トリコと雨と
雨は絶望の雨だ。
漫画やアニメ・ドラマ等の作品において、雨は多くマイナスイメージとして扱われる。
戦いに負けたり、失恋をしたり…そんな絶望や悔しさのこもった涙に寄り添うような雨の降ることがよく見られる。
だが、そんな中である意味外れた雨の使い方をしている漫画を見た。
『トリコ』/島袋光年
美食溢れるグルメ時代に生きる美食屋(冒険家)トリコが、まだ見ぬ食材を求めて探求する物語。
王道の少年漫画だが、独特なギャグセンスや迫力あるバトル描写等で多くの人気を集めている。
トリコにも雨のシーンは様々登場するが、その中で筆者が注目したのは虹の実のシーンだ。
至高の果物“虹の実”を得るために凶悪な猛獣“トロルコング”の群れと戦うトリコ。圧倒的な力を誇るトリコだが、その数の多さに苦戦を強いられる。同行者の小松が群れのボスを発見し、トリコの威嚇によって無血の勝利を収める…。
このシーンの「静かな決着」という部分が筆者はとても好きだ。
それまでのシーンでも雨は降っていたが、トリコは必死に走り回り戦っていて、そこにフォーカスが当たっていた。
一般的な少年漫画であれば、最後に見つけたボスに必殺技を食らわせて決着!となるだろう。
しかし、トリコは食う目的以外では生き物を殺さないと誓っている。虹の実を目的として戦っているため、トロルコングとの戦いにもノッキングや威嚇による極力穏和な決着を望んだ。
それゆえの静けさ、雨の音なのだ。
この雨は表現として多く使われる絶望や衝撃を表す静けさではなく、トリコの人間性から出る平和的な静けさを表しているのだ。
雨は往々にして嫌なものである。
気温が上がってきたとはいえまだまだ濡れると震えが走るし、その後の晴れにすら花粉症の憂鬱を見出してしまう。
しかし、夕方浴びた雨はどこか暖かく、春の風を纏っていた。
緩く静かなこの雨なら、もう少し浴びてもいいかもしれない。
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