【短期集中連載第12回】落ちないための二回試験対策 刑裁(ライト版)

 短期集中連載として始めたnoteもひとまず今回で最後です。今回も時期が時期なのでライト版でご容赦いただければと思います。

1 出題傾向と基本対策

 刑裁起案は①事実認定or法的評価起案と②公判前整理手続や公判における手続関連の小問2~3個程度が出題されている傾向にあるといってよいかと思われます。

⑴ ①について

 刑裁のメインとなる起案は,❶犯人性・盗品知情性・故意などの事実認定を問う起案と❷正犯性(正犯意思)や盗品知情性(間違ってたので修正します失礼しました)・急迫性など法的評価を問う起案のいずれかが,だいたい10~15枚程度の指定で出題されます。検察・民裁・民弁に比べれば書かなければならない枚数も少ないですし,記録自体も物理的に薄い場合が多いので,時間的に厳しいことはあまりないです。その一方で,ダラダラ長く書いたり取捨選択せずに書くと超過する可能性もあるため,要領よく構成して起案する意識は持っておいた方がいいかも。

 考え方や対策としては,要証事実を的確に示したうえで証拠構造を説明しつつ,検察と同じような要領で認定していけば問題ないです。白表紙の『刑事事実認定ガイド』を読んでおくのもおすすめです。細かい注意点については後述します。

⑵ ②について

 小問としてはざっくり❶争点整理や証拠整理に関する問題,❷尋問中の異議申立てに関する問題,❸身柄関連の問題などが問われているようです。

 ❶は証拠の採否,当事者の立証活動の見通し,裁判員裁判を前提として,争点整理や証拠整理に問題がなかったか,など様々な形式で出題されます。
 ❷は当事者のどちらかから異議が出された場合にどのような判断をすべきかという問題,❸は接見等禁止や保釈の判断を問うものなど。
 いずれの問題も,1~4枚程度の枚数指定があります。

  小問対策としては『プラクティス刑事裁判』『プロシーディングス刑事裁判』を読んで証拠の必要性・相当性,罪証隠滅・逃亡のおぞれ,尋問に関する刑事訴訟規則の規定などをそれぞれ確認して対策しておくと良いかと思います。問題数が2~3問あり,配点的にもそこそこ拾っておきたいところです。

2 起案上の注意点

⑴ 事実認定起案

・要証事実を正確に示すこと
 刑裁に関しては記録中の争点整理を参考に,どの事実が争点(要証事実)になっているのかを正しく把握したうえで記載していくのが重要です。民裁における訴訟物くらい重要です。ここを間違えてしまうと後の事実認定が全部狂ってしまいかねないので,注意したいところ。

 ・直接証拠型か間接事実型かを示すこと
 検察起案では暗黙の了解として間接事実の検討→あれば直接証拠の検討,というプロセスをたどることになりますが,刑裁では直接証拠があれば最初からそれを示して信用性検討に流してしまって問題ありません。逆に直接証拠がないのであればそのことを示して間接事実に進む必要があります。民裁における4類型の指摘に近い感覚で,必ず初めにどちらの証拠構造で検討することになるのか忘れずに書きましょう。

・間接事実はかなり具体的に特定すること
 刑裁で間接事実を認定しする場合には,検察と異なり証拠が薄いせいもあるのか,「犯人と被告人の人着が一致していること」「犯行の機会があったこと」というような抽象化された概要を間接事実として提示するのではなく,「犯人は○○,○○の服装をしていたところ,被告人は○○,○○であること」「本件犯行は○○時であるところ,被告人は○○時に△△にいたこと」のように詳細かつ具体的に記載してあげる必要があります。

・一致供述は信用性検討不要,不一致供述はA供述を前提にしない
 検察と異なり,証人や被告人の供述を事実認定に用いた場合の信用性検討に際しては,証人と被告人で供述が一致しているものについては両方を認定根拠として示せば足り,その信用性を改めて検討する必要がありません。いかにも裁判らしい感じですが,ここの信用性をくどくど書いても時間の無駄になるため注意が必要です。
 逆に一致しない供述については,証人の供述を根拠に挙げたうえで証人供述の信用性を検討しましょう。ここでA供述を用いて認定したり,A供述が信用できないことを理由に信用できると認定すると極めて危険です。信用性検討の基本的な視点である他の証拠との整合,知覚記憶の条件,利害関係などから判断していくようにしましょう。

・認定根拠→意味合い→重み,の順に記載し,最後に総合評価する
 用語が違いますが,検察と考え方は同一で,間接事実を証拠から認定したうえで,その推認力の強弱を反対仮説の可能性の程度から判断していけばOKです。
 総合評価では複合反対仮説(要証事実が認められない場合に,それぞれの間接事実を説明できる反対仮説が同時に起こり得ること)が考えられるかどうか検討します。ここも検察と同様ですね。
 検察と違うのは,検察起案ではほぼ有罪方向で起案すべきところ,刑裁についてはどちらで書いても良いという点です(ある程度筋の良い方向とかは決まっていそうですが)。そのため間接事実の推認力が弱く,総合しても要証事実が認められない,という記載もありえます。ということは結論が分かれうるのである程度詳細に思考過程を記載しておいた方がよいことになるでしょう。

・消極的間接事実があれば指摘する
 総合評価の結果要証事実が認められるとなった場合に,それを覆すような(推認力を弱めるような)消極的間接事実がA供述や弁号証から認定できるのであればそれも記載するようにしましょう。もっとも,これまでの起案を振り返る限り,必須ではないように思います。

⑵ 法的評価起案

・要証事実を正確に把握すること(同上)
・可能であれば要件の解釈論や,事案に沿った考慮要素の指摘

 まずは要証事実を正確に把握して記載しましょう。そのうえで,故意や正犯意思といった要件について,事案(罪責)に応じて定義なり解釈論なりを示し,その後の認定と評価で使うことになる考慮要素を示せるとベターです(必須ではないと思います)。

・積極・消極双方から事実を拾う
 事実を拾う際には結論ありきで結論を支持するような事実を拾ってしまいがちですが,反対の結論になり得る事実についても適宜取り上げてあげましょう。この辺は民裁と似ています。他方で,民裁のように事実を10個も20個も挙げて数で勝負していくというよりは,事案や起案の枚数指定によると思いますが,5~7個程度挙げたうえでそれぞれ評価が加えられればいいのかなというように感じます。刻みすぎずほどほどのサイズ感で事実を抽出するようにしていきましょう。

3 具体的対策(例)

 具体的な当日の動きの一例に入っていきます。とはいえ刑裁は時間に余裕があるはずなので,基本的にどのような解き方でも問題ないような気はします。

⑴ 時間配分

 刑裁についても刑弁同様,証拠整理や尋問に関連する設問が問われるため,先に記録を読んでから小問を片付けるのが楽だと思われます。

❶午前中に記録検討を済ませる
❷昼食終わりくらいまでに小問を片付ける
❸午後はゆっくり事実認定起案を検討し,終わり次第さっさと帰る

という感じですね。刑弁と同じですが。最終日ですし最後まで頑張るというのもありだとは思いますが,変に再検討しすぎておかしなこと書き直す前にさっさと帰るのも作戦かと。

⑵ 記録の読み方

 記録は2分冊になっており,第1分冊が公判前整理手続の経過を中心とする争点整理や証拠整理の結果が,第2分冊が公判で実際に取り調べられた証拠や尋問調書で構成されています。まずは第1分冊や起案要領のヒントをもれなく広い,起案すべき要証事実や証拠構造をつかんだうえで,要証事実の判断に必要な事実を第2分冊からピックアップする,という方針になります。

❶起案要領の指示をマークしてメモする
❷第1分冊を読み進め,争点や証拠構造を把握する
❸「犯人の事情」「Aの事情」「○○の積極事情」「○○の消極事情」などのように記録に応じてルールを作ってマークしていく

という感じで落ちついて情報整理していけばまあ大丈夫でしょう。

⑶ 構成検討

 構成の検討方法としては,事実認定起案であれば検察,法的評価起案であれば民裁の対処法と似たようなやり方でいいのではないかと思います。まあ沼にはまりさえしなければどのような検討でも充分間に合うかと。

4 まとめ

 結局またまた長くなりましたが,結局のところ検察的な起案の発想と民裁的な事実抽出の視点があればだいたい何とかなると思います。あとは罪証隠滅のおそれ,証拠の必要性・相当性などといった刑裁特有の論点・判断枠組みの取りこぼしがないようにすれば十分でしょう。あとは強引な評価と言われないように経験則に沿った認定ができれば完璧です。

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