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そうだ、ヒッチハイク、しよう㉒ 岩手編 後編


ガンダーラ

盛岡で見かけたイカす看板 JIUJITSU!

ヒッチハイク生活35日目。
おはようございます、と言いつつも目覚めたのは10時前。旦那さんも娘ちゃんもそれぞれ学校や仕事に出掛けてしまっている。
居候の癖に一番寝坊助で、二人に行ってらっしゃいを言いそびれてしまったなあ、と反省しながら作って貰った朝ご飯を頂く。
今日はこの後、最寄り駅から電車で一駅の盛岡駅へ向かって色々観光してみたい
所存である。

とは言ったものの、正直観光資源はあまりパッとしないのが盛岡である。盛岡の観光地ランキングでかなり寂れた遊園地が上位に登場する時点でお察し。
唯一興味を惹かれた天然記念物の石割桜も、もう五月も中旬なので時期では無い。
まあ適当に街をぶらついてれば何かしらに出会えるだろう、と行き当たりばったりの街ブラを開始してみる。

本誓寺

まず出会ったのが親鸞ゆかりの本誓寺。この周辺はお寺や神社が密集しており、好きな人には絶好の巡礼スポットなのかもしれない。
私の目的はこの近くにある三石神社にある「鬼の手形」を見に行くことだ。
なんでもその昔、この地にいて悪行の限りを尽くして人々を困らせていた羅刹という鬼がおり、人々が三ツ石に祈りを捧げたところ、鬼は岩に縛りつけられ、もう二度と悪事は働きませんという誓いと共に手形を残して去って行ったのだという。
その鬼の手形が残されているという三石神社へ。道中には「鬼の手形はこちら!」などと案内標識も出ており、数少ない観光スポットになっていることが窺い知れる。散々歩いて辿り着いた、その問題の手形がこちら。

鬼の手形

うーーーーん。。。手形。。。?
以前はもっとはっきり分かる状態だったが、現在では薄れてしまって肉眼で確認するのは難しいとのこと。なんじゃそら!
気を取り直して次の目的地へ。

盛岡八幡宮

やって来たのは県下一の大きさを誇る盛岡八幡宮。およそ2万坪と言われる広大な敷地には25もの社があり、願い事に合わせて参拝できる。
ここ盛岡でとてつもなく優しい家族に拾ってもらい、出会いの運を使い切ってしまった気がした私は盛岡八幡宮で改めて縁結びのお守りを購入。これからも良い出会いに恵まれますように!
ここまで有名無名含めて色んな神社やお寺に寄っているが、その都度良縁と旅の無事を祈って少額ながらお賽銭を投げて来ているし、有名所に来たら記念にお守りを購入したりしている。その甲斐あって熊本を出発して一ヶ月、ここまで無事にやってこれたのである。

巨大な敷地なだけあって、全体をのんびり見て回っていたら時刻もすっかり夕方に差し掛かろうとしていた。
お腹も空いて来たしそろそろ帰ろうかな、と考えていたら八幡宮からの帰り道でちょっと不思議な公園を見かけたので休憩していくことに。

公園を取り囲むように設置された石仏

ここは「らかん児童公園」。
その昔、大凶作によって多くの餓死者を出した盛岡藩。彼らを供養する為に作られたのがこの十六羅漢と五智如来、合わせて二十一体の石仏たち。
現在では児童公園となっており、彼らはそこで遊ぶ子供たちを見守っている。
遊んでいる子供の姿は見られなかったので、現地の子供たちにとってこの公園がどういう場所なのかを知ることは出来なかったが、ぐるりと周囲を石仏に囲まれたこの公園の真ん中で休憩しているだけでも見守って貰っているなあという安心感に包まれるパワースポットでした。

スピリチュアル頼りの盛岡観光を終え、マンションに帰宅したのは18時前。
まだご飯の支度の最中だからもう少し待っててね、と言われ先にお風呂へ。
その後は娘ちゃんとマリオカートで対戦。接待プレイをすべきかと思ったが、相手は中学生なので一切の手抜きをしないガチプレイでどうにか辛勝。大人の世界の厳しさを教えてあげるなどした。


ビューティフル・ネーム

ヒッチハイク生活36日目。
そんなこんなで楽しかった盛岡滞在も今日で終わり。もう一泊して行っても良いのよ、という有り難すぎる言葉に後ろ髪を引かれつつ出発する。
別れ際に奥さんが「これお守り代わりに持って行って!」と渡してくれたのは娘ちゃん手作りの可愛いチェーン守り。いや、これは娘ちゃんがお母さんに、と渡してくれたものなのでは…と思ったが、勢いに気圧されて受け取ってしまった。
もちろんこのお守りは他のお守りと同様に旅のリュックに着ける。旅が続くに連れて最終的にリュックにはジャラジャラといくつものお守りが装着されることになるのだが、まず間違いなくこの娘ちゃん手作りのお守りが一番ご利益があったと思う。

盛岡のこのご家族は見ず知らずの私を本当に家族の一員のように迎えてくれたし、三日という短い時間で受けたこの恩義は計り知れない。特に現状で実の家族と上手くいっていない私にとっては、彼女たちが与えてくれた、ただ泊まる場所やご飯といったものだけでは無い家族の暖かさというやつが何よりも嬉しかった。
「盛岡にはきっといつかまた戻って来ます。恩返しもしなければならないので」
マンションの外まで見送りに来てくれた奥さんと最後に固い握手を交わして私は駅へと歩き出した。

うーん、ヒッチハイク日和の晴天

次なるヒッチハイクポイントの候補は、旦那さんが教えて下さったオススメの、マンションからもそう遠くない大きな交差点、もしくはまた歩いて入れる高速のPAに電車と徒歩で行くかの二択。
私は後者を選択して気持ちの良い青空の下、田舎道を歩いていた。

高速道路が山を走る以上仕方のない事であるのだが、徒歩で入れるゲートのあるPAやSAは得てして辺鄙な場所にある。とんでもない田舎駅で降りて山の中を歩かされたり、歩いていい道なのか分からないような道なき道を行ったり、果たしてこの先に本当にゲートなんてあるんだろうかと毎度不安になりながら歩いている。
けどまあ、この冒険、実は嫌いじゃあない。

そんなこんなで辿り着いたのは矢巾PA。
到着してすぐに思ったのは、どうやら私は二択を外してしまったらしいということだった。
ここまでの経験から、ウォークインゲートの設置してあるところならば、例えPAでもそこそこ大きくて車も沢山いるだろうと思い込んでいたのだ。
しかしここ矢巾は小さなコンビニが一つあるだけだし、PA自体も全然大きくない。さらには平日の真昼間ということもあって、車から降りて来る人たちもスーツ姿ばかり。いくら私が一人でヒッチハイクをする可憐で可哀想な女子に見えたとしても、さすがに仕事中の人は乗せてくれまい。
というわけで次なる目的地、「仙台」と書かれたホワイトボードを手に、PAに寄った車から私服の人が降りて来る度にちょっとソワソワしたりして待つ事一時間。一向に乗せて貰えそうな気配がしない。

こういう時に考えてしまうのは最悪のパターン。このまま拾われずに日が暮れてヒッチハイクが困難になってしまった場合。
勿論歩いて入れるPAなので歩いて出る事も可能なのだが、こんな田舎にネカフェは勿論ないので、必然的に再び盛岡まで戻ることになる。
となれば、ネカフェに泊まるよりは盛岡の家族の元に戻りたい気持ちが大きい一方で、あんなに盛大に送り出してもらって「拾われませんでした〜テヘヘ」で帰るのはあまりにもカッコワルイ
そんなジレンマの中で思い出したのは、北海道でヒッチハイクしてる際にSAの掃除のおばちゃんに貰った、目的地の距離は短い方が乗せやすいよというアドバイス。
試しに矢巾から一番近そうで大きいSAの前沢に目的地を変更したところ、それが功を奏したのかすぐに拾って貰えた。

今回声を掛けて下さったのは、なんとスーツ姿のサラリーマン。仕事中なんで急ぎになるんですけど、それでも良ければ、と乗せて頂くことに。
なんでも、出発前に会社でばっこり怒られて意気消沈していたので、目的地に行くまでの気分転換になればと思って乗せてくれたのだそうだ。これは気合を入れて助手席を務めねばなるまい。
聞いてみれば、仙台までは行かないのでもしホワイトボードが仙台のままだったら声はかけてないかも。ちょうど前沢だったから声をかけたんだよね、と教えてもらった。おばさんのアドバイスが活きたわけだ。ありがとう北海道、ありがとうおばさん。

この絶賛凹み中の若いサラリーマン、地元愛が強く岩手の良いところを結構な熱量で力説してくれる。中でも印象的だったのは、かのニューヨークタイムズ紙で「2023年、世界で訪れるべき場所のランキング」においてロンドンに次ぐ2位に盛岡が選出されたという話。実はこれは盛岡の家族の旦那さんも話していたので、きっと盛岡市民は全員当然知っている大ニュースなのだろう。
先に盛岡は観光資源があまりないと毒付いた私でも今なら分かる。盛岡市民の人の良さと、洗練された街並みの中でゆったりと過ぎる時間。これらを理由に選出されたに違いない、と。
人が良い、というのは盛岡の家族に散々お世話になった私は既に重々承知していることなのだが、実はよくある県民性調査のテレビ番組でも、県民が最も親切な県として岩手がノミネートされるなど、その聖人ぶりはもう全国に知れ渡っていたらしい。

二人でそんな岩手の素晴らしさを語り合っているうちに車は目的地の前沢SAに到着。
ヒッチハイクで人を拾ったことを奥さんに自慢したいから、ということで記念撮影もしてあげたところで彼は仕事に向かって行った。
実に爽やかで良い人だった。これが少しでも彼の気晴らしになったのならヒッチハイカー冥利に尽きるというものだ。
前沢はまだ県で言うと岩手にあたる。次の宮城県に向けて私はホワイトボードに再び「仙台」の字を連ね、座して車を待つのであった。



おまけ 今回の移動まとめと各県雑感

  • 盛岡駅-矢巾PA 電車+徒歩

  • 矢巾PA-前沢SA ヒッチハイク(15台目)

岩手県 (県庁所在地 盛岡市)
日本で最も親切な県、岩手県。そんな岩手を体現するかのように素晴らしく優しい人たちとの出会いに恵まれた旅でした。秋田も少しは岩手を見習え。
堪能した名物 ホヤ、せんべい汁、鬼の手形、盛岡八幡宮

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