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日本の環境技術は世界トップ

 欧米に比べて日本の環境対策は遅れているという報道が多い。いわくドイツは原子力発電の全廃を公約している、北欧は教育で環境問題が徹底されている、「〇〇では」の出羽守が大活躍である。日本は環境技術の後進国なのか? そんな国が京都議定書を提案し、世界で2位の環境技術発明件数などということがあるだろうか? あまり知られていないが、日本の環境技術発明件数は80万件以上で米国とほぼ並んで2位、ドイツの同件数は44万件で4位なのだ。
 小泉進次郎環境大臣の発言「プラスチックの原料って石油なんですよね、意外にこれ知られてないケースがあるんですけど」はネットで炎上した。一般人へのアンケ―トで16%の人がプラスチックの原料が石油と知らなかったという結果を踏まえての話なので、小泉大臣がプラスチックの原料を知らなかったという意味ではない。だが、多くの人は小泉大臣が石油がプラスチックの原料だと知らなかったととった。なぜか? 小泉大臣が決めたレジ袋の有料化、さらには進めようとしている無料スプーンの廃止があまりにトンチンカンだからだ。
 まず有料化されたレジ袋だが、平成29年度に環境庁の行った漂着ごみの調査で、容積ベースで、ポリ袋は全体の0.3パーセント、スプーンやストローなどは0.5パーセント。では一番多い海洋ゴミはというと漁具。網やロープが26.2パーセント、発泡スチロールのブイが14.9パーセント、ついでペットボトル12.7パーセント。本当に環境のことをどうにかするつもりなら、ここに手を入れるのが本筋であり、レジ袋やスプーンを廃止しても環境改善には文字通り1パーセントも効果がない。
 しかも海洋プラスチックの圧倒的な廃棄国は中国で132万~353万トンであり、日本は2~6万トンで30位。中国に対してプレッシャーをかける方が国内の小売業者をいじめるよりよほど効果がある。中国がたった1パーセント廃棄物を減らすだけで、日本の廃棄量と同等なのだ。
 海洋廃棄調査でも外国の廃棄物が多く、同調査では「奄美では外国製の割合が8割以上を占めたほか、対馬、種子島、串本、五島では外国製が4~6割」だったそうである。

〇石油からは嫌でもプラスチックの原料ができる

 だから日本が何もしなくていいという話にはならないが、大臣の言うカーボンニュートラル(=脱炭素、消費する石油や石炭から出る炭素量と植物等が処理できる炭素量の均衡を保つ)にプラスチックの使用削減は意味がない。
 小泉大臣の言った通り、プラスチックは石油からできるが、プラスチック用に石油を輸入しているわけではない。石油は日本に運ばれると灯油や重油、ガソリンなどに精製される。燃料に使われるのがおよそ9割、残り1割がナフサと言い、さらに精製されてプラスチックなど石油化学製品に使われる。石油を精製する過程で必ずプラスチックの原料となるナフサは出るのだ。
 石油化学工業会「石油化学工業の現状」2018年版によると、原油の総量のうち、プラスチック生産に使われるのは2.7パーセント。カーボンニュートラルが目的なら、プラスチックよりもガソリンや重油を問題にすべきだ。
 つまりレジ袋やプラスチックスプーンの規制は、環境汚染=海洋汚染の点からもカーボンニュートラルの点からも意味がなく、そこに規制を入れて罰金をとる(スプーンに関しては罰金を課したいそうだ)というのは、単に環境庁の独自財源を作りたいだけにしか見えない。
 そもそも世界主要国の年間1人当たりのごみ排出量(2015年度 出典:OECD.Stat)のトップは米国で年間720キロ以上、日本はその半分の同350キロ。これはドイツやフランス、イタリア、スペイン、韓国よりもずっと少ない。世界に比べて日本が、というなら、日本に比べて世界は何をやっているのかと聞きたい。環境省がまとめた「平成30年度 一般廃棄物の排出及び処理状況等」では、この3年間、排出量はほぼ横ばいが続いている(平成14年度に比べ、排出量は5分の1以下と激減させている)。現状ではごみの排出量の抑制は、これが限界なのだ。
 小泉大臣のいうカーボンニュートラルには、原発を再稼働して火力発電所を止め、日本にマッチした環境型発電(太陽光発電も風力発電も日本に向かないどころか環境破壊が著しい。潮流発電や高効率ガスタービン発電など日本に向いた発電方式は研究されている)の実用化に予算を注ぎ込むべきだ。そして海洋廃棄物の削減には、ぜひ中国や漁協とやり合っていただく。それが筋だ。
 政府が環境問題にまるで意味のないレジ袋やプラスチックスプーン削減を国民に課すなど、科学立国を標榜した国が何をやっているのか。

〇資源の保全とリサイクル

 日本はどんなエコ技術を持っているのか。たとえばJRの通勤車両。山手線で1984年まで使われた103系に比べ、現在のE231系の電力消費量は47パーセントと半分以下。さらに駅や車両で出るゴミのリサイクル率は2000年は35パーセントだったのが2010年には90パーセントである。極めて優秀ではないか?
 飲料でおなじみのアルミ缶のリサイクル率はなんと97.9%(アルミ全体ではないので注意)。
 年度ごとにテーマを決めて特許の出願状況を調べる特許出願技術動向調査では、2012年に太陽電池がテーマになった。「太陽電池に関するグローバル出願件数は、日本国籍が2,200件(27.7%)で最も多い」(同調査)。日本の太陽光発電は欧米に比べて遅れていると言われるが、「国別の導入量は、ドイツが約25GW、 イタリアが約13GWで、日本は約5GWで第3位」であり、ドイツと比べると全然少ないとはいえ、では他の国はどうかといえば、太陽電池発電ははるかに少なく、日本と同じ島国のイギリスは875MWと日本の5分の1ほどしかない。
 日本が環境技術に強いのには訳がある。1974年、日本はオイルショックを受けて、石油以外のエネルギー資源の研究開発を国策として掲げたサンシャイン計画をスタートした。カーボンニュートラルな発想ではなく、石油のように供給が国際情勢に左右されたり、公害を発生させない、恒久的に利用可能なクリーンなエネルギー資源の開発を目標に、太陽光発電や風力発電、地熱発電、水素エネルギーなどが検討された。計画が終了する2000年までに5000億円の予算が投じられ、民間と国が一体となって、太陽電池パネルの低コスト化や住宅への利用などの取り組みを行ってきた。風力発電は利用可能な地域の調査を行い、日本では普及が難しく限定的な発電方式になると結論した。石炭を液化、ガス化して発電に利用する石炭ガス化複合発電は国内で需要がまかなえるということで継続して研究開発が進んでいる。また水素自動車の開発はサンシャイン計画が元になっている。
 世界が環境と言い出す前から、日本はエネルギー資源の開発という別の理由でクリーンエネルギー開発に取り組んできた。中国や韓国の猛追を受けつつも世界トップクラスの環境技術大国であることに変わりはない。
 日本の環境対策が欧米より遅れているというのは大きな間違いだ。20年にわたる研究で、太陽電池発電や風力発電は日本に向かないとの結論が出たに過ぎない。そうした事情を知ってか知らずか、環境団体や一部の政治家は、ことあるたびに日本が世界に遅れていると主張する。同計画の研究者たちは忸怩たる思いだろう。

〇リサイクルよりもゴミの輸出が正しい社会

 では日本が世界に自慢できるほどご立派かと言えば、それは別の話。アルミ缶のリサイクルが進んでアルミ缶の製造コストが大幅に下がった。その結果、何が起きたかと言えば、飲料メーカーは飲料の種類を増やした。ゴミを減らしたらゴミが増えたわけだ。
 ペットボトルも、2003年から帝人ファイバー(株)がペットボトルからペットボトルを新しく作る、年間処理能力約6万2,000tの生産設備を稼働させたが、休止に追い込まれた。原料となるペットボトルが集まらなくなったからだ。これがなんと海外へ輸出されている。リサイクルするよりも海外にゴミとして輸出する方が安いからだ。
 持続可能社会というのは簡単だが、利益を最重要視する現在の経済システムで、リサイクルや資源保全は非常に難しい。それこそ行政が関与しなければ、せっかくの技術が資源を浪費する方向に使われてしまう。
 小泉大臣には、こうした今の社会の抱える現実の問題に向き合っていただき、スプーンをなくすなど情緒に訴える無意味なアジテーションはやめていただきたいと願う次第である。

参考
世界の環境技術発明件数 国別ランキング・推移
https://www.globalnote.jp/post-13906.html
海洋ごみをめぐる最近の動向
https://www.env.go.jp/.../marirne.../conf/02_02doukou.pdf
http://www.pwmi.jp/plastics-recycle20091119/life/life3.html
プラスチックごみ
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
石油化学工業会
http://www.jpca.or.jp/statistics/annual/nafusa.html
特許データで見る環境技術
https://system.jpaa.or.jp/.../jpaapatent200510_036-045.pdf
JR
https://www.jreast.co.jp/.../jre_youran_syakai_p72_74.pdf
特許出願技術動向調査
https://www.jpo.go.jp/.../gidou-houkoku/tokkyo/index.html
https://www.jpo.go.jp/.../isyou_syouhyou.../pamphlet.pdf
NEDO サンシャイン計画40周年
https://www.nedo.go.jp/content/100574164.pdf

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