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不条理を歌詞に乗せて叫べ!「シオリエクスペリエンス」を読んでからなぁ!

大学時代、飲食店でバイトしているバンドマンの友達がいた。
同じサークルの先輩からバイトを引き継いだらしい。
「その先輩が言うんだよ。『飲食店でのバイトはいいぞ。社会の不条理を学べる』…学んでどうするんだよ。理不尽や不条理への反骨精神を歌にするのがロックだろうが!!!
彼の言葉は今でも覚えている。音楽をやる人間の精神性を初めて目の当たりにしたから。

ロックとかプログレとか私にはよくわからないが一つだけ確かなことがある。「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」は最高に面白い音楽マンガだということだ。以下では簡単のため「シオリエクスペリエンス」と表記する。本作は実在の人物、バンドが多数登場するため、アニメ化・実写化とも困難である。漫画でしか味わえないと思っていい。

進学校で英語教師を務める本田紫織(以下、シオリと呼ぶ)にジミ・ヘンドリクスの亡霊が憑りつくところから物語が始まる。ジミ・ヘンドリクスはアメリカの音楽雑誌ローリングストーンズ誌が選ぶもっとも偉大なギタリスト100人のトップに君臨する人物であり、27歳の若さでこの世を去った人物でもある。ジミに憑依された状態のシオリは神懸かったギターテクを披露できるようになったのだが、代償として27歳が終わるその日までに伝説を残さなければ死ぬとジミから伝えられる。シオリは生徒たちとバンドを結成し、日本最大級のバンドコンテスト"Bridge To Legend"への出場を決意する

説明が文だけでつまらない?ならにじさんじ所属公式ライバーの社築さんが本作への愛を叫んでいる場面を以下の動画から見てほしい。

ジミがなぜシオリに憑りつくようになったのかは序盤では語られない。が、クロスロード伝説の存在が序盤から暗に示されている。夜中に十字路に立ち自分がなりたいと望む27歳で死んだミュージシャンの曲を弾き呪文を唱えると、そのミュージシャンが悪魔の使いとして契約者に取り付き、契約者は超絶的な音楽の技術を手に入れることができるというものだ。実はシオリの兄がクロスロード伝説に従って契約を結ぼうとしたのだが、彼は27歳を超えていたために妹であるシオリにジミが憑りついてしまったのだ。

音楽マンガは矛盾をはらんでいる。音楽が重要なのに、漫画では音楽を画でしか表現できないからだ。が、本作では卓越した画力と表現力によって音楽マンガの問題点を解決している。

「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」8巻より引用

無駄ゴマがないがないのも特徴的だ。一コマ一コマに意義があり、優れたジグソーパズルのように一つのページを構成している。見やすい絵で、気分良く読めるのが絵に関する本作の特徴だ。

話についてはどうだろうか?王道の熱血部活動マンガであり、軽音部を結成して仲間を募るところから物語はスタートする。その点でいえばシンプルで素直だ。仲間を集めてバンドを結成し、バンドコンテストを経て伝説達成を目指すという一本芯の通ったストーリーになっている。作中ではこの表現はされないが、いわゆるライバルのようなバンドも登場する。どこかで見たような展開と言われればそうなのかもしれない。

だが、演出やセリフ回しには神が宿っている。17巻までのネタバレを許容できる方であれば以下の公式動画を見ていただくのが手っ取り早いだろう。名曲「終わりなき旅」と作中の展開をリンクさせて総集編のような作りになっている。

一巻でシオリはかつて共にバンドを組んでいた高校時代の友達に声をかけるが、彼女たちの現在の生活を鑑みてバンド再結成を諦めてしまう。自分のせいで解散を余儀なくされたバンドなのに、自分の都合で再結成を求めるわけにはいかない。自分にはギターを弾く資格なんてないと落ち込む彼女に対してジミは言い放つ。「この国じゃギターを弾くのに資格が要るのか?」と。

冒頭でも述べたが、不条理を嘆くのではなく歌に乗せて叫ぶのがロッカーだ。魂の叫び(ブルース)に従えと本作では度々表現される。ブルースというのは原義としてはblues, つまり悲しみや憂鬱になるが社会への反発という意味も込められている。不条理や理不尽を日常生活で感じる瞬間は私にだってあるし、あなたにだってあるだろう。その際に自分を押し殺さなくていい。ブルースに従っていいんだとジミは語る。

SeppHによるPixabayからの画像

本作を読む前にいくつか考えてみてほしいことがある。
子供の頃なりたかったものになっているか?学生の頃に立てた目標を実現できているか?周囲の視線や期待、束縛に囚われていないか?人生の目的に邁進できているのか?

心の底からやりたいものに向けて進む揺るぎない意思を本作は再確認させてくれる。漫画から情熱を分けてもらえると言ってもいい。あなたがくすぶっていても、目標に向けて確実に前進しているとしても、疲れた時には落ち着いて本作を読んでみてほしい。「シオリエクスペリエンス」はあなたの人生の糧になるであろう傑作漫画である。ここからは想像だが、おそらく作者は5巻区切りで物語を構成しているので、その単位で読み進めるのが良いと思う。

まだ完結していない作品であるため、ここからじっくり追っかけていい。ぜひ書店で手に取ってみてほしい。漫画から情熱を分けてもらえるなんて体験、人生でそう何度も得られないと思うから。

余談だが、私は9巻から10巻にかけた音々のパートが一番好きである。同志がいたらぜひコメントを残していってほしい。

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