偽日本国

体の中に通う血が、血流に逆らうように騒ぐ。身が震える。誰かが泣き叫んでいるような気がした。僕が生まれてから当たり前のように踏んできたこの土。日本の大地は本当の日本ではない。

何十メートルもの灰の塊が日本の大地を覆い続けているような気がした。
その厚化粧で覆われた「土」の遥か彼方、大地の根底から、まるでマグマが噴き出すかのように大地の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
 僕は生まれた時から、鉄筋コンクリートとアスファルトに囲まれた環境で育ってきた。緑色の大地を黒く染めようと、灰を吹き出しながら走り回る自動車。光り輝く海と大地が生み出した風を断絶させるかのようにそびえ立つ高層ビル。そして夜の暗闇と静けさを壊したいと言わんばかりに青く光る街中のネオン。
 人間は大地を踏みつけることを「文明の発達」と言い自画自賛する。

そして、この灰色の逃げ場のない土地に住み。その土地で死んでいく。僕もそのうちの1人だ。

人々は、毎朝、窒息する程に混雑した鉄の箱に詰め込まれ、まるで工場の製造ラインに流れる商品の一部になりきった様相で、職場へ向かう。そして夜遅くまで働かされ、また寝るためだけに家に帰る。自分が住む土地など、もはやどうでも良いようだ。隣の家に誰が住んでいるかなど全く気にもしない。
 
僕の生まれ育ったこの大地は「偽日本(ギニホン)」だった。大地の上を厚く覆う黒い灰が僕の心と体を蝕んでいる。
土の悲鳴が聞こえる。大地が泣いている。「競争」「経済優先」という魔法の言葉に犯され、伝統や文化は歪曲されて、消し去られていく。水も空も土も。全てが破壊されていく。

僕は思った。この厚く覆われた「偽日本」の仮面を引きはがしたい。本当の日本を、本当の大地を取り戻したい。

僕たち日本人が忘れてしまった感覚を。列島の姿を。


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