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リンダの話

コートを着なくても良いくらいあたたかい季節になると、動物園にいきたくなります。動物園は春先の晴れた日と、秋の雨が降る日がよく似合います。

こんにちは。村谷由香里です。
noteをご覧いただきありがとうございます。

福岡市動植物園は、市営地下鉄七隈線に乗って薬院大通駅で降り、浄水通の緩やかな坂道を1.5kmほど歩いた先にあります。
浄水通は閑静な高級住宅街で、カフェやパン屋やオーガニック野菜の店、チョコレートショップが軒を連ね、緑を取り入れたデザインのマンションが立ち並んでいます。通りを一本入れば女学校と教会があり、可愛らしい制服を着た女の子たちがバス停に並んでいるのが見えます。

城南区と中央区の境にあるわたしの家から動植物園は、近いようでそんなに近くないので、実際あんまり行くことがありません。年に3回くらい。年間パスポートは持っているんだけど。

福岡市動物園には色の白い、物憂げな目をした美しいメスのキリンがいます。名前はリンダ。アメリカのフロリダから嫁入りしてきました。
彼女は2012年生まれで、2歳で福岡にきて、そのあとすぐに夫を失い未亡人になりました。

彼女はいつも物陰にいます。
広いキリン舎にひとりになったリンダは、驚くほど儚げに、一層美しい動物に見えました。あまりに絵になるので、わたしはキリン舎の前にあるベンチに座り、しばらく木の葉を食むリンダの姿を眺めていました。

「若き未亡人のリンダ」という小説を書こうと思っているうちに数年が経ち、リンダはいつのまにか新しい夫を迎え、今も同じキリン舎で暮らしています。
次に動物園に行ったときもわたしは、新しい夫に寄り添うわけでもなく、物陰で木の葉を食んでいる彼女の姿を見るのだと思います。

動物園で亡くなった動物は、死因を調べるために病理解剖に回され、骨格は標本にされ、残った肉片や内臓は焼却されると聞いたことがあります。
それが良いとか悪いとか、そういう感情はなく、ただばらばらになるキリンの身体のことを考えながらリンダを見て、やっぱり美しい、小説に書いておけば良かったなと考えるのです。

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