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オジー・オズボーン新作発表に寄せて

9月5日、BURRN!誌10月号が発売を迎えた。表紙はオジー・オズボーン。それは単純にオジーの新作アルバムが9月9日発売で、それに合わせたタイミングでの記事掲載だっただけのことなのだが、この雑誌の創刊メンバーのひとりでもある自分としてはちょっとした感慨深さがあった。同誌の創刊は1984年9月5日。つまりその年の10月号が第1号にあたり、その表紙を飾っていたのがオジーと当時のギタリストであるジェイク・E・リーだったからだ。

BURRN! 2022年10月号
BURRN! 1984年10月号

1984年当時のオジーには、ソロ名義での活動歴はまだ数年しかなかった。とはいえBLACK SABBATHの一員としての歴史を経ていただけにすでに大御所的な扱いを受けていたが、同時に「新たなギター・ヒーロー発掘人」のようにも目されていたし、他のヴェテランたちとは少しばかり違う独特のポジションを獲得していたように思う。そして何よりもすごいと思えるのは、彼がそれから38年を経た現在も「新譜を出せば表紙+巻頭特集が似つかわしい存在」であり続けているということだ。
今回、そのオジーのインタビューを担当した。とはいえ現地に赴き本人と直接対面したわけではなく、ZOOMを介してのいわゆるリモート取材で、しかも彼自身はカメラをオフにしていたため「こちらは顔出ししているのに、オジーの様子は見えず、声が聞こえてくるだけ」という一方通行のテレビ電話のような状態ではあった。ただ、それでも、療養生活を経てきた73歳の彼の現在の様子はとても生々しく伝わってきたし、こうした新作発売に伴う時期においても彼のメディア対応が「1日1本まで」と決められていることについては頷かざるを得なかった。実際、コンディションの良くない日は質問に対する回答が途切れ途切れになったり、インタビュー自体が制限時間に満たないうちに終了してしまうケースもめずらしくないようで、僕の取材時にも質問と答えが噛み合わない場面が幾度か訪れたりした。ただ、そこで「いや、こちらがお訊きしたいのはそういうことじゃなくて」と質問を繰り返す時間的余裕もなく、そうした意味においては消化不良気味のところもあったのだが、今現在のオジーの状態や彼自身の心持ちといったものが伝わる内容の記事にすることはできたのではないかと自負している。是非、お読みいただければ幸いだ。
今回のオジー巻頭特集では、そのインタビュー記事に加え、前作『ORDINARY MAN』に続き今作『PATIENT NUMBER 9』のプロデューサーに迎えられているアンドリュー・ワットに関する記事も書いた。題して『オジーが絶賛する若き名盤請負人、アンドリュー・ワットの素顔』。今にして思えば”素顔”ではなく”素性”としたほうが良かったような気もするが、とにかくこのタイミングで彼がいかなる人物であるかについてきっちり書いておきたいと考え、編集部に掲載を提案したのだった。
現在31歳、この10月に32歳になる彼の年齢はオジーの半分にも満たないし、なにしろ彼の3人の子供たちよりも若いのだ。彼にアンドリューを引き合わせたのが娘のケリーだったというのも面白い。ポスト・マローンやジャスティン・ビーヴァーとの仕事歴を持つアンドリューは、今様のテクノロジーに精通するプロデューサー、ソングライターであると同時に、グレン・ヒューズらとの活動歴を持つマルチ・プレイヤーでもあり、結果、『ORDINARY MAN』での仕事は彼にグラミー賞をもたらすことにもなった。
数年前まではアンドリューやポスト・マローンの名も知らなかったオジーではあるが、アンドリューとの共同作業が自分にとって非常に合理的で「新たな手法の発明」に近いものだったことを認めている。かつては若きギター・ヒーローを世に紹介する存在だったオジーの魅力や特性が、いまや1990年生まれのプロデューサーにより有効に引き出されているというわけだ。
そしてこのアルバムではジェフ・ベックやエリック・クラプトンとの初コラボが実現しているばかりではなく、BLACK SABBATHでの盟友トニー・アイオミが初めてオジーのソロ作に参加するという“事件”も起きている。そうした「歴史を塗り替えるような共演」を支えるようにザック・ワイルドが全面参加し、ダフ・マッケイガン、ロバート・トゥルヒーヨ、チャド・スミス、そして故テイラー・ホーキンスといった面々がバンド然とした関わり方をしている点にも注目したい。最新のテクノロジーを駆使した、データのやり取り中心のアルバム制作なのだろうと思っていたが、フィーチュアリング・ギタリストたちはともかく、いわゆるベーシック・トラックは参加者たちがスタジオに集結しながら録音されているし、そもそも曲作りもそうした形で行なわれているのだ。つまり最新技術の便利さと、昔ながらの制作スタイルの良さの両方が活かされているというわけだ。
とにかくオジーの『ORDINARY MAN』と『PATIENT NUMBER 9』には注目すべき点が山ほどあるし、まだ『ORDINARY MAN』を聴いていない人たちには、先に『PATIENT NUMBER 9』に触れるのでも構わないから両方の作品を聴いてみて欲しい。そしてBURRN!誌10月号の巻頭特集が、その副読本のような役割を果たすことになるのだとすれば僕としては本望だ。


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