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ジュプ・エ・ポァンタロン (2)ここがレストラン?

 駅には十分前に着いた。駅前の広場に三人組の一人がいた。相手は孝子に気がつき
「来てくれてありがとう」
と近づいてきた。
「他の人たちはまだ来ていないみたいね。お店がわかれば先に行ってるけど」
「いや、連れてくよ」
「場所を教えてくれればいいじゃない。現地集合で」
 軽く文句を言った。三人組は何か信用できない。付いていくと、お店はすぐ近くだった。
「えっ。居酒屋」
「考えていたレストランを予約できなかったんだ」
「私はお酒は飲めないわよ」
「ウーロン茶とかもあるから大丈夫だよ」
「そういう意味ではなくて」
 お店の前でもめてもしょうがないので中に入った。お店の一番奥にある細長い座敷スペースで残り二人がテーブルと座布団の位置を調整していた。

「いらっしゃい。奥の列の真ん中にどうぞ。後ろに寄りかかれるから楽だよ」
「私は正座ができないから端っこの広いところにして」
「そういわずに。その席の幅を広げるから、どうぞ」
 その子は真ん中のテーブルを引っ張った。
「これくらいの幅があればいいかな」
 孝子に同意を求めるようにつぶやいたが、答えないうちに他のテーブルもそれに合わせて引っ張っていった。しかたがないので指定された席に足を斜めに崩して座った。
 すぐ後から男女三人が入ってきた。その中の男子が孝子の隣に座って
「あの三人、飲み会って言っていたっけ? 食事会って言っていたから参加することにしたのだけど」
「そうよね。私の聞き間違いじゃないわよね」
 駅にいた男の子は案内役のようで駅に集まってきたクラスメートを順番にお店に連れてきていた。すぐに第三陣がやってきた。四、五人はいた。その子たちが座敷に上がろうとしたところで隣の男の子が
「トイレに行ってくる。場所はどこ?」
と立ち上がって廊下に出た。孝子はチャンスだと思った。バッグを持ち
「私も」
と座敷から離れようとした。

 三人組の一人が
「カバンは置いていってもいいよ。持って歩くの大変でしょ」
 なんでそんなことに気をつかっているのよ。明らかに変よ。
「女性にカバンを置いていけって、デリカシーなさすぎなんじゃない」
と怒ったふりをして、自分の靴を履いた。先に立った男の子はスニーカーを履くのに手間取ってまだそこにいた。その子の腕をつかんで出口に向かった。
『えっ。何、なに?』
という顔をしていたが、それには構わず引っ張っていった。
 玄関の近くのレジの前で千円札を二枚取り出し
「私たち、ちょっと用事ができたので帰ります。これをあの幹事たちに渡しておいてください」
とレジ台のトレイにパンッと置いた。
 お店のドアを開けたところで
「君ーー。バッグ忘れているわよ」
と後ろから声をかけられた。振り向くと女性が一人立っていて、男の子のバッグをこっちに差し出してきた。
「えっ、あっ、ありがと」
そして
「私も用事がありますので、これも幹事に渡しておいてください」
と千円札一枚を私たちのお札の上にポンッと重ねた。
 レジにいたバイトらしき女性はあっけにとられていたが、それにはかまわず三人はお店を後にした。


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