見出し画像

『チコちゃんに叱られる!』のプロデューサー小松純也さんに訊いた「熱狂を生むコンテンツのつくり方」

平成を代表する人気テレビ番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』、『SMAP×SMAP』(以上フジテレビ系)を手掛けた名プロデューサー 小松純也さん。現在は『人生最高レストラン』(TBS系)、『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などの番組を手掛けている小松さんに「人を熱狂させるコンテンツ」について、山下PMC 代表 川原がインタビューしました。

画像1

1967年兵庫県生まれ。京都大学文学部在学中に「劇団そとばこまち」に在籍。卒業後1990年フジテレビ入社し、多くの人気番組を手掛ける。2019年3月に退社。現在、株式会社スチールヘッド代表。NTT×吉本興業の教育コンテンツ事業「Laugh & Peace_Mother powered by NTT Group」など話題のプロジェクトに携わる。

食の体験は無防備で、柔らかい部分が出てくる

川原 つい最近、『人生最高レストラン』を見ましたが、今までなかったグルメ番組の構成に驚きました。ネットにも載っていないような情報を、地上波テレビで扱っている。なぜそのような発想が生まれたのですか?
小松 世の中の食番組は、タレントさんが料理をつくったり、お店で料理を食べたりして、「おいしい」と言うのが定番です。でも自分が視聴者として考えたときに、「ホントにおいしいの?」という疑問が残ると思ったのです。ですから、タレントさんが“何も食べない”食の番組をつくることにしました。
川原 今までとは違う発想です。
小松 私は作家・開高健さんが好きで、食にまつわるエッセイを読むと、食べ物の描写が多い。これは会話の種として盛り上がると確信したこともあります。
川原 視聴者は、食を通じて出演者の人生や物語を味わう。
小松 食の体験は個人のものであり、無防備で、柔らかい部分が出てきます。好きで思い入れがある食べ物はグルメ評価サイトでも点数化されにくい。どの物語で口にすると、その食事が最高なのかという、“その人”の話になるのです。
川原 見るたびに、興味がそそられ、追体験したくなります。お店や食べ物との偶然の出会いも楽しみのひとつです。
小松 いまおっしゃった“偶然の出会い”は、これからの時代も、テレビにとって大きなテーマ。感覚的には書店に似ています。偶然、好みの本に出会う喜びと、テレビから情報を得る感覚はとても近い。川原さんのような見方をしていただけると、とても嬉しいです。

画像2

川原は社員に対しても常々“セレンディピティ(偶然の出合い)”を大切にするように伝えている。たまたま見た番組や入ったお店等、ルーティーンから外れたところに、気づきがあり、それが自分を変え、新しいアイデアの種になると感じている。

“世界で2番目”の視点

川原 『人生最高レストラン』は、『チコちゃんに叱られる!』には共通性がありますね。
小松 それは初めていただいた感想です。
川原 教育・教養番組でありながらディープな情報を紹介しています。本流でありながら、スイートスポットのような部分を紹介するところに共通点があると感じました。
小松 テレビでは本流であることが重要なのです。
川原 あの番組で、“2番目”がキーワードになった回がありました。たまたま家族で見ていたのですが、私はよく子供に「世の中では一番が注目されるけれど、2番目も大切。ちなみに世界で2番目に大きい湖はスペリオール湖」などと話しているので、子どもに「お父さんみたいだね」と言われました!
小松 そうでしたか。あの番組は日常の中でやり過ごしてしまうことへの、気づきの番組です。多くの人に「そう言えばそうだな」と思っていただくことが生命線です。

画像5

世界で“2番目”に大きい湖、スペリオール湖

子どもに叱られるのは、あまり嫌ではない

川原 斬新なキャラクターとスタイルを思い付いたきっかけをお聞かせください。
小松 かつて『トリビアの泉』という教養番組の制作に関わっていました。あの番組では、知らない知識を知った時の「へぇ~」と言う視聴体験を提供しました。番組は視聴したときの体感をどうデザインするか、という考え方が大切です。『チコちゃんに叱られる!』の場合は、「知らなかったな」とハッとする感覚と、それに対してチコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られる感覚を共有します。子どもに叱られるって、あまり嫌ではないんです。
川原 なるほど。知識を得るのではなく、知らずに生きてきてしまったという気付きを得る。その感覚を際立たせるためのデザインも考えられている番組だという。
小松 そのフォーマットをつくることが大切なのです。
川原 それは私たちの建築業界にも通じるところがあります。私たちのビジネスに必要なのは、既存のサプライチェーンにはない視点から世の中を見て、気付きを得ます。その、エッセンスを加えることで、新しいビジネスモデルが生まれてくる。それが、世界を変えて、やがて主流になっていくということです。

自分の感覚でモノを見て、考える

小松 それは番組制作と似ています。テレビは最新の情報をかき集めて、マスの流行を考えて企画をつくるのが王道です。しかし、私は立ち止まり熟考し、本来あってもいいはずなのに、ないものは何かを考えます。
川原 きっかけはなんですか?
小松 あるとき、立ち寄った書店で何気なく『直観を磨くもの: 小林秀雄対話集』(小林秀雄著)を買い、店内に併設されていたカフェで読みました。その本には戦前から教養人として知られた小林秀雄さんと、戦前の思想家・三木清さんとの対談が収録されていました。内容を要約すると「最近の人が世の中の物を直接見なくなかったのはどうかと思う。新聞や人からの情報を鵜呑みにしている」ということです。そこでふと顔を上げると、その店にいた40人ほどの人、ほぼ全員がスマホかPCを見ていたんです。結局、戦前から状況は変わっていない。
川原 自分の感覚や体験が置き去りにされている。
小松 だから、自分の感覚でモノを見て、考えることが大切だと感じました。地に足をつけるスタイルではないと、何もわからない。そこで生まれたのが、『チコちゃんに叱られる!』や、食事シーンの無いグルメ番組の『人生最高レストラン』です。
川原 小松さんは今、ネット配信と、地上波テレビ番組という両軸で仕事をされていますが、そこで大切にされていることはなんでしょうか?
小松 一般的な生活者として、フラットな立ち位置であることと、アマチュアイズムです。私は素人だから、新鮮な気持ちでプロフェッショナルな人々に対峙し、率直にモノを言い、時には常識外れの発想をして伝えます。あとは、成功体験で仕事はしないことです。
川原 小松さんは、セオリーやマーケティングデータではなく、新しい発想を得て、それを透明かつニュートラルな道に着地させ、吸着させていらっしゃる。
小松 素敵な表現をありがとうございます。生活者としての発想を大切にしています。

画像4

熱狂を生み出すためには、普通の生活者としての視座をもち、気づきを王道に取り入れ、新しいモノを生み出すことが大切。小松さんの趣味は釣り。自社名を「スチールヘッド(ニジマス)」とするほど没入し、経験と知識があるからこそ、釣り番組は手がけないと断言。

今を感じるネットの世界にも進出

川原 今、どのようなことを企画されているのですか?
小松 NTTと吉本興業と組み、教育コンテンツ事業『Laugh & Peace Mother powered by NTT Group』の仕事をしています。教育のコンテンツを配信し、そこにアクセスすることで、ダイナミックに時代とつながり、今を感じる状況を感じられるネット上のプラットフォームです。
川原 それは面白そうです。
小松 ネットコンテンツの仕事をしていて、拡散のエネルギーの強さを知りました。一方で、地上波テレビの仕事もしながら、究極のマスをとり、人を魅了することも経験してきました。ネットの拡散力と、地上波テレビの方法論、それに最新のテクノロジーがタッグを組んだ学びと遊びが共存しているプラットフォームをつくります。
川原 まさに、守りと攻め、ニッチとマスの両面からやっておられる。今、マスのマーケットでは、マーケティングがしつくされ、手垢のついたメソッドが溢れ、次につながるものが少なくなっています。
小松 そうです。そこから外れないとヒットも熱狂も生み出せない。誰から見ても新鮮なものは一番強い。私は建築について詳しく知りませんが、おそらく場をテーマにさまざまな要素を絡めて、内包するものだと想像しています。
川原 おっしゃる通りです。私たちは大規模施設の空間を有効活用するための要素を集め、提供することをビジネスにしています。
小松 空間も感覚をデザインする要素です。しかし、一度進行してしまったら揺り戻しはできないので、斬新な発想と、精緻さの両立が必要になるのではないかとイメージできます。

人は今の世界の動きとつながっている感覚を得たい

川原 小松さんは平成に多くの人々を熱狂させる番組をつくられてきました。これからの時代には、何が求められていると考えられますか?
小松 過去を振り返ると、昭和が熱狂したテレビのコンテンツは、ご成婚パレード、東京オリンピック、ジャイアンツ戦など、一部の人しか見られなかったものを、同時体験することで熱狂が生まれていました。そして、平成の過渡期を経て、令和になりました。チャンネル数は万単位に増え、個人が見たいものを見たい時間に見る時代になると考えられていますが、私はやはり、昭和の熱狂に近いものに戻っていくのではないかと考えています。人は、今の世界の動きとつながっている感覚を得たい。テレビは日常的で気軽な情報デバイスとして、生き残っていくはずです。
川原 確かに、時代は変わっても、人はつながっているという感覚を大切にしています。これからコンテンツがさらに細分化されていったとしても、万人が熱狂するムーブメントは必ず生まれてくる。その時間も含めた目に見えないものと、人々の生活をつなげる施設を造るのが、私たちの使命です。今日はたくさんの気付きがありました。ありがとうございました。

画像5

小松さんのオフィスにて。小松さん(写真右)、川原(写真左)

「熱狂を生むコンテンツのつくり方」まとめ

■データ、流行だけを鵜呑みにしない
マーケティング偏重時代だからこそ、自分の体験・感覚を大切にする。

■「人とつながっていたい」感覚を意識する
人が同じ時間・空間を共有することで、熱狂が生まれる。地上波テレビが生み出す偶然の出会いは、これからも続く。

■フラットな視点で見る
自分は素人であるという感覚を忘れないことが大切。これにより、生活者の目線で発想でき、それがマスの共感に結び付く。

今話題のさまざまな分野の達人との対談記事はこちらからご覧いただけます。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

7

山下PMC 広報

山下PMCは、日本初のPM(プロジェクトマネジメント)/CM(コンストラクションマネジメント)専業会社。現在、総事業費3兆円以上の施設建築プロジェクトを担当。100名の一級建築士をはじめとする、建築のプロフェッショナル集団です。 https://www.ypmc.co.jp/

私たちのハイコンセプト・ハイタッチ

お客さまの「施設参謀」として建築プロジェクトのマネジメントを行う山下PMC。本マガジンでは、プロジェクトマネジャー一人ひとりの仕事への想いや、プライベートで夢中になっていること等をフラットに紹介します。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。