【短期集中連載第3回】落ちないための二回試験対策 検察① 間接事実の組み立て方

 今回から怒涛の各論ラッシュです。まずは74期二回試験の1日目にある検察から。第1回でも触れましたが,刑事系科目全般の対策としても検察起案のマスターは必須です。

 

1 出題傾向と基本対策

 検察起案の出題形式はほぼほぼ①終局処分,②思考過程,③刑事手続小問で固まっています。

⑴ ①終局処分

 記録を読んで起訴相当と考えた場合には公訴事実,罪名,罰条を,不起訴相当と考えた場合には記載すべき事実,罪名,裁定主文を書けというものです。

 設問上は起訴,不起訴いずれの場合もあり得るように書かれており,実務上は不起訴処分をすることも少なくないですが,起案としては不起訴裁定書を書くことはほぼありません。まず起訴相当の方向で検討した方がいいでしょう。

 イメージとしては,民弁,刑弁で依頼者の主張に沿って論述を展開していくのと似ています。警察が送致してきている以上は,罪名を修正する必要はあるかもしれませんが,まず起訴する方向で検討していきましょう。実務家や教官に怒られそうですが,実際起訴相当の起案ばかり出題されている以上,試験対策としては不起訴書いたらヤバイ,くらいの認識でいた方が無難です。

 公訴事実については集合起案では『検察講義案』が,二回試験ではその抜粋的なものが配られるので,丸暗記する必要はないです。逆にいうと集合起案で『検察講義案』を忘れるとけっこうしんどいです(一敗)。

⑵ ②思考過程

 ①で挙げた公訴事実等に至った思考過程を検討させる出題が出されます。ここではいわゆるフル起案ハーフ起案と呼ばれる出題形式があることに注意が必要です。

 思考過程では大きく❶犯人性,❷犯罪の成否等,❸情状関係及び求刑意見の検討が求められます。このうち,どの検討を求められるかは起案により異なります。❶❷❸全部の場合もあれば❷だけの場合など様々であるため,必ず起案要領を確認するようにしましょう。起案要領で問われていないのに,検察起案だし犯人性検討はマストだろとか,犯罪の成否「等」に犯人性が含まれているんじゃないかなどと邪推してくどくど犯人性を書いて撃沈するケースが多いみたいです(一敗)。

 また,供述者が多い場合には,一部の人の供述は信用できることを前提に書いてよい,という指示がある場合もあります。このような場合に信用性検討をすることは全くメリットがないので注意が必要です。

 更に,特定の間接事実について記載する必要がない(が,総合考慮では検討しろ)という指示がある場合もあります。

 いずれにしても,起案要領で何をどこまで書くことを指定しているか,記載を省略してよいとする部分はないか,などは最初によくよく読み込んでマークしておくべきでしょう。

 また,ここの記載形式を固める上では,『検察終局処分起案の考え方』の理解がマストです。時間のあるうちはよくよく読んでおくと良いと思います。時間がない場合には教官(室)の講評資料が分かりやすいです。

⑶ ③刑事手続小問

 捜査・公判に関する検察官の取るべき対応について,起案用紙2~3枚程度の指定で解答する問題です。ここは枚数指定があり,配点的にそこまで高くないと考えられるため,『検察演習問題』や刑訴の基本書などで余裕のある範囲で確認しておけばいいかと思います。とはいえここをやりこむくらいならまずは②の終局処分起案をやりこんだ方がコスパがいいです。

 

2 終局処分起案のフォーマット

 検察起案でもっとも重要なのは②の思考過程を『検察終局処分起案の考え方』の提示する書式に沿って記載することです。また,この書式に沿って検討することをマスターすれば,刑裁・刑弁起案の書き方,考え方も半分はクリアしているといって差し支えないでしょう。それくらい『検察終局処分起案の考え方』は重要です。

 細かい説明に入る前に最初にフル起案(❶犯人性,❷犯罪の成否等,❸情状関係及び求刑意見)のフォーマット(見出し語)を提示すると,次の通りです(共犯前提で書いています)。

第1 終局処分
 1 公訴事実
 2 罪名及び罰条
第2 思考過程
 1 犯人性
  ⑴ 検討対象事実
  ⑵ ○○であること(間接事実1)
   ア 認定プロセス
   イ 意味合い(推認力)
  ⑶ △△であること(間接事実2)
   アイ 同上
  ⑷ ××であること(間接事実3)
   アイ 同上
  ⑸ (あれば)直接証拠の認定
  ⑹ ○○供述の信用性(複数名いれば別個に検討)
   ア 供述概要
   イ 信用性検討
  ⑺ (いたら)共犯者供述の信用性
   アイ 同上
  ⑻ A供述の信用性
   ア 変遷前供述
    (ア) 供述概要
    (イ) 信用性検討
   イ 変遷後供述
    (ア)(イ) 同上
  ⑼ 総合考慮
   ア 間接事実の総合
   イ A供述の考慮
   ウ 結論
 2 犯罪の成否等(複数罪あれば別個に検討)
  ⑴ 客観的構成要件要素
   ①~,②~,③~
   ア ①について
    (ア) 意義
    (イ) 事実認定
    (ウ) 評価
   イウ… 同上
  ⑵ 共犯
   ア 共謀(意思連絡+正犯意思)
    (ア) 事実認定
    (イ) 評価
   イ 共謀に基づく実行
  ⑶ 主観的構成要件要素
   ①故意,(②不法領得の意思)
   ア ①について
    (ア)(イ)(ウ) 同上
   イ… 同上
  ⑷ (あれば)違法性阻却事由など
  ⑸ (複数なら)罪数関係
  ⑹ その他の犯罪の成否(成立しない理由or不起訴相当の理由)
 3 情状関係
  ⑴ 不利な事情
  ⑵ 有利な事情
  ⑶ 求刑意見

上記フォーマットを頭の中に用意しておいて,あとは起案要領や記録をもとに加除修正しながら最終的に記載する内容を構成していけばまず問題ないはずです。


3 書き方解説① 間接事実の認定

 フォーマットの各要素についてみていきます。ここを正確にインプットしておくことで,検察はもちろん刑裁,刑弁でも何書けばいいか迷う,ということは減ると思います。

 長さの都合上,第3回では間接事実のみ取り上げ,続きは第4回に回すことにします。

 検察起案のうち犯人性の検討においては,たとえ犯人を見たなどの直接証拠や自白があるとしても,まず間接事実だけで犯人性を認定できないかを検討する必要があります。そして,間接事実を認定する場合には,A供述を含んではならないことに注意しましょう。

⑴ 検討対象事実

 間接事実に認定においては,まず検討対象事実を特定・認定します。結論においてAが本件の犯人であるというために,まず本件とはいったい何なのか説明する必要があるわけです。具体的には,事件の概要について時・場所・方法などを触れていけばOKです。

(例) 本件は,犯人が〇年〇月〇日〇時〇分頃,××において,Vに対し,~した事案である。

 あくまで事件概要であるので,犯人側の事情だけ(=A供述やAに関する捜査資料を使わない)で記載するように注意してください。

 もっとも,認定する事実の方向性(ストーリー)を決めていくために,自白があれば書き始める前の検討段階でA供述を参考にしてしまっても大丈夫です。というかむしろその方が効率いいんじゃないかと思います。

 もちろん提出する起案においてA供述前提で事実認定したらアウトですが,起案の性質上,間接事実だけでもAが犯人である(=自白の通りである)と認定できるという建前があるため,結局のところ,検討対象事実とA供述は(Aが虚偽の自白をしているなど自白の信用性が失われない限り)重なるはずです。それなら最初からA供述ベースで事実関係構築して,A供述以外から根拠を拾ってきて起案にはA供述以外の証拠に基づいて記載する,とした方が思考量を減らせると思うんですよね。結論から逆算するという感じでしょうか。邪道ですがいかんせん時間がないので。

⑵ 間接事実の摘示

 このように検討対象事実を認定したうえで,各間接事実の認定に入っていきます。

 間接事実は,起案講評を見ている限り,最低でも3つ認定する必要があると思われます。抽象化しすぎたり,刻みすぎたりせずに,犯人性との関係で意味のある事実になるように調整しましょう。

 間接事実は推認力の強いものから列挙するようにしましょう。それが起案のルールであるし,時間が無くなった際に最悪うしろの間接事実を省略してもそれなりに体裁が保てます。

 間接事実を認定する際の視点としては,『検察終局処分起案の考え方』には7つほど項目が挙げられています。基本的にはそれをベースに考えていけばいいですが,何度か起案・講評を受ける中で相場観のようなものが培われてくると思われますので,直感的に「いやそれはAが犯人じゃないと説明つかんだろ」といえるような事情を引っ張ってくることができればそれで充分である気がします。

 切り口としては,犯行現場にAの痕跡があること,犯行に関係するもの(凶器・被害品)とAにつながりがあること,犯人自身とAの特徴が一致すること,Aに犯行の機会があったこと,などが多い印象です(『検察終局処分起案の考え方』でいう①~④あたり)。

 犯人が実際に取ったであろう行動を追いかけていく中でAの要素と重なるところがあれば,そこをピックアップする,という感じでしょうか。

 あるいは,信用性を前提にしてよい供述があれば,それが間接事実の摘示の際のヒントにもなります。信用性検討を省略してよいということは,逆に言えば「そうでもしないと書ききれないから=起案のどこかで使われることが念頭に置かれているから」ということです。犯人性ではなく犯罪の成否等で使う事情の可能性もあるので振り分けには気を付けるべきですが,まず確実に何かに使うだろうという見通しを持っておくのがおすすめです。

 ここでも犯人の具体的な行動を見ていく際に,自白があればA供述をベースに検討してしまって良いです。理由は前述の通り(どのみちA供述と同じ結論になるから)。犯行を自白している中でAが凶器を捨てたというのなら,凶器にAにつながる要素がないか探してみればいいし,Aが被害品を売ったといえば,被害品の経路とAが重ならないか探せばいいわけです。A供述は使うなと口酸っぱくいわれますが,起案にさえ書かなければ(少なくとも検察起案を乗り越えるという目的においては)セーフです。検察官の持つべきマインドとしては大いに問題があるでしょうが,建前を通すほどの余裕はないというのが実情。

 間接事実の摘示に関しては,必ず犯人側の事情とAの事情が結びつくような記載になるように注意してください(じゃないと犯人性を推認させる事情といえなくなるから)。

(例)犯行現場にAの血痕があること,犯行に使用された凶器にAの指紋があること

 なお,『検察終局処分起案の考え方』や起案講評では「認定した間接事実の概要」という項目を別途立てています。この通りに書いてももちろん構わないのですが,上記フォーマットのように,

(例)犯行現場にAの血痕があること(間接事実1)

と書いてしまえばぶっちゃけ足りるし早いと思います。好みの問題ですかね。

⑶ 認定プロセス

 次に摘示した間接事実がどの証拠からどのように認定できるかを説明していくことになります。

 基本的には間接事実を犯人側の事情とAの事情に二分し,それぞれ要素に分解して証拠を引っ張ってくればOKです。「犯人は○○した」「Aは△△した」がベースです。

 注意点としては,犯人側の事情,Aの事情の証拠構造が直接証拠の場合もあれば間接事実型の場合もある点です。直接証拠であればそのまま事実と認定根拠を書いておしまいですが,間接事実を組み合わせる必要がある場合には,事実と認定根拠を複数挙げたうえで,「これらの事実から○○が認定できる」などと説明する必要があります。

 犯人側の事情を認定するにあたっては,すでに認定した検討対象事実を持ち込みつつ,必要に応じて別の証拠をもってこればOKです。

 Aの事情については起案上は初めて登場することになるため,なるべく丁寧に認定していくと良いでしょう。

⑷ 意味合い(推認力)

 ここでは❶間接事実がいかなる意味で犯人性を推認させるのか,❷推認力の程度(反対仮説の現実性)はどの程度かを説明することになります。

 ❶については,経験則に照らして,間接事実のようなケースにおいては一般的にどのようなことが言えるかを説明することになります。凶器に指紋があったのであれば,通常は犯行に関与していたといえるから,犯人性を推認させる,などです。経験則に基づかない説明をしてしまうと,「強引な評価」と言われてしまうので注意しましょう。

 ❷については反対仮説,すなわちAが犯人でないと仮定した場合に間接事実が発生したことをどのように説明できるか,それが現実に起こりえるかどうかを検討します。先ほどの凶器であれば,例えばAが誰かに貸してその誰かが犯行に及んだ,とかですね。そのうえで,そのような仮説が現実的かどうかを合理的な範囲で説明すればOKです。ここは慣れるしかないような気がします。

 反対仮説が非現実的だということになれば推認力は強く,逆にありえそうであれば限定的であると結論付けることになります。

(続)

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