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人の可能性を拓き、出会いの場を創造するSKKY代表、鯵坂兼充さん

大阪梅田の北にあるカフェ&ギャラリーiTohenを運営して16年。
アートを通してその中に隠れた本質を知り、人生観、価値観が変化され、人の可能性をサポートするようになったきっかけを伺いました。

鰺坂兼充さんのプロフィール
1971年鹿児島県川内市生(現:薩摩川内市)。グラフィックデザインを学ぶ為単身、大阪へ。上田学園 大阪総合デザイン専門学校 グラフィックデザインコース 特待生として研究科修了。
株式会社クル:インテリアデザイン事務所へ勤務。大阪総合デザイン専門学校:商業美術コースへ専任講師として勤務
2001年、グラフィックデザインを中心としたSKY GRAPHICS設立。 2003年ギャラリー業務を主体とした複合施設iTohen開店。現在、グラフィックデザインを中心に活動。各作家のサポート及びプロデュースを行う。

記者 はじめにカフェ&ギャラリーiTohenについて教えてください。
鰺坂兼充さん(以下、敬称略) 誰でも勝手に出入りできるデザイン事務所なんです。カフェもやってて、そこからお客さんが教えてくれる、常に展覧会をやってるので、通算400回くらいやってるんですよ。カフェをやってるとき以外は、何をやってるかというと、裏でデザインの仕事をしているんです。障がい者支援施設とか、病院とかのデザインの仕事、本を作ったりもしてます。最近は、うどんをつくるサラリーマンの方がいらっしゃって、自費出版の本をつくりたいということで本の製作、建築家の作品集とか、店の前のピザ屋のロゴのデザインなど、色々やってます。やってることバラバラで、デザインにかかわることなら何でもやってます。

記者 もともとこういう場所をつくりたいっていう夢があったんですか?
鰺坂 実は鹿児島出身で、18歳の頃から出てきて30年くらい大阪にいます。もともと家が笑えるくらい貧乏だったんです。お金持ちになりたいっていう願望しかなかったですね。デザイナーって食べていけそうな感じがしたんです。当時は、若いお姉ちゃんを囲って…みたいな夢しかなかった。デザインの勉強をしていくと、アートの分野に行き着くのが必然だと思うんですが、その中で目が覚めたというか、覚醒したことがあるんです。

18、19歳のとき、絵描きになりたいけど、食べていけないと思いました。日本のこの国では絵描きで生計を立てていくのは難しいと思ったんです。
じゃあ、どうして貧乏な青年が貧乏な道を選んだのかというと、バブル世代だったのもあり、バイトすれば食べていけたんですよ。それで好きなことしたり、やりたいことをやればいいのかなと思ってました。でも、とどのつまり生活が貧困窮していって、アーティストになりたかったものの本末転倒になって、25歳のときに母校の先生に声をかけていただいて、シルクスクリーンや、銅版画を教えることになりました。

生徒の中に、すごく才能のある子もいるんですが、そういう子は、きっと社会に出たら成りたたないだろうな、あきらめるだろうな、僕みたいにって思ってました。なぜかというと、そういう子たちをサポートする場所が関西にないんですよね。面白い人たちがいっぱいいる土壌なのにおかしいと思って、気がづいたら、そういう才能ある子をサポートする場を自分でつくってしまってました。今年で16年目になります。

記者 なるほど、才能のある人達をサポートしていく場をつくろうと思ってスタートしたんですね。
鰺坂 自分は主役として立つには不向きな人間だと思ったんです。人に意見を言えるところを長所として生かしたら、何かできるんじゃないかと思って。

記者 素晴らしいですね。
鰺坂 実家は寿司屋をやっていました。自分の好きなことを仕事にするまでが大変じゃないですか? そこまで行き着いて天職だと思えるようになるまでが難しいですよね。

いろんな情報にコントロールされて巻き込まれるのは嫌なんですよね。自分の職業倫理に通じるんですが、まっとうなことをやりたいんです。情報は情報として取り入れるけど、デザインというのは情報を更新していかないといけない。独りよがりのものをお客さんに提供するわけにはいかないので。お客さんも何が本物か、偽物かってわかると思うんです。
一歩も動かなくても携帯から多くの情報が入ってきますが、現場の空気感というのは、直接人と会わないとわからないものがあります。どれだけデバイスが発展しても、それは変わらないと思います。画面を見るだけじゃなく、本物を見極めるのは対話だと思うんです。

何かを決め込むことは楽ですが、断定してしまうと遮断するみたいで勿体無いと思うんです。相手の背景がみえないから自分が不安定になってしまうんですが、相手が見えたら自分の立ち位置も見えてきて「心の安寧」につながっていく。そこにヒントがあると思うんですよ。決め込むことって、自分の間口を閉ざしてるようなものだと思う、若い人たちに言うんですが、苦手だと思う人ほど会うべきなんですよね。アートと同じでわからないものほど、追求する価値があると思うんですよね。面倒くさいのはわかりきってるので、面倒くさいことほどしたほうがいいと思うんです。そこを通り越したら楽しいですよね。

記者 鹿児島との違いはどう感じましたか?
鰺坂 コンクリートの量やGDPの違いじゃなくて、文化の熟成度の違いを感じました。田舎に戻ると、文化的なものがどんどんなくなっていって、パチンコ屋やカラオケボックスが巨大化して、数も増えているんです。東京で作られた情報に巻き込まれていると思うんです。田舎って「絵を見ても何の得になるの? デザインを発注して何になるの?」って感じなので、僕なんかもう宇宙人ですよ。もしずっと鹿児島にいたら、手っ取り早く稼いで、例えば飲食店で開業したなら、天然のだしを使わずに化学調味料でつくっただしで、お金儲け主義で回転率を考えてやってたと思います。

記者 お金儲け主義のものの見方が変化したきっかけは何だったんですか?
鰺坂 アートという存在に出会って、変容しました。最初はアートなんてってバカにしてました。でもアートやってる人って、実はまともな人が多いんですよね。知れば知るほど、関われば関わるほど、奇人変人だと思ってたイメージが消えていったんです。
例えば、ピカソのゲルニカとか、しっちゃかめっちゃかですよね。人なのか、女性なのか、馬なのか分からない。大きな正三角形の構図なんです。パリ万博での出展を辞めて、戦争反対を表現したものがゲルニカなんです。三角形の構図って「安定」を表現しているんです。ピラミッドも正三角形ですよね。逆三角形の構図で、不安定要素を人に植え付けるのが、ファッション誌で、人を煽る要素を持ってるんです。こういう絵に隠されたデザイン性やメッセージ性があって、哲学性や理論が備わってないとできないんですよ。

例えば、キュビズム(立体派)は、正面、後ろ、横を向いてる部分を書いて、現実世界の10分間を2次元の絵の中に閉じ込めているんです。それを100年前にやってるなんて、とても理知的だと思いました。どんどん面白みが増してきて、他の人が何をやっているのか気になりました。岡本太郎さんの書いた文章も賢い人が書いた文章だってすぐにわかります。なんとなくじゃできません。知れば知るほど「そうなのか!」っていうのが積み重なりました。
アートの語源って「術」なんですよ。美術の意味は、「美しく生きるための術」だと思います。それって追及する価値があると思うし、人を引き付ける価値でもあると思います。それを分かったら人に伝えたいですね。

人と話しているとその背景を知りたくなって、背景を知ることで自分の立ち位置が見えてくる。それって「心の安寧」だと思ってます。スマホでは得れないものだと思っています。

記者 そうなんですね。アートの深い本質世界を通して、アートに対するものの見方が変化していったんですね。16年経って、これからの夢やビジョンを教えてください。
鰺坂 あとどう頑張っても30年ちょっとしか活動できないと思っています。そう思ったら、「本当のことってなんだろう」って思います。「悟り」みたいにすべてに通じる本当のことを知りたいですね。本当のことを知ったら魂の解放につながっていると思うんです。

記者 深いですね。本質を追求すること、知ることの価値を仰ってましたが、本質は「悟り」の世界とイコールなのかもしれないですね。私もお話を伺っていて、アートに対するイメージが変わりました。隠れた本質が見えるとワクワクしますね。本日はお忙しいなか、お時間いただきましてありがとうございました。

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鰺坂さんの情報はコチラ↓↓
・カフェ&ギャラリーiTohen
http://itohen.info/
・インスタグラム
https://www.instagram.com/kanemitsuajisaka/
・有限会社スカイ
http://skky.info/
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<編集後記>
本日、インタビューを担当させて頂いた泊です。ゆったりと落ち着いた雰囲気で一つ一つの言葉に思いをこめてお話していただきました。カフェでもあり、ギャラリーでもあり、デザイン事務所でもある開放感のある空間から、色んな作家、アーティスト、デザイナーの方々が巣立ち、関西をアート、芸術、文化の魅力溢れる街に変えていく、そんな素敵な未来が見えてきました。これからも益々のご発展を祈念しております。ありがとうございました。

この記事は、リライズ・ニュースマガジン゛美しい時代を創る人達″にも掲載されています。