【短編小説】ひな祭りのあとの戦い



「嫌だ!片付けない!」
「いい加減にしなよ!」

ふたりの戦いは、3週目に突入した。

「絶対にまだ片付けないから!」
ユウキは雛人形の前で座り込む。

3月3日、桃の節句が終わったので、リビングの隅に存在感を放つ五段の雛人形を、ミハルは早く片付けたかった。
何より、最近ひとりで歩くことが出来るようになった長男のリクトが、誤って細かな部品を食べてしまうことを恐れていた。

「リクトが口に入れたら危ないでしょ!死んじゃうよ!」
「……!」
ユウキが黙った。

「もう少しだけ置いておきたい。お願い…リクトのこと見てるから……」

ミハルはため息をつく。こんなに聞き分けが悪いとは……

「あと一週間だけ……そしたら全部ひとりで片づけるから……」
懇願するユウキの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「喉乾いた……」
眠そうな目をこすりながらリビングに入ってきたのは、先に眠りについていたミユだった。

「ミユごめんね、起こしちゃった?」
ミハルはミユのもとへ駆け寄る。

この春から小学生になるミユは、不思議そうに、雛人形の前にあぐらをかくユウキを見る。

「パパ、どうしておひなさま、まもってるの?」

泣きそうになりながら、ユウキは笑う。

「パパ、ミユにお嫁に行ってほしくないんだって。だから、お雛さま片付けたくないんだって」

ミハルが呆れながら、優しく説明する。

「おひなさまかたづけたら、およめさんになれないの?」

「ミユ、お雛さまを片づけると、ミユはすぐお嫁に行っちゃうかもしれない。パパ、それが寂しいんだ」
ユウキがミユを、あぐらをかいた足の上に座らせながら言った。

「じゃあすぐかたづけなきゃ。ミユ、パパとすぐケッコンするもーん」

無邪気なミユの言葉に、ユウキの顔がパッと明るくなった。

ミハルはそれを、見逃さなかった。

「よし、じゃあ今日は遅いから、次の土曜日に片付けようね!ミユもパパのこと、手伝ってくれる?」

「うん!」

「じゃあミユ、パパと指切りげんまんしようか」

「するー!」

ゆーびきーりげーんまーん、とミユが歌いながら、小さな小指を絡める姿が可愛いくて、ユウキもミハルも、優しい顔になった。

流れに任せて、雛人形を片付けることになってしまったことにユウキが気づくのは、次の日の昼休みであった。


post22. 【短編小説】ひな祭りのあとの戦い
坂戸優侑

ありがとうございます!
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