21世紀の感染症の課題

放送大学で学んだことを忘れないように記録しておこう。

新興感染症

新興感染症とは、1970年以降に新しく認知され、「局地的にあるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症」です。第1は、まったく新しい病原体である。その例は、SARSエイズである。第2は、従来には存在しなった地域への伝播という登場である。その典型例はウエストナイル熱である。第3は、既に存在していた病原体が新しくヒトに対する病原性を増強する場合である。その好例は、新型インフルエンザである。

パンデミックの主な要因

交通機関の発達によって世界中に迅速に拡大する傾向が生まれる。好例はSARSで患者から医療従事者へ、または患者から健常者へとみるみる間に広がった。初期には患者と同じ香港のホテルに宿泊した際に感染してしまった者たちが飛行機でさらに旅行を続けたことによって感染は世界中へと広がり、トロントで死者を出した。

産業革命以降急速に世界の人口は増加し、人口過密地域がいくつも存在するようになったことが、感染を広げる温床ともなっている。例えば通勤ラッシュ時の満員電車・バスは感染拡大の場であり得る。

新型インフルエンザは、水鳥等の野鳥やブタ、またはヒトで増殖を繰り返す間に小さな変異(連続変異:antigenic drift)と大きな変異(不連続変異:antigenic shift)を起こし、ヒトへの感染症や病原性が変化する。特に不連続変異は血清亜型が変化するので、パンデミックになりやすい。H7N9型のインフルエンザがヒトからヒトに感染するタイプならば、パンデミックになるおそれが高い。

またさらに、増大した人口をまかなうために畜産業も変化した。例えば、ウシを短期間に肥育する目的で、本来は草だけを食するウシにさまざまな飼料を与え、新興感染症の登場を助けた例は2つある。1つは、ウシや羊の肉骨粉を飼料に混ぜて育成したために狂牛病が広がった。この病牛の危険部位を食べたヒトに、クロイツフェルト・ヤコブ病が生じてしまった。2つ目は、肥育目的で牧草に加えてトウモロコシ等の穀物を飼料にしてウシを育て、病原性大腸菌O157の出現を助けた例である。穀物飼育の腸内環境は、通常の低病原性大腸菌よりも病原性大腸菌O157に適し、ウシ腸内は病原性大腸菌O157が多い腸内細菌叢になってしまった。そのような穀物飼育牛の屠殺解体の過程で、O157が肉に混入してしまうことで、食中毒が起こるのである。今ではO157は極めてありふれた感染症になってしまった。


再興感染症

再興感染症とは、かつて存在した感染症で公衆衛生上ほとんど問題とならないようになっていたが、近年再び増加してきたもの、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症を、WTOは「再興感染症」と定義している。

その典型例は麻疹(はしか)である。わが国では1980年以降大きな問題になっていなかったが、2001年以降に約30万人の大流行があった。この時の流行は幼児に多かったので、一歳児を対象にワクチン接種と展開し、2006年までに鎮静化した。しかし2007~2008年に20歳前後の若者を中心に麻疹が流行し、成年麻疹患者は2001年流行時を超えた。その他に風疹も再興感染症として登場している。

感染症法

従来の「伝染病予防法」「性病予防法」「エイズ予防法」の3つを統合し、新たに「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が1998年に制定、1999年4月1日に施行された。

国際保健における課題

感染症が疾患として成立するのは、①微生物が存在すること。②その微生物に感受性のある人が存在すること、かつ、③その人が微生物に十分曝露する環境があること、の3件が必須である。たいていの場合、貧困度が高い地域(開発途上国)でこれらの3要件が満たされやすい。実際に予防可能な感染症、または治療可能な感染症による世界の死者の半数を占め、95%が開発途上国で起こっているとされる。もう一つの例は、世界に4000万人いるHIV陽性者のうち、9割以上は開発途上国に存在するとされ、特にアフリカのサハラ砂漠以南に集中する。貧困による医療体制と上下水道等の公衆衛生基盤も未整備であることが原因である。

このように、人間社会におけるすべての活動や貧困等が地域の疾病発生を規定するという捉え方を「健康の社会的決定要因」という。

貧困の程度と社会的地位、受けた教育、職業、物理的環境、社会環境、遺伝的背景、医療リソースの充実度、文化等によって、ヒトの集団における疾病の発生や健康の維持・増進は大きく影響される。それゆえ感染症を制圧しようとする場合には感染成立3要件の1つを除去すれば解決するという単純なアプローチだけではなく、社会そのものの仕組みを変えるという深く広範囲のアプローチが求められる。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?