見出し画像

上質なやすらぎの庭のためのたった2つの大切なこと

「まだ整備されていない芝生の真ん中には、池ともプールとも付かないタイル貼りの浴槽のようなものが埋め込まれ、そのはしには、小便小僧が立っていて、放尿するポーズを取っています。また、そのうちに薔薇でも植える予定なのでしょうか、庭の出入り口には、アーチ型の白いパイプが立てられています。(中略)それらの様子は、子供の真由子から見ても、急ごしらえの安っぽさに満ちていて、高中の人々が悪しざまに言う意味が理解できてしまうのでした。歴史ある建物やちょうどを見慣れたものとして育った彼女には、それらと安普請の違いを見抜く眼が、とうの昔に与えられていたのでした」(「賢者の愛」山田詠美著より抜粋)

この文を読んで「よくぞ表現してくれた」と思いました。これは主人公の真由子が隣の年下の女性のことを憎しみを持ちながら書いているので表現に毒がありますが、20年以上前にイングリッシュガーデンが流行った頃からずっと私が思ってきたことがそのままに書かれていました。

庭をどんなデザインにしようともちろん勝手ですが、装飾過多の洋風庭にありがちな「安っぽさ」がとてもよく表現されています。

日本人は真似をしたり海外の文化を取り入れるのが上手(?)なので、英国式の庭園が流行ればすぐに似たような庭が作れるいろんな「製品」が生まれました。でもそれらの多くは何かが違っています。

細かいところ、遠くから見たらわからないようなところが違っている。それらが集まると「違い」が遠くからでも、わかる人にはわかるようになってしまうのです。

「賢者の愛」で山田詠美氏が書いている「小便小僧」はおそらく洋風庭園にみられる天使のことだと思われます。グーグルなどで「天使 噴水」などと入力するとずらっと出て来る白い可愛らしい天使から水が出ているものがあると思いますが、それのことだと思います。
これの多くはFRPでできていてなんというか軽々しい。イギリスでは石を彫って作られたものです。それは時を経て苔むして味わい深くなります。
それにそもそも天使は教会やキリスト教の関わりのもので、日本の普通の家庭の庭にある意味がわかりません。可愛いからと置くのは自由ですが、それなら、FRPではなく石でできたものなど、風合いのあるものを選ばないと山田詠美さんの言葉を借りると「急ごしらえで安っぽい」イメージになってしまいます。そんな彫刻なら置かないほうが良いと思います。天使の像を飾りで置くのなら、輸入物のアンティークショップで本物を買えば良いのに、と思います。

バラのアーチについても白いパイプと随分な書かれ方をしていますが、これも本来だとロートアイアン(鉄をたたいて表情を出したもの)などが使われるのですが、最近は鉄が錆びるからという理由でPVCというプラスチックでできたアーチを使う方もいますが、これも安っぽさを増す一つです。

批判だけして逃げるのは好きでないので、ではどうしたら「安っぽく」ならないかを綴ってみようと思います。大きく2つのポイントがあります。

1つめは一番大事なこと、それは「もの選び」から始めない。

「噴水を作りたい」と思ったとします。そうするとどこかでみたことがある「噴水の製品」を買おうってなるのです。天使だったり、裸婦だったり、ライオンだったりとイングリッシュガーデンの本でみたものを選ぶようになってしまいます。
「水の音が聞こえたらいいなあ」
「朝日に水が輝いていたらきれいだろうなあ」
「夜にライトアップされた水をみながらビールを飲みたいなあ」
「水は風に揺れるときれいだろうな」
水の風景を作ろうと思ったら、それが庭にできた時の気分や過ごし方を突き詰めて考えていきます。
そうすると「どこかでみた景色」ではなく、自分だけの景色が欲しくなります。石を貼るのがいいのか?モザイクタイルを貼るのがいいのか。ガラスもきれいかもしれないし。

水辺のある庭を作ることは「水が出る装置」を買うこととは全く違うことなのです。

さて、自分の心地よい気分を追求してガーデンデザイナーに伝えることである程度庭の形、ここで言えば水景の形が決まってきたとします。ここで初めて「素材」を選ぶという「もの選び」が出てきます。「素材」を選ぶ時の一番大きな目安となるのが「時を減るとボロくなるか、味わいを増すか」です。屋外では室内と比べどんな素材も経年変化は激しくなります。それは仕方がないことです。同じ経年変化をするなら美しく変化していくものを選びたいものです。

時を経て味わいを増す一番わかりやすい例が石畳ではないでしょうか。ヨーロッパの石畳をみて、京都のお寺の敷石を見て「古くてボロい」って思いませんよね。では上に出てきたPVCのアーチはどうでしょう。多分3年くらいすると色々な物が当たって黒い傷ができてきます。最初のうちは良く手入れをしていても、拭けば拭くほどツヤがなくなってボロくなってきます。
アイアン(鉄製)の門扉は錆びたりしてきますが、ペンキをなんども塗り直したりして味わい深くなっていきます。でもアルミの門扉は7年もすると塗装がハゲてきて、ツヤもなくなり、ボロい感じになってしまいます。

潔癖症の方で石畳が苔むす感じや鉄が錆びてペンキで塗り直す感じを生理的に好きでない方もいらっしゃいますね。こういう方は金属ならステンレス、石や塗り壁などには「防汚塗料」を塗るなどしてできるだけ経年劣化を遅らせる工夫をすることです。

庭を既製品の組み合わせで作ろうとするのはやめましょう。
5年後、10年後の表情を想像して仕上げ材を選びましょう。

この2つを守るだけでお庭はグッと上質なやすらぎの空間になるはずです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?