短歌「救済論的滑り台」(29首)
「髪切って、侵略するの、仕方なく。」仕方ないことだ、春なんだから。
足りないと繰り返すだけの機械でも浄土を待ってるノイズ文学
「席に着け、これから描いてもらうのはどちらからでも消費できる絵」
オフィスでは郵便の人もドランカー「宛先ばっかり書いてあるのよ」
紙束をマッハで数える銀行員、真実はひとつセカイ☆征服
「宇宙には何でもあるよ」「amazonも?」「飛田新地も東京タワーも」
教会の壁の張り紙「気をつけよ、隣人の都市はそっとされたし」
揺れ出した電車の中吊り広告で大勢の死期をつかんでしまう
電車での必要不可欠用品は好きな言語と好きな生き方
毎日にひびしか見えぬと言うのならどうぞここでは疲れてください
車窓には水が満ち溢れています沈んだ難波に同情注ぐ
窓からは光った歓声たちが漏れブラインド下ろす無言の老人
澱みなく環状線の人は死ぬから紙切れをばらまく事務員
ひとこわのあの娘の通う塾もある不妊セミナーインザタワー
触れたいと思う気持ちは煤だらけそれでもビルは照らされたがる
君がため惜しからざりし命さえ毎瞬間鳴る再生ボタン
踏切を列車は脇目も振らないで掻き消すわたしの「おはようまたね」
遠のいて誰が死んでも変わりなく幸福な人の涙は出ないね
瓦礫には萌ゆる生命の証でも君街色なら死んでしまえよ
欠点を書きだしたもうということで必死に綴った虚構的春
震うのをポップソングで潤して日記にしたたむ明日の運勢
薄がりの和室でキー打つあの人は支給されてきた精神科医です
ベーシックインカム用品の代理に人が危害を与えるロボット
真似をする水やら空のほほえみに見えなくされたしずくのまたたき
月に向け退路は機能を捨ててゆきなくした車窓はすべてを語る
窓際の光に死にゆくサボテンに明日の予定を訊ねたかった
なんとなく恋人の首を絞めてまで眠ろうとした生活を繰る
街中に急遽現る滑り台「魂よ戻れ!」人々の叫び
後ろへとまわるプリント突然に止められここがゴールなんです
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