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アンドロイド

今日は夜に人に会う用事があったのでいつものシアトルズベストコーヒーに行ったのですが、座った席からちょうど真向かいにペッパーくんが見えてしばらく眺めていました。
目が光っていたから電源は入ってると思うんだけど、うなだれて微動だにせず、ずっと地面を見つめていた。

村谷由香里です。
noteをご覧いただきありがとうございます。

博多駅で働いていたころ、店舗のとなりにペッパーくんがいました。彼は土産売り場の案内係で、しきりに通行人に話しかけます。夜8時になって人通りが少なくなっても、彼の明るい声はずっと聞こえていました。

ペッパーくんは圧倒的に無視されていたのだけど、時折子どもが握手を求めてやってきました。ペッパーくんばかりが一方的にしゃべり、操作のわからない子どもたちは怯んですぐに去っていく。
ペッパーくんが、子どもたちの背中をしばらくじっと見ていたのを思い出します。握っていた手の形のまま、真っ黒な洞みたいな目で。

なんだか切ないなと、試食を配る手を止めて見ていたものです。彼にはおそらく心などないのですが、わたしの目にはいつも、どうにも寂しそうに映っていました。
わたしはしばらくして店を辞めてしまったから、今彼がどうしているのかわかりません。撤去されてしまったかもしれない。

アンドロイドという題材を10年くらい定期的に扱っています。作品として表に出しているものはとても少ないのだけれど、多分わたしの核にある題材のひとつです。

哲学の授業を受けていると頻繁に現象学ゾンビや哲学ゾンビという名前を聞きます。
「他人には心がある」という命題を、わたし自身は真と証明する手立てを持たない、という話なのですが、だとしたら人間もアンドロイドも変わらないじゃんと思ってしまう。他人の心なんてものは定められたプログラムと“私”というイレギュラーな事象がつくるフィクション。
心とは何か。虚構とは何か。“私”とは何か。

心などないはずのペッパーくんに孤独を感じるのもわたし自身の投影にすぎないわけです。世界はさびしいものですね。そんな話ばかり書いていたのを、ふと思い出しました。

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