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『時空のゆりかご』

全体の感想

 時空のゆりかごを読了した。
 全体的な印象として、前半から中盤までは主人公の語り口と短い章立てでスラスラ読めた。 特に主人公が振り返っている場面なので、まとまりが良かった。
 ただし、物語が本格的に始まる中盤からはタイムラインや心情が複雑になり、追いにくい印象があった。そのためか、最終場面での主人公の決定も受け入れられにくかった。

あらすじ

 以下、個人的な理解です。

前半
 主人公は別の世界からこの世界に来ている。
 別の世界では、クリーンエネルギーを無尽蔵に生む「ゲートレイダー・エンジン」が発明された。人々はエンターテイメントを個人に最適化された形で楽しむことができ、戦争や犯罪の少ないテクノユートピアで暮らすことができた。
 主人公はそんな世界で自分に自信のない出来損ないの男だった。しかし、父は母の死を遠因として、主人公をゲートレイダー・エンジンを利用した時間航行の計画に参加させる。その結果、主人公はペネロピーの死と時間の崩壊を招くに至った。

後半
 こちらの世界で、主人公は元々建築家として成功していた。家族やペネロピーもいて、彼らと次第に親しくなる。主人公は幸福を得る。
 だが、元の世界に戻さなければならないという使命感から、全てを振り切って行動を始める。途中、ペネロピーと一緒にいられれば他はどうでもいいとも思い始めるが、結局は使命に従って調査することになる。
 最終的に、主人公はこちらの世界のゲートレイダーを見つけ、再度の時間航行に成功する。驚くべきことに、この瞬間に突如第三の人格が現れ、それと格闘しつつ任務を遂行しなければならなくなるが、無事、主人公は任務を遂行する。
 主人公が最後に行った選択は、こちらの世界を維持することだった。エンディングで主人公はこちらの世界での幸福を享受する。

感じたこと

 前半:分かりやすい。主人公の愚かさは若干面白さを損ねているようにも感じるが、全体的にテンポがいいのですらすら読める。
 また、設定も定番という感じはあるが、元々こうしたSFに慣れ親しんでないので、あまり気にならなかった。それに、主人公の心情や恋愛関係の動きが話の中心になっているので、そちらが関心を引っ張っていってくれる。

 後半:複雑になる。別の世界とこちらの世界の違い(人格や経歴など)を把握し、主人公の揺れる心情を把握しなければならない。
  キャラもやや増える。恋愛対象としてのペネロピーは女性としてキャラが立てられているが、他の人物の描写はまとめが多く、関係を深くする前に話が進む印象があるのである程度整理しつつ読む必要があるかもしれない。

 不満点:個人的に、主人公の揺れる心情が後半を読みにくくしているように感じた。
 なぜ幸福になったのに元の世界に戻ろうとするのか。その決意はペニーの存在だけで揺らぐようなものだったのか。
 自分の理解では、家族やペネロピーの誘惑があっても、その度元の世界に戻す使命を思い出させるという話の流れだったので、最後の主人公の選択は「あれ?」という感じだった。それに、主人公が結局この世界を維持したいだけなら、最後突如現れた第三の人格は単なる付け足し感が増してしまうのではないかという気もする。

まとめ

 基本的には読みやすく、話も自分の関心を引っ張っていってくれて楽しく読めた。だが、後半から最後の流れがいまいち理解できず、読後感はそれほど良くなかった。機会でできたら読み返すと、またうまく理解できるかもしれない。

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