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WEEKLY人工無脳【第20号】(2018.12.24~12.30)

12月全体で個人的に面白かったネタの詰め合わせ号です。WEEKLY?、難しい英語はよくわかりません。
(第13号以前の記事はこちら

①Google AIの社会問題解決プロジェクト開始。"課題設定能力"と"機械学習リテラリー"が更に問われる難しい領域だよこれは

社会問題解決にAIを使って取り組む活動・組織をGoogleがサポートするプロジェクト「AI for Social Good」が本国で開始。日本でもお披露目イベントが行われ、アイデアソンやハッカソンが行われた。

Google は、Google.org からの助成金として総額 2500 万ドル、Google の AI 専門チームによるコーチング、Google Cloud のクレジットおよびコンサルテーションを提供し、選出された団体が提案を実現できるよう支援します。

国の支援より手厚いのでは…?
ここで言われている「社会問題」とはどういったものかというと、事例として「野生生物の保護・雇用・洪水予測・山火事防止・新生児の健康」などが挙げられている。日本の事例としてはおなじみの、「きゅうり分類」「クリーニングAI」が紹介されている。

ちなみに個人的に一番好きなプロジェクトはこれ。TensorFlow.jsと音声分析で熱帯雨林の違法伐採を検知するプロジェクト。(スマホで見るのがオススメ)

日本向けイベントでは、Google Japan会場にて12/8にアイデアソン・12/15にハッカソンが開催されました。

自分もアイデアソンの日に話を聞きに行ってました。
200名くらい入った会場での挙手による簡易アンケートでは、参加者層は「学生が半分・エンジニア2割くらい・NGO系ちらほら・その他3割」という感じでした。

アイデアソンはゼロベースから行うわけではなく、すでに活動を行われている組織・個人・会社から簡易プレゼンが行われ、興味があるネタに集まって島を作ってアイデアソンを開始する形式でした。

プレゼンされたテーマとしては、
- 鳥獣被害対策
- 難病である筋無力症に関するアプリ制作
- 若者の鉄道自殺防止
- 防災・発災緊急時・復興時の情報マッチング
- 農業の収量の最大化
- 道路陥没、電柱倒壊被害の予防対策
- 良質な睡眠に関するアプリ制作
- 不登校児に関するアプリ制作
- 独居老人xハンデのある若者 のマッチング
- 脳研究に関するマルチモーダルデータを使った研究
などなど

このアイデアソンの趣旨の一つが、「実行者とエンジニアのマッチング」ということだったので、ネタの持ち込み主(プレゼン主)の中には機械学習技術に全く明るくなさそうな人・データはこれから集めるぜ というようなプロジェクトも散見されました。

個人的な感想としては、1,2個のプロジェクト以外はAI(機械学習・深層学習周りの技術)を使わずに、データ蓄積と集計、アプリっぽいものの制作だけで達成できそうかなーという印象でした(データはこれから集める、というものは除く)

「社会問題」自体がそもそも問題の切り分け激ムズな領域であるのに加え、明確な問題、かつ限定的なタスクで威力を発揮する機械学習技術を使うのは『混ぜるな危険』という単語が頭をチラつきます。

「社会問題解決」をお題にする上では、その課題を解決可能な形に設計して人々を先導するプロジェクト発起人こそが最低限の機械学習リテラシーをもっている、もしくは協力する機械学習詳しいマンのコミュ力が鬼レベルで非技術者と超高度なコラボが実現可能でないと「社会問題をAIで解決」は通常のビジネスよりも数段難しそう。本当に使えるAI人材を捕まえるのがはぐれメタルを見つけるよりも難しい現代においてボランティアベースやモチベーションドリブンに時間的に拘束できるかということも…。

ハッカソンには参加できなかったのでイベントがその後どのように進行したのか気になるところ。

②パンドラの箱開けようとしてない?Pairsと例の東大研究室がマッチングアルゴリズムを共同開発

「もっと顔の好みベースでレコメンドされないものか...」というのはマッチングアプリを使ったことがある人すべてが一度は思ったことがあるはず(僕はそんなこと思ったことはないですよ...?)

Pairsが東大の研究室と組んでマッチングのアルゴリズム改善を行っているという話。ちゃんと精度も上がっていてすごい。

> 匿名化したPairs会員200万人分のデータを活用。160万人分のデータを学習したAIに、残り40万人分のマッチング結果を予測させた。
> その結果「いいね!返し予測精度」は、プロフィールのみの分析だと21%だったものが、プロフィールと一緒に活動履歴も分析すると36%まで上昇した。また「いいね!返し網羅率」も同様に62%から75%にアップした

Pairsがマッチングに使ってる特徴量として、「同じコミュニティーに入っているか」や「同じ時間帯にアプリを開いているか(同じような生活リズムか)」が使われているらしいのですが、『「散歩好き」の男性と「カフェ巡り好き」の女性』みたいな類似するコミュニティーの相関も使ってるのですね、それはそうかー。

ところで気になるのがこの東大の先生。どこかで見たことあるお顔と思ったら、人工無脳第10号でも取り上げた『「顔の美しさ」を数値化』する先生だった。

記事中にはどこにも「Pairsで顔の特徴もレコメンドに使う予定だよ」とかは書かれてないものの、機械学習マンにとってはトライしてみたいお題だと思うのですよね…!導入されたら最後、ディストピアな世界が訪れそうな気もするけど、「赤信号は全員で渡れば怖くない」という言葉もあってだな...

③すでにワイの100倍歌が美味いのにまだ進化する音声合成技術のストイックさ

かなり自然な音声合成で歌を伝う、というと最近ではりんなの↓の発表が記憶に新しいです。

そして今回発表されたテクノスピーチ社と名古屋工業大学の共同研究により開発された音声合成技術の歌声はこちら(事前知識無しで聞いてほしい)

こちらの記事によると、この音声合成技術とりんなの技術との差分は、両方共深層学習ベースではあるものの、『完全に「歌詞付き楽譜」のみから歌声を合成している点』が大きな相違点となるそうです。

音声合成独特のびみょーなノイズと、声の伸びがまだ少しだけプツプツしているところが人間の歌声との差として気になるものの、十分すごい。

この技術の開発者は、CeVIOやSinsyという当時のボロカ対抗馬として名を挙げていた音声合成システムを作られた名古屋工業大学の徳田研究室らしい。ずっとこの研究をされていた人たちなのね。

ところで、りんな開発メンバーの沢田さんという方が、今回のシステムを開発した徳田先生の元研究室生だったらしい。なにそのSAOの茅場と重村教授みたいなの。

④AIが布団を吹っ飛ばす時代

この趣味ブログで弊社発の記事を取り上げるとは思わなかったが、めちゃくちゃバズっていたので書く。会社の後輩たち作です。

トップ絵が出落ちすぎる。

自然言語処理で「ダジャレ」のテキストとそのレーティングデータを学習させた深層学習モデルにダジャレっぽい文章をインプットして評価する。一定値以上のスコアを出すと別途作成した物理マシンでお手製の布団をふっとばす「ダジャレ判定AI」。何を言ってるかわからない?おれもわからないんだぜ。その名も「オフトゥンフライングシステム」。わかったな??

弊社アドベントカレンダーの一つとして執筆するためメンバーが夜な夜な会社のラウンジでミーティングしていたのを横目に見ていたけど、なんだかしょうもないことを言ってフツフツと笑っていたメンバーたちが不気味だった思い出(笑)

個人的には、さらに開発を進めてツイッターサービスも作って欲しい!
ダジャレを送ったら得点つけて返してくれるのはもちろん、AWAの「#写真で音楽を教えて」サービスやバーベキュー藁人形のように、ネット発言にリアルレスポンスが返るようにして、ダジャレを送るとネットの向こうで座布団が飛んだりしてほしい。

コメント欄まで笑わしてくる秀逸な記事。

⑤顔認識技術が21世紀の核爆弾になる前に

顔認識技術はかなり進歩し、たった一枚の顔写真から、別の画角の本人を識別できるようになってきている。特に中国での使われ方は企業・政府問わず苛烈。

> 中国の顔認識ツールは政府のIDデータを使って作られており、当局は顔認識ツールを犯罪者を発見したり反政府活動家を追跡したりするのに活用している

そんな顔認証技術に対し、Googleやマイクロソフトが、国際的な技術利用の方針を法的に明確化するまで顔認識技術利用はやめまっせという声明を出した(※マイクロソフトはやめるとまでは明言していない…?)。
以下はマイクロソフトの声明の(日本語訳の)一文。

> 社会的責任と市場での成功のいずれかを選択しなければならないテクノロジ企業が、徹底的な市場競争において世界のために最善を尽くすことは考えにくいでしょう。このような状況を避ける唯一の方法は、健全な市場を保つための、責任の基準を作ることです。

顔認識技術が成果を上げている事例・倫理的に考慮すべきこと・プライバシーからの観点・法律からの観点などを比較的詳細に述べて、最後にマイクロソフト的顔認識技術使用に関する6つの行動規範を示しています。
が、特に新しい話をしているわけではなく、ずっと言われている当たり前の話を改めて明言化したという感じ。

顔認識技術はビジネス的にはかなりお金になるが、それを企業にやめさせようという話ではなく、きちんと利用方針・法律を決めてから各自バリバリ使おうぜという話。

しかし、世界中のありとあらゆる場所で今後当たり前に使われるこの技術は、実際には各個人に明確に「このエリアで顔認識やってるけど良い?」と承認をもらうわけにも行かず、なんとなくエリアの入り口に張り紙とかが貼ってあり、「このエリアに入ると顔認識サービスの利用許諾したものとみなす。だから訴えるなよ」という「言い訳程度の承認」が関の山だと思われる。本当にそんなのでいいのか...

顔認識技術は実質的にはかつての核爆弾と同じように、「(倫理的にはきっと問題になるだろうけど)技術的に可能だから作った、そして一旦作ったら元には戻れない」という話になろうとしている。たかが「顔の認識」という話ではきっとない。おそらく顔認識技術のなし崩し的な社会導入によって「プライバシー」のアイデアは変化していくのだろうと思う。利便性向上の代償に我々は何を失うのか。

⑥新技術はエンターテイメントから

みんな大好きメディアート集団ライゾマティクスの紹介記事。有料記事のため最後まで読めなかったが、紹介されていたダンスパフォーマンス作品「discrete figures(ディスクリート フィギュアズ)」が興味深かったので。

> 本作は、身体表現と数学を接近させ、数学によって分析的に生み出される身体像や所作の運動表現と生身の身体との関係性をドローンやAI、機械学習を通じて、新たに構築することによって、未知のダンス表現を作り出そうとする、真に挑戦的な新しい試みとなる。

明確に「数学」「機械学習」をコンセプトに入れているパフォーマンスらしい。公式動画はこちら。

ぱっと見で、AR・プロジェクションマッピング・ドローン、そして機械学習、ここでは特に姿勢推定技術を使っていると思われるが、「デジタルアートで使われていそうな技術全部盛り」という感じが確かにする。ライゾマさんの欲しがりめ!

元記事で印象的だった一文。

> 筆者がライゾマを追いかけたのは、同社の成果物を見ていると最新テクノロジーの可能性が分かってくるからだ。斬新な技術は(軍需を除けば)エンターテインメントの世界に最初に入り込んでくる。

これはそのとおりだなーと思う。

確率や統計・分布の中で動く機械学習・深層学習はそのゆらぎや不確実性(再現性の難しさ)のために、世間で言われいる以上に意外とビジネスと相性が悪い。一方で、アート的な世界ではそういった不確実性が一種の「理解できない不思議さ」や「生物的な挙動」として面白さに貢献したりする。上記でも紹介した「ダジャレAI」のような活用がまさに『新技術はエンターテイメントから』を体現している。この話は微妙に、上記の顔認識技術の利用の難しさとも対立しているような気がしないこともない。

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