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賢い俺、馬鹿なあいつ (加筆・修正)

今回は読みやすいように短編小説風にしてみようと思う。漫画化とか映画化とか・・・ぜひ!!なんて。ではスタート。

第一幕:俺とあいつと

俺は生まれた時から野良犬だった。物心ついたころにはすでに母ちゃんもどこかに行ってしまった。今では母ちゃんがどんな色の犬だったのかも覚えてないのだが、きっと俺に似た色だったんだろう。ずっと一匹で生きてきた。辛い目にもたくさん遭った。今日まで生き延びられたのは「リスクを考えること」と「警戒すること」を徹底してきたからだ。人間なんか信用できない。実際、ちょっと仲の良かった一匹の野良犬は人間に連れていかれ帰ってこない。きっと殺されたのだろう。意味は分からないが人間の話す言葉は「ほけんじょ」と聞こえた。あの時も俺は警戒していたので難を逃れた。それなのにあいつはのこのこ出て行って捕まってしまった。他者なんて悪意を持って自分に何かを仕掛けてくるに決まっているじゃないか・・・。馬鹿なやつだ。

第二幕:日常のこと

俺は今日も食料を求めて街をさまよう。収穫は少ないがなるべくリスクのない餌場を探す。飲食店街のごみ箱を漁るなんてリスクの高いことは素人のやることだ。俺が最近気づいたのは奇麗な食料を持っている人間をそっと尾行すると、「カシャ!」と小さな音がしてそのあとなぜか食べ物を捨てていく。俺の存在に気付いていての行動であれば罠を疑うがそんな様子もみられない。「カシャ!」と鳴らせば食料に用がなくなる。ただそれだけのようだ。

第三幕:子犬

いつからか子犬がついてくるようになった。理由はわからない。なんとなく体の色が俺に似ているので親しみを感じたのだろうか。野良で生きていくのは厳しい。若いこの子犬にそのことをしっかり伝えなければならない。「リスクを考えろ」「警戒を怠るな」世の中にこれ以上大切なことはない。これだけは魂に刻んでやらねばならない。こいつはそんなことも知らずによく生きてこれたものだ。感心もするがそれ以上に浅薄な思考回路を軽蔑する。なぜか慕われているのだが、どんなに探してみても悪意が見えないところを見ると純粋に慕っているようだ。今まで感じたことのないくすぐったさがあるが、行動を共にするのなら厳しく指導せねばならない。かつて、あいつが「ほけんじょ」とやらに捕まったのはあいつが人を信用したからだ。俺のためお前らのため「猜疑心を忘れるな」。

第四幕:伝わらぬ思い

俺を慕う子犬。この数か月警戒することの大切さを教育してきたはずなのだが、どういうわけか伝わらない。そいつの軽率な行動が俺までも危険に晒すことになるのだ。もっと警戒しろ。リスクを考えろ。信用するな。猜疑心こそが生きていくための唯一絶対の武器だ。俺たちが今日まで生きてこれたのは俺のこの教えがあってのことだ。そうでなければもうこの世にはいなかった。誰も信じるな。この俺のことも信じるな。それで良い。

第五幕:「ほけんじょ」

恐れていた日が来た。人間が「ほけんじょ」という言葉を発している。意味は分からないがきっと恐ろしいものだろう。「ほけんじょ」に連れていかれたあいつはもう戻らない。最後に聞いたあいつの悲しい声が頭の中で響いている。こんなときこそ十分に警戒してやり過ごさなければならない。一瞬の油断もできない。今日は食料はあきらめて隠れていよう。指示を出そうを思ったその時、警戒心の薄い子犬が奇麗な食料を持った人間の後を歩いているのを見つけた。そして、「ほけんじょ」に見つかった。警戒心の薄い子犬は簡単に捕まってしまった。俺はこいつを置いて逃げるべきなのだろうが、昔の友「あいつ」の最後の姿・声が頭から離れず、勝手に体が救出に動いていた。軽率だった。俺も捕まってしまった。

第六幕:運命の分かれ道

なんという事だろうか。ついに俺も「ほけんじょ」にきてしまった。先に来ていた犬の話では俺たちは数日後に殺されるらしい。警戒することをもっとしっかり叩き込んでおけばこんなことにはならなかった。もっと警戒すればよかった。もっと疑ってかかるべきだった。警戒心の薄い、捕まる原因になった子犬が激しく震えている。そんな中、ここから出る方法があるという話が聞こえてきた。自分を飼いたいという人間に選ばれるとここからでることができるらしい。「人間に飼われる!?」冗談ではない。信用できない。できるわけがない。今以上の恐怖と苦痛があるに違いない。翌日、人間が来た。いま、ここには俺、俺と一緒に来た子犬、そして、それぞれ俺たちと同じくらいの年齢の大人の犬と子犬が一匹ずついた。性格の傾向は、俺と向こうの子犬は警戒心をしっかり持っている。向こうの大人とうちの子犬は警戒心が薄い。たぶん、向こうは大人が馬鹿なせいで子犬も捕まったのだろう。馬鹿め。疑うことを忘れるな。翌日、人間がやってきた。俺は警戒していることをしっかりアピールした。おれと一緒に来た子犬はまたもや性懲りもなく人間に近づいて行った。そして少し遅れて警戒心の薄い大人の犬も人間の元へ近づいた。

終幕:かわいそうなお前ら

人間が来たとき俺は決して心を許さずに警戒していることを強くアピールした。俺たちとは別に捕まっていた警戒心の強い子犬も同様だ。こいつはなかなか見どころがある。俺と一緒にいたのがこいつだったら、俺たちは野良犬ライフを全うできたに違いない。「飼い犬探しの人間?一緒に威嚇してやるぞ!」俺たちは必死で威嚇してついに人間を追い払うことに成功したが、気がつけば警戒心の薄い2匹が人間に連れ去られていた。外からは人間と犬の楽し気な声が聞こえるがこれからあいつらには辛い未来が待っているのだろう。本当に馬鹿なやつらだ。

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