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お風呂と哲学と小説のこと

山口大学の最寄駅は湯田温泉駅といって、大学から自転車て15分くらい行くと温泉街でした。今ひとつ風情に欠ける通りではありましたが、学生時代は友達と温泉に行くのがちょっとした贅沢でした。

こんにちは。村谷由香里です。
noteをご覧いただきありがとうございます。

わたしは目が悪いからお風呂に入るとまず何にも見えないのですが、寒い冬の日に露天から見上げる、もやもやと烟った夜空が好きでした。
湯気と視力のせいで星なんかひとつも見えなくて、でもだからこそ、ここからでは到底見ることのできない空間がずっと向こうに広がっているのだと思えて、なんだか途方もない気持ちになったのを今も思い出します。

あのころ大学で哲学を学んで、それ以外の時間は基本的に小説を書いていたからか、世界は今よりずっと曖昧で、確かなものなどひとつもなく、自分自身の輪郭もときどき空気に溶けていくようだった。
水の流れる音と友達の声を聞きながら、わたしはずっと、夢を見るように空を見上げていました。

福岡にきてから「近所にお風呂屋さんがあればいいのに」とずっと思っていたのですが、最近ジムに通いはじめてから広い浴場を使えるようになって、めちゃくちゃお風呂欲が満たされています。
露天風呂で空を見上げて、やっぱり全然何にも見えないと思う。

一般的な生活とは多少ズレているものの、社会で生活をするようになって、大学生のころほど世界と自分の不確かさを感じることはなくなりました。単純に哲学に触れる時間が減ったせいかもしれないけど。
それでも、ぼんやりとお風呂で空を見上げている間、ギリギリのバランスで成り立っていた、あるいは成り立っていなかった現実のことを考えてしまいます。そしていつもそういうところから、わたしの空想は生まれて物語に姿を変えていったことを思い出し、小説を書きたいなと、柄にもなく思うのでした。

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