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俺みたいのがお前の友達だなんてみんなに知れたら恥ずかしいだろうし、俺、お前の葬式なんか行かないよ(新学期)

俺みたいのがお前の友達だなんてみんなに知れたら恥ずかしいだろうし、俺、お前の結婚式なんか行かないよって、最初はそう思ってた。

そんなに仲が良かったわけでもないし、長い付き合いだった訳でもないのに、いまさら急に優しくするなよ。

おばさんから電話架かってきたし、その割に、他のやつらからは全然電話架かってこないし、本当にどうしよう。

借りた本も返さないといけないけど、読みたくもない本、何で借りちゃったんだろう、やっぱり返しに行かないと。

そんなこと思ってたあの頃。

そう、あれは今から40年くらい前、私が学生だった頃でした。古い話ですけどちょっと聞いていただけますか。

当時の大学は、2年が終わるまでは、語学や体育、科学や歴史など、いわゆる一般教養を学ぶことになっていました。退屈な2年を過ごしてから、専門に進むことになっていたのです。

持田と再会したのは、そんな気だるい2年が始まった春のことでした。

私は、時間割の都合が良かったという理由だけで取った科学史という科目の最初の授業に出ていました。

私の大学は、いわゆるマンモス校で、大きな授業は校舎の1階すべてを使った大講堂で講義がされるものもありましたし、小さな授業は、高校の教室くらいの部屋でされるものもありました。

科学史の授業は、重要文化財に指定されている古い古い建物のいちばん入口に近い教室でされていました。床も机も、椅子さえも木で拵えている教室で、先生が歩くと、ぎっぎっと床が軋んでいました。そんな教室には、10人くらいの学生が、後ろの方に、他の学生が気にならないくらいの間隔で座っていました。

高額の教科書を買わせた割に、この大学に来てからずっと使い続けているような古ぼけたノートで講義をしている先生にいや気がさして、ぼんやりと前の方ながめていると、斜め前に、あの持田がいたのです。

「持田君、久しぶり。この授業取っ・・・」

あまりにも常套句すぎる常套句で、持田君に話しかけようとした途端、

「静かにしろ、授業中だ。」

と、当時の学生としては、信じられないような答えが返ってきた。

「変わらないな。じゃ、後で」

授業が終わった後、持田と私は教室に残って話を続けた。

「何の授業を取ってるんだ、時間割を見せてくれないか。」

いうのを忘れていましたが、持田は文学部、私は法学部の学生でしたが、一般教養はどの学部の学生でも取れるようになっていて、持田と私は、同じ科学史の授業を取ることができたのでした。

「科学史と考古学、一緒だね。来週の考古学で会えるね。」

というと、持田は、

「会えたらな。」

確かに、考古学の授業は、担当の教授がマスコミによく出ていたせいもあって、もともと体育館だった校舎をにわかに教室に改装した校舎で行われていた。そんな中、持田を探すのが難しいことはわかっていた。

「でかい教室だもんな。」

持田は、

「そうじゃなくて、まあいい。」

二人は、教室を出た。持田はどうしたか知らないが、私はいつのもように、大学の西門を出て、4車線道路が交差する交差点を少し南に行ったところにあるゲームセンターに入った。

「これでノートは写せるし、科学史は出なくてもいいや。」

インベーダーゲームの画面に向かいながらつぶやいた。

「お前みたいのが・・・か。」

つづく

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