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座敷わらしが、アドレスホッパー(address hopper)になったわけ(旅立ちの前にやっておきたかったこと。)

前回、座敷わらしのぼくは、世界中の人々を幸せにするため、小太郎ハウスを後にして世界一周の旅に出るはずでした。

でも、いちこちゃんから借りたiPadをどうしてもすぐに使いたくなったので、急遽予定を変更して、かの有名なtwitterで、知り合いの名前を検索することにしたんです。小太郎ハウスの裏手の鎮守の森の木の上にいるんだけど、みんなには見えないよね。

う~ん、ぼくに出世したいと言ってきた人、ずいぶ前だったけど、そうそう、原田さん、内閣総理大臣にまで上り詰めたんでしょう。その後お元気にされてますか。

えっ、暗殺されてしまったんだ。お気の毒に。

古すぎたかな、もっと最近にしよう。おじさんとおばさんが民宿をやっていた最後の年、10年前に来てくれた人、当時本省の課長補佐で同期の先頭を走っていた吉田さん、官僚のトップを目指すって言ってたな、どうされてるのかな。

あれ、IT関連企業の社長さんらしい。事務次官とかにはならなかったんだね。

同じ年に来てくれた人、高校3年生だった山川さん、若い頃から出世することを考えていた。帝都大学を目指していて、将来は、世界的な自動車メーカーに入って、電気自動車を開発したいって言ってたな。それっ、どうだ。

そーか、社長さんなんだ。資本金1000万円って書いてある、電気自動車の部品を作る会社なんだね。アメリカの大学で勉強してたんだ。でも、大企業には、入らなかったんだね。

この年、女性で唯一来てくれた、加藤さん。都市銀行の本店営業部にお勤めで、将来幹部になりたいって言ってたけど、どうかな。

あれ、電波の届かないところに行っているようだ。一体どこに行ってるんだろう。世界一周の旅にでも出ているのかな。

おかしいな~。ぼくの家に泊まって、ぼくが夢の中に出てきたら、その人は、「立身出世」や「玉の輿に乗る」という驚くような幸せを手に入れることができるはずなのに。

この話、伝説的にあってるよね。ぼくは、この5人にも、ビッビッビッとしっかりビームを送ったはずなのに、原田さんは仕方ないとしても、他のみんなは、出世してないじゃん。ぼくのビーム光線、効かなくなったのかな。

ぼくが、木の上で悩んでいるうちに、小太郎ハウスでは、いちこ、なおみ、まりこ、りょうが帰り支度をしていました。いちこのiPadを4人全員で探しましたが、出て来ませんでした。

いちこは、

「あれはiPadの中でも、iPad proといわれる機種で、apple pencilは、proでしか使えないんです。イラストを描いている私としては、命の次に大切なものなのに、失くしてしまうなんて。見つかったら連絡していただけますか。」

と、半分以上訳のわからないことばを残して、他の3人と一緒に小太郎ハウスを後にしました。

その後1か月が経ちましたが、小太郎ハウスには、誰ひとり宿泊客が訪れていません。ぼくが鎮守の森の木の上にいるから当然のことなんですけど。

小太郎は、

「やっぱり、見えたのかな。」

とつぶやきました。

おじさんやおばさんがこの宿を営んでいた頃は、立身出世や玉の輿の願いが叶う座敷わらしの宿として、たいそう人気をよんでいましたが、時代が変わった今では、昔ながらの立身出世や玉の輿を望む人が少なくなってきたので、この宿に泊まる人も減ってしまい、遂に宿を畳まなくてはならなくなったのです。ゲストハウスとして再開した小太郎ハウスにとっては、座敷わらしは、お化けや幽霊と同じで、触れてほしくない厄介な存在なのです。

そうだ、この前のお客さんたちに、座敷わらしが見えたか聞いてみよう。小太郎は、いちこたち4人に片っ端から電話を掛けました。

この電話が、小太郎ハウスと座敷わらしの今後の運命を大きく変えることになるとは・・・

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