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サピエンスの21世紀は「進化心理学/Evolutionary psychology」が支配する時代になる──心(Mind)のわけ(Reason)を解き明かす進化心理学とは何か?:これからの時代を切り拓く50の思考道具


純粋な哲学は、目的も歴史も壮大だが、はるか昔に人間の存在についての根本的な問題への解答を放棄している。じつは問うこと自体が、評判を傷つける。(進化論の出現以降)それは哲学者にとって、いわば見た者を石に変えるというあの怪物ゴルゴンとなったのだ。” ー E.O.ウィルソン

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オレたちはみんなドブの中にいる。   でもそこから星を眺めている奴らだっているんだ。” ───オスカー=ワイルド

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サピエンスにとっての21世紀は「進化心理学/Evolutionary psychology」の時代になる──目次:


# サピエンスにとっての21世紀は「進化心理学/Evolutionary psychology」の時代になる


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────「進化心理学/Evolutionary psychology」は、1990年代にその創始が宣言され、アメリカやヨーロッパを中心に近年世界的に注目を集めている、まだ比較的新しい、サピエンスの「心(Mind)」を研究する学際的な学問分野だ。

この分野は、欧米では、これからのサピエンスの世界を切り拓く新たな時代の最重要学問のひとつと位置付けられている。

だが、日本ではいまだに認知度が低いし、大学でもまともに学べるところがいまだにほとんど無いのが現状だ(霊長類研究所をもつ京大くらいではないだろうか?)

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勘違いしてはいけないのは、「○○心理学」というネーミングの"謎学問"は世間の巷やきちんとした学界にまで、もはや数え切れないほど跋扈しているが(例:「アドラー心理学」)、

進化心理学/EvPはそれら俗流心理学とはまったくもって一線を画すものであり、なんなら従来の心理学理論すべてを塵に帰してしまうようなポテンシャルを秘めている学問分野だ、ということだ。

────こういうドデカイことを言うと、「またいつものやり方か」と思われるかもしれない(新商品を売り出したいときはみんなこういうデカイことを言うのだ)。

しかしながら、今回ばかりは違う。(またいつものやり方か?)

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進化心理学/EvoPsyとは、

「人間がヒト科動物の一種であり、ダーウィン進化によってつくられた生命有機体である」 


ということをまぎれもない事実だとして了解している人ならばだれもが、

その内容の如何はともかく、その独特なアプローチの正当さを(いつかは)受け入れざるを得なくなる────そんな"究極のサイコロジー(心理学)"なのだ。

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(胡散臭え・・)

「進化心理学(EvoPsy)」は、その名の通り、チャールズ=ダーウィンが1859年に発表して以降、生物学者たちの手によって発展がなされてきた「進化論(Theory of evolution)」をすべてのセオリーの土台 (=第一原理) とする学問だ。


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なぜ、心理学なのに進化論なんてもんが関係あるんだ?


────そう感じる人は、まだまだ、従来の学問の見方にとらわれすぎている。

従来の学問の見方って?

端的にいうと、

「人間(ホモ・サピエンス)は動物ではない」


という、いまや非科学的なものとなった思考フレームだ。

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────待て待て。分かってる。「人間は動物である」という文言を否定する人など今やほとんどいないだろう。

もしいるとしたら、生物学者によるヒトゲノムの解析結果(チンパンジーと98%同じ)に真っ向から挑戦を仕掛けているのとおんなじだ。


────しかし、いくら口では「人間は動物の一種だ」という文言の正しさを認めていようとも、"常識的なヒトたち"は、生物学や動物行動学を使って「ヒト」や「ヒト社会」を研究したり説明したりするような行為を、往々にして「そんなのまちがっている」と激しく非難するものだ ※

(※ 詳細は「社会生物学論争/the sociobiology controversy」の内容を調べてほしい。E.O.ウィルソンが創始した、アリからヒトまで社会性の動物を幅広く包括的に扱う「社会生物学」は、かつての「社会ダーウィニズム」を彷彿とさせる名称のために、70年代〜90年代にわたって社会的に激しい非難と迫害を受けた。現在では論争はおおよそ終結しており、社会生物学者サイドが科学的正当性を認められている──参考:『The Triumph of Sociobiology/社会生物学の勝利―批判者たちはどこで誤ったか』J.Alcock, 2003 )

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────心理学が、進化論と切っても切り離せない関係にあるのは、

「サピエンスという動物が、〈進化〉という生物学的設計プロセスによる"産物"だから」


に他ならない。

進化心理学/EvoPsyは、徹底して、「サピエンスは動物である」という生物学的な前提に立ち、自然科学的な枠組みから人間というものをとらえる。

「とらえる」、と言ったがこれは「こういう見方もあるよね」といったレベルの話ではない。現在ほとんどの学問で「人間は動物としての側面を持つ」との理解がなされているが、進化心理学者は「“人間は動物的な側面を持つ”どころか、本質的に、動物の一種そのものである」と主張する)

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────さて、以下より先は、これからここで連載しようとしている内容の「オリエンテーション」のようなものになる(大学の講義かよ)。

じつは当初のバージョンはめちゃくちゃ膨大な文量だったのだが、「長すぎる!」とグーグル先生に怒られてしまったので、短くカットしたver.を公開している。

元の文章から大幅に継ぎ接ぎした経緯上、多少流れがおかしいかもしれないがご理解いただきたい。


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# そもそも、心理学/Psychologyの始祖は「進化心理学者」だった


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現代の進化生物学(あるいは社会生物学・動物行動学・行動生態学など)、そして脳科学(神経科学と呼ぶのが正しい)の発展から、生物の「行動」は────不確定性やランダム性を存分に孕みながらも──おおよそ「進化的に“デザイン”されている」、ということが判明している


“なに? 俺たちの〈行動〉が誰かにデザインされているだって?”


────驚くのも無理はない。俺たちサピエンスは「行為者性/Agency(エージェンシー)」という感覚を脳に進化的に備えつけられているからだ。(*T.Metzinger 2009)

サピエンスがもつ、ある種の認知バイアスとして進化的に脳に備わっている「行為者性/エージェンシーの感覚」を"幻想"として棄却する事は、進化心理学を理解するための重要な知的基盤となっている。

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進化生物学者や進化心理学者が、サピエンスの心理や行動を(いたって真っ当な方法として)「生物学」から説明しようとすると、すぐにこんな反論が来る。

“でも、人間は「理性」で自分の感情や行動をコントロールしてるよね? 「動物」と同じように語るのはおかしいでしょ。”


────「ハァー」と溜め息が聞こえてきそうだ。繰り返し言うが、サピエンスは霊長類(サル)の一種であり、チンパンジーやボノボのいとこであり、「動物」なのだ

「理性」だって? それは一体どこからやってきたんだ? 

人間を作った神さまが雷鳴を轟かせて放った一撃だろうか?────いいや。その「理性」なるものも進化の産物だ。

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「動物の行動が"デザイン"されている」理由は、一般的には「本能/instinct」というワードから説明されることだろう。

進化心理学者のような、「人間(サピエンス)は動物の一種である」という生物学的な前提に立つ人びとは当然ながら、人間がほかの動物と同じく進化の産物である以上、「人間にも本能は備わっているだろう」と考える。

じつはこれは、心理学(Psychology)の始祖・ウィリアム=ジェームズが1800年代後半に考えていたのと同じ発想だ。

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────ウィリアム=ジェームズは、ダーウィンの進化論(『種の起源』は1859年出版)が議論されていた真っ最中の時代、1800年代後半〜1900年代初頭を生きた人物だ。

ウィリアム=ジェームズは、当時のインテリたちがみな「人間は動物とは異なり、本能をほとんど失った存在だ」と考えていたのに対し、ひとり異論を唱えて、

人間はむしろ、動物たちよりもはるかに複雑で、はるかに多くのタイプの本能が備わっている存在だ


ということ(生得論)を主張した。



マット=リドレーはウィリアム=ジェームズを以下のように紹介している。

“ウィリアム=ジェームズは…「生得論」を高らかに謳い、行動は経験によって形成されるという「経験論」が幅を利かせていた当時の風潮に真っ向から対立していた。ウィリアム=ジェームズは、ヒトには、経験ではなく、ダーウィンの自然選択のプロセスにもとづく先天的な傾向が備わっていると考えた。”
“「彼は経験を否定している!」ジェームズは架空の読者にあえてこう言わせている。「科学を否定し、精神が奇跡によって生み出されると信じている、よくいる先天説の支持者じゃないか!もううんざりだ!そんな時代遅れのたわごとは聞きたくない」。”


彼が1890年に出版した『心理学原理/The Principles of Psychology』は、心理学の歴史における記念碑的著作だ。

彼は、自然科学的な(=つまり生物学的な)視点から、Psychology(=精神分析学、心理学)を説いたのだ。


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────心理学研究はその後大きな回り道をしたが、20世紀の最後になってようやく、ウィリアム=ジェームズの考えが正しかったことが証明された。

幼児が言葉を覚えられること、日常的にだれかと会話をしたくなること、物事のわけ(ロジック)をついつい説明したくなること、モラル(道徳心)を持つこと、そして「意識/Mind」をもつこと…。

これらはすべて、人間(サピエンス)に生物学的に備わっている「本能」由来のものだったのだ。


・・・皮肉にも、それらの発見はいずれも、スタンダードな心理学研究からによるものではなかったが。

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────しかし、動物と人間を区別するものとしての「人間性/Humanity」という概念が崩壊してしまうと(=それらがほかの動物たちと同じように、人間という種に特徴的に備わった本能である、ということになると)、たとえばわれわれが漠然とした感覚で認識している「理性/Reason」なんていう概念は一体どうなるのだろう?


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# 経済学者 VS. 行動経済学者 (──そのファイトをヤジって観戦する進化心理学者)


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経済学は、「人間は、動物とは異なり、『理性/Reason』によって経済合理的に意思決定を行う存在だ」という、既に散々批判されきっている前提(「合理的な経済人/ホモエコノミクス」概念)の上に諸処の理論(セオリー)を組み立ててきた。

アダムスミスに始まる経済学理論は、ようするに、ダーウィン以前の「人間が動物ではなかった時代」に構築され、今に至るまで、生物学的な視点が理論的土台に組み込まれていない────。

(ウソだと思うなら経済学の教科書を開いてみよう。経済学部生が生物学的な知識を学ぶことはまったくない。彼らは人間は「効用」によって動く、と教えられるが、その効用が何に基づいているのかを教えられないのだ)


近年、この従来の経済学の見方を批判して、「行動経済学/Behavioral economics」が勃興してはいるものの、この新しいタイプの経済学者たちはようするに、「ヒトは合理的ではない」ということを(揚げ足取りのように────いや揚げ足をとるのは大事なんだけど)、状況ごとにパターン化して、リスト化している人たちのことを指す。

行動経済学者たちがこれまでに発見してきた「認知バイアス/cognitive biases」は90種類以上にも及ぶ。

彼らはこの認知バイアス・リストをぜんぶ踏まえた上で、"新しく経済学の数式や理論を作り直せ"、と要求しているのだが、勿論そんなことは一筋縄ではいかない。

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行動経済学者たちの研究が解明してきた事実とは、 「人間は愚か者で、不合理で、アタマが悪い」 ということだ。


────だから、この「意思決定のエラー」を経済学理論は踏まえる必要があるし、社会的な政策としては、"ナッジ/nudge" のアイデアを取り入れて人びとを「正しい方向」に導く必要がある、と彼らは言う。

>参考:行動経済学で人の心を操る現代の魔法「ナッジ」とは何か|ノーベル経済学賞セイラー教授の「発明」


────じつは、こういった行動経済学者たちの「心のエラー(欠陥)を修正せよ!」の態度に対して、「それはどうなの?」とニヤニヤ野次っているのが進化心理学者たちだ。

結局のところ、行動経済学のセオリーとは、従来の経済学の「ホモ=エコノミクス(合理的な人間)」の仮定を批判しているだけで、実際の人間はもっと愚かで不合理なんだ!と説くものに過ぎない。

ここで、ひとつの疑問が浮かぶだろう。

はたして、"不合理性(irrationality)"についての学問は「サイエンス」と言えるのか?


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────勿論、言える。上記は詭弁だ。

しかし、進化心理学者たちは、「もっといい理論的フレームワーク」を経済学者たちに提供したがっている。経済学/economicsという学問は────後で見るように、これは別に経済学だけがどうというわけではないのだが────不必要な重たい制約につねに発想を縛られてきた。

それはどんな制約か?:Re 「人間は動物ではない」という思考の制約だ。

そうなの?────いいや、そんな事はない。

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────非合理性からふたたび合理性へ。

ともに『影響力の武器』で有名なロバート=チャルディーニの弟子でもある進化心理学者のダグラス=ケンリックヴラダス=グリスケヴィシウスの二人は、

サピエンス(=人間)たちのあらゆる意思決定は、彼らが〈深い合理性/Deep Rationality〉と呼ぶものに導かれている、と唱えている。

* D.Kenrick, V.Griskevicius, J.Sundie, N.Li, Y.Li, & S.Neuberg(2009)


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# 〈深い合理性/Deep Rationality〉とは何か?


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彼らがいう〈深い合理性/Deep Rationality〉とは何か?

────生物が進化的に身につけた、その種の「進化戦略」に適うような(たとえばサピエンスであれば部族社会の "社会選択" や "規範" や、その他文化的環境のファクターなどを見込んだ上での)「生物学的な意思決定アルゴリズム」のことだ。

人間の意思決定は「生物学的なアルゴリズム」によるものだ、という考え方は、最近では世界的ベストセラーとなったユヴァル=ノア=ハラリ著『ホモデウス/ Homo Deus: A Brief History of Tomorrow』などでも紹介されていたので、特段、驚くようなものではないかもしれない。

むしろ、サピエンスを生物存在として捉えるのは至極真っ当なことなのだから、逆になぜこれまで学者たちはそうしなかったのか?と訝しむべきだろう。

[TIPs]✔️「有機体(organism) はアルゴリズムである」──「アルゴリズム」とは端的にいえば、計算ステップであり、コンピュータのプログラミングでもアルゴリズムは実現されている・・・ようは料理のレシピのような作業手順のことだ(ex. 1. フライパンで油を熱して・・2. タマネギをみじん切りにして・・・)。
有機体(=生命体)はアルゴリズムの集積物であるから、その活動状態を計測し、継続的にモニターすることで、その背後にある法則を炙りだすことができる。料理の手順と同様に、ヒトの脳がたどる一連のステップを計算プロセスにして書き表せるのだ。そしてその法則を、今度は人為的・操作的に誰もが活用できるようになる(;ハラリはこれに警鐘を鳴らしている)。*

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* Y. Harari 2015


────ただ、このハラリの言う「アルゴリズム」とはあくまで、将来的に機械によって生命体が行うすべての内的活動がモニタリングされることで、そのビッグデータからヒトの脳の意思決定アルゴリズムが法則的に導き出されるだろう、という主張だった。

それはまったく帰納的(データ→法則性)かつ科学的なやり方で、データ至上主義の極致とも言えるものなのだが、しかし一方で、「ダーウィン進化論」というツールがその性質を通常のサイエンスと大きく異にするのは、広く普遍的な演繹性なのだ。


「演繹/Deduction」だって?


────この単語を聞けば、真っ当なサイエンティストはみな顔をしかめるはずだ。

ロックやヒュームを代表とするイギリス経験主義(Empiricism)vs デカルトやスピノザやライプニッツに代表される大陸合理論(Rationalism)の対立、などという思想史の話を持ち出すまでもなく、現代のサイエンティストとは通常、経験主義的な帰納的思考を第一に心掛けるものなのだ。

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────しかし、進化論/Theory of evolutionの本質に通じている人々は、なぜ「進化論」というセオリー(ドグマ)から具体的なさまざまな物事を"演繹"して思考するということが、科学的な正当さを認められうるものなのかを知っている。

>このような進化論者たちの態度は、一見、「神は存在する」という絶対的な公理からさまざまな推論を行ってきた中世の思想家たちのやり方と、印象をダブらせて感じられるものかもしれない。
>────その通り。ぶっちゃけたことを言うと、進化論者たちは、それをはっきり言明するかどうかにかかわらず、「進化」のアルゴリズムというものを、「われわれ人類を創りたもうた盲目の創造主=神」と捉えているのだ。(でもそうじゃないか?)


「進化論」というざっくりしたセオリーから、なぜ、演繹的な推論が(サイエンスとして)可能になるのかを考えてみよう


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────それは、「進化=自然選択」というプロセスそれ自体が、ローンチされた「膨大な数の試行データ」から、帰納的に「法則性」を導きだしていく、という手法を採っているからだ。

進化論哲学者のダニエル=デネットは「進化論」の内容を簡潔に述べる。

“────まず最初に、ダーウィンの進化論にそって自然選択による種の進化が起こった。遺伝子の新しい組み合わせや突然変異というきわめて不規則な過程によって、さまざまな有機体の予備軍が膨大に発生した。有機体は現場でフィールド・テストを受け、もっとも優れた設計をもつものだけが生き残った…”(Dennett 1996)

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(「もっとも優れた設計」などというと、ポリコレな人々は「その表現を改めよ」と言うのだが、そのような “各方面に配慮した表現の修正” は本質的な理解を妨げてしまうのでここでは行わない。「優生学」との差異は良識があれば誰でも理解できる)


言うまでもなく、進化論がいうところの「優れた」とは、結果論(afterthought)だ。


────しかし、生命体(=生きもの)が何億年という膨大な時間にわたって命を繋いでこれたのは、「生と死」という結果論から生存者(=生きているもの)だけを残してすべての歴史を紡いできたからなのだ。

(捕食ー被食関係以外で、自然界において「命を賭けた殺戮闘争」がそれほど見られない理由もここから示唆される。すべてが生死の結果論から判定される進化世界では、本当の意味で"自らの命を賭ける"行為は残っていかない。それは強者であろうと弱者であろうと進化上は分が悪く、自然界の争いはたいてい「威嚇」や「グローブをはめて殴り合うボクシング」に終わる)

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進化は、“自然選択” というアルゴリズムによって駆動する。そのアルゴリズムはランダム性を“利用”して、統計的に「とりあえずの正解」を導きだし、機能的な生物をせっせと自動でデザインしていく。

注意。 このアルゴリズムは決して「ランダム」とか、「偶然」とかとイコールなものではない


────(あとで説明するが)自然選択のアルゴリズムはランダム性や偶然性を"利用"しているだけだ

生命界のサイコロには「当たりの出やすさ」が存在し、無数の試行回数と削ぎ落としを経る中で、“仕組まれたサイコロ” だけがテーブルの上に残っていく。

(カジノで勝ち続けてるヤツは、腕が良いか、仕組んでいるかのどっちかだ。いずれにせよそれはただのラッキーではない)

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勿論、俺たちサピエンスも進化の産物だ。しかし俺たち自身は、まさか自分が「仕組まれたサイコロ」だなんてことには気づいてない。;だが、そうなのだ。


────それを嬉々として暴露しちゃうのが進化心理学者たちである。(きみの心は仕組まれている!!気づいていないでしょう?

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進化は万能である/THE EVOLUTION OF EVERYTHING:How New Ideas Emerge』というタイトルの著作において、進化生物学や遺伝子学に造詣が深いマット=リドレーは、進化心理学を創始した二人の言葉を借りて、「進化論」というアイデアの強力さを説明する。

“進化心理学者のレダ・コスミデスとジョン・トゥービーの言葉を借りれば、進化は「現実世界でありえたデザインの選択肢それぞれの行く末を無数の世代にわたる無数の個体について調べ上げ、その統計分布によってそれらの選択肢を評価する」。”
“────こうして進化は直近の過去に何が成功したかについて全てを知る。それは誤った結果や教科書的な結果を捨て去り、当て推量や推論、あるいは過度の理想化に訴える必要がない。実際の生物が実際に遭遇する環境における統計的結果に基づいているからだ。” 

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*M. Ridley (2015)


────つまり、生命体を生みだした「進化」というプロセスそれ自体が、生命体の行動や意思決定を説明する"理由"になりうるということだ。


どういうことか?────デタラメではない進化の産物である生命体は、必然的に、あたかも「目的」と呼べる方向性・固く塗り固められた傾向性・盲目的な戦略性を有するということである。

かつて『Selfish Gene/利己的な遺伝子』という衝撃作を出版して、世界中を震撼させた進化生物学者のリチャード=ドーキンスはこう述べている;

「我々は、遺伝子として知られる利己的な分子を保存するように盲目的にプログラムされた、機械的な乗り物としての生存機械(ロボット)なのだ。これは、私の心を驚きで満たしてしまう真実である」* R.Dawkins(1976)


> 以下、参考:「利己的な遺伝子」と「生存機械」 : われわれは何者か?───生物とは遺伝子の容れ物となるための「バイオマシン」だ ~ 生存機械と不滅のコイル



進化心理学者の"ミッション"とは、この進化生物学の基本アイデアを、俺たちサピエンスの世界にまで拡張することである。


サピエンスは〈深い合理性/Deep Rationality〉に導かれている」、と唱える進化心理学者のケンリックとグリスケヴィシウスの二人は、このアイデアをユーモラスな書き口で著書『The Rational Animal: How Evolution Made Us Smarter Than We Think/邦題:きみの脳はなぜ「愚かな 選択」をしてしまうのか 意思決定の進化論』に綴っている:

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“バブリシャスのフーセンガムや、袋いっぱいの宝くじや、ダイヤモンドをまぶしたキャデラックについて下す一見ばからしい決定に潜んでいるのは、非常に重要な問いだ。哲学者が何世紀にもわたって熟慮してきた問いであり、経済学や心理学、そしてわれわれの日々の生活の中心をなす問いでもある。その問いとは、「ヒトの選択の背景にどんな理由があるか」だ。”
“アリストテレスからデカルト、バートランド=ラッセル、オスカー=ワイルドに至るまで、偉大な思想家はこぞって、ヒトが「合理的な動物」かどうか議論してきた。哲学者、科学者、識者はみな一様に、言葉の片面にだけ注目し、ヒトが「合理的」かどうかを活発に議論してきた。けれど、その論争は、表裏のもう一方────いわゆる合理的な動物(Rational Animal)のなかの「動物/Animal」をほとんど見過ごしてきた。”

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“ ヒトのくだす決定が合理的か不合理かという大論争のなかで、経済学者や心理学者は、決定のうわべの特徴、つまり、ある人のある状況におけるある選択によって、その人の目標が達成されるかどうかに囚われてきた。たとえば、2ドルの宝くじやぴかぴかの新車を買うと決めることで、お金なり幸せなりが増えるか、ということだ。”
“ ────しかし、われわれがくだす決定を完全に理解するには、もっと掘り下げて、現在のわれわれの選択を進化上の過去と結びつけて考えなければならない。ヒトがどのように意思決定を行うのかを理解するため、従来の視点では軽んじられてきた根本的な問いかけをしたい:脳はなぜ、しかるべき選択をするように進化したのだろう?

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“ ────こう問いかけることは、ヒトのくだす決定に対するわれわれの考え方を一変させる。科学の新しい成果により、われわれの意思決定は、合理的か不合理的かのどちらかと言うより、〈深い合理性/Deep Rationality〉という特徴をもつことが明らかになってきた。”
“ われわれの今日の選択には、祖先の過去の成功や失敗によって研ぎ澄まされた、進化に深く根ざした英知が反映されている。本書では、現代の世界で、きみやわたしやエルビス=プレスリーがしている選択が、見事に統制のとれた祖先ゆずりの一連の仕組み────それも、たいていは意識的な気づきの外で働いている仕組み────にどう根ざしているのかを探っていく…”

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*D.Kennrick & V.Griskevicius(2013)


ケンリックとグリスケヴィシウスのふたりによれば、進化心理学者の考え方は、一見当然すぎてバカバカしいような────しかし従来の科学がきっちりと見落としてきた────、以下の主要な「ふたつの発見」に基づいている。


発見 ❶:ヒトの意思決定は進化上の目標に適っている。


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────ドーキンスが述べるように、そして多くの進化生物学者が認めているように、進化の産物である生命体は、必然的に、あたかも"目的"とも呼べる「進化上の目標」を有している。

しかし、この進化上の目標を追求する思考や行動は、デネットが言うところの「理解力なき有能性/CwC」なので、通常は生命体自身によって"意識"されることはない。

(バーベキューでジュージューと肉を焼いているときに、「この肉を食べるのは俺の生物学的な生存戦略に適している、だから食べるのだ」なんて、進化上の目標をいちいち意識している人はいるだろうか?)


────ケンリック&グリスケヴィシウスは、この当人すら意図していない「進化上の目標」を、たとえ本人がそんなことを直接そのまま口にしない(or 意識しない)にせよ、研究者たちはしっかりと生物学的に理解を踏まえておくことが必要だと主張する。

なぜなら、神経科学者ガザニガがいうように、ヒトという生物が〈意識〉のレベルでアタマに思い浮かべる思考や、口から発したりする言葉は、大抵ヒトの脳に備わっている「インタープリター/interpreter」機能によって、自動かつ無意識のうちに紡がれ、創作されたものだからだ。

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ヒトの左脳を中心に存在する「インタープリター」とは、端的に言えば「直感的な説明・でっちあげ・捏造・後付け・辻褄あわせ・“理由”や“わけ”のテキトーこじつけ装置」といったところのものだ。

ガザニガは、こんなもの(=インタープリター)が語る「理由(Reason, Because〜)」なんかを信用して、その無意識に自動ででっち上げられた言葉に科学者達がマジメに耳を傾けるなんてあり得ない、と著書のなかで喝破している。*M.Gazzaniga(2011)

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Left-brain interpreter(Wikipedia)


・参考:インタープリターとは?


────ケンリック&グリスケヴィシウスは、

ヒトのうわべの思考や言葉に惑わされず、"進化上の目標"から、意思決定理論というものを考え直すべきだ

と述べる。

たとえば、女の子がカフェに行きたがるのは、彼女達が語るように「お喋りがしたい」からではなく、神経伝達物質のエンドルフィンを放出させ、ほかの霊長類のメスたちと同じように"毛繕い効果"を得ることで女同士の結束を強固にし、ママ友どうしで協力して行うきたるべき「共同育児」に備えているからかもしれないのだ。※(R.Dunbar 2010)

(※あるいは"噂話/ゴシップ"によって、人間関係の情報を得たり、あるいは戦略的に操作したり、"いまイケてる男"の情報を把握しておくこと**pp も彼女たちの生殖戦略に適うものとなりうるだろう)

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────「おしゃべり」がしたいだけならスカイプやLINEでもいいでしょ?;いいや、そういうことにはならない。「おしゃべり」は彼女という霊長類の一個体にとって、本質的な生物学上の目的ではないからだ。

そして、なんで「カフェでおしゃべり」の代わりにLINEやスカイプじゃダメなの?と聞いても、彼女はとっさの無意識で「言い訳」をでっち上げる(ほっこりするから、など)だけで、「それじゃあエンドルフィンが出ないから将来のママ友同士の絆を深めることができないでしょ?」なんてご親切に答えてくれるわけなどない。

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*pp これに関しては以下を参照。



繰り返そう。;

Re:“「それじゃあエンドルフィンが出ないから将来のママ友同士の絆を深めることができないでしょ?」なんてご親切に答えてくれるわけなどない。”


────つまり、「カフェに行く」ってのは、その具体的な行動それ自体に何か意味があるわけではなく、それが指すところの抽象的な意味合い、生物学的文脈でのニーズをとらえる必要があるわけだ。

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このように、ケンリック&グリスケヴィシウスは、サピエンスのあらゆる行動に関して、隠れた「進化上の目標」を見抜いておくことが重要だという。

つまり、「カフェに行きたい」と言うサピエンスの発言の裏には、どんな生物学的動機が潜んでいるのか?ということだ。

ヒトの行動に対する従来の考え方は、もっぱら人々のうわべの目標────たとえば、手頃な価格でフォーマルシューズを買うとか、土曜日のデートのために洒落たレストランを選ぶとか────を問題にすることを拠り所としている。”
しかし、すべての動物がそうであるように、ヒトは深い目的の達成につながる選択をするよう進化した。祖先のレンズを通して現代の選択を見るようになると、うわべからはバカげていたり不合理に思えたりする決定の多くが、深い進化レベルでは、賢明で適応的な決定であることがわかる。” 

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*D.Kennrick & V.Griskevicius(2013)



発見 ❷:ヒトの意思決定はいくつかのまったく異なる進化上の目標を達成するよう設計されている。


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───────これは進化心理学の最大の発見のひとつ、

「心(Mind)のモジュール理論」


の内容を指したものだ。

進化心理学者たちは、ヒトのMind(心・精神・意識)は「統一された何かひとつの実体」ではなく、

いわば「複数-無数のMind(心・精神・意識)の集合体」となっている、という事実を多くの研究から示してきた。

(─────そしてこの「心(Mind)のモジュール性」は多くの認知科学者・神経科学者たちからも支持されている内容だ)


そう、直感に反して、心は単数形ではない。心を形成するシステムは、無数のモジュールから成る "複数形" なのである。

(ってかそもそもみなさんは多細胞生物だし脳は無数のニューロンの集まりだ)


だから、 「個人の中に、つねになにか一つの決まった人格(Mind)がある」と想定するのは間違いだ。


ヒトは個別の状況ごとに、“どのようなタイプのMindを発動するか"をヒューリスティック的に選択し、決定する。なぜならそれ(=Mindタイプの切り替え機能)が進化的に合理的だったからだ。

(仮面がたくさんあるイメージ)

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─────このような仕組み(=それぞれのパターンごとに発動するヒューリスティック群を予め抱えておき、実際の状況ごとに繰り出していく)になっているのは、べつに「Mind」にかぎった話ではない。

基本的に、生物個体は、直面するさまざまな状況カテゴリに属する個々のインスタンス(=”トークン”)に対処できるように、身体の全身の仕組みを適応させている。

つまり「進化=自然選択」による設計の特徴として見られるものに、捕食者(=状況A)、獲物(=状況B)、異性との遭遇(=状況C)など、様々な状況カテゴリにそれぞれ振り分けられる複数-無数の個別インスタンス(=トークン)にそれぞれ対応したヒューリスティックメカニズムを生命体に備えさせる、という"癖"があるのだ。

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だから「Mind(意識人格)」の設計構造もそれと同じである、というのは、さして可笑しな話ではない。


─────ふだんは暴れまわっているヤンキーが、おばあちゃんに会うときはニコニコ優しくなる、というのは、たいてい、彼がその時「演技をしているから」ではない。

脳のニューロンアンサンブルで形成される"Mind (意識人格)"の構成が、状況ごとに「別のタイプ」へと、ヒューリスティック的に切り替わっているだけなのだ。

そして、そのときそのときに頭に浮かんでいる「Mind」のタイプによって、ヒトの意思決定の結果は(当然のことながら)変化する。"進化上の目標"が切り替わっているからだ。

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────これらのことを、ケンリック&グリスケヴィシウスは以下のように説明する。

“ 経済学者や心理学者は、ヒトがたった一つの大きな目標、すなわち、快楽を享受する、あるいは利益を最大にするという目標を追い求めていると決めてかかることが多い。”
“ 現実には、どの人もいくつかのまったく異なる進化上の目標、たとえば配偶者を得る、危険から身を守る、地位を手に入れる、といったことを追求している。: これは重要な違いだ。意識しているにせよ無意識にせよ、どの進化上の目標がそのとき頭にあるかによって、まったく異なるバイアスが生じ、まったく異なる選択を下すことになる。” 

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*D.Kennrick & V.Griskevicius(2013)


───────以上が、進化心理学者たちが、経済学者たちに提供したがっている「もっといい理論的フレームワーク」の概要だ。


このような生物学を基盤とした「新しい枠組み」は従来の経済学・経営学やマーケティング、ファイナンスなどの思考の枠組みを、抜本的に改革してしまうものになるだろう(アメリカではもうそうなっている)。


たとえば、進化心理学者のジェフリー=ミラーは、『Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior/邦題:消費資本主義!』という話題作において、

進化心理学/EvoPsyのアプローチが、いかにして従来の経済学やビジネス論についてのセオリーを"破壊"し、"再構築"するか、ということを説いている。

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# 痒いところに手が届かないランプの魔人


“『千夜一夜物語』にでてくるアラジンの物語は、消費主義(Consumerism)をたとえるのにちょうどいい。貧しい少年アラジンが、ヒミツの洞窟で魔法のランプを見つける。こすってみたら、恐ろしげだけど百万力の魔人が現れる。”

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“ ランプの魔人は、アラジンの願いをいくつも叶えてみせる────銀の食器に山盛りのご馳走だの、刺繍入りの豪華な衣服だの、名馬だの、50の黄金のたらいを与えてくれるし、恋人をとりあうライバル(宰相の息子)をやっつけてくれるし、碧玉と黄金とルビーを散りばめた大理石の宮殿までしつらえてくれる。”
“アラジンの物語では、魔人を解き放って僕(しもべ)にしたことで生じた生物学上の利益は明快だ:アラジンは、お姫様の愛を勝ち取って、長く続く王家の父祖となる。”

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現代世界では、この魔人にあたるのが「市場」だ。みんなが抱くいろんな願いを、その製品たちが叶えてくれる。────ただ、こちらの場合、生物学的な利益はいまひとつ明快でない。”
“ 市場はみんなの欲望を鏡のように映し出し、心のうちに秘めているいろんな好みを誰もがわかる形にしてみせる。ランプの魔人と同じく、市場が持つ力と発明の際も魔法のようだし、留まるところを知らないように見える。市場を調査し、消費者からフィードバックが返ってきて、経済的競争がなされる。”
“ このサイクルを何度も繰り返して、市場はみんなが語った願いをランプの魔神よろしく叶えるべく営為努力する────けれど、これも魔神のように、市場が従うのはみんなの願いの"本意"なんかではなくて、"その言葉の一言一句"だ。そのせいで、なにかといらだつこともある。

──────G.Miller (2010) 『Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior』

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繰り返そう;

「市場はみんなが語った願いをランプの魔神よろしく叶えるべく営為努力する────けれど、これも魔神のように、市場が従うのはみんなの願いの"本意"なんかではなくて、"その言葉の一言一句"だ。そのせいで、なにかといらだつこともある。」

そう、これはまさに進化心理学者たちの典型的な主張だ。サピエンスたちが “ランプの魔人” に語るのは、おのおのの脳の〈意識〉のレベルにおいて、インタープリターを用いて話される言葉に過ぎない、と。

そんな「表層的な理解」や「言葉という文字面」に変換された内容ではなくて、本質的な「サピエンスたちの願いの本意」をマーケターたちが知るにはどうすればいいのだろう?

────くりかえすが、進化心理学たちは、その答えは進化論と生物学のなかにある、と言う。


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ジェフリー=ミラーは、サピエンスの性選択理論と配偶行動に関する世界第一人者だ。彼はユーモラスな切り口によって、サピエンスたちが行う何気ないもろもろの社会行動を生物学的に分析している。

ミラーは生物学的なフレームワークから、従来のマーケティング理論の"根幹"を叩き直そうとしているのだ。

最高に賢いマーケターであっても、消費者たちが消費に関する意思決定をとおしてほんとうに誇示しようとしている長所・美質がどれなのかを理解しきっていない。人々がお互いに送りあっているシグナルの内容を、彼らも本当は理解していない。─────典型的に、マーケターたちは学校教育で時代遅れな消費者心理研究を教わったあと、現実の会社で実地の仕事をやりはじめてから、学校で教わったことは現実の製品を売るのには役立たずだったと気づく。”

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“ 「それでは」と試行錯誤を繰り返しながら彼らは消費者行動とマーケティング戦略の直観的な理解を追求していく。たまにはセス・ゴーディンやマルコム・グラッドウェルの本なんかを読みかじったりする。消費者行動に関して、証拠にもとづく首尾一貫した理論があればとてつもない実戦的な便益がもたらされるのに、マーケターたちは手に入れそびれている。そのため彼らの成功率はほどなく頭打ちになる。”
とくに、大半のマーケターたちはいまだに人間本性について単純すぎるモデルを使っていて、過去20年の間に蓄積されてきた研究の知見を取り入れていない─────進化人類学者、進化生物学者、進化心理学者たちによる研究が活かされていないのだ。”

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“「プレミアム製品は富や地位や趣味の良さを誇示するために買われる」といまだにマーケターたちは信じていて、見せびらかすようにヒトが配線されているもっと根深い心の性質を見過ごしている────ヒトは、やさしさや知性や創造性といった性質をみせびらかすように配線されているのに、そこを見過ごしている。”
彼らは消費を「進化」の文脈において考えようとしないし、先史時代の起源にまで遡ろうともしないし、その適応的な機能を理解していない。その結果、マーケターたちはヒトの心を見渡すすぐれた地図も、ヒトの心が棲まうこの記号に満ちた素晴らしき新世界の地図も利用できていない。────彼らに必要なのは、ダーウィンだ。”

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ミラーが「マーケティング」を生物学的に捉える上で特に強調するのは、ヒトという種の社会だけでなく生物界に広くみられる、

Fitness indicators/適応度標示


という概念だ。* G.Miller (2000)

“ フィットネス・インディケーター/適応度標示とは、個々人がどんな性質・特性を持っているかを他人が知覚できるように示すシグナルのことだ。ほぼどんな動物種でも、配偶相手を惹きつけたり競合相手を怯ませたり捕食者を抑止したり親や血縁者から助けを引き出したりする固有のフィットネスインディケーター(適応度標示)がある。”
 “ オスのグッピーは成長するにつれて旗のように尾をはためかせるようになるし、オスのライオンは豪勢なたてがみを見せびらかすし、オスのナイチンゲールは歌を学習するし、オスのニワシドリは立派な巣をつくるし、人間はオスもメスも贅沢品を手に入れる。どの例をとってみても、フィットネス・インディケーター(適応度標示)は、優良な遺伝子・優良な健康状態、すぐれた社会的知性といった根本的な生物学的特徴を周りに見せつけている。”

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“ こうしたシグナルをもつ動物は、べつに、こうした特徴が自分の適応度(=生存・生殖における優位さの度合い)の誇示になるべく進化してきたことを自ら意識しているわけではない。* たんに、これらを見せびらかす本能と遺伝子をもっていて、そうやって見せびらかすことで生存に関わる便益や、社会的・性的な便益を進化そのものが記録し続けているだけだ。〔見せびらかしが生存・生殖に寄与した個体の遺伝子が次世代に継承されやすいという意味で、進化がそうした便益を記録しつづけていると言っている〕。”

*「みずから意識しているわけではない」:さっきも紹介したが、これは進化的デザインが生物にもたらす特徴的な設計の1つである、CwC(理解力なき有能性/Competence without Comprehension)とよばれるものだ。

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“ ぼくら人間は、自分たちのフィットネス・インディケーターが果たす生物学的な機能について、たいして意識して理解しているわけではなく、その点でグッピーと大差ない。”
“ それどころか、見かけ上の適応度(健康・美容・生殖力、知性)を向上させる製品を買って、現実の生物学的な適応度(生殖)を犠牲にしている場合すらある────たとえば避妊薬のオーソトリサイクレンはニキビを減らすことで女性の肌をもっと魅力的にするけれど、排卵をなくすことで生殖の成功機会を減らす。”
“ ぼくらの脳は、生殖の成功を意識的に追求するようにはできていない。:そうではなく、ご先祖たちが暮らしていた条件下でなら生殖の成功につながることが典型的によくあった刺激や経験や人やモノを追い求めてるように脳は進化している。”

────G.Miller (2010) 『Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior』

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* * *


# サピエンスの社会のダイナミクスを「生物学モデル」で説明しよう


──以上、ケンリックやミラーが語るような、進化心理学者が提示する「もっといい理論的フレームワーク」とはようするに、

従来の経済学理論が物理学モデルを用いていたのに対して────あるいはその他の社会科学が “標準社会科学モデル(Standard Social Science Model、SSSM)”とよばれるものを用いていたのに対して────、

新しく「生物学モデル」を構築しようと主張するものだ。

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・(TIPs) ✔️標準社会科学モデル(SSSM)…進化心理学の創始者トゥービー&コスミデスの二人が批判したもの。

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(長谷川寿一 & 長谷川真理子 2000『進化と人間行動』より引用)


────進化心理学者が提唱する「生物学モデル」と、経済学が採用している「物理学モデル」あるいはその他の社会科学が採用している「標準社会科学モデル」との、一番の違いとはなんだろう?

たとえていうとそれは、社会というフィールドに存在する無数の「個」が、ピンボールの玉のように周囲の環境にただ弾かれてあちこち動くわけではなく、バクテリアや昆虫の群れのように、自らの駆動力をもってあちこち「蠢く(うごめく)」存在であるということだ。

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生物個体は「行動性向」をプログラム的に「チューニング」されている自ら代謝する有機体であって、無機物ではない。

────たとえば「チャールズ=ダーウィン」という生物個体ひとつ取っても、彼はさまざまな葛藤を抱え、悩み戦略的に思考し、人生のオールを力強く漕いでいた。

彼はおよそ、物理学モデルの上を「ピンボール」のように走る存在ではないし、また後天的な社会的環境や文化によって「心のプログラム」のすべてを独自に後から書き込まれた存在でもない。

進化心理学者のロバートライトは述べている。:

進化心理学は、まず人間の本性のチューニング状態についてはっきりさせることから始まる。人間なら誰でもチューニングされている。────あのチャールズ=ダーウィンもそうだ。:彼はできる限りの範囲で肉親を大事にした。地位への野心もあった。セックスの願望もあった。ダーウィンは学者仲間に自分の存在を印象付け、気に入られようとした。善良な人間に見せたがった。仲間と組んで協力しあうかと思えば、ライバルの行動を封じようともした。


また、著名な経済学者で、進化心理学者としても有名なロバート=フランクは、著書『THE DARWIN ECONOMY/ダーウィン・エコノミー』のなかでこう述べている。:

100年後の経済学者に、経済学の父は誰かと尋ねたら?その大多数はチャールズ・ダーウィンと答えるだろう ”

* R.Frank(2011)

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(フランクは、従来の経済学のフレームを廃して、進化論を組み込んだ新しいフレームを組み立てようとしてはいるものの、本気でやろうとすると「経済学」の伝統的な枠組みすべてが消滅してしまう…というわけで、妥協的な議論に踏み留まっている)


* * *


# 進化心理学者の“パラダイム転換” に抵抗する人びと


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────いずれにせよ、進化心理学者の

生物学モデルをヒト社会のダイナミクスを説明するものとして採用せよ


という主張は、「ヒトは生物の一種である」という科学的事実を認める立場からは、至極まっとうなものであるのは確かだろう。

しかし、進化心理学者(社会生物学者と名乗っていた時代もある)たちによる"パラダイム転換"の提唱は、これまでに数え切れないほど多くの抵抗を受けてきた。

たとえば────:

・社会ダーウィニズム優生学と一纏めにされてきた誤解

・本能論ヒト生物学に対する不当な批判(“それは眉唾だ!”)

・20年にわたり続いた社会生物学論争

・道徳やイデオロギーとしての"正しさ"とサイエンス的事実としての"正しさ"の混同

・社会科学系の学者がみな強く信じていた「ブランク・スレート(空白の石版)」/「タブラ・ラサ(心は白紙)」といったドグマ(=人間の心は生まれた時には白紙であり、社会や文化や、自身の後天的経験や学習によって、思いのままに書き込めるシステムになっている)との対立

・そこから生じた「生まれか育ちか」論争(nature-nurture argument)

・社会科学の世界で巻き起こった文化 vs 進化の論争

・脳科学の活動依存的シナプス形成プロセス(Dendritic Growth)の発見による、スペリーの「脳の固定配線(ハードワイアード)理論」に対する不当な批判

・生物学者自身のミクロ分野(遺伝子学・分子生物学)への偏重&(究極要因を疎かにした)至近要因研究への偏重

・「進化論には偶然のデタラメ以外何もない」というランダム論者による攻撃

・中立進化論者との争い

心理学界の「S-R理論」もしくは「強化-感情モデル」(条件づけ──生物のほぼすべての行動ロジックを後天的経験の賜物とする)への愚蒙なまでの執着

・スキナーなどの行動主義者による「Mindのブラックボックス化」(=目に見えない心の有りようなど考えても意味がない)という知的愚行

・サピエンスの先天的な心(=脳)の「性向」というものを「行動の原因」として研究する事を意識的に避け、すべて「社会」とか「環境」といったものに無理やり要因を見出してきた社会心理学者たちとの対決

「政治的に正しい」ムーブメントとしてのフェミニズムポリティカルコレクトネスとの齟齬・・・etc


(うーわ。)

・・・いまだかつて、これほど数多くの逆風にさらされてきたサイエンス分野など存在しただろうか?


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(とんでもない逆風だ)


世界で最も著名な霊長類学者の一人であり進化心理学者でもあるフランス・ドゥ=ヴァールは、「サイエンス」とつねに結びつこうとする「政治的イデオロギー」というものの厄介さについて述べている;

政治的イデオロギーは、生物学のベッドに入ってきた面倒な同衾者である。ほとんどの生物学者は別の寝室で寝ることを望むはずだが、その努力は成功しなかった。なぜなら「自然」という言葉があまりに魅力的で説得力があるからだ。どんなイデオロギーも「自然」という言葉を使いたがる。だから行動や社会について研究し、論文を書く生物学者は、政治の渦に巻き込まれる危険と隣り合わせだ。”
私たちが、サルの不公平嫌悪に関する研究を発表した時もそうだった。フサオマキザルは、隣の者がブドウをもらったのを見るやいなや、キュウリはいらないと拒絶した〔フサオマキザルの世界ではキュウリはブドウより価値が低い〕。”

>ドゥ=ヴァールの有名な「霊長類の不公平嫌悪」の実験については以下を(TED)


“ 新聞はこの実験結果をもとに、平等主義社会の実現を訴えた。新聞の特集ページには、「不公平はサルでさえ嫌がるのに、どうして人間が受け入れられるだろう?」と問いかける記事が載った。────それを受けて、読者から非難の電子メールが届いた。投稿者は、私たちが共産主義者であり、公平さからほど遠い資本主義を倒そうとしていると主張していた。”
“ だがこの人は、フサオマキザルが見せた反応は、自由市場での人びとの姿と同じであることに気づいていない。自分が買ったものと、ほかの人が買ったものを見比べて、私のは割高だと腹を立てる────これほど資本主義的な光景がほかにあるだろうか?”

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(* F. De Waal 2014 『The Bonobo and the Atheist: In Search of Humanism among the Primates/邦題:道徳性の起源──ボノボが教えてくれること』)


進化心理学/EvoPsy、また社会生物学/SocioBioは、とにかく「古い教科書」のもとに知的ドグマを徹底的に叩き込まれた人間/サピエンス(とくにインテリたち)が地球上から引退しない限りは、批判と誤解にさらされ続けることになるだろう。

────もう、これはそういう宿命なのだ。生物学モデルはヒト社会のダイナミクスを説明する。そういう宿命なのである。部族社会時代の社会淘汰によってわれわれの心はデザインされている。

“教条”に背いた者は「反社会的」とのレッテルが貼られてしまっても致し方ない。「地動説はモラルに反する」という批判をしていたかつての時代から、サピエンスたちの遺伝的な本性はなにも変わっていないのである。

やがて時間がすべてを解決するだろう。

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まあしかし、

そうはいっても、

なんやかんやあって

(なんやかんやの内容が知りたい人は各種の書籍を読んで欲しいのだが)、

近年になってようやく、その正当性が認められ初めてきたからこそ、"進化心理学/EvoPsy"はいま、欧米を中心に広く学界に"旋風"を巻き起こしているのだ。


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* * *



# 「進化論」 とは、あらゆるものを溶かしてしまう 「万能酸/Universal acid」 だ


デネットは「進化論」というものを “ サピエンスの世界に存在するありとあらゆるものを溶かし尽くす「万能酸/universal acid」” にたとえたことで有名だ。

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サピエンスが、その肥大した脳を用いて哲学的/科学的/社会的に考えているあらゆる物事やテーマは────、あるいは日々の暮らしを生きる中で色々と味わっているさまざまな感傷(センチメント)は────、じつは「進化論」という根っこの部分で繋がっている。

「万能酸/universal acid」について聞いたことはあるだろうか?私や学生時代の友人たちは、よくこの空想に夢中になったものだ。…万能酸は、非常に腐食性の高い液体で、ありとあらゆるものを侵食してしまう!────しかし、そんなものをどうやって保存すればいいのだろう?それはガラス瓶であろうとステンレス缶であろうと、紙袋と同じように分解してしまう。”
もしも、万能酸がほんの一滴でもどこかからやってきたら、あるいはそれが創り出されたら、何が起こるだろうか?最終的には、この地球という惑星全体が解体されてしまうのだろうか?そしてその後には何が残されるのか?万能酸との出会いですべてが変容を遂げた後、世界はどんな姿を見せるのだろうか?
“ ほんの数年後、このような万能酸と見紛いようがないほどよく似たある考え方(アイデア)────すなわちダーウィンのアイデア────と私が出会うとは、ほとんど思いもしなかった。ダーウィンのアイデアは、ありとあらゆる伝統的な発想をまさに侵食し尽くし、その後に革命的に変化した世界観を残す。”

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" ヒトの脳みそは「進化の産物の臓器」だ "


という進化心理学の見方は────神経科学者セバスチャン=スンがいうように「〈わたし〉=脳である」とするならば────、この世の中に存在する、あらゆる物事の根幹に深く関わるテーマになる。

この世界の構成員は人間ではなく脳である、と考えてみよう。つまり、現在のサピエンスの世界はおよそ70億個の脳から成っている、という見方をとってみよう。

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一つ一つの脳は「プレイヤー」としてそれぞれにこの世界を蠢いている。


────しかし、それらの「プレイヤー」は何も無いところから主体性(independence)をもって突然出現したのではなく、進化的に"デザイン(設計)"を施されたもの(=自立型プログラム)としてこの世に生を受けているのだ。

そしてその、「あらかじめ行動性向や思考性向のデザインを施された自立型プログラム」が相互に作用しあってこれまでつくりあげてきたものが、「文明」であり「文化」であり「社会」であり「制度」であり、その他さまざまな現代のサピエンス世界を構成する各種のしくみなのだ。

マット=リドレーは「The Evolution of Everything(直訳:すべてのものの進化)」というタイトルの著書を刊行したが、

俺たち人間(=脳)にとってのこの世界とは、実際はもっと強い表現で、“Evolution is Everything(進化こそすべて)”と言ってもいいものだろう。

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進化論/Theory of evolutionという強力なアイデア(概念)は、リドレーのいうように、

宇宙 (Universe)、命 (Life)、道徳 (Morality)、遺伝子 (Genes)、文化(Culture) 、経済 (Economy)、テクノロジー (Technology)、心や意識 (Mind)、人格 (Personality)、教育 (Education)、人口政策 (Population)、リーダーシップ (Leadership)、政治 (Government)、宗教や信条 (Religion)、金 (Money)、インターネット (Internet)…etc.

とあらゆる分野に導入されて然るべき、

俺たちサピエンスにとっての、この世でもっとも強力な思考道具


なのだ。

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* * *


# オレたち世俗的なアニマル、それでもドン底から星を見上げる


────ケンリックは、著書『Sex, Murder, and the Meaning of Life/邦題:野蛮な進化心理学』において、まだまだ誤解されがちな進化心理学者としての"苦悩"をユーモラスに語っている。

“ 進化心理学者たちがしばしば真面目な学者たちの機嫌を損ねるのは、一部には、どん底を歩き回って下世話な話ばかりを嗅ぎまわるクセが私たちにあるからだろう。…ファンダーの見立てでは、進化心理学者の手口とは次のようなものだ────礼儀正しい会話では普通避けられるようなテーマを選び、それに光をあてること。”

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“ かんがえてみると、これはなかなか言い当て妙だ。でも、そういうテーマを選ぶのは別にそれがゴシップ誌でとりあげられるからではない。私たちがロクでもないテーマ(もちろん、お上品なものもあるが)を研究するのは、たとえば、誰が誰と寝ているか、誰が自分を裏切るか、誰がうちの子供を傷つけるかといった問題のように、それが世界中の人々が実際に関心を持っている事柄だからである。”
“ だいたい、どうしてこれほど多くの人が『ピープル』、『アス』などのゴシップ誌やスポーツ紙を読むのだろうか?『ニューヨークタイムズ』より優れた書評欄があるからだろうか?それとも、どの権力者がどのハリウッドの清純派女優と浮気をしているかがわかるからだろうか?”

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“ そしてなぜ、世界中の人々は苦労して稼いだお金を毎年何十億ドルも払い、長い時間並んでまで、『風と共に去りぬ』、『タイタニック』、『ブレイブハート』、『アバター』みたいな映画を観ようとするのだろうか?────あえて推測するなら、それは映画表現が見事だからではなく、悪玉(ヤツら)と善玉(オレたち)の生々しい争いや、若い乙女と恋に落ちる勇敢で英雄的な男性といった、私たちが昔からゴシップのネタにしてきたような話が描かれているからではないか。”
“ とはいえ、こうした人目を引くネタばかりがこの分野(進化心理学)の関心ではない。進化心理学者たちは、社会科学の諸分野をお隣の生命科学と統一するような、統合的なパラダイムも探しているのだ。実際、保守的な学者たちがイラだっているのは、この分野が一見すると大風呂敷を広げているように見えるせいでもあるだろう─────進化論的な視点で心理学、経済学、政治科学、生物学、人類学、社会学を統合できると主張するだけでなく、法学、医学、ビジネス、教育といった応用分野にも大きな影響を与えられるとまで言い張っているからだ。”

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“ 私たちはさらに話を広げ、こうしたテーマは、学者にとってだけでなく、万人にとって大きな意味を持っていると主張する。ウィスコンシン州の田舎にいる親戚から、国連安全保障理事会のメンバーたちまで、みんなにとって意味があるのだ。家庭内暴力の根絶から、人口過剰や国際紛争の解決まで、世界をもっとよい場所にしたいと望むならば、経済学者、教育者、政治指導者たちには、人々にはこうあってほしいという夢物語をもとに方針を決めるのではなく、人々は実際にこうなっているという、しっかりした理解に基づいて方針を立ててもらう必要がある。”

*D.Kenrick(2013)


──────ケンリックは、当事者目線から、「進化心理学という分野を表すかんぺきなスローガン」 として、以下のオスカー=ワイルドのアフォリズムをあげている。

We are all in the gutter but some of us are looking at the stars.オレたちはみんなドブの中にいる。でもそこから星を眺めている奴らだっているんだ)”


────Oscar Wilde

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* * * * * *



───────さて、以上でオリエンテーションは終了だ(マジかよ、これで前置きかよ)。

これからここで、またこの国ではあまり知られていない「進化心理学(Evolutionary Psychology)」のアイデアについて、つらつらと書いていこうと思う。

このnote稿連載には"これからの時代を切り拓く50の思考道具"と、本屋の売れ筋に並んでいそうな、いかにもな副タイトルがつけてあるのだが、もちろんそういうのが好きな界隈へのアプローチを(ワンチャン)狙ったものだ。

それらの「思考道具」をざっと身につけることができれば、キミも晴れて進化心理学徒への道を踏みだすことができるというわけだ(オレは何者だよ)。

「進化論」との出逢いは、間違いなくあなたの人生を変える。


─────えっ、進化論だって?

「生物はデタラメの偶然からたまたまそうなりました」という、あのダーウィン爺さんのなんにも科学的ではない結果論丸出しのめちゃくちゃセオリーが???

(上記のオリエンテーションでも述べたように)そう思う人は日本の進化論教育の犠牲者だ。あとでリチャード=ドーキンス博士に存分に叱って貰うことにしよう。

「進化論の威力」にいまだ気づいていない人に向け、ここでは────オリエンテーションでもすでに登場したが────俺が敬愛する著名な進化論哲学者、ダニエル=デネットの言葉を引用しておく。

“ 自然選択による進化というダーウィンのアイデアは、私の見解では、これまで人が手にしてきた思想の中でも群を抜いて優れた最上の考え方である。というのも、それは果敢な一撃によって、意味と物質というそれぞれ別々の世界であるかのように見える実在の二つの側面を結びつけるからである。”
“ 私たちには一方で、私たちの心やそれが抱く意味や私たちの目的や希望や憧景、そしてもっとも尊重されてきた───同時にまた陳腐な───哲学的な主題である〈生きる意味〉が属する世界がある。; 他方で私たちには、絶えず回転する銀河系や、それぞれの軌道に沿って当てもなく落下を続ける惑星や、物理法則に従う生命なき化学的メカニズムなどの、目的も理性もないすべてのものがある。”

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“ そのとき、ダーウィンが登場し、意味が物質からどのようにして生じてきたかを、すなわち、物質的な過程がどのように意味を創造するかを、私たちに示してくれた。これは、重要な事柄は下から湧き上がって生み出される(バブルアップ)という見方であり、重要な事柄は上から溢れでる(トリクルダウン)という伝統的な見方を転倒させるものである。”
自然選択という考え方(アイデア)はさほど複雑ではないが、非常に強力なので、一部の人たちはそれを直視することに耐えられない。まるで恐ろしくまずい薬の一服であるかのように、必死になって目を向けないようにする。”

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(Dennett 2014『Intuition Pumps and Other Tools for Thinking/邦題: 思考の技法 -直観ポンプと77の思考術-)


*参考:「意味が物質からどのようにして生じてきたか」については、"ウムヴェルト"という概念によって説明される。 ▼

もしも、腐った卵が嫌な臭いを発し、身体組織が傷つくと痛みが感じられ、砂糖は甘いのだとすると、それは硫化水素ガスが嫌な臭いを有しているからではなく、皮膚に針が刺さったときそこから痛みが放出されるからではなく、砂糖分子の属性が甘いからなのではない。”
“ ────そうではなくて、人間の脳が、「遺伝子の存続」にとって有利であったり不利であったりするこの世界の出来事について、一般的な快感とか不快感というものを形成できるような神経組織を進化させてきたからなのだ。”

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(V.Johnston 2000 『Why We Feel:The Science of Human Emotions/邦題:人はなぜ感じるのか?』より)


───さあ、あなたは「進化論」という、すべての常識を破壊しつくす現実を直視できるだろうか?


この世のすべてを創っている「進化」────。その恐ろしい本質にしかと目を合わせることができなければ、進化心理学/Evolutionary Psychologyへの道はまるで拓けない。

これから紹介する50の「思考道具」は、「進化論」という人類史上最大のアイデアの “威力” を、きみが我が物とする手助けになるだろう。

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モーフィアス: 「これは最後のチャンスだ。先に進めば、もう戻れない。青い薬を飲めば、お話は終わる。君はベッドで目を覚ます。好きなようにすればいい。赤い薬を飲めば、君は不思議の国にとどまり、私がウサギの穴の奥底を見せてあげよう」

(Morpheus: This is your last chance. After this, there is no turning back. You take the blue pill - the story ends, you wake up in your bed and believe whatever you want to believe. You take the red pill - you stay in Wonderland and I show you how deep the rabbit-hole goes.)



────ところで、この「思考道具」という概念/アイデアそれ自体も、いわば思考道具の一つだ。

ボー・ダールボムはかつてこう言った。

" 素手だけで大した大工仕事はできないし、脳みそだけでは大した思考はできない。"

────そして俺はいうまでもなく、この「思考道具」というアイデアをデネットから借りた。

デネットが先ほどの著作のなかで紹介している77の思考道具リストと、今回俺が(誰なんだよ)進化心理学の“布教”のためにリストした思考道具50はラインナップが異なるが、そのまま引いてきたものもある。


思考道具─────。

こういった「模倣されたアイデア」のことを、リチャード=ドーキンスは「ミーム/meme」と名付けた。

コピー、コピー、コピー。


かつて地球上には「コピー」の手段が遺伝子を用いるしか無かったのに、俺たちサピエンスは一体どれだけの"遺伝子に頼らないコピー"の手段を発明したことか。

サル真似は人類の叡智だ。他人の動作の模倣、他人の思考のインストール。ちょっと本を読むだけで、アイデアは"ここ"に生殖する

あのアイザック=ニュートンはこんな言葉を残している。

私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further it is by standing on ye sholders of Giants.)

ちなみにこの「巨人の肩の上」という表現は、シャルトルのベルナール(というヒト個体)が語ったとされる言葉だ。

そのミームが、ニュートンというヒト個体のなかに「コピー」されていたのだ。

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サピエンスの世界では「ゲノム」とともに「ミーム」が複製されつづける。


元からすればできの悪いコピー(模倣)が、淘汰をむしろ生き残ることもあるし、そうじゃない事もある。ミームはラチェット(累積)効果によって文明を進化させる。広く大衆が「イケてる」と直感的に感じるもののみならず、わかりやすいもの、目に留まりやすい変なもの、界隈によっては難しいものも広がる。

文明社会は「模倣では意味がない」とスローガンを掲げるが、ホモサピエンスは存在のほぼ全てが模倣でできている。

イケてる知識やアイデアはどんどん模倣すべきだ(車輪は既に発明されている)。模倣は本人の血肉となる。そして由来が異なる模倣アイデアが、とある脳内でセックスし、クリエイトになる。

だからこそサピエンス社会には、引用や出典を示せば──少なくとも文書に関して──ミームを“複製”しても構わない、というルールがもうけられているわけだ。

“何も真似したくないと思う者は、何も生み出さない(Those who do not want to imitate anything, produce nothing.)” ──サルヴァドール=ダリ

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俺は、これから紹介するミーム群:「進化心理学的シンキングへとつながる思考道具50」のラインナップが、だれかにふたたび受け継がれる(コピーされる)ことを期待するし、それがまた、なんらかの新しいクリエイトを生みだすことを望んでいる。

ちなみに俺が「思考道具」というミームを引いてきた、デネット著『Intuition Pumps and Other Tools for Thinking』の出版社による紹介文はこんな感じ:

世界で一番強力な思考のツールボックス。並外れた天才でない私たちでも、適切な思考の道具を携えれば難解な問題に立ち向かうことができる。数多の哲学者や思想家が編み出してきた有益な道具と有害な道具を仕分けながら、意識の迷宮を解き明かし、もっともすぐれた思考ツール「直観ポンプ」へ導く。当代随一の哲学者デネットが惜しみなく提示する思考術大全。”

─────なんとも楽しい紹介文だ。


そして、俺が今回選んだ「思考道具50」のラインナップはこんな感じだ:

1. 進化というアルゴリズム  2. 盲目の時計職人  3. 利己的な遺伝子  4. 適応課題  5. 目的論の自然化/GOD  6. 自然意志  7. 理解力なき有能性(CwC)  8. ゾンビ=システム  9. ダーウィンの奇妙な推論の逆転(SIR) 10. ドント・ニード・トゥ・ノウ存在  11. 脳は国家、意識は新聞   12. インタープリター  13. 至近要因と究極要因
14. 心のリバース=エンジニアリング  15. 幾多の本能  16. 深い合理性  17. オリジナルトリガーとカレントトリガー  18. 幽霊とダンスする人々   19. 知覚のチーズケーキ 20. 環世界(ウムヴェルト)21. アフォーダンス  22. EEA (進化的適応環境)   23. 社会脳仮説   24. 社会ゲーム  25. 社会選択(Evolution of social control)26. モラル=サークル  27. フォーク=サイコロジー 28. インテンショナル=スタンス(ToM:心の理論) 29. 脳の固定配線&活動依存理論 30. 心の演算理論  31. 心のアプリケーション(i-Mind) 32. 心/Mindのモジュール性 33. 心の報道官システム  34. セルフディセプション(自己欺瞞)  35. ナラティブの中心=自己  36. エージェンシーの感覚  37. ヒューム的理性  38. ネオテニー   39. 準備された学習 40. 標準社会科学モデル(SSSM) 41. 自然科学的誤謬  42. リアリズムの幻想 43. ホメオスタシスとS/R価値  44. 生活史理論  45. 再構築されたマズローのピラミッド  46. 進化はノン-ランダムプロセス 47. 生存バイアス  48. 複雑系   49. 再帰性 50. 創発

(目がチカチカするな・・)

これらの思考道具はきっと、進化心理学/EvoPsyという、いまだ未知なる学問の世界へキミを水先案内する役目を見事に果たしてくれることだろう。

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アタマのツールボックスに是非ともひとつひとつ収めていってほしい。

俺が思うに、これからの時代、"ソイツはかなり役に立つ" 。



────────続く。




tool 1:進化というアルゴリズム

・tool 2:盲目の時計職人

・tool 4:至近要因と究極要因



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Ore Chang

類人猿の一種・サピエンスの行動生態の考究。ダーウィン進化論と進化心理学の知見からHuman Mating Strategyを構築する (motto:Rage, against the dying of the light )

サピエンスの21世紀は進化心理学が支配する〜50の思考道具

サピエンスの21世紀は「進化心理学/Evolutionary psychology」が支配する時代になる──これからの時代を切り拓く50の思考道具を身につける。
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