落ちた無表情エージェント聖美

 夜の街。街路灯の数が少なく、夜になると真っ暗に近くなる区画。

 少し離れた場所に繁華街があり、そこは明るい。


 真っ暗に近い区画から、その明るい場所を見ている影がいくつかあった。


 その影たちはヒトの形をしているが、ヒトではない。それは異形(いぎょう)の存在である。


 ファンタジー作品に出てくる魔物のような姿の異形。


 異形たちは遠くに見える繁華街の光に向かって歩き出す。明るい場所には人間が大勢いる。

 人間は異形たちにとって食料であった。食料である人間を狩る……それが妖魔と呼ばれる異形の目的。


 黄色く濁った目で繁華街の光を見つめながら進む妖魔たち。そんな妖魔たちを邪魔するように、人影が1つ立つ。


 妖魔たちの前に立った人影を、少ない街路灯の光が照らす。それはレディース・スーツを着た、18歳くらいの少女であった。

 身長は160センチほどで、癖の無い黒髪をロングにしている。レディース・スーツの胸を押し上げている膨らみのサイズは、軽く見積もってもFカップはあった。


 整った顔立ちをしており美少女と呼んでよかったが、その美貌には表情らしきものが浮かんでいない。


 妖魔たちの前に立ちふさがった無表情の黒髪ロング少女は、右手をジャケットの内側に差し入れ、そして抜く。

 ジャケットの内側から抜かれた少女の右手には、オートマチックの拳銃が握られていた。銃口を妖魔の1体に向けたかと思うと、そのままトリガーを引く。


 バキューン! と銃声が響く。妖魔の1体は銃声と共に放たれた銃弾で頭を撃ち抜かれ、倒れる。

 倒れ、そのまま動かなくなる妖魔。ドス黒い血の池が広がっていく。


 少女は拳銃の銃口を別の妖魔に向け、またトリガーを引いた。さらに妖魔が1体、銃弾で頭を撃ち抜かれて倒れ、そのまま動かなくなった。


 妖魔……知能が低い下級の妖魔たちには、少女が何者なのか分からない。だが、自分たちの敵であることは理解した。

 下級妖魔たちは牙をむき出し、奇声を発してレディース・スーツの少女に向かって飛びかかる。


 異形の妖魔たちが多数飛びかかってきても少女……高山聖美(たかやま・きよみ)は少しも焦った様子を見せない。冷静なままであった。


 飛びかかってきた妖魔の1体が、鉤爪が生える腕を振る。人間の体など、簡単に切り裂けそうな鉤爪。

 聖美はその攻撃を、わずかな動きでかわす。


「遅い」


 かわしながら拳銃の銃口を向け、トリガーを引く。鉤爪で聖美を切り裂こうとした下級妖魔は、頭を撃ち抜かれて地面に落ちた。


 下級妖魔たちは次々と聖美に攻撃を放つが、その攻撃が当たる様子は見せない。聖美は余裕ですべての攻撃を避けていた。

 妖魔の攻撃を避けながら、拳銃のトリガーを引き、確実に妖魔たちを撃ち殺していく。


「弱い」


 聖美がトリガーを引くたびに、妖魔は1体また1体と頭を撃ち抜かれていった。


 最後の1体に狙いを定め、聖美は拳銃を撃つ。その下級妖魔も頭を撃ち抜かれ、倒れ、そのまま動かなくなる。


 聖美は空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを装填(そうてん)した。そして、周囲の気配を探る。


 もう、妖魔の気配を感じることはなかった。

 それを確認すると、拳銃をジャケットの内側のショルダーホルスターに収める。


 聖美は妖魔たちの死骸に背を向け、その場から歩き去っていった。


 下級妖魔の死骸に変化が生じる。死骸は見る見るうちに灰の山と化す。その場に残るのは妖魔の死骸ではなく、いくつもの灰の山であった。


 本来は人間が住む世界とは別の世界に住む妖魔という存在。世界の法則の違いにより、この世界で死ぬと妖魔は灰と化す。


 強い風が吹く。妖魔の死骸だった灰の山は崩れ、風によって舞い散った。そこに妖魔という存在がいた証しは無い。


 妖魔を目撃した者がいて、それを誰かに話したとしても、信じる者はいないことであろう。


◇◇◇


 妖魔と呼ばれる存在がいる。知能や姿はさまざまである。獣くらいの知能しか持たない妖魔もいれば、人間と同じ知能を持つものもいる。

 獣のような姿のものもいれば、人型の妖魔も存在する。


 知能が高く人型の妖魔は人間の姿に擬態することもできた。

 人間に擬態し、人間社会に溶け込む妖魔。人間が知らないだけで、多くの妖魔が社会に溶け込んでいる。


 そんな妖魔と戦う組織があった。


 その名は対魔局。妖魔を見つけ、妖魔を狩る組織。

 聖美は対魔局に所属する局員であった。


◇◇◇


 街の外れにある廃ビル。誰もいないと思われている廃ビルであるが、そこをアジトとしている者たちがいた。

 そんな廃ビルの一室。まるで何かの実験室か、学校の理科室を思わせる部屋。そこに1人の男がいる。


 身長180センチほどの、30代と思われる男。

 男はさまざまな薬品を混ぜ、何かを作っていた。さまざまな薬品を混ぜて完成したものは、緑色の錠剤であった。それを見て、

 男はニヤリと笑う。


「やっと完成だ」


 男……ギーバという名の男は、部屋の外に向かって声をかける。


 部屋の中に、ギーバの部下が姿を見せた。


「やっと完成した。こいつを街にバラまけ」


 言いながらギーバは、ビニール袋に入れた緑色の錠剤を部下に投げ渡す。


「こいつを使えば、上質なマイナスのエネルギーを得られるはずだ」


◇◇◇


 そろそろ陽が沈もうとしている時間。街の再開発地区。

 この地区にある家屋の大半は、無人である。解体を始めている建物も多い。

 しかし、予算の関係などで再開発は停止中である。


 そんな半ば廃墟の地区となっている場所に、下級の妖魔たちがいた。


 人がほとんどいないこの地区から、人が大勢いる地区へと向かおうとしていた下級の妖魔たち。

 それを邪魔する者がいた。


「悪いけど、ここから先には行かせないわよ」


 レディース・スーツを着た、20歳くらいの女。

 身長は165センチほどで、やや癖のある茶色の髪をショートにしている。レディース・スーツの胸を押し上げている膨らみのサイズは、Gカップはあった。美女と呼んで差し支えない顔立ちをしている。


 その美女は右手にオートマチックの拳銃を握っていた。


 下級妖魔たちが美女……野田奈央(のだ・なお)に飛びかかる。奈央は拳銃のトリガーを連続して引いた。

 1体の妖魔が、対妖魔用の銃弾を3発食らい、倒れる。奈央は別の妖魔に銃口を向け、また連続してトリガーを引く。


 顔面に3発の銃弾を食らい、その妖魔は倒れた。妖魔はまだ多くいる。

 次の妖魔に銃口を向けようとしたときだった……奈央の背後から1体の妖魔が飛びかかってきた。


「っ!?」


 しまった……そう思ったときには遅かった。


「きゃあっ!」


 奈央は妖魔の体当たりを受けてしまう。転倒しないように踏ん張った奈央だが、今度は前から妖魔の体当たりを受けてしまった。


 踏ん張りがきかず、奈央はあお向けに転倒してしまう。転倒した拍子に、右手から拳銃が落ちてしまう。

 奈央は慌てて拳銃を拾うとするが、それよりも早く、妖魔が蹴飛ばす。奈央の手から遠くに離れてしまう拳銃。


 数体の妖魔が奈央の手足を掴み、彼女の体を地面に押し付けた。奈央は動けなくなってしまう。

 振り払おうとする奈央だが、妖魔たちの力は強い。振り払うことができない。


 奈央がもがいている間に、1体の妖魔が彼女の腰にまたがる。腰にまたがってきた妖魔は、ブラウスを掴んだ。

 左右に強く引っ張られるブラウス。ボタンが千切れて弾け飛び、ブラウスの前が大きく左右に広げられる。


「ああっ!」


 という奈央の悲鳴と共に、Gカップの乳房を覆う白いブラジャーが露わになった。

 彼女の腰にまたがっている妖魔の顔に、下卑(げび)た笑みが浮かぶ。妖魔たちの視線が胸に向き、奈央の顔が羞恥で赤くなる。


 妖魔は奈央の胸に手を伸ばす。ブラジャーをはぎ取ろうと思っているのだろう。奈央は体を暴れさせて抵抗するが、手足を押さえ付けられている状態では、無駄なあがきでしかなかった。


 妖魔が白いブラジャーを掴もうとしたときだった……バキューン! と銃声が響く。奈央の胸に手を伸ばしていた妖魔は、頭から血をまき散らしながら吹き飛んだ。

 バキューン! と銃声はさらに響く。奈央を押さえ付けている妖魔たちが、次々と吹き飛んでいった。


 他の妖魔たちが、銃声が響いた方に顔に向ける。そこに立っているのは、拳銃を構えている聖美であった。


 奈央は急いで立ち上がり、蹴飛ばされた拳銃の元に走る。その間に、聖美はトリガーを引き、妖魔たちを撃ち倒していく。1発で1体の妖魔を仕留める聖美。


 残った下級妖魔たちは、聖美に向かって走った。


 聖美に接近した妖魔は、彼女の蹴りを食らって吹き飛び、拳銃で頭部を撃たれてあっさりと絶命する。

 拳銃を拾った奈央は、聖美の戦いを見て、見事だと思った。

 退魔局の局員になって、まだ1年の聖美。だが、その戦闘力はかなり高い。


(私の立場、ないわね……)


 奈央はそんなことを思いながら、妖魔たちに銃口を向けてトリガーを引いた。


◇◇◇


 この場に姿を現した妖魔は全滅した。半分以上の妖魔は、聖美が撃ち倒した。

 奈央が倒した妖魔は、数える程度である。


 聖美と奈央は空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを装填した。奈央は周囲の気配を探る。


「もう、いないようね」


 妖魔の気配は、もう感じられない。


「助かったわ、高山さん」


 奈央は聖美に礼を述べる。彼女が来なかったら、奈央はどうなっていたか分からない。

 礼を言われた聖美は、拳銃をショルダーホルターにしまいながら、


「礼は不要です」


 と抑揚(よくよう)が感じられない声で言葉を返す。


「仲間を助けるのは当然のことですから」


 そう言って聖美は奈央に背中を向け、もう用は済んだとばかりに歩き去っていく。

 素っ気ない聖美に、奈央は小さく息をつく。


 対魔局に入って1年の聖美。まだ1年だが、かなりの数の妖魔を倒している実力者だ。

 だが、彼女は愛想というものが無い。そして感情を見せることもない。

 対魔局では、聖美は強さと引き換えに感情が消えたと言われているほどである。


「まったく……もう少し愛想っていうものがあれば、男にモテると思うんだけどね」


 奈央はそんなことを言う。


 美人である聖美。男は放っておかないことだろう。だが常に無表情の彼女は、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。そのため、声をかける男はいなかった。

 そんな聖美に、奈央はもったいないという気持ちを抱いた。


◇◇◇


 街である事件が連続して起きるようになった。

 若者が凶暴化して暴れ、人を傷つけ、店舗を破壊するという事件。暴れた若者は、その後に死亡している。


 その事件は、普通の事件ではない。


 凶暴化して暴れ、死亡した若者たちは、肌の色が緑色に変色しているのであった。

 この事件は警察の担当ではなく、対魔局の担当なのではないのか……対魔局はそう考え、死亡した肌の色が緑色になっている若者たちを調べた。


 死体からは、未知の成分が発見された。

 この世界のものではない成分……妖魔が絡んでいると、対魔局は判断した。


 緑色の肌の若者たちが凶暴化して暴れ、その後に死亡するという事件……この事件は、対魔局が担当することになったのであった。


◇◇◇


 肌が緑色になって凶暴化する若者たちの事件……その事件を調査するメンバーの中には、聖美と奈央もいた。


「よろしくね、高山さん」


「はい」


 奈央は、聖美と組むことになった。


 事件を調査すると、死亡した若者たちはグリーンドロップという危険ドラッグをやっていることが判明した。


 通称のとおり、緑色の錠剤である危険ドラッグ。

 誰が売っているのか、それはまだ分からない。


「グリーンドロップね……そのまんまじゃない。もうちょっとマシな名称はなかったのかしらね?」


 車を走らせながら、奈央は助手席の聖美に言う。

 聖美は何も答えない。相変わらず、顔に表情が浮かんでいない。無表情のままである。


(本当、感情ってものがないのかしらね、彼女は)


 一緒に事件を調査しているが、聖美の方から奈央に何かを言うことは、ほとんど無い。

 奈央の方から話しかけても、滅多に答えることはない。無駄なことは一切しゃべらない聖美。


 奈央は、聖美には感情が無いようだと思った。


(しゃべりすぎる相手と一緒に仕事をするのも疲れるけど……しゃべらない相手と一緒に仕事するのも、疲れるものね)


 そんなことを思い、奈央は小さく肩をすくめた。

 奈央がそんな態度を見せても、聖美が気にした様子はなかった。


◇◇◇


 時間は昼、数人の若者が繁華街の中で暴れていた。暴れている若者たちの肌の色は、緑色であった。

 グリーンドロップをやっている若者たちである。


 暴れている若者たちの目には、理性の光は無い。まるで、獣のようであった。


 時間が時間だけに、繁華街には大勢の人がいた。その人々は緑色の肌の若者たちを前にして、我先にと逃げていた。

 繁華街はパニックになっている。


 恐怖の表情を浮かべて逃げまどう人々の姿を、1軒のビルの屋上から見ている人物がいた。


 ストリートファッションの男。


 その男の右手には、小さな水晶玉があった。透明な水晶玉……だが、少しずつ光が宿っていく。水晶玉の中で、ユラユラと揺れている光。

 揺れている光は、繁華街がパニックになればなるほど、大きくなっていく。


 ストリートファッションの男は、水晶玉の中に宿った光を見て、


「こんなものかな」


 と呟きを漏らす。


 男の背後の空間が、グニャリと歪む。男はその空間の中に入る。すると男の姿消え、空間の歪みも消えた。


◇◇◇


 肌が緑色になった若者たちが暴れている繁華街、その近くに1台の車が停まる。

 車から降りるのは、奈央と聖美だ。


 2人は暴れている若者たちの元へと走る。グリーンドロップを服用し、肌が緑色になったら、その後に待っているのは死だ。助ける手段は、今のところ見つかっていない。


 対魔局は緑色の肌の若者たちを妖魔と同じあつかいにすることに決めていた。


「高山さん、市民を守るわよ!」


 言いながら奈央は拳銃を抜く。


「はい」


 と短く答え、聖美もショルダーホルスターから拳銃を抜いていた。


 奈央は人を襲おうとしている緑色の肌の若者に向かって拳銃を撃つ。弾丸が、若者の体に3発食い込む。

 奈央はその若者が倒れると思った。だが、そうはならなかった。弾丸を食らった若者の体は少し揺らいだが、それだけである。


「えっ?」


 意外な光景に、奈央は驚く。彼女が驚いている間に、弾丸を食らった若者は奇声を発して奈央に襲いかかってきた。


「ウソでしょうっ!?」


 ドラッグ……グリーンドロップで異常な状態になっているが、相手は人間である。

 拳銃の弾丸を食らったら死ぬ……奈央はそう思っていた。だが、実際は違った。


 襲いかかってくる若者は、まるで弾丸など食らっていないと言わんばかりである。

 奈央は襲いかかってくる若者に向け、さらに拳銃を撃つ。だが、若者の動きは止まらない。

 若者が右腕を突き出してくる。奈央はそれをギリギリで避けた。


「なんなのよ!? こいつらゾンビ!?」


 暴徒と化している緑色の肌の若者を拳銃で倒せないのは、聖美も同じであった。


 聖美が拳銃を撃って直撃させても、緑色の肌の若者たちは倒れない。

 彼女は相変わらず無表情のままだが、それでも弾丸を食らっても倒れない相手に焦ったのか、後ろから暴徒と化した若者の体当たりを受けてしまった。


 倒れる聖美。その拍子に、手から拳銃が離れてしまう。倒れた聖美を、緑の肌の若者たちが地面に押さえ付ける。


「高山さんっ!」


 聖美を助けに行こうとする奈央だが、緑肌の若者たちに邪魔されてしまう。


 奈央が邪魔されている間に、地面に押さえ付けられている聖美は緑の肌の若者の1人によって、タイトスカートに包まれている尻を高く上げさせられていた。

 その若者は、顔にニヤリとした笑みを浮かべて右手を振り上げる。


 一気に振り下ろされる右手。タイトスカートの上から、異常な若者の平手が聖美の尻を叩いた。

 強く叩かれた音が、辺りに響く。だが、聖美の口から叩かれた痛みによる悲鳴が響くことはなかった。

 表情も少しも揺るがない。相変わらずの無表情のままである。


 異常な若者は、何度も平手でタイトスカートの上から聖美の尻を叩いた。何度叩かれても同じ、聖美は痛みの表情を浮かべず、悲鳴も上げることはない。


 奈央は邪魔をする異常な若者たちを蹴飛ばし、聖美を助けるために走った。


 そのときだった。聖美を押さえ付けている若者たち、聖美の尻を叩いている若者が突然、胸をかきむしって苦しみだした。

 他の緑肌の若者たちも突然苦しみだし、地面に倒れていく。


「なにっ!?」


 突然のことに、奈央は驚く。何が起きたのか分からない。

 地面に倒れた若者たちは、しばらくの間ジタバタと暴れていたが、やがて動かなくなった。


 若者たちが苦しみだしたことで解放された聖美は立ち上がる。動かなくなった緑の肌の若者たちを見て、


「死んでいる……」


 抑揚(よくよう)の無い声で、そう言った。

 奈央は倒れた若者の1人の首に手を当て、脈を調べる。確かに死んでいた。


「グリーンドロップをやっている人間の最後は死だけど……こんな急に訪れるの?」


 肌が緑色になった若者たちが最後は死ぬことは分かっていたことだ。だが突然、その死が訪れるとは思っていなかった奈央であった。


「高山さん、大丈夫?」


 奈央は聖美の元に駆け寄る。聖美は乱れたレディース・スーツを直しながら、


「大丈夫です」


 と答える。まるで、押さえ付けられて尻など叩かれていない……とでも言いたげな態度。


 何の感情も見せない聖美に、奈央は本当に強さと引き換えにすべての感情を失ってしまったのではないのかと思った。


◇◇◇


 街の外れにある廃ビル。ギーバという男がいる部屋に、ストリートファッションの男が姿を見せた。


「ギーバ様、これを」


 ストリートファッションの男はギーバに、ユラユラと揺れている光が宿っている水晶玉を差し出した。


 ギーバはそれを受け取ると、グラスの上にかかげる。水晶玉から音を立てて液体がこぼれ、グラスにそそがれる。

 赤い液体……人間の血を思わせる色の液体だ。


 グラスを満たした赤い液体を、ギーバは飲む。そして「うむ」と満足そうな表情を顔に浮かべた。


「極上の味だ。極上のマイナスエネルギーだ」


 満足そうな表情が、ニヤリとした笑みに変化する。


「グリーンドロップを使って街にパニックを起こさせる……この作戦は成功のようだな」


 ギーバもストリートファッションの男も、人間の姿をしているが人間ではない。

 その正体は妖魔である。


 人間を食料とする妖魔は人間を襲い、その肉を食らう。だが、肉以外のものも好む。

 それは人間が生むマイナスのエネルギーだ。


 恐怖も、マイナスのエネルギーである。ストリートファッションの男が水晶玉に溜めたのは、恐怖というマイナスのエネルギー。

 グリーンドロップで暴徒と化した若者たちから逃げる人間が生み出した恐怖の感情。


 ストリートファッションの男はそれを集め、自分たちのボスであるギーバに差し出したのだ。


「グリーンドロップは順調に街に広まっているようだな。もっと広めろ」


 ギーバの命を受け、ストリートファッションの男は「はっ!」と頭を下げた。


◇◇◇


 対魔局がグリーンドロップの調査を開始して数日が経過していた。グリーンドロップの売人は、まだ見つかっていない。どんな人物なのかも分かっていない状況である。


 奈央は今日も聖美と一緒に、グリーンドロップの調査をしていた。

 朝から調査をしているが、これといった収穫はない。


「ちょっとお茶でも飲んで休憩しましょうか、高山さん」


 調査の途中、喫茶店の前を通ったとき、奈央は聖美にそう告げた。

 一息入れたいと思った奈央だが、


「私は疲れていません」


 聖美の答えはそれであった。


「調査を続けましょう。被害が拡大する前に、グリーンドロップの売人や製造元を見つける必要があります」


 相変わらず抑揚が感じられない声でそう言うと、聖美はさっさと歩いていく。


「真面目ね」


 そんな聖美に奈央は肩を小さくすくめる。

 少しくらいお茶を飲んでも問題は無いだろうが、聖美としては調査が優先であるらしい。


「ま、対魔局の局員としては悪くないか」


 真面目すぎる感じもする聖美だが、対魔局の局員としての姿勢は悪くはない……奈央はそう思った。

 確かに被害が拡大する前に、グリーンドロップの売人や製造元を見つける必要はあった。


 奈央は先を歩く聖美の背中を追った。


◇◇◇


 時間は昼過ぎとなる。街で調査を続けている奈央と聖美だが、まだ何の手掛かりも得ていない。


「2人一緒に調査するのは効率が悪いかもしれないわね」


 奈央はそう考える。聖美と一緒に調査をするより、別々に行動して調査した方が何かを得られるかもしれない、と。


「高山さん、少しの間、別々に調査しましょう」


「私は構いませんが」


「なら、決まりね。私は……」


 奈央はどこを調査するか、聖美にどこを調査をしてもらううか……それを決める。


「何か分かったら、すぐに連絡してちょうだい」


「はい」


 奈央と聖美はその場で別れ、別々に調査を開始する。


 すぐに情報が得られるとは思っていなかった奈央だが、意外なことにグリーンドロップの売人らしい男の情報はすぐに入ってきた。


 グリーンドロップを売ったらしい男を目撃した者がいたのだ。売人らしき男は、この街の外れに向かった……という情報も入った。

 その男が本当にグリーンドロップの売人なのかどうかは分からない。だが可能性があるのなら、調べる必要がある。


 売人らしき男は、街の外れにある廃ビルに向かったことまで分かった。

 そこにまだ男がいるかどうか、それも分からない。


(急いで調べるべきね)


 聖美に連絡しようかと思った奈央だが、彼女に連絡して合流を待っている間に、廃ビルにいるかもしれない男が姿を消してしまうかもしれない。

 聖美に連絡を入れるのは後にすることにして、奈央は街の外れにある廃ビルへと急いだ。


◇◇◇


「ここね」


 街の外れ、そこにある廃ビル。奈央はその前にいた。


 奈央は廃ビルの中に入る。1階には誰もいないようであった。上の階を調べるか、それとも先に地下を調べるか、奈央は考える。


 まずは地下から調べることにした。足音を忍ばせ、地下に通じる階段を下りた。


 売人は妖魔かもしれない。そして、この廃ビルには妖魔がいるかもしれない。

 奈央はいつでも拳銃を抜くことができるように構える。


 階段を下りきった奈央は、


「んっ……?」


 と小さく声を漏らす。地下には妖魔の気配が漂っていた。

 それは、下級の妖魔の気配ではない。それなりの力を持つ妖魔の気配であった。

 そして、地下にある部屋の一室、そのドアの隙間から光が漏れているのが見えた。


 奈央はジャケットの内側から拳銃を抜き、ドアの隙間から光が漏れている部屋へと足音を立てないように注意しながら歩く。


 その部屋に近づくと、妖魔の気配が強まる。


(やっぱり事件には妖魔が絡んでいるようね……)


 ドアはかすかに開いている。そこから部屋の中を覗いてみた。


 実験室か学校の理科の教室を思わせる部屋である。その中で数人の男が何か作業をしているのが見えた。何かを作っているらしい。

 何を作っているのか……奈央は目をこらす。


(あれは……)


 男たち……妖魔の気配を放っている男たちは、緑色の錠剤を作っていた。

 グリーンドロップである。


(間違いないわ……あれはグリーンドロップ。ここで作っていたのね)


 それを確認した奈央は、廃ビルから出て対魔局に連絡を入れようと思った。


 作業室と思われる部屋から離れようとしたときであった……奈央は足元に、何かが落ちていることに気づかなかった。


 何かの破片……それを蹴ってしまう。破片は壁に当たり、音を立てる。


(しまったっ!)


「誰だ!?」


 作業室にいる妖魔である男たちの顔が、一斉にドアの方に向く。

 奈央は急いで地下から出るために走ろうとする。


「侵入者がいるぞ!」


 作業室の妖魔の1人が叫ぶと、地下室にいくつかあるドアが次々と開いた。

 そこから出てくるのは、妖魔の気配を放っている男たち。

 部屋から出てきた男たちは、奈央の行く手を阻(はば)むように立ちふさがる。


 相手は人間の姿をしているが、妖魔だ。奈央は銃口を向け、遠慮せずトリガーを連続して引いた。

 男の1人が弾丸を3発食らい、倒れる。


 奈央は拳銃を撃ちながら走った。男たちの間をどうにかくぐり抜け、走り、階段へと向かおうとするが……弾丸を食らった男は、


「いてえじゃねえか!」


 叫びながら立ち上がる。

 対妖魔用の弾丸だが、それなりの強さを持つ妖魔は簡単には殺すことができない。


 奈央は拳銃を撃ち続ける。妖魔である男たちの数は多い。階段まで走るのは難しかった。

 作業室からも妖魔である男たちが出てくる。

 奈央は前後を妖魔に挟まれる形となってしまう。


「対魔局か」


 前にいる妖魔の1人が言う。身長が2メートルはある、体格のいい大男。


「グリーンドロップのことを調べに来たのか?」


 その言葉には応えず、奈央は大男に拳銃を向けて撃つ。

 3発の弾丸が大男の体にメリ込む。大男の巨体がわずかに揺らぐ。だが、それだけだ。


 大男は倒れることはなかった。奈央はさらにトリガーを引く。やがて拳銃のスライドは後退したまま止まる。

 弾切れであった。


 急いでマガジンを交換しようとする奈央だが、


「きゃあっ!」


 後ろから妖魔のタックルを受けてしまう。踏ん張れず、そのまま倒れてしまう奈央。

 倒れた拍子に拳銃が手から離れてしまう。

 タックルをしてきた妖魔は、そのまま奈央を床に押さえ付ける。


「ガンツさん、殺しますか?」


 奈央を押さえ付けている妖魔は、大男に顔を向けて聞く。

 ガンツと呼ばれた大男は、押さえ付けられて動けないでいる奈央の前に立つ。そして彼女を見下ろすと、顔にニヤリとした笑みを浮かべる。


「殺すのは後でもできる」


 ガンツの言葉を聞くと、他の妖魔である男たちもニヤリとした笑みを顔に浮かべた。


「まずは楽しむことにしようじゃないか」


 ニヤニヤ顔で奈央を見下ろしながら、ガンツという大男はそう言った。


◇◇◇


 廃ビルの、地下の一室。

 天井から、見るからに頑丈そうな鎖が下がっている。鎖の先には手枷が付いていた。


 奈央は両腕をあげた状態で、手首を手枷で拘束されている。足裏は、床から離れている。

 鎖で吊されている奈央。


 そんな奈央を、妖魔である男たちが包囲していた。


 妖魔である男たちの顔には、ニヤニヤとした笑みが張り付いている。


 鎖で吊されて動けない奈央の前に、ガンツが立つ。ガンツの顔にも、周囲の男たちと同じようにニヤニヤとした笑みが張り付いていた。


「楽しむのも大事だが、それ以上に大事なことがある」


 ガンツはニヤニヤした笑みを消さずに言う。


「対魔局は、グリーンドロップのことをどこかで知っている? それを聞かせてもらおうか」


 ガンツのその言葉に、奈央は「ふんっ」と鼻を鳴らす。そして彼を鋭く睨んだ。


「そんなこと、話すと思っているの?」


「思っていないさ」


 肩をすくめるガンツ。対魔局の人間が、妖魔相手にそう簡単に秘密を話すとは彼も思っていないことだ。


 ガンツは両手を奈央へと伸ばす。ガンツの手が、レディース・スーツのジャケットを掴んだ。


「そう簡単に話すとは思っちゃいない」


 ビリビリと音を立てて破られていくジャケット。奈央の足元に、ジャケットだった多数の布切れが落ちる。そして、内ポケットに入れていたスマートフォンも落ちた。


 上半身はブラウスだけとなる奈央。


「話さないのなら、それでいい。俺たちは、お前で楽しむだけだ」


 言いながらガンツは、今度はブラウスを掴んだ。ジャケットと同じように、ビリビリと音を立てて破られていくブラウス。

 奈央の足元にはジャケットだった布切れだけではなく、ブラウスだった布切れも落ちていった。


 彼女の上半身は、白いブラジャーだけにされる。

 Gカップの乳房を覆う白いブラジャーは、部分部分が透けていた。


 上半身をブラジャーだけにされ、胸にガンツや他の男たちの視線を浴びても、奈央は羞恥の表情を浮かべず、顔を赤くすることもなかった。

 ガンツを鋭く睨み続けるだけだ。


「いつまで、そんな顔をしていられるかな?」


 背を屈めるガンツ。ガンツの大きな手が次に掴むのは、タイトスカートだ。

 タイトスカートも、ビリビリと音を立てて破られていった。奈央の下半身は、白いショーツだけにされてしまう。

 ブラジャーと同じように、部分部分が透けている白いショーツ。


 下着姿にされる奈央。そんな恰好の奈央を見て、周囲にいる妖魔である男たちは口笛を吹く。


 レディース・スーツを破り、奈央を下着だけという恰好にさせたガンツは、彼女に両手を伸ばす。

 伸びたガンツの大きな手は、白いブラジャーの上から奈央のGカップの両乳房を鷲掴みにした。

 ガンツの両手のひらは、そのままブラジャーの上から乳房を揉んだ。


「くっ……」


 強い力で豊かな胸の膨らみを揉まれ、奈央はわずかに顔をしかめた。

 ガンツはニヤニヤと笑いながら、白いブラジャーの上からGカップの乳房を揉み続ける。


「対魔局がグリーンドロップのことをどこまで知っているのか……それを話すのなら、やめてやってもいいんだぞ」


 乳房を揉む指の動きを止めずにガンツは言う。

 奈央はキッとガンツを睨み、


「話すわけないでしょう」


 と言い放つ。

 ガンツのニヤニヤ笑いが強まる。


「なら、いいさ。楽しむだけだ」


 大きな手のひらの片方が、乳房から離れた。

 片方の乳房をブラジャー越しに揉み続けながら、ガンツはもう片方の手を奈央の女らしい丸みのある小さめの尻へと伸ばしていく。


 ガンツの大きな手のひらが、白いショーツの上から奈央の尻を撫でる。

 とてもいやらしい動きで、ショーツ越しに奈央の尻を撫で回すガンツの手のひら。

 奈央は一瞬だけ、嫌悪の表情を浮かべる。だが、すぐにその表情を消し、鋭い視線でガンツを睨み続ける。

 そんな態度の奈央に、ガンツは「くくっ」と小さく笑う。


 小さく笑いながら、片方の乳房をブラジャーの上から揉み、ショーツの上から尻を撫で回し続けた。

 嫌悪を感じる奈央だが、小さな声1つ漏らさない。それならそれでいいと、ガンツは彼女の乳房と尻をなぶり続ける。


 やがて、尻を撫で回している手が、前へと移動した。


 ガンツの大きな手のひらが、ショーツの上から奈央の股間をスーッと撫でる。

 ビクッと跳ねる奈央の腰。だが、腰を跳ねさせただけ。声は出さない。

 ガンツの手のひらがショーツの上から股間を撫でるたびに、奈央の腰はビクッと跳ねる。


 それを止めようとする奈央だが、止められない。ソコを撫でられるたびに、腰を跳ねさせてしまう。


「敏感じゃないか」


 奈央の敏感な反応を楽しむように、ガンツは何度もショーツ越しに奈央の股間を撫でる。

 奈央は腰が跳ねるのを止めることができない。

 股間を撫でていたガンツの手は、ショーツのウェスト部分を掴んだ。


 そのまま強い力で引っ張られる白いショーツ。ビリリッと音を立てて破れ、ショーツは布切れと化して奈央の股間から離れる。

 奈央の下半身は裸にされ、薄めの陰毛で飾られた股間と尻がむき出しとなった。


 ガンツの視線は、股間に向く。周囲にいる妖魔である男たちの視線も、奈央の股間や尻に向いた。

 下着姿を見られても顔を赤くすることはなかった奈央だが、むき出しの股間や尻に男たちの視線が向くと、さすがに羞恥で顔を赤く染めていく。


 ガンツは無遠慮な視線を薄く茂った奈央の股間に向けながら、大きな手のひらでソコを撫でる。

 布越しではなく直接、股間を撫でられて奈央の腰はビクンッと大きく跳ねた。


 股間を撫で続けながら、ガンツは乳房を覆う白いブラジャーを掴んだ。胸からはぎ取られるブラジャー。

 Gカップの乳房が、ブラジャーの締めつけから解放されたことを喜ぶかのように、ユサリッと大きく弾みながら露わになった。

 膨らみの頂(いただき)を飾る乳首の色は、濃いピンク色。


 ガンツの視線、男たちの視線が、豊満な乳房に向いた。

 乳房をジロジロと眺めながら、ガンツははぎ取った白いブラジャーを放り捨てた。


「しゃべるのなら、ここでやめてやってもいいぞ」


 ガンツの言葉に、奈央は羞恥で顔を赤く染めながらも彼をキッと睨んだ。


「しゃべるわけないでしょう」


「強情な女だ」


 言いながらガンツは彼女の股間から手を離し、両手で乳房を鷲掴みにした。

 柔らかな乳房。ガンツの10本の指は、乳肉の中に深く沈んでいく。


 ガンツは鷲掴みにした両の乳房をグニグニ、グニグニと強い勢いで揉んだ。

 乳肉をそぎ落とすような勢いで動くガンツの指。乳房から痛みが走ってきて、奈央の顔が歪む。

 苦痛の声が出そうになるが、なんとか抑える。


 そのような声を出したらガンツを始めとする妖魔である男たちを楽しませるだけ……それが分かるから。


 声が出ないように耐えている奈央の顔を見ると、ガンツはニヤリと笑って乳房から手を離す。乳房からの痛みが消え、ホッと安堵する奈央。

 だが、まだ解放されるわけではない。ガンツは奈央を攻めるのをやめるわけではない。

 ガンツは吊されて動けない奈央の後ろへと移動する。彼の視線は奈央の尻に向く。


「いいケツだ。叩きがいがありそうだ」


 そう言うと、ガンツは右手を振り上げた。

 そして、一気に振り下ろす。右の手のひらが、奈央の尻を強く叩いた。

 部屋の中に、バシーンッ! と肉を叩く音が大きく響く。尻から痛みが……強い痛みが走ってきて、奈央は目を見開く。


「ああっ!」


 奈央の口から、ついに声が漏れる。

 その声は、苦痛の色が宿った声。

 奈央の尻の右側に、ガンツの手のひらの形が赤く浮かび上がった。


 奈央の声を聞いたガンツは、また尻を叩く。バシーンッ! という音を立てて平手で叩かれる奈央の尻。今度は尻の左側に、手のひらの形が赤く浮かんだ。

 ガンツは尻を叩く手の動きを止めない。三度、四度と奈央の尻を叩く。遠慮が感じられない力で叩く。


「きゃあっ!」


 バシーンッ! バシーンッ! という肉を叩く音と共に、


「ああっ! ひうっ! い、痛いっ!」


 という奈央の悲鳴が混ざる。


 一度声を出すと、奈央は声を抑えることができなくなる。尻からの激しい痛みで、悲鳴を上げ続けてしまう。

 奈央の尻の肌に、どんどん手のひらの形をした赤い痕が浮かび上がっていく。

 ガンツは笑いながら尻の右側を、左側を、ときには真ん中を強く叩く。


「い、いた……ああ、痛いっ! や、やめてっ! ああっ!」


 尻から走ってくる激しい痛みで、奈央の瞳は涙で濡れていった。


「しゃべるのなら、やめてやるよ」


 言いながら奈央の尻を連続して叩くガンツ。


「しゃ、しゃべらない……しゃべらないわよ」


 奈央の答えを聞くと、ガンツは尻を叩く手の力を強めた。

 それまで以上の痛みが尻から疾走してきて奈央は、


「ああああっ! あっ、あああっ!」


 苦痛の色で染まっている声を大きく響かせる。

 奈央の尻は全体が真っ赤に染まり、瞳の涙がこぼれて頬を濡らしていった。

 やがて飽きたのか、ガンツは奈央の尻を叩く手の動きを止める。


 尻がヒリヒリと痛む奈央は、クタッとうなだれた。

 ガンツは奈央の前に立つと、彼女の髪を掴んで顔を無理やり上げさせる。


「どうだ、しゃべる気になったか?」


 そう問われると、奈央は涙で濡れている瞳でガンツを睨む。


「しゃ、しゃべる気は……無いわよ……」


 奈央の答えを聞くと、ガンツは肩をすくめる。


「本当に強情だな。まあ、いい。しゃべらせる方法は、いくらでもある」


 ガンツは周囲にいる男の1人に顔を向け、「あれを持ってこい」と告げた。その男は何かを持ってガンツに歩み寄り、それを渡した。

 何を持ってきたのか……奈央はガンツの手を見る。それは、注射器であった。

 シリンダーには緑色の液体が入っている。


「グリーンドロップって呼ばれているドラッグの原材料だ」


 奈央が自分の手を見ているのに気づき、ガンツは彼女に伝えた。


「グリーンドロップはな、原材料の状態だと催淫剤としての効果があるんだ。これを……お前に打ってやる」


 ガンツは拘束されている奈央の右腕に注射器を向ける。奈央は抵抗しようとするが、無駄な抵抗でしかない。注射器の針から逃げることはできない。


 注射器の針が右腕に刺さる。ガンツの指が、ピストンを押す。緑色の液体……奈央たち対魔局が追っているグリーンドロップというドラッグの原材料が、血管の中に入っていく。

 シリンダーの中が空になり、針が抜かれる。


「こいつは即効性だ」


 言いながらガンツは、空になった注射器を放り投げた。

 その間に、グリーンドロップの原材料……催淫剤の効果が出たらしい。


 奈央は体がカーッと熱くなっていくのを意識した。

 全身の肌が紅潮していき、汗で濡れていく。口からこぼれる吐息も熱くなっていた。


 ガンツは両腕を伸ばし、触れるか触れないか、そんな微妙な感覚で鎖で吊されている奈央の体を撫でる。

 微妙な感覚で体を撫でられる奈央は、


「ひうっ!」


 と声を漏らして裸身を震わせた。

 ガンツの手のひらが触れているかどうか分からない……そんな微妙な感覚で体を撫でられただけで、奈央の内側を大きな快感が疾走していた。


 催淫剤の効果で体が敏感になった奈央。ガンツは奈央の体を触れるかどうか分からない感覚で撫で続けた。


「はうっ……うっ……ああっ……」


 疾走する快感で、奈央はうめく。そのうめき声には、とても甘い色が込められている。

 奈央は甘くうめくだけではない。吊されている体をくねらせる。快感で悶(もだ)えているような動き。


 ガンツも、周囲にいる妖魔である男たちも、そんな奈央の姿を見て楽しそうな表情を浮かべている。


 甘くうめき、体をくねらせたら、ガンツたちを喜ばせるだけ……そう思い、奈央は奥歯を噛みしめて声が出ないようにする。裸身のくねりも止めようとした。

 だが、


「ああっ! はあ……はうっ!」


 ガンツの手で肌を撫でられると、強く大きな快感が体の内側を疾走し、声を口から響かせてしまう。声を抑えることができなかった。体のくねりを止めることもできない。


 それほどまでに強烈な快感が奈央を襲っていた。


 ガンツは奈央の肌から手を離す。快感が消え、奈央はようやく体のくねりを止めることができた。ガンツは彼女の後ろに移動する。

 背後から、奈央のGカップの乳房を鷲掴みにするガンツ。Gカップの両乳房が、乱暴な勢いでグニグニと揉まれた。


「あっ、ああっ! ああっ!」


 奈央の口から甘い潤いが感じられる声が響く。


 乱暴に揉まれる乳房だが、そこから走るのは痛みではなかった。胸からもぎ取るような勢いで揉まれる乳房から走るのは、快感であった。

 とても大きな快感……そのため、奈央は甘く潤っている声を響かせてしまう。


 乳房を乱暴にあつかわれても快感の声を響かせる奈央……それを確かめると、ガンツは乳房から手を離した。

 そして、右手を振り上げる。ガンツの視線が向いている先は、赤く染まっている奈央の尻。


 勢いよく振り下ろされるガンツの右手。手のひらが再び、奈央の尻を強く叩く。


「ひうあっ!」


 バシーンッ! という尻を叩かれる音と共に、甲高い奈央の悲鳴が響いた。


 悲鳴を上げながら、疾走してきた痛みで背中を反らす奈央。催淫剤で敏感になっているせいか、先ほど尻を叩かれたときよりも大きく激しい痛みが奈央を襲う。

 ガンツは連続して奈央の尻を叩く。叩かれるたびに奈央は背中を反らして悲鳴を上げる。

 だが、尻を叩かれているうちに奈央の口からこぼれる声が変化していく。


「あっ、あっ……はうんっ……ああっ……」


 快感を抱いているような声……尻を強く叩かれる奈央の口からこぼれる声は、そのような声に変わっていた。


 ガンツに強く尻を叩かれると、


「あうんっ!」


 という確かな快感の色がある声を奈央は漏らしてしまう。

 催淫剤のせいか、尻を強く叩かれて奈央は痛みではなく快感を抱いてしまう。

 そんなはずはない……そう否定する奈央だが、尻を叩かれると確かな快感が走ってきた。

 否定できない、確かな快感……それが、叩かれる尻から走ってくるのを奈央は意識する。


「う、うそ……うそよ……はうっ! ああっ!」


 ガンツは奈央の尻を叩き続ける。尻を叩かれるたびに、奈央は甘い声をこぼしてしまう。


 周囲にいる妖魔である男たちは、尻を叩かれて快感を抱いている奈央を見て笑い声を上げた。


 ガンツは奈央の尻を強い力で叩き続けた……。


◇◇◇


 調査を続けた聖美だが、これと言った情報を得ることはできなかった。

 スマートフォンを取り出し、時間を確認する。奈央と決めた合流時間が近い。

 聖美は調査を切り上げ、合流場所へと向かった。


 合流場所に、まだ奈央の姿はない。しばらく待つ聖美。だが、しばらく待っても奈央が姿を見せることはなかった。スマートフォンで時間を確認する。

 合流の時間は過ぎていた。もうしばらく待つ聖美だが、やはり奈央が合流場所に姿を見せることはない。


 奈央に何かあったのかと、聖美は感じた。スマートフォンで奈央の番号にかける。

 数回のコールで奈央は出た……と聖美は思ったが、聞こえてきたのは奈央の声ではなかった。


『この女の仲間か?』


 聞こえてきたのは、男の声であった。

 聖美は知らないことだが、その声はガンツの声である。


「あなたは誰?」


 奈央のスマートフォンに出た男に、聖美は問う。


『仲間も女か。美人なのかな?』


「野田さんはどこ?」


『ある場所にいるよ。いま眠っているところだ。この女がいる場所に来るか?』


 眠っている……どういう意味なのか聖美は思った。電話の相手であるガンツが何者なのか聖美には分からないが、奈央の安否は気になった。


『お前も対魔局の人間なんだろう? 対魔局には言わず、お前1人で来い』


 ガンツは自分たちがどこにいるのかを聖美に告げると、一方的に通話を切った。

 聖美は素早くスマートフォンを操作する。それからガンツが告げた場所へと急いだ。


◇◇◇


 聖美は街外れにある廃ビルの前にいた。ここがガンツに指定された場所である。

 廃ビルの中に入る聖美。すると、


「よう」


 と陰から声をかけられた。

 そちらに顔を向けると、1人の男がいた。人間ではない。放っている気配は妖魔のものであった。


「対魔局の人間だな。1人で来たんだろうな?」


 男に問われ、聖美は無表情のまま無言で頷(うなず)く。


 男は周囲の気配を探る様子を見せた。聖美が本当に1人で来たのかどうか確認しているようだ。

 廃ビルの外に他の人間の気配が無いのを確かめた男は、聖美に向かって右手を突き出した。


「武器とスマホを寄越してもらおうか」


 聖美はその言葉に素直に従う。拳銃とスマートフォンを男に渡す。


「野田さんはどこ?」


「こっちだ。ついてこい」


 拳銃とスマートフォンを受け取った男は聖美に背を向け、歩き出す。聖美は男の背中を追った。

 地下へと向かう男。


 廃ビルの地下に入ると、聖美は多数の妖魔の気配を感じ取った。

 妖魔である男は部屋の1つに入る。聖美はそれに続いた。


「っ!?」


 部屋に入り、中を見た聖美は表情こそ変えなかったが、心の中で驚く。


 聖美が見たもの……それは鎖で天井から吊され、意識を失っている奈央だった。

 部屋の中にいる男たち……妖魔である男たちは、ニヤニヤとした笑みを浮かべて聖美を待っていた。


 聖美をここまで案内した男は、大男……ガンツに拳銃とスマホを渡す。


「対魔局には連絡していないだろうな?」


 ガンツの言葉に聖美は無表情のまま頷く。


「この女はなにもしゃべらなかったが……お前はなにかしゃべってくれるかな?」


 言いながらガンツは周囲にいる男の1人に目で合図を送る。

 その男は手枷を持って聖美の方へ歩み寄っていった。

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