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座敷わらしが、アドレスホッパー(address hopper)になったわけ

ぼくの家は、関西地方のある田舎町にあります。この家には、おじさんとおばさん、そして小太郎さんという息子が住んでいて、元々は、民宿を営んでいました。

その頃は、主に東北地方に住んでいるといわれている座敷わらしが、関西のこの家にも出るということで、とても話題になっていて、テレビとかの取材まで来て、たいそう繁盛していたようです。

その座敷わらしこそ、ぼくなんです。みなさん、見えますか?

イェ~

見えませんよね。

小太郎さんが上京して、おじさんもおばさんも民宿をやめて、都会に住むようになってからは、ぼく一人がこの家を守ってきました。

そんなある日、小太郎さんが帰ってきて、この家を「ゲストハウス」にするとかで、自分で言うのもなんですが、外から見るといかにも座敷わらしが住んでいそうな古い家に、オシャレなソファーやテーブルを持ち込み、小太郎さん一人で内装を手直して、とりあえず、「小太郎ハウス」をオープンさせました。

小太郎さんは、東京のハウスメーカーにお勤めだったそうなので、こういった工事はお手のものでした。ぼくは、工事の間、裏の鎮守の森に逃げ込んでいましたが、どうやら完成したようなので、またこの家に帰ってきました。

すると、4人の若者が、小太郎ハウスに着いたところだったようで、リビングのソファーの脇にスーツケースとリュックのような小さな荷物を置いて、テーブルを囲んで座っていました。小太郎さんは、この若者たちに温かいコーヒーを運んできて、ついでに、それぞれの部屋の鍵を渡していました。鍵を渡しきったところで、小太郎さんは、さっさと自分の部屋に帰って行きました。

いちこが、コーヒーを一口すすって、しゃべりだしました。

「この宿って、もともとは民宿で、座敷わらしが出てたんだって。」

「へー。」、

「へー。」、

「へー。」、

へー。

なおみとまりこ、りょうすけともう一人が相づちを入れました。

テーブルの向かい側から、いちこが、こっちを見て尋ねました。

「ところで、あなたは、いつから小太郎ハウスにいるの?」

えっ、いちこちゃんには、ぼくが見えるんですか。

「見えてるよ。」

「うん。」

「ええ。」

「見えてます。」

いちこと、なおみと、まりこと、りょうすけが答えました。

ぼくは、いちこの問いに答えました。

ず~と前からです。

「このハウスって、そんなに前からあったんだ。」

なおみは、コーヒーに砂糖をいれながらつぶやきました。

ぼくは、聞いていいのか迷いましたが、興味があったので、勇気を出してみんなに聞いてみました。

みなさん、どんなお仕事をされているんですか?

いちこ、

「ブロガーやってます。全国を旅しながらブログを書いてるんだ。」

これだよ、ipadでブログを見せてくれました。

なおみ、

「セミナーなんかのとき、お食事が必要でしょ。そのお料理を作りながら全国を旅しているの。」

やはりipadでお料理の写真を見せてくれました。

まりこ、

「ダンスを教えながら、世界中を旅しています。」

これまたipadで動画を見せてくれました。

世界中か、すごいね。

りょうすけ、

「webデザインをやってます。」

名刺を見せてもらいました。CCOだそうだ。

「あなたは?」

いちこが、リュックの中をごそごそやりながら、こっちを向いて尋ねました。

ひとを幸せにする仕事です。

「へーすごいね。で、何の仕事。」

いちこが、続けざまに聞きました。

玩具で遊んでいます。

「おもちゃのデザイナーさんか。こどもたちを幸せにする仕事だね。」

いちこは、わかったようにうなずきました。

ぼくは、話をそらすため、スーツケースを見ながら、まりこに尋ねました。

荷物はこれだけなんですか。

「スーツケースとあとリュックかな。」

まりこは答えました。

それから、ぼくは、しばらく黙っていたので、みんなは、ぼくの存在を忘れてしまいました。

みんながとりとめのない会話に夢中になっているうちに、辺りは、もう暗くなっていました。

いちこも、なおみも、まりこも、りょうすけも、みんな自分の部屋に行ってしまいまい、リビングには、ぼくしかいません。

そうか、ぼくが世界中を旅して、ゲストハウスやシェアハウス、民泊に泊まれば、世界中の人たちを幸せにすることができるんだ。

そうだ、旅に出よう。

座敷わらしは、リビングに忘れてあったいちこのipadを借りて、世界一周の旅に出かけました。

小太郎ハウスの将来はどうなることやら。

つづく

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