【短期集中連載第1回】落ちないための二回試験対策 総論① データでみる二回試験と基本戦略

1 本連載について

本連載は司法修習の最後に行われる二回試験を確実にクリアするための対策について,修習中に筆者が周囲から得た情報などをもとに編成し(,自身の学習の偏りや少なさを正当化しようと試み)たものです。表題としては二回試験対策ですが,中身は各科目の起案対策が主であり,それぞれ最低限の書き方や対策(として筆者がまとめ,実施したもの)を示していきますので,修習の各段階で行われる起案の対策にもなると思います。

本来は今月の二回試験が終わってからのんびり書こうかと考えていたのですが,74期の二回試験前に書いてほしいとの熱い(?)要望をいただいたので,やや粗削りになると思われますが書き連ねることにしました(そのため,二回試験後に加筆修正をしていくことが見込まれます)。

大まかな構成としては,見切り発車ですが,全12回くらいになるのではないかと思います。まず総論として科目全体に共通する事項について触れていった後,試験の順番ごとに各論として起案対策を記載していきます。第1回は総論①です。

2 二回試験について

⑴ 概要

二回試験は司法修習の最後に実施される,いわば実務家になるための最後の試験です。科目は民事裁判,民事弁護,刑事裁判,検察,刑事裁判の5科目で,1科目あたり起案時間6時間25分+昼食時間1時間+答案綴り時間5分の合計7時間30分×5日間という,時間だけでいえば司法試験よりも過酷な試験です。74期は以下の日程で実施されます。

3月23日(水) 検察
3月24日(木) 民事弁護
3月25日(金) 民事裁判
3月28日(月) 刑事弁護
3月29日(火) 刑事裁判

余談ですが,上記科目順はローテーションになっているようで,その期の最終科目が翌期の二回試験の1日目に実施され,その他の科目が1日ずつ繰り下がるという感じらしいです。ローテーションで回すことで,科目間の教官の採点負担の公平性を確保しているとか。過去の試験順序(参照:https://yamanaka-bengoshi.jp/2019/10/20/nikaishiken-jyunban/ )からもこの傾向は今後も続くと考えられます。

というわけで,75期の二回試験はほぼほぼ,
刑裁→検察→民弁→民裁→刑弁
の順で行われると予想されます。

⑵ 不合格基準

二回試験は1科目でも「不可」を取るとそれだけで不合格になります。ちなみに3年で3回まで受験することができ,三振すると司法修習生として採用してもらえない(=失権)ことになります。

また,不合格になった場合は,退職願を出し,司法修習生を罷免されることになるそうです。そして翌年の二回試験の時期にのみ再び司法修習生に採用されるとか。この退職願を出さないと,「素行不良」を理由に罷免され,翌年の二回試験の応試に響くとか。なんだこの制度。
※R4.3.15訂正
69期以降は二回試験不合格発表の翌日に一律罷免される運用になっているようです。

参照元


⑶ 不合格率,不合格者数

過去の合否の結果については,山中理司先生のHP(https://www.yamanaka-law.jp/index.html )及びブログ(https://yamanaka-bengoshi.jp/ )が大変参考になります。

これまでの二回試験の不合格者と不合格率の推移は次の通りです。なお,下記の人数は二回試験の再受験者を除いた人数(=初回受験のみを対象)とのことです。

出典

(期, 応試者, 不合格者,不合格率)
73期 1467人 10人 0.68%
72期 1479人  7人 0.47%
71期 1517人 15人 0.99%
70期 1527人 15人 0.98%
69期 1784人 52人 2.91%
68期 1758人 30人 1.71%
67期 1972人 38人 1.93%
66期 2031人 39人 1.92%

また,科目別の不合格者数は次の通りです(重複あり,再受験者含む)。なお,73期の情報はまだないようです。

出典

(期,民裁,刑裁,検察,民弁,刑弁/合計(延人数),合計(実人数))
72期  2人, 1人, 2人, 1人,2人 / 8人, 7人
71期  2人, 2人, 7人, 3人,1人 /15人,15人
70期  4人, 1人, 5人, 5人,1人 /16人,15人
69期  5人, 4人, 4人,41人,2人 /56人,52人
68期  5人,10人,12人, 8人,2人 /37人,30人
67期 21人,15人, 6人, 3人,1人 /46人,38人
66期 11人,13人,17人, 1人,6人 /48人,39人

3 考察(落ちないための基本戦略)

⑴ 不合格の推移について

全体の不合格の推移をみると,70期以降は不合格率が1%を下回っており,人数も15人以下で,修習の各組に1人不合格者がいるかいないかくらいの人数となっています。

また,科目別でみると,69期の民弁で何があったんだと気になるところですが,70期以降は民裁,検察,民弁あたりで落とされている人がやや多い印象です。

これらからすると,不合格者が1%未満であることから,巷でいわれているように二回試験はめったに落ちない試験であるから,そこまで入念に対策しなくてもよい,という結論になりそうです。

しかし,その一方で,毎年数名~十数名は確実に落ちる人がいるということも事実です。73期で不合格者が少し増えている点も懸念材料ですね。

そして,これだけ不合格者が少なく,二回試験は合格するのが当たり前という風潮が蔓延すると,落ちた時のリスクを過大評価し,絶対に落ちたくないという思いから二回試験まで可能な限り勉強を積み重ねる層が一定数現れます。敗北のリスクや損失を他人に押し付け,確実にゲームの勝者になるために,最善の努力をしようとするわけです。特に,集合起案で5段階のD,E評価を受けた人,教官から個別に声掛けをされた人にこの傾向が顕著にみられると思われます。

そうすると,集合起案の時期に比べて受験生全体の起案の水準は上がってくることになります。このような中,集合起案がCなどそこそこいい成績だったのを理由に胡坐をかいていると思わぬ失敗をする危険があるかもしれません。したがって,一定程度は勉強せざるを得ないことになるでしょう。

この構図はゲーム理論でいうところの囚人のジレンマに似ています。すなわち,修習生としては,みんな勉強しないでおけば楽して合格できるはずなのに,絶対に落ちたくないから結局みんな勉強してしまうというジレンマに陥るわけです。その一方で,試験実施者としては,不合格率を極端に低くし,不合格に希少性を付与することで,受験生の自発的な学習を促し,受験層全体の学力の向上を見込むことができるわけです(本稿の趣旨とはあまり関係ないのでこのあたりにしておきます)。

結局のところ,一定程度は何かしらの対策をしといた方がいいだろう,ということになります。

とはいえ,前述のように不合格率は極端に低いことからすると,よほどのことをしない限り落ちることはない,とも言えます。そのよほどのことをしないための対策を講じていくことが基本的な戦略になります(その詳細は次回)。

⑵ 日程について

個人的な意見を多分に含みますが,検察と民裁が同じ週にあるのがぶっちゃけしんどいです。しかも検察が初日にあるとか嫌がらせかよ。

検察は5科目中一番多く書かなければならない科目であるうえ,証拠の引用が他のものよりも書きづらく,ちゃんと解こうと思ったら最も時間の足りないゲームバランスぶっ壊れの科目です。

弁護科目は楽と言われますが,民弁では起案能力をみるという性質上,パッと見無理筋では?と思うような筋で構成を迫られ,意外と大変です。

民裁については研修所が一番気合を入れている(導入・集合修習のコマ数の多さが物語っています)ことからも分かるように,範囲が膨大かつ事実認定がむずいので単純に負担が大きいです。

これら3つの科目は小問を除いては答案の枚数の指定がないため,どうしても長くなりがちでタイムマネジメントが課題になってきます。

他方で刑弁刑裁良心的な枚数指定(事実認定問で15枚くらい)があるため,事案によっては構成に悩む可能性もありますが(だいたいは被告人がムチャクチャ言ってるせいです),基本的にはそこまで苦労しません。

というように,(少なくとも自分にとっては)前半の科目群のウエイトが高く,後半がデザートであるため,二回試験までは主に前半の対策に力を注ぐ一方で,後半の対策はそこそこに,試験期間の土日で対策すれば充分だろうと考えられます。

⑶ 科目間の関連性について

言うまでもなく上記5科目は民事系2科目刑事系3科目に分かれます。そして,起案対策の点からは,民事系,刑事系それぞれ科目間で共通・関連することが多いです。

民事系では,民裁における要件事実の整理と争点確定,争点についての事実認定が核になります。そして,民弁については,民裁的な整理と事実認定構造を念頭において,一方の立場から主張や事実認定を展開していくことになります。そもそも主張書面は裁判所に向けて書かれるものであるため,おのずから民裁の起案構造を意識した構造になってきます。そうすると民弁は民裁の発想を派生ないし応用すればだいたい対応できるというわけです。

刑事系では,まず検察起案で論述の構造がガチガチに固まっていることが特徴的です。この構造は刑事系起案で避けては通れない直接証拠型証拠構造の信用性検討,間接事実型証拠構造の推認過程検討,構成要件該当性の判断枠組みなどが網羅されています。そして,刑弁はこのような検察の立証構造を踏まえて,被告人の立場から弾劾を加えていくことになるため,必然的に検察の起案構造を検討の土台にしています。刑裁についても,両当事者の主張や立証を前提に起案をしていくことになるため,検察の起案の構造と共通することになってきます。したがって,刑事系については検察の構造をしっかり身につけておけば,あとはそれを派生ないし応用して刑弁・刑裁の視点から処理していけば概ね解決します。

また,研修所の起案の講評を見ていると,民裁と検察だけやたら講評の資料が充実しており,もうそれほぼ解答例やん,というくらい詳細な解説が展開されます。他の3科目についても,ポイントは解説されていますが,民裁や検察に比べると簡素なものであることが多いです。

以上からすると,科目が5つあるといっても,民事系,刑事系それぞれにおいて相互に関連する要素が多いため,5つ全部を同じ熱量で対策していくよりは,まず資料の充実している民裁と検察をしっかり対策していくことが得策であると考えられます。そのうえで,残り3科目について,民裁または検察の枠組みと比較しながら対策をしていけば基本的には良いことになります(もちろん,成績上位を目指すなら,各科目もっと深く対策すべきことにはなりますが…)。

⑷ まとめ

以上の考察を念頭におくと,二回試験対策(または起案対策全般)としては,

①致命的なミスをしない程度には対策する
②特に民裁と検察を重点的に対策する

ことが効率的かつ効果的な基本戦略になると思われます。これに加えて小問対策もある程度できればまず落ちることはないでしょう。

4 小括・次回予告

さて,これまで述べてきたように,落ちないための二回試験対策としては,まず致命傷になるような失敗をしないことが重要です。次回は総論②として,この点について触れていきたいと思います。


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