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エピソード80 狸囃子

80狸囃子

狸囃子は江戸時代の本所(東京都墨田区)を舞台とし
た本所七不思議と呼ばれる奇談・怪談の1つに数えら
れている。
お囃子の音がどこから聞こえてくるので音の方向へ散
策に出ても、音は逃げるように遠ざかっていき、音の
主は絶対に分からない。

音を追っているうちに夜が明けると、見たこともない
場所にいることに気付くという。
その名の通りタヌキの仕業ともいわれ、音の聞こえた
あたりでタヌキの捜索を行っても、タヌキのいた形跡
は発見できなかったという。

千葉県木更津市の證誠寺(しょうじょうじ)にも狸囃子
の伝説があり、「分福茶釜」「八百八狸物語」と並ん
で「日本三大狸伝説」の1つに数えられ、
童謡「証城寺の狸囃子」の題材となったことでも知ら
れてる。


80狸囃子 オリジナルストーリー

年の瀬も迫る、江戸のとある小さなお寺、住職と小坊
主が悩んでいた。

坊主:
和尚様、困りましたね~。うちの寺元々檀家さん少な
いのに、このところさらに減ってしまって厳しいです
ね~。

住職:
このままだと年を越すのもかなり大変だ。
しかもこのところ近くの森の狸たちがきて、寺のお供
え物だのいろんなものを荒らしまわっている。
しかも、夜になるとあいつら腹づつみを叩いて庭で宴
会をしているんだ。
困ったもんだなあ、どうにかならんかな?

坊主:
和尚様、私いいこと思いついちゃいました!
和尚様って太鼓の名人じゃないですか。
そこで狸たちの腹づつみと和尚様の太鼓で対決を持ち
掛けるんですよ。
宴会好きの狸たちは断るはずありませんから受けて立
つでしょう。
そこで町の人達にこの太鼓合戦を宣伝して観客を呼ぶ
んです。
そして入場料代わりにお布施を頂くんですよ!

住職:
お前すごいな!スーパープロデューサーか?
よし、早速今晩狸たちに申し込んでみよう!

そうして夜となり、寺の庭にまた狸たちが集まって宴
会が始まった。
遠くから見ていた住職はこの機を逃さんと狸たちの輪
の中に飛び込んだ!

住職:
た、狸ども!ワ、ワシはこの寺の住職だ!
お、お前たち、毎晩毎晩うちの寺の庭で大騒ぎしおっ
て、ゆ、許さんぞ~。

狸:
あ~。
この寺のへなちょこ坊主か、この寺には小坊主とこの
老いぼれの二人だけ全然怖くない!
俺たちは今まで通り楽しくやらせてもらうぜ~。
へへへへ。

住職:
あぁ、さすがにお前たちほどの数を相手にしてはワシ
達ではかなわない!
そこで、どうだお前たちも得意な太鼓で勝負というの
は?
ワシも太鼓なら多少の自信がある。

狸:
へ~面白そうじゃないか!
俺たちは毎晩毎晩腹づつみを叩いて鍛えてるんだ、
よ~しいいだろう受けて立ってやる!
それじゃいつやる、今からでもいいぞ。

住職:
いやいやワシも太鼓とかの準備もある、どうだ大晦日
の晩、日が沈んだらこの庭でってことで。
腹づつみに自信があるお前たちならいつであろうと関
係なかろう。

狸:
よーしわかった。よし大晦日の晩、日が沈んだらだな
じゃあその日まで坊主が練習出来るように、ここでの
宴会はしないでやるよ。
ありがたく思え。ハハハハハ。

狸たちは宴会を終わりにして森に帰って行った。 

坊主:
やりましたね和尚様。
よ~し、それでは私は段取り通り町の人達にこの太鼓
合戦のことを沢山知らせてきます。
そして和尚様は狸たちに負けないように太鼓の訓練し
てください。

こうして小坊主は太鼓合戦のお知らせを町中に貼り出
し、噂をいろんな人にふれ回った。住職はかつて太鼓
の達人と言われた昔を思い出し必死に太鼓の練習をし
た。

そして今日は大晦日、日も沈んで狸たちもぞろぞろと
寺の庭に集まってきた。住職も寺の大太鼓を庭に出し
はちまきにたすき掛けで狸たちを出迎えた。

狸:
おぉ坊主逃げずにいたか。いい度胸だ、さあ勝負だ!

住職:
待っておったぞ、この日のためワシも若かりし日の様
に太鼓の腕を磨いてきたわい、いざ勝負!

こうして狸と住職の太鼓合戦が始まった!
狸たちはお腹を膨らませポンポンとリズミカルにお囃
子を奏でている。

対して住職はいつもの住職とは思えない雄々しい姿で
巧みバチさばきで大太鼓を叩いている。

町の人達も噂が本当かと寺の外に集まってきていたが
寺の中から聞こえる太鼓の音にいてもたってもいられ
ず、入り口のお布施箱にお金を入れてどんどん入って
きた。

お囃子に集中している狸たちは町人達が入ってきたの
に気がつかない。
そして入ってきた人たちは狸たちと住職の太鼓の響き
に熱狂し思わず踊り始めた。

狸:
坊主お前やるな!
俺たちがこんなに熱くなるのは久しぶりだ!

住職:
狸、お前たちもな。
ワシも若いころの様に血がたぎるぞ!

こうして狸と住職の太鼓合戦は長時間続き、このまま
朝まで決着つかずで続くかと思われたその時!

ボ~~ン、ボ~~ン。
除夜の鐘、小僧が寺の鐘を突き始めたのである。

狸:
うわ~~っ!やめてくれ~!俺たちその寺の鐘は苦手
なんだ。勘弁してくれ~~。  

狸たちはクモの子を散らすように森に逃げて行った。

坊主:
知らなかった、狸たちこの寺の鐘が苦手だったんだ。

和尚様、和尚様勝負は終わりました。正気に戻ってく
ださい。

住職:
はっ、狸たちはどうした?
何、寺の鐘で逃げ帰ったと。
悪いことをした、残念じゃ決着を付けたかった。

こうして町の人達のおかげで年越しのお金もでき、久
しぶりに沢山の人達が年越しの除夜の鐘をついてくれ
た。住職も小坊主もにこにこして町の人達が帰るのを
見送った。

住職:
いい年越しになった。
来年もいい年になるといいな~。
狸たちこれに懲りず、またこの寺でお囃子してくれな
いものかな~。

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