_高画質_いんよう_文字入り_

[文字起こし]第11回【AI (ディープラーニング) の話①】

「第38回【認識とAIとキービジュアルについて】」のところで、AIがテーマであった過去回の11回・12回に言及がありましたので、そちらを起こすことにしました。ちょっと講師仕事でしばらくまとまった時間が取れず、遅くなりまして、すみません。

実はこの回を聴いたときにヤンデル先生の「医療でAIに診断させるときのゴールは『病名』じゃない」という言葉に、最初、意図がさっぱり分からず「えっ??」と思ったのを覚えています。そして、「知りたいのは病気じゃなくて究極的には『命がどうなるか』だ。病名なんて人間が治療方法を知るために付けた便宜的なもの。治療法は何か、その命が最終的にどうなるのかという『結果』が分かれば、知らずに終わったっていい」というような説明に衝撃を受けました。確かにその通りですよね。ヤンデル先生のお医者さんとしてのプロ意識の片鱗がみえて、本当に大好きな回です。

(♪)
よう/今日は、AIの話をしようと思うんだけど。
いん/ふむふむ。
よう/AIっていうとさ、ちょっと広すぎるというか……いろんなイメージを持っている人がいると思うからさ。
いん/はいはい。
よう/ん~……、(今日は)機械学習の中の「ディープラーニング」で、特に「画像解析でどういうことができるのか」っていうことについて。まあたぶん、いっちーは、それなりに詳しいと思うんだよね。AIの専門家ってわけじゃないけど、病理医側からみた(見解)っていうことで。
いん/はいはい。


よう/で、俺の理解だと、ん~……今まで画像認識するときって人間が「ここを見ろ」っていうのをプログラムに書いて、そこについて判定していくっていう感じだったでしょ。
いん/はい、はい。
よう/「黒いネコと白いネコがいて、それを画像で見分ける」というプログラムを作った場合……ええと、「白い色か、黒い色かどっちか判定しろ」っていうのが、当然考えられるプログラムだったし……
いん/はい。
よう/もっと複雑になったとしても、例えば「ネコとライオンを見分ける」だったら、「たてがみが有るか無いか」。でもメスだったら両方ないから、どうすんだ?ってなるけど……要するに、「それぞれの対象がもつ特徴」を、あらかじめ人間が抽出しておく。それを機械に学習させることもあるし、あるいは学習させない場合はちゃんと「これくらい目がデカければライオンだよ」「これはネコだよ」とか、「基準の値」みたいなのをプログラムに入れ込まないといけないわけじゃん。
いん/そうですね。
よう/それを学習出来たら、スレッシュホールド(閾値)っていうか「基準の値」みたいなのを、(機械に)自分で決めさせる……というのが出てきてたわけだけど。
でも最近は「どこを/何を見て判断するか」自体も、機械に任せられるわけでしょ?ディープラーニングが出てきたから。
いん/そうです。
よう/それが、「すげぇ」んだよね。
いん/そう、すごいんです。
よう/要するに「自分で何をすればいいか考えられる」という意味で「知能としての機能をもっているんじゃないか」っていうことなんだよね? 部分的であっても。
いん/そうですそうです。そういうイメージですよね。
よう/うん。


いん/で、そこについて中途半端な理解しかできてなかった人たちが、いっぱい湧いてきたのが数年前ですね。「惜しいんだけど、違うよ」っていう人工知能の使い方をした人たちが、あふれちゃったんで……
よう/ほうほう。
いん/本当に2~3年前までは、マジでパラダイスで。先にやり始めた人たちが、次から次へとデータを持っていく感じで、本当に楽しそうだったんですけど。
よう/ははあ~……。


いん/でも今、最先端の人達は「本当の意味」にだいぶ気づいてしまったんで、もう今からついていこうと思っても、無理なんですね(笑)ですから、この話題に乗るなら、2~3年前が楽しかったんですけどね、今だと我々は観客として見ているしかない。
よう/ふむふむ。


いん/具体的には何かというと……いま、先輩が黒ネコと白ネコの話をしたじゃないですか。
よう/うん。
いん/あるいは、「オスか、メスか」とか。ネコを見たときに、これはオスかメスか、白か黒か判定しなさいよ、というプログラムがあったとしますね。
よう/うん。
いん/それと同じように、例えば、ある細胞を見せて「これがAという病気なのか、Bという病気なのか、Cという病気なのかを判定しなさい」っていうAIを、皆が必死で考え始めたんですよ。
よう/うん、そういう発表、聞いたことがある。
いん/ええ。例えば「●●というガン」と「●●ではないけど何かしらの病気」と、「ガンでも病気でもない、正常な細胞」を見分けなさい……みたいなのを、学者が必死でやっちゃったんですね。
よう/うんうん。
いん/でも、それが間違いで。「間違いっていうか方向性の違いだ」って言ってる人もいたんですけど、明らかに「間違い」で。あの、「病気」っていうのも人間が考えた概念なので。
よう/そうだね。
いん/ゴールが、変なんですよ。


よう/人工知能における「学習」っていう概念はさ、え~と……最初、「この画像はAという病気です」「この画像はBです」とかいうのを、人間が大量に診断しておいて、それを全部AIにつっこむんだよね。それで「こういうパターンならAなのね」「これはBなのね」ってのを、コンピュータ……というかAI(人工知能)自身が、診断基準というか「どこを見て決めるか」をだんだん学習していくわけだよね。
いん/そうですそうです。
よう/で、画像が「インプット」で、診断名とか「病気か病気じゃないか」が「アウトプット」なわけだよね。人間が用意したアウトプット。
いん/そうそうそう。
よう/で、その「アウトプット」が間違っていたんじゃないか?というのが、いっちーの意見なわけね。
いん/そうです。かつ、それに僕より先に気付いてた人も、いっぱいいたんですよ。
よう/うんうん。


いん/ただ、その意見が出る前に、「病名をアウトプットにした研究」が有名になって……
よう/うん。
いん/そればっかりやり始めた人たちが居た時代が、2~3年前にあったんです。
よう/うん。
いん/じゃあ、正解はどこにあるか。僕らが本当に知りたいのは、「病名」じゃなくて、「実際にその命がどうなるか」なんですよ。
よう/そうだよね。
いん/「真のアウトプットは、病名じゃないでしょ」っていう話です。


よう/うんうん。(真のアウトプットは)例えば、どれぐらい予後が……例えば「すぐに死んでしまう病気か、そうじゃないか」「治療すべきか」「どの治療が向いているか」とか、そういう、「もっと医療の現場に直結するもの」ってこと?
いん/そうです。もっと言えば、「Aという薬を使うことで、生き延びられる」とかいう結論まで行くんだったらいいんですけど。
よう/うん。
いん/例えば「食中毒で運ばれてきた人」がいたとします。
よう/うん。
いん/食中毒の原因っていろいろあるわけですよ。カンピロバクターとか、サルモネラ菌とか、黄色ブドウ球菌とか。
よう/うん。
いん/そういう「原因となる菌の名前」を当てさせようとしたのが、「ちょっと分かってない人たち」。
よう/うん。
いん/「分かってる人たち」はどうしたか。原因はどの菌でもいいんだけど「1週間後に治るか、2週間治らないか、あるいは1日で治るか」っていうところをゴールにしたんです。そういう人たちが別にいたんですね。
よう/なるほど。


いん/だから「菌の名前」なんか正直、どうでもよくて。
よう/そうだね。
いん/我々医者が菌の名前にこだわるのは、「それで治療法が変わるから」なんですけど……
よう/うんうん。
いん/菌の名前すっ飛ばして、「とにかくこの薬を飲め、そうすれば何日後には治る」って言ってくれたら、菌の名前なんか知らないままでも構わない。だから、(分かってない人たちは)AIをやるときに、我々が便宜上付けた菌の名前に、ちょっととらわれ過ぎてたんですよね。
(07分40秒)

よう/……なんかさ、「アルファ碁」ってあるじゃん。
いん/ん?……ああ、囲碁のAI。
よう/そうそう。世界チャンピオンにぶっちぎりで勝つっていう。
いん/はいはい、そうです(笑)

https://ja.wikipedia.org/wiki/AlphaGo

よう/あれ別に「こういう石が並んでる時は、ここの端が危ないから、ここを押さえましょう」とかいうことじゃないみたいだね、アルファ碁が判断しているのって。
いん/そうみたいですね……。
よう/盤面の、黒と白の石の並びを見て、「このパターンだったらどこに石を置くと一番勝率が高いか」っていうのを判断しているんだよね、画像認識として。
いん/そうですね。
よう/だから、彼らにとってあれ(盤面)は、ただの「柄(がら)」なんだよね。「この柄の時はここに置くのが正解(一番勝率が高い)」とかさ。
いん/そうそうそうそう……。


よう/(従来なら)人間が考えてきた「定石」みたいなのがあるわけじゃん、「ここはこうつけておかないと、右辺を取られちゃうからダメだ」みたいな。
いん/はいはい。
よう/そういうアルゴリズムを最初は一生懸命プログラムして学習させようとしていたけど、もうディープラーニングが出てきたので そういう「中身」は、もう、どうでもいいと。
いん/そうそう。
よう/「そういうのは全部、AIが勝手にやってくれる」と、丸投げしたんだよね。
いん/そう、そう。
よう/で、「本当に最終のアウトプットとどう関連するか」ということをやって。まあ、そのコンセプト自体が良かったというのもあるし、それ以外にも Google の「リソース力(りょく)」も、もちろんあると思うんだけど……
いん/そうですね。
よう/それによって、もう人類が到達できないであろう領域に、いっちゃったわけだよね。
いん/そういうことですよね。
よう/「そういうコンセプトを、医療でもやった方がいいんじゃないか」っていうことだよね。

いん/そういうことです。で、今「やっぱり強力だなあ」と思っているデータが、いくつか出てるんですけど……
よう/うん。

いん/有名なところでは、「肺がんの細胞をAIに読ませると、遺伝子変異の種類が分かる」というやつです。
よう/いやぁ……(感嘆)それ、論文になっていたよね、確か。
いん/そうです。
よう/それちらっと読んだよ。
いん/これは、Nature……?
よう/Nature か、Nat. Med.(ネイチャーメッド=Nature Medicine)か、どっちかじゃなかったっけ。
いん/Nature……ナントカに載ったんですよね~……。何だったか忘れたけど、ネイチャーの姉妹誌に載ったんですよね。
よう/うんうん。


いん/あとは、これはパーソナル・コミュニケーションのレベルなので、まだ論文化されてないのもあるんですけど……
よう/うん。
いん/悪性リンパ腫の染色体転座と、肝細胞癌の遺伝子変異と、脳腫瘍の遺伝子変異と、軟部腫瘍の一部の遺伝子変異は、読めるらしいです。
よう/……今、10秒ぐらい、いっちーがしゃべっていた事ってさ……一般の人が聞いたら、ほぼ呪文だよね。あはははは(笑)


いん/あはははは(笑)……
何が言いたいかと言うと、今まで「細胞を見てもダメだから、タンパクを採って来て、実験をしてやらなきゃいけなかったもの」が、なんか「病理医がちらっと顕微鏡で見てるようなものを、コンピューターが見ると、訳の分からんプログラムまで全部読みに行っちゃえるんだよ」ってことなんですよね。
よう/そうだね。
いん/ただ、気をつけなきゃいけないのは……(AIは)「プログラムそのもの」は読んでいないんですよ。
よう/ああ。
いん/「プログラム変異」と呼ばれる部分だけを、いきなり答えとしてスパーッと返してくると。
よう/要は「中身がブラックボックス」っていうのは、そういうことなんだよね。「途中の過程はよく分からんが、インプットとアウトプットがこう対応しているよ」ということだけ分かるようになるってことだよね、AIは。


いん/そうですそうです。で、今まさに先輩のさっきのツッコミが面白かったんですけど(笑)「僕がさっき言ったあの数秒間は、他の人には何も分かんないよね」って言いましたけど……
よう/うん(笑)
いん/つまり「人間がやればブラックボックスじゃないのか?」というと、そんなことは全くなくて。
よう/ああ。
いん/人間の専門家がやっている事って、結局ほとんどの人にとっては訳が分からないので……


よう/いや確実にそうだよね。だから、ええと……厳密に分けるとさ、医療って、「サイエンス(科学)ではなく、科学技術だ」と思うんだけどさ。「サイエンスを元にした技術」だよね。
いん/そうですね。
よう/だから医療にとっては、やはり、患者さんの予後とか生存率とか、生活の質に直結している方が、絶対にいいよね。
いん/そうなんです。尚且つ、「人間がやらないとAIはブラックボックスだからわけの分からんことを言うぞ」と科学者は言うんですけど、一般の人からしたら、科学者が言っていることもほぼ何を言っているのかわからないので……
よう/うん。
いん/「何言っているかわからない科学者」の代わりに「何言ってるかわかんないAIがやってくれた」っていうのは、一般の人にとっては別に、痛くもかゆくもないと。
よう/そうだね。
いん/「そういうことだよね」ってことに、なっちゃうんですよね……。
よう/うん。まあ、「結果が出ればいい」というか、「それでその患者さんが治ればいい」という話になるわけだよね。

いん/そうです。だから僕は究極のところ、病名なんてどうでもいい、みたいな。
よう/そうだね。まあ病名はどうでもいい。で、「治ればいい」というのは別に、「適当にやればいい」ということではなくて……こう……
いん/うん。
よう/「途中の過程の理屈が分からないとしても、確実に相関がある」と言うか。「この症状やこの細胞の形であれば、この治療が良い」みたいなのが、理屈ではないけれども、「ちゃんと分かればいい」という話だよね。
いん/そうです。実践としては、それでいいと思う。
よう/「だからAIに全部、(仕事を)食われますよね」っていう話をするわけですよ。
いん/うん。
(13分25秒)

よう/そうそう……、で、その話をするとすぐ出てくるのが「AIは仕事を奪わない」「人間にだけできる仕事が必ずあるはずだ」といって、安心しようとする人が出てくるんですけど……。
いん/うん。僕は「人間にしかできない仕事」をやる意味が、ないんじゃないの?と思わなくもないんですよ、医療においては。
よう/……あのさ、その「人間にしかできない医療」ってのは、どういうことなの?例えば。
いん/いやぁ、例えば……「新しい薬を開発する」とか……でも、それは医療ではなくてサイエンスだよね?……と、切り分けることができちゃうんですよね、割と。
よう/うん……まあ、「技術の開発」を「医療」に入れてもいいけど。でもそれは「医学」って言ったほうがいいかもしれないね。
いん/そうそう。
よう/サイエンスの領域の方に入れてしまった方がいいかもしれない。「分かりやすさ」という意味ではね。まあ、言葉の定義の問題だけど。
いん/そうですね。


よう/でもさ、医者が医学をやるというのは、当然の責務というか、担当分野なわけだから……別に「医療」でも「医学」でも、どっちでも、興味とかに従ってやればいいと思うけどさ。必要性に応じて。
いん/そうですね。

いん/でも医者は、よく「患者を相手にする仕事には、ヒューマニズムが必要だ」とか「コミュニケーションが要るし、患者はコンピュータよりも人間と話したいはずだ」とか言うんですよ。
よう/うんうん。
いん/「そこに(人間にしかできない)仕事がある」みたいなことを言うんですよ。
よう/うんうん。
いん/でも僕は「それ、看護師さんで良くね?」って、ずっと思っているので。
よう/そうだね。
いん/そうなんですよ。「医師である必要はないだろう?」「要らんべ」と。
よう/うん。
いん/「コミュニケーションが上手い人を別に採れば良いでしょう?」と。


よう/そうだね。もちろん現状においては、医師がコミュニケーションの一端を担っていて、他の「コ・メディカル」と呼ばれる医療関係の職種の人とともに、患者さんとコミュニケーションを取っているというのは、事実としてはあると思うんだ。もちろん医師によって違うとは思うけどさ。
いん/そうですね。
よう/だけど「それに医師が特化する必要性があるのか?」っていう話でしょ?今、いっちーがしてるのは。
いん/そうそうそう。そうなんですよ。だから「人にしかできない仕事がある」というのは、その通りなんですけど……。
よう/うん。
いん/「今ある職業を残す意味はない」んですよ。
よう/うん。「そういう職業を新たに作ればいい」という話だよね。


いん/そうそう。そこで、僕がずっと考えていたのは「医者ほど給料の高い仕事を、医療に残す意味がないのでは」ってことなんですね。
よう/あ~……。
いん/だって、高度な知性はAIで何とかできちゃうので……。
よう/まあ、今の資本主義の原理から言うと そういうことになるよね。


いん/そうですそうです。あと、基礎研究者って、元々、勤務医よりも、そんなに多い給料もらってないですよね。
よう/もらってないね。
いん/はい。だから、「本当に高度な知性でサイエンスをやっている人よりも、現場で徹夜している人の方が給料が高い」というのが現状なんで……。
よう/ああ……。まあ、直接的にハードワークであるというのもあるけれども、「人命を直接扱っている」という負荷の大きさ?もあるよね。
いん/……ああ、まあ一応……。


よう/「求められる能力の高さ」っていうのは、基礎研究と医者とで直接比べることはできないけど。両方、ある程度必要だとしたら、そこにプラスして「人命に関する責任」が直接乗っかっているから、「臨床の現場にいる人の方が、より金銭的な報酬も多くもらうべきだ」という理屈は、一応成り立つけれども……。
いん/……てか、その理屈って本当だと思います?(苦笑)僕はよく言うんですけど「そうじゃなくて、『一番稼いでるから』じゃない?」と思うんですよね……(笑)
よう/えーと……
いん/その人の言うことで医療経済が回って、病院に収益がある。そういうキーマンだから、高い給料をあげても(病院の)経営が成り立つ。だから高い給料を払っているという面もあったと思うんですよ。


よう/……まあ、経済の原理から言うとさ。一番お金を払うのに近いところにいる人と、一番遠いところにいる人が、もらえるケースが多いような気がするけどね。
いん/あ~、なるほど。
よう/「遠い」というのは経営者とかのことだけど。
いん/そうですね。
よう/現場で一番ストレスにさらされている人にお金を払うっていうのはさ……。まあ、お金を払う側からしたら、顔の見えてる人に感謝したいじゃん。
いん/そうですね。
よう/「この人が助けてくれた、この人がやってくれたんだ」っていう気持ちはあるよね、人情として。


いん/医療における知性の部分……特に、「結果を導く『頭』の部分」を、AIが半分以上やったとしたらですね。
よう/うん。
いん/医者というか、「フロントマンとしての医療者」というのは、レストランで言うところの「配膳人」と同じ役割になるのではないですか?……と思うわけですね。
よう/うん。「それはそれで色々スキルが必要な職業だと思うんだけど」ってことでしょう?
いん/そうです。必要な仕事だし、それはそれで、適正な給料があるんでしょうけど、「それはきっと、医者よりも安いよね~」と思うんですよね。
よう/うん、そうかも。例えば、「医療事故が起こった場合に、医師が責任を負わないんだとしたら?」という話にもなってくるよね。
いん/それはですねぇ。
よう/うん。
いん/柞刈湯葉が書いてましたね(笑)
よう/ああ(笑)
いん/んははははは(笑)
(18分49秒)

よう/例えばね、仮に「AIが最終的な診断をする時代」になったとして、医療従事者はAIに従う、ということになれば、「責任はAIにある」ということになる。
いん/はい。
よう/でも、医者が「訴訟を受けるときの責任者」になり続けるのであれば、そういう意味での報酬とか地位は、現実的には、あり得るけどね。
いん/「あるかな~?」というくらいですよ、ほんとに(苦笑)「病院の経営者でいいんじゃない?」という話もありますし。
よう/ああ、全部(経営者のの責任ってことで)ね。「そんなに人数いらねえだろ」って話ね。
いん/そうですそうです。
よう/まあ、それはそうかもしれない。


いん/例えば今、何か工業製品を作っている企業があって、「その製品が元で誰かが大損をした」とか「リコールが発生した」「その製品のせいで死亡事故が起こった」っていう場合、例えばそれが自動車会社だったら、トップが訴えられるじゃないですか。
よう/そうだね。だから「そういう立場の人がいればいいじゃん」っていう意味だったら、それは経営者っていうことだよね。
いん/はい。「そうなるかな~」って。
だから、「AIが人間の仕事を奪うことがないよ」と言っている人達に対しては、「まあ給料という面を除けばね」というのが、今の僕の考えですね。
よう/そうだね。
いん/「医者はいるかもしれないけど、給料体系は変わるんじゃないの?」と思っていますね。


よう/じゃあ、いっちーは「医師の仕事はそうなっていく」と予想してるの?
いん/僕は……ええと、「アメリカは(そうなるのが)早いかもなあ」と思ってます。
よう/ああ、そうだね。
いん/既に仕事の切り分けが進んでいて……。既に「内視鏡を胃まで入れるのは、ナースプラクティショナー(上級看護師/診療看護師)がやってる」とか……。
よう/ああ、はいはい。
いん/「心臓のカテーテルも、もうナースが心臓まで到達させてる」という話を聞くと、アメリカのドクターは、まだ技術的に未確信が多い部分に特化して、9時~5時で働いて、さっさと帰ってバカンスして……
(♪チャイム音)
(21分01秒)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%BC

いん/だからまあ、アメリカの方が、とっくに分業が進んでいるわけじゃないですか。同じ世の中にいても。
よう/ああ、そうだね。
いん/日本は、それに比べるとだいぶ遅いので……まぁAIが来ても、遅いままグデグデすると思うんですけど。アメリカは早いかな~、と思いますね。
よう/そうだなあ……。
いん/で、アメリカが先に行きますよね。で、AI中心の医療が始まって、「責任を取るためだけの医者(がいる)」みたいなことになって。まあ、医者は他にもまだいろんな仕事が残っていると思うけれども。
よう/うん。
いん/そうするとまず、「一般的な病気に対するガイドライン」が変わると思うんですよね。「AI診療の下でのガイドライン」に。
よう/ああ。
いん/すると、日本の診療がガラパゴス化するので……たぶん、医者に対する風当たりが、強くなるんじゃないかなと。
よう/何やってるんだ、と。
いん/そうです。「日本の診療基準だけでやってるんじゃないか」と。
よう/うん。


いん/で、(世間的に)「医師が給料をいっぱいもらうのは厳しい」っていう風になってくると、今度は経営者が、それを理由に医師の給料を下げ始めると思うんですよね。
よう/そうだね。……そうか、医師の給料は別に保険とは関係ないもんね。
いん/そうそうそう。そうするとですね、まず最初に、当直代とか残業代みたいなものが削られて、そして一部の保険診療外の仕事とか、民間病院の仕事と、大学との給料格差が出て……という感じの未来なんですよね、僕が想像してるのは(苦笑)
よう/それって、いっちーはどれぐらいのスパンで考えてるの? 5年くらい?10年ぐらい?
いん/……20年ぐらいじゃないですか?多分。
よう/「20年ぐらい」ね……。
いん/多分、アメリカは、あと5~6年で変わっていくと思うので……。
よう/そんなに早く、臨床現場にガンガンAIが入ってくる?
いん/もう入りつつあると思うんですよね。

よう/なんかさ、「部分的に肩代わりしてる」ぐらいなら、職業的なポジションには響かないと思うんだよね。
いん/まあ確かに。そうですね、部分的だったら……。
よう/そう、それは「補助的なもの」だからさ。
いん/はいはい。
よう/当然、AIができない部分が「難しい領域」として残って、そこは人間がやるんだっていう話になるけど……。
いん/はい。
よう/例えば、「8割ぐらいAIができる」という風になったら、「本当のエキスパート」を除いて、人間の医師は要らないという話になるよね。
いん/……「本当のエキスパート」って、どうやって育てるんでしょうね……あはははは(苦笑)


よう/(笑)……でも、最初からそういう風な教育体制になるはずだよね。だから、昔の医者がよく言ってた「最近のやつらは聴診器が使えない」とか「いざというときどうするんだ」みたいな話と一緒で。「最近のやつらは自分たちで診断ができない」「AIが動かなくなったらどうすんだ」みたいな話になるね。
いん/そうですそうです。
よう/でも、今の最先端の医療の機器の使い方は、今の医療従事者は分かってるわけじゃん。
いん/そうです。
よう/そういう感じで、「AIを補助的に使った診断とは」みたいな新たな技術が生まれてくるだろうし、AI診断がまだ到達していない病気とか病態に関しては、一部の人がエキスパートとしての教育を受けてやる、みたいなことになる。移行期っていうか……。
いん/……そうですね……。

よう/まあ、職業って、なくなったりするからねえ。あ、でも「医者」って、人類が文明を得てからずっと続いている職業ではあるよね。
いん/いやあ……医者が医者として……
よう/それが……無くなるのか?っていう……。
いん/まあ、無くなりはしないでしょうね。いろんな形で、居続けるんだろうとは思うんですけど。
よう/ただ、「医師の地位」って、時代によって結構変遷してるよね。もらえる報酬とかも。
いん/そうですそうです。そうなんですよ。
よう/だから、それなりに尊重はされるよね。人の命が掛かってるからさ。ただ、あんまり医学が発達してなくて、役に立ってない時代はそうでもない、という。
いん/そうですね。
よう/今は、治せるものがすごく多いから……結構、社会に影響力がある分、割と報酬も高いと思うけど。

いん/いやぁ、「でも」ですね。本当にホントに、「パラダイムシフトで変わってほしい」という淡い期待が、僕にはあります(笑)
よう/あ、変わってほしいんだね(笑)
いん/そうです。「あれ?これもう人要らなくない?」って、どこかで気付いて、Google あたりがスポーンと金を出して、(状況が激変するまで)あっという間でした……っていう話が来ないかなって。


よう/Google って、病理医を雇ってるんじゃなかったっけ。
いん/Google は、なんか「顕微鏡につけるAI診断デバイス」みたいな、時代に逆行することもやっているので……あれは、病理医を雇ってますね。
よう/ふうん……「顕微鏡に診断AIをつける」っていうのは、逆行してるの?
いん/逆行ですね。だって人間の目で見て「ここにガンがある」って見つけやすい、っていうデバイスだから。
よう/あ~、そういうデバイスなんだね、なるほど。
いん/「人の補助」なんですよ。 Googleの能力をもってすれば、「人間なんていらん」というところまで行けるはずなのに、「なぜそこで止まった!?」という……。まぁ、実際には止まってないんでしょうけれどもね。
よう/まあね。色々やってるプロジェクトの一部なんだろうけどね。
いん/はい、おそらくは。「おそらく」ですけど、色々やってるんでしょうね(笑)「何のデータを取ってやがるんだ?」っていう……そういう話ばっかりですからね……。

よう/うん……。いやぁ、ついに俺らの基礎研究領域にも、ちょっとずつ機械学習を使ったような話も出てきていてさ。
いん/あ、マジですか。
よう/うん。「出始めた」というか、まあちょっとみんな興味を持ち始めてる、というところで。例えば、Google の出している、オープンソースの機械学習ソフトの使い方の講習とかもあるよ。
いん/ほぉお~ん……。え、でも基礎研究で何を……?
よう/いやあ、最初はやっぱり画像だと思うよ。俺らもやっぱり、研究で写真を撮るし、それを解析するんだけど……今は基本的に「見た目に差がある」っていうところから話が始まるんだよね。
いん/ああ~……。
よう/「見た目に差がある」、じゃあそれを画像解析ソフトを使って、ちゃんと定量化するっていうかさ。「目に見える差がある」ってのを、統計処理できるかたちに数値化するってことなんだけど。
いん/ああ、なるほど。
よう/でも、AIを使うんだったらまず「見た目に差があるかどうか」っていう判断が要らなくなるよね。「とりあえずAIに突っ込んでみよう」みたいな話になるから。
いん/そうなりますよね。
よう/その方が、「人の目では見つけられないような面白いことが分かるんじゃないか」っていう淡い期待を、みんな抱いてるんだよね。俺も抱いてるけど(笑)
いん/あはははは(笑)


よう/まあでも、研究領域の場合、そんなにうまくはいかないなっていう話には絶対なるんだけどさ。でも、うまくやればいろいろかなり強力な手段にはなるだろうって皆思ってるんじゃないかな。
いん/そうそう。結局そこは……僕は日頃から思ってるんですけど、「基礎研究者」っていう仕事は、未来永劫変わらないですよね。
よう/いや、俺はどうかと思うよ。「そんなこともねぇんじゃないか?」と、ちょっと思ったりするよ。
いん/マジですか!?
よう/うん。あの~、いっちー読んだことあると思うんだけどさ、あの~……。……まあ、来週にするか!あははは(笑)
いん/分かりました(笑)じゃあ、その続きは来週ってことで。


よう/あのね、松尾 豊(まつお ゆたか)さんの『人工知能は人間を超えるか』っていう本を読んで、ちょっと思ったことがある……っていう話なんだけどさ。
いん/じゃあ、それは来週。

よう/今日は、アレだね。今までで一番、真面目な話をしたね。
いん/今まで、そんなに不真面目でしたっけ?(笑)割と毎回、大真面目に話ししてるつもりだけどな……
よう/うん、あのね、熱量としては変わらないよ。
いん/あ、熱量としては変わらないんですね。
よう/俺が「萌え」の話をしている時の熱量とは、変わんないけど。ただ、話題としては一番、硬かったかもしれないなと(笑)
いん/あはははは(笑)では、来週もお付き合いいただくということで。
よう/そうですね。ありがとうございました。
いん/はい、ありがとうございました。
(♪)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?