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ペトリコールのおもてなし

その言葉を知ったのはある画家の展覧会の記事を知り合いのFBページで見た時でした。石畳に1粒、2粒と雨が落ちて石を濡らし始めている様が描かれている。モノトーンが美しいその絵の題名は「ペトリコール」

「雨が降り始める時、湿気くさいのとは違う、土や石が濡れ始めた時に独特の匂いがしますよね? あれって落ち着くと思いませんか?」私はいつもその匂いについて語る時そんな要領を得ない長い説明をしていました。

でもその匂いには名前があったんです。

「ペトリコール」

ギリシア語で石のエッセンスという意味らしい。最近では米津玄師さんの楽曲の題名にもなっているらしい。
石や土や草が雨に濡れて、それまで乾いていた空気の中にその成分を発散させているかのような匂い。

私はとても落ち着きます。

雨は好きじゃありませんが、降り始めのこの匂いだけはなんともいいものだなあと思うのです。
ただ、これを表す的確な日本語がないばかりに、なんとなくその匂いについて語れずにいました。

でも実は昔からの日本文化でこの匂いを感じられる習慣があるのです。

雨が降っていなくても。

それは打ち水です。

打ち水は夏の暑い日に玄関前の路地にひしゃくで水をまき、玄関先の温度を下げるのは一番大きな効果ですが、それ以外にも、清めるという意味もあると言います。

打ち水をすると敷石やその側の草が水に濡れます。そう、そうするとペトリコールが漂うのです。

しっとりと艶やかに濡れた石畳とペトリコール。来客の少し前に打ち水をして玄関先を清める。それは精神的な意味だけでなく、匂いのおもてなしでもあるのです。

門構えを特にリニュアルしなくても、水を巻くだけならたった今からお金をかけずにできる「おもてなし」です。

これから春風が吹き埃っぽい季節になります。玄関先に打ち水をしてみてください。石や土が水を含んだら、そこで深呼吸を……。

優しいペトリコールで満たされることでしょう


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