全員優勝の花束を(サンボ@横アリのセトリと感想と)
自分は「本当に頑張っているところ」とか、「弱いところ」とか、「可哀想なところ」とかをあまり人に見せたくないと思っている節がある。要するに「ダサいところを見られたくない」というダサさを抱えて生きている。矛盾。
そんな人間が、流れる涙も気にせず、音程もあっているかわからないまま大声で1万1580人と一緒に「愛と平和」を叫んだ夜の話。自分用のセトリメモ。
「0」の記憶
スタートの60秒前からスクリーンでのカウントがはじまり、アリーナからも手拍子とカウントダウンの声が聞こえる。
カウントが0になってから一瞬の静寂。
スクリーンの文字に「0」の意味を問いかけられ、映像が流れる。2021年1月の横浜アリーナ公演が感染症の影響で有観客で開催できなかったこと。でも今回のライブは11581人の入場者がいること。大きな拍手と感動の中、モンキーマジックとともに3人の登場。
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2021年1月。持ち上がらざるを得なかった、何もしてあげられなかった最高学年。
何でもない日常、それはそれでとても楽しかったけど、卒業のその日まで無力感を抱えながら家族より一緒に長い時間を過ごした学年。
2021年の春はそんなやるせなを消化しようとしていた時期だ。あの時、たくさんの「0」を経験した。サンボもゼロを経験してたんだなぁ。
セットリスト①
1.ミラクルをキミとおこしたいんです
ロックの申し子、サンボマスターの1曲目。始まるよ 準備はいいかい?のスクリーンで1曲目からみんな叫びまくって、踊りまくってる。
「絶対盛り上がらない協会のみなさんですか?」なんて煽りに負けじと、年齢も性別も超えて弾けてる。
2.はじまっていく たかまっていく
あぁ。この人たちは信じてるんだ。
ミュージックを。ロックを。言葉を。
俺たちが曲を聴きに来たと思ってたけど、きっと、この人たちが呪いを解きにきたんだ。
3.世界をかえさせておくれよ
くだらない毎日を変えて君とキスがしたい!のに、サビでは世界をかえさせておくれって何度も頼んでるんだ。1人で世界を変えてやるんじゃないんだ。
世界をかえるためには俺も一緒に、全員一緒に優勝しなきゃダメなんじゃないか?
「今日は踊りまくって、全員で優勝するんだよ!」
4.夜汽車でやってきたアイツ
分かち合うという歌詞がよく登場するサンボマスター。
分かり合うのは、「分かり合えない部分」も見えて苦しい。分かり合えるのは部分だけだ。
でも、分かち合うことはできる。お互いの違いや 弱さも含めて、分かち合うことならできるんだ。
5.美しき人間の日々
僕らが望むのは、後ろ向きな日々を微かに変えるそんな力。
あなたは素敵なんだ、美しいんだと全力で肯定してくれる。過去のことなんて分からないし、知らないけどそれでも素敵な未来が待ってるんだ。
6.ヒューマニティ!
スクリーンの時刻は8:00!おはようございます!ラヴィット!!
「今日来てる人たちはラヴィットをご存知ない?見たことない人たちですか?」これだけ騒いでるのに優勝するには足りないと煽る山口さん。ファンも分かってて全力で乗っかる。
7.青春狂騒曲
最も聴きたかった曲の1つ。俺たちの青春。
子どもを連れた家族、女子高生、おじいちゃん、みんなサンボが好きで踊り狂い、大合唱してる。1万人いてもライブハウスのような、最高の空間。
ここでようやくmc。
会場入口で配られた花を出すタイミングを近藤さんが合図するという説明があり、笑いながら一息ついたところで木内さん。
初めてのライブは0からスタートしたこと、20年経ってまた0を経験し、リスタートだと思ったこと。
そして、再び山口さんのシャウト。
「あらがいたいと思ってる。俺はロックンロールであらがうんだ。差別に、貧困に、暴力に!」
セットリスト②
8.可能性
改めて思う。あぁ、この人たちは信じてるんだ。
この曲で、あらがえるって。ロックにはその可能性が、希望が、光があるってことに。
9.光のロック
「輝いて見えるんだよ!なんでかわかるか?それはお前が光だからだよ!」
山口さんの言葉がぶっ刺さりすぎて何の涙かわからないまま叫ぶ。もう自分のことなんて見えてない。
「少年少女!青春爆走!!」
10.ビューティフル
殴られてる、そう思った。呪いを解くために、演奏で殴られてる。SNS上にある否定の言葉ばかりを浴びて、気づけば自分のことを否定しなくちゃいけなくなってる呪いを解くために、熱く真っ直ぐな言葉をぶつけてくれているんだ。自分のことを、俺たちのことを、信じているから。
11.戦争と僕
否が応でも、現実にある戦争を思わずにいられない。
先ほどまでの「涙と熱狂の空間」をともにしていたメンバーだとは思えないほど、研ぎ澄まされた空気。
「11」の記憶
戦争と僕で、聴くモードに入っている観客に語りかける。
「20年、楽しかったのは木内と近ちゃんといた時間の全て。朝まで麻雀打ってた時間がずっと続けばいいと思って組んだのがこのバンドだから。
楽しくないというか、そういう瞬間は何もできないなと思った時。12年前に震災が起きて俺の故郷がめちゃくちゃになってしまった時も、戦争が起きた時も、何にもできないんだなって無力感を感じた」
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無力だと突きつけられた日。
誰かを救いたい、助けたい、力になりたいと本当に思うなら、自分が力をつけるしかない。無力だと、思いがあっても何もできないんだと突きつけられたあの日から自分のキャリアははじまっていたはずで。
今のお前は、本気で世界を変えられると思っているか?
無力を悔やんだあの時の自分に、胸を張れるだけ本気で仕事をしているか?
少しずつ感性が鈍感になって、実現可能性とか、周りからの評価とか、そんなんで満足したフリをしているんじゃないのか。
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ここからの後半戦、自分の弱さやダサさと向き合いながらサンボの演奏と付き合うことになる。
セットリスト③
12.ラブソング
曲が終わったタイミングで、客席から「歌ってくれて、ありがとう!」と声が響いた。
本当にそうだ。ありがとう。そんな気持ちを込めて拍手をした。みんなで、拍手をした。
13.ボクだけのもの
のんさんの心はのんさんだけのものだ。もちろん、自分の心はボクだけのものだ。わかんねーけど、でも翼はまだ消えてないんだったら、今日はちゃんと受け取って帰ろう。
14.そのぬくもりに用がある
自分が最初にサンボを聴きはじめたときは2005年、小学生だった。その頃に聴いていた「そのぬくもりに用がある」と、今では感じかたが違う。
2011年の 9月から明確に変わったなと思う。
15.君を守って 君を愛して
戦争と僕から(勝手に)ぶっ刺さっていた重たさが、この曲で一気に晴れていく気がした。
「ウィーアー!」の声からスタートして、会場全体が太陽が見えるように雲を声で払ってしまうような、明るい「Love you!」
16.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
愛と平和を叫んで、全員優勝する。
本当に最初から最後まで叫び続けた。もう煽りは関係なくなっていた。世界はそれを、愛と呼ぶんだぜ!!
17.孤独とランデブー
叫びに叫んだ後、孤独とランデブーではみんなで手を振った。山口さんもこんちゃんも踊ってたように思う。木内さんも踊るみたいに叩いて、なんだか気持ちよく楽しい空間だった。
君はいた方がいい
横浜アリーナを即完させるほど売れても、上がらないホテルのグレードの話でひとしきりみんなで笑った。
そして、「お前がクズだったことなんか、生まれてから1回もない」「生まれてきてくれてありがとう」「君はいた方がいいよ!」という、ストレートすぎる言葉でまた泣きながら、同じ言葉が歌詞になっている次の曲へと入る。
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不登校の数が信じられないくらい増えている。自殺したいと考えている子どもの数も増えているという。
この真っ直ぐな言葉を、自分はどれだけ自信をもってかけられているだろう。
自分がその言葉を発したとして、どのくらい心に届くのだろう。
クラスが苦しい時、職場が苦しい時、「あの人さえいなければ…」と誰かのせいにしたくなる時はないか。
もう1度、自分に問う。あの時、何もできなかった自分が救いたかった魂と向き合えているのか。
セットリスト④
18.Future is Yours
君はいた方がいいよ
君はいた方がいいよ
君はいた方がいいよ
Future is Yours!!!
19.輝きだして 走ってく
一人ひとりが輝いていて、だからこそ全員優勝できるってこと。
一人ぼっちなんかじゃなくて、誰かが優勝するわけでもなくて、全員で優勝するんだってこと。
引用した「負けないで 負けないで 負けないで」の3人の声に、ずっと励まされると思う。
20.笑っておくれ
「Future is Yours」と「輝きだして 走ってく」で多くの人が泣いてたように思う。
「笑ってか?みんな!」「泣いてるやついねーよな?」「一人ぼっちなんかじゃねーぞ!」「笑え!!」の煽りに、涙は止まらないけど笑顔になるしかない。
一貫したメッセージが詰まった歌だ。
21.できっこないを やらなくちゃ
「まだ信じてねぇやつがいんだ。」「ここがウッドストックじゃないから、フジロックじゃないからできねーってか?」「ロックインジャパンじゃないからできないって思ってんのか?」
何度目か、この日1番の盛り上がりとこの日1番の涙。
大音量のバンドに負けない声量の客席。
あぁ、「ダメな、いなくなった方がいい自分」という呪いを解かれた11581人が、全員優勝したんだなと思った。
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このnote冒頭のカロリーメイトのCMにつながる。
ずっと抱えて生きていく記憶の一つ。2020の一斉休校と緊急事態宣言以降、自分も子どもたちも諦めることに鈍感になろうとしていた。
俺たちは「できっこない」を、やらなくちゃ。
22.花束
こんちゃんが例のポーズをして、みんなで花束を掲げた。
横浜アリーナいっぱい、みんなが花束になったという演出。
ラッピングの部分をもってこんちゃんがゆっくりと会場を回り、みんなが持っている花で花束をつくる。
その時に映る観客の嬉しそうな、誇らしそうな、満足気な、恥ずかしそうな、それぞれの顔。
あなたが、花束。
セットリスト⑤(アンコール)
22.5,主役はあなた?
木内さんがしんみりと「本当にライブの主役は君たちなんだって思った」とMCを終わらせようとしたが、なんだか即興でコードなどのやり取りをしながら、主役はキミという歌を歌っていた。
プロだなと思った。
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8〜12月は空間づくりを学ぶためにライブをはじめ色んな場に行っている。
これは、主役の魅力を際立たせる演出上の仕組みと観客の巻き込みかたを生かせるはずだという前提ではじめた取り組みだった。
花束でうっすら感じてたが、ここで一気にその前提をひっくり返された。
演者が観客を主役にできるパターンもあるんだ。
サンボマスター、すごい。
ここで、こんちゃん2つ目のポーズから、ツアーファイナル3連発の告知。東京、大阪に加えて福島でも。申し込むしかない。
23.月に咲く花のようになるの
もう一度、みんなで花を掲げる。
曲が終わった後に、最後の言葉が続く。
「売れるとかそういうのも素晴らしいし、本当にリスペクトしているけど、俺たちは折れ線グラフで音楽やってるわけじゃねえんだ」
「みんなは今日こうやって来てくれた。次は俺たちの番だ。みんなの町に行って、定食屋とかラーメン屋とか行って、ライブハウスでライブやる。それがロックンロールだと思ってる。」
「ありがたいことに色んなところでサンボマスターの曲を使ってもらったけど、なんだな埋まらない気持ちがあって。それが今日埋まった。」
「花束で、みんなをみて思った。見に来てくれたんじゃなくて一緒にライブを作った。」
それぞれの言葉が真っ直ぐ届いてくる。
そして、最後の曲へ。
24.ロックンロール イズ ノット デッド
一回でいい。一回でいいから、今苦しんでいる子たちにサンボのライブを体感してほしい。
100個の施策よりも1回のライブで救われる人が絶対にいる。
もう一度だけ歌詞を引用しておく。
誰にも言えない孤独だとか
君の不安を終わらせに来た
君が生きるなら僕も生きるよ
ロックンロール イズ くたばるものか
ロックンロール イズ ノットデッド!
ライブ全体を通して、この歌詞につながっている一貫したメッセージ。
死ぬなよ、会いに行くからな、一人ぼっちだと感じたら会いにこいよ、君は光だ、花束だ、奇跡だ、だから笑っていろよ。
次に会うときまで、くたばるものか!!
ロックンロール イズ ノット デッド!
終わりに
全員優勝のライブだった。
同時に、自分の弱さや見ないようにしていた部分にも光があたったライブだった。
震災も、病気も、戦争も思い出す時間があるライブだった。
これからも、抱えて、向き合って生きていく。
なんてったって、全員優勝したんだから。
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