の曲調や歌詞の一部から考えてみたい。

https://www.uta-net.com/song/135305/

「Nostalgia」は、間違ったことかもしれないという躊躇を持ちながらも、『あの映画のラストシーン』に背中を押され、うしろを振り返ることなく次のステージへの一歩を踏み出そうとする勇ましき「行く者」のゆく末を、「見守る者」の視点から描いた楽曲であると考えたい。
いっぽう、「Nostalgia」とどちらをA面にするか議論されたとされる「風の中のオルゴール」は、もう戻らぬと決意した「行く者」が、『来ない』とわかった『待ち人』である「見守る者」のことをセンシティブかつ受動的に想うといったような楽曲である。
「closer」は、closerという単語が示す通り、「閉幕」と同時に「親愛なる者」を彷彿とさせる曲であり、『君がやさしく見守ってくれている』という出だしの歌詞から、「風の中のオルゴール」同様に「行く者」が「見守る者」を想っているのがわかる。そしてどの曲にも言えるのは、過去に後ろ髪引かれるも行かねばならないのだという情動が歌われていることであろう。

以上をまとめると、「風の中のオルゴール」と「closer」が「行く者」の視点から描かれた作品なのに対し、「Nostalgia」は「見守る者」の視点から、同時に、その曲調から「見守る者」の決意をも含め描いている作品だと考えられる(曲調からすると、その安らかさから「風の中のオルゴール」と「closer」が「見守る者」、「Nostalgia」はその激しさから「行く者」が主と思いがちだが、歌詞を見るとこれが逆であるとわかる。)。
さらに、「Nostalgia」がラストシングルのA面でありラストアルバムの1曲目、それに対し、「風の中のオルゴール」がラストシングルのB面、「closer」がラストアルバムの最後を飾る曲という構図から見ると、「風の中のオルゴール」と「closer」が「Nostalgia」の対をなす楽曲、つまりアンサーソングであると読み解けるのだ。

そして、これにクィアな視点を盛り込むと、「行く者」と「見守る者」は当然「ゆり七」に措定出来るというわけである
(「行く者」と「見守る者」がそれぞれどちらに当たるのかということは、ここではあえて問題にはしない)。
ゆえに、「Nostalgia」「風の中のオルゴール」「closer」は、「ゆり七」それぞれの視点により描かれた作品であるが、「Nostalgia」のみ他の2曲との視点を異にしている。かつ、他の2曲のアンサーソングという位置付け上、「Nostalgia」は他の2曲とは一線を画す楽曲であると言える。

このように、「ゆり七」それぞれの視点で作品が描かれているということ、さらに妄想をたくましくすると、GARNET CROWの楽曲は、もしかすると公式見解である「作詞 AZUKI 七」の原則に必ずしも当てはまらないのかもしれない。「Nostalgia」を聴いていると、そんな思いまで込み上げてくるのである。

ともあれ、ラストシングル曲を収録した、ラストアルバム「Terminus」までの段階において、この3曲を「最後の作品」と位置付けることによって「終着点」は明確に示されていたと考えるべきであろう。
では、「終着点」が示されたあとに来る「バタフライ・ノット」は、GARNET CROWの楽曲を考察する際どのような位置づけになるのであろうか。

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