見出し画像

どうつくられていたか

5iveは、みんなのためのヨーヨーだ。
初心者も、チャンピオンも、同じトリックを一緒に楽しむこと。
そんな光景を目指した、ヨーヨーデザインの新たな試みである。

スリムなボディにほどよい丸み。
快適な投げ心地と、クイックな引き戻り。
ヨーヨーをヨーヨーたらしめる、最低限の要素のみを抽出した。

ただ振り下ろして手に戻るだけの感覚が、どれほどまでに楽しいか思い出してほしい。そんな願いからつくられたヨーヨーなのだが、それは同時に、ヨーヨーデザインにおける新たな挑戦を含んでいた。というのも、ムゲンヨーヨーのプロジェクトに身をおく中で、ごく当たり前のヨーヨーの特徴に気が付いたのだ。

昨年、タカラトミー社よりムゲンヨーヨーが発売された。
光るヨーヨーとスマホアプリを連動させるという先端技術を用いたこのプロダクトは、競技性を帯び、製品が成熟してきていたヨーヨー業界にとっては、異質な存在感を放つものだった。

そのプロモーションに弊社所属のプレイヤーが参加していることもあり、私たちも途中から協力することになった。これまでの15年間、製品の開発から販売まで自分たちだけでやってきたことを考えれば、他社様が制作したヨーヨーにお力添えをするのは異例の機会である。

最初は、ビジュアルやコンセプトの目新しさに翻弄された。しかし、このプロジェクトを内側から眺めていたら、これまでのヨーヨーづくりとの本質的な違いが浮かび上がってきた。

これまでのヨーヨーデザインには、変わることのない「順序」があった。
まずプレイヤーがトリックを発明し、それを追うかたちで、あとからヨーヨーが進化する。すなわち、人々の間で生まれた遊び方に合わせて、道具のデザインがなされてきたのだ。

例えば、バインドの発明によってレスポンスは進化した。
マウントをともなう複雑なトリックが人々の間で発展し、彼らはより長く回転するヨーヨーを求めるようになった。ベアリングに挿されたオイルを洗い流したり、ギャップを広げる工夫を凝らしたり、摩擦を減らすためのセッティングが施されたヨーヨーを手に戻すバインドがプレイヤーによって生みだされた。その流れを追うようにしてレスポンスが見直され、やがてシリコンゴム製のパッドが流通するようになる。

同じように、ヨーヨーリクリエーションもトリックの流行に合わせてさまざまなアイディアを生み出してきた。
ストリングトリックの進化を見てローエッジ形状をひらめき、ダイナミックなホップを見ては、本体幅を広げるための重量配分と、それを可能にする方法を考案した。

私が肌で知る歴史を越えてさらに遡れば、ヨーヨーにベアリングが搭載されるようになったのも、スリーパーの技術が先んじて存在したからであったはずだ。

それに対して、ムゲンヨーヨーは、モノのつくり手が遊び方を規定し、そこから逆算して開発されたプロダクトだ。先に述べたヨーヨーデザインの順序とは逆のアプローチであることを考えると、希少な事例だったのだ。

ムゲンヨーヨーは、年齢の低い子供たちに向けてつくられた玩具だ。玩具の定義について詳しく考察したことはないが、そのほとんどはつくり手が定義したルールの中で遊ばせるものであることを思えば、私たちがやってきたヨーヨーの遊び方との根本的な違いに気付く。ヨーヨーがただの玩具ではないと考える人が多い理由も、ここにあるのかもしれない。

しかし、競技として成熟しすぎたヨーヨーは、道具の進化に限界がきている。最先端のつくり手であり続ける我々は、身をもってそれを感じている。

また、昨年にはヨーヨーリクリエーションの実店舗「にゐる」をオープンした。あらゆるお客さんとのゆったりとした交流は新鮮で、初めてヨーヨーに触れる方と世界チャンピオンが同じ空間に居るようなシチュエーションも数多くあった。

さまざまな思いと体験が重なり合い、ついに、自分たちでも玩具としてのヨーヨーづくりに挑戦してみたいと思うようになった。

スキルも年齢も分け隔てなく、みんなが同じことをして楽しむには、バインドヨーヨーのような遊び方の自由度が高いものではなく、あえて難しい技ができないようにゲームバランスを設けることが必要であることに気が付いた。

そうして行き着いたのは、有効幅がわずか5mmの薄いヨーヨー。目安としては、ローラーコースターがほぼ最高難易度になるくらいだ。チャンピオンクラスの選手であれば、クイジボくらいまではギリギリ可能だが、スラックやラセレーションに関してはほぼ不可能な設計にしてある。

遊び方をデザインすること。
それは、そのヨーヨーを使ってできるトリックを制限することだった。

5iveは、みんなのためのヨーヨーだ。そのため、初めてヨーヨーを触る人にとっても快適に遊べるデザインになっている。
あちこちで聞くような「初心者から上級者までカバーする」という単純なものではなく、「みんなで同じことをする」ためのヨーヨーだ。スリーパーをするだけでも最高のフィーリングが味わえるように工夫を凝らしてある。だから、修行用などとしてではなく、ただ回してキャッチすることを楽しんでほしい。

プレイヤーの集まりに参加したはいいものの、正直なところ何をやっているのか理解できないハイレベルな技を眼前にして気おくれしたこともあっただろう。しかし、みんなでこのヨーヨーを遊べば、昔に習得したはずのトリックが難易度を持ち、新鮮な楽しみを共有できるはずだ。

そして、単純明快な動きのみをみせる5iveは、ヨーヨーをプレイしたことがない人にトリックを披露する際にもうってつけだと私たちは考えている。なぜなら、「これなら自分にもできるかもしれない」という希望を抱くときこそ、ヨーヨーが人々の眼にもっとも魅力的に映る瞬間のひとつであるように思えてならないからだ。このヨーヨーでできる範囲のトリックが、あらゆる人の興味を惹くことができるのではないだろうか。

みんなと同じトリックに挑戦する楽しみを、すべての人に。
すべての人に、5iveを。

2023/9/7 城戸健吾

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?