この手をすり抜けていったもの

人の価値は誰がいつ決めるのだろう。

僕は未だ自分の価値を見いだせていない。僕に、周りの人より何か優れているものがあっただろうか。何度考えても、何時間考えても何一つ思いつかないのだ。

本当に何もないのだ。思いついては否定される(ここでいう否定とは、自分よりも優れている人がすぐに思いつくという意味だ。反証と言う方が正しいかもしれない)。
「僕にしかできないこと」なんてものは存在しないのだ。なーんの絶対的特別性も有していない。相対的特別性も同様である。
周りの人たちから言われたことも、「僕よりできる人が僕の身の回りにたくさんいるのに何言ってるんだ」とか「そう見えるだけで実は全然できてないんだよ」とかいう風に否定してしまう。

いつからだろうか、否定しかできなくなってしまったのは。
昔の僕には人に誇れる何かがあったはずだ。知識だろうか。知的好奇心の赴くまま、図鑑を読むやら博物館に行くやらで自らの知識を広げていっていたはずだ。
だのに、今は人様に誇れる知識なぞ何も有していないのだ。
知識はないのに、昔手にした知識を忘れてしまったことだけは鮮明にわかるのだ。
誇りも自信も、気づいたら失っていた。まるで初めから有していなかったようだ。
積み重ねてきたものは、この手をすり抜けて消えていった。拾おうとしても掴めず、ただ地面に転がっているのを眺めるのみだ。
そうか。

手をすり抜けたのではなく、穴が空いていたのか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?