【大阪】Official Fanclub 8810 presents Hayato plays Sumino
2023年4月3日(月)大阪:ザ・シンフォニーホール
18:00 開場 19:00 開演
※公演時間は休憩なしの60分
※トーク等、一部記憶違いがあるかと思いますが、ご了承下さいませ。
はじめに
初のファンクラブイベント。
日前の東京公演の盛り上がりを聞き、ワクワクしながら準備していた前日の夜のこと。
角野さんが尊敬する、坂本龍一さんの訃報を目にして、ぽっかりと胸に穴が空いたような感覚に陥った。
ファンと言う程でもなく、何となく好意を持っていると言った私でさえこの状態であったので、彼の悲しみはどれ程のものだろうか。
想像するだけでも痛む胸を抱えて、会場へと向かった。
さくらさくら
コンサートの開演前は、ワクワク感に溢れたムードの客席をよく見るが、この日は本当に静かで。
私と同じ想いの方も、沢山いたのだろうと思う。
例えるなら、ショパンコンクール渡航前のオールショパンリサイタルや、ポーランド国立放送交響楽団とのツアーの開演前の、あの静けさだった。
固唾を呑んで見守る中、角野さんが現れた。
東京公演とは違い、シャツは黒色。
そして、その手には……まさかの鍵盤リコーダー!
そう、ニ日前のエイプリルフールにTwitterで彼が上げていた、あの緑の子。
ぎょっとする観客の視線を浴びながら、彼は演奏を始めた。
さくらさくらだ。
ものすごく静かなホールに、鍵盤リコーダーの、ちょっと間の抜けた音色が、とてもよく響き渡る。
この演奏で、一気に場の空気が和んだと思う。
そうして吹き終わるや否や、一度舞台袖に消える角野さん。
一回戻るんかい! とまた観客の笑いを誘った。
胎動
再登場し、今度はマイクを握る。
「こんばんは、角野隼斗です」
声は小さめ。本人もあれ、と手元のスイッチを確認。
「すみません、マイクの電源を入れ忘れておりました」
冒頭から笑いを取る角野さん。
「年度末明けの最初の月曜日と言う、もの凄く忙しいタイミングにも関わらず、来て下さってありがとうございます!」
と挨拶して、再び笑いを取る(笑)。
「今日のコンサートは、Hayato plays Suminoということで、僕が僕の曲を弾くと言うコンセプトになっております。
自分の作った曲を人前で弾くのは、どうも自分をさらけ出すみたいで恥ずかしい所があるんですが、ファンの皆さんの前だったら良いかなと思って、演奏することにしました」
と続けて、二曲目の演奏がスタート。
耳馴染みのある、流れるようなフレーズから始まった。
胎動だ。
あくまで私の受けた印象だが、これまでの演奏と比べると、低音の迫力が増していて、力強い。
その上で、高音が眩いばかりに光り輝いている。
彼の芯の強さ、前を向こうとする意志が伝わってくるような音色だった。
ルマンドワルツ
大猫のワルツ
「この後は二つのワルツを弾きます。ルマンドワルツと大猫のワルツ……(拍手が起こる)
控えめに拍手を頂きましたが……(拍手が大きくなる)ありがとうございます(にっこり)。
ルマンドワルツはルマンドのCMに使われている曲で、コンサートで演奏するのは初めてです(再び拍手)。
大猫のワルツは、知っている方もいるかと思いますが、実家の猫のプリンちゃんにインスパイアされた曲です。
プリンちゃんは、太っているんですが、その割に動きが俊敏で、動けるデブ(愛情を込めて述べていた感じでした)みたいな感じ。
そんなプリンちゃんをイメージして作った曲です。
では、聴いて下さい」
ぱっとMCを終えてから間髪入れずに始まった演奏。CMでお馴染みのメロディを軽快なタッチで奏でる角野さん。
ルマンドワルツだ。
ホールの雰囲気は、パリのサロンに変わったかのよう。(行ったことはないので、あくまでイメージである)
中盤からはCMではカットされていたであろう部分なのだが、この演奏が本当にお洒落で素敵だった。
モネのタッチで、ショパンやリストが活躍した頃のサロンコンサートを描いたようなイメージで、音の一つ一つが色鮮やか。
……自分の語彙が少なくて、言葉に上手く言い表せないのがもどかしい。
例えるなら、前半はサロンでピアノの演奏を楽しみながら、お茶を飲んでいるだけの状態だったのが、後半はテーブルに沢山の茶菓子が美しく盛り付けられ、ピアノの周りには他の楽器もたくさんいて、メロディを奏でている。
流れる空気は薔薇のように華やかに。
それ位の落差はあったように思う。
これは、本当にいつか円盤化して欲しい。
きっと、それが実現したならば、音色が部屋に流れた途端に、その場がサロンに変わると思う。
その様がありありと想像出来る。
そして、みんな大好き大猫のワルツ。
プリンちゃんを思い浮かべながら、愛おしむようなタッチから開始。
いつものように軽快に駆け回るプリンちゃん。
と思いきや、後半アレンジも散見。
途中、トテトテと歩いてみたり。
最後はいつもよりも元気いっぱいに跳ね回って終了。
作曲した彼本人の演奏では、毎回演奏ごとにプリンちゃんが色んな動きを見せてくれて、本当に楽しい。
今宵も実に可愛らしかった。
ティンカーランド
3分クッキング
「僕はピアノの他に、二つ楽器を使った曲を三年くらい前にYouTubeでよく演奏していたんですが……来ましたね」
視線を左側の舞台袖に向ける角野さん。
現れる三人のスタッフさん。
ピアノの譜面台を抱える方。
トイピアノを持って来る方。
赤いピアニカを運ぶ方。
(YouTubeのラプソ演奏に使っていたのと似た色で、もしかすると同じものかも。久々の登場で嬉しくなった)
皆さん、楽器を両手で慎重に、恭しく運び、素早くセッティング。
「この三つの楽器を使った曲で、僕の作ったティンカーランドと、3分クッキングを演奏します」
そう告げると、すぐさまティンカーランドの演奏開始。
ギュンギュンと言うエンジン音が聴こえそうな位、エネルギッシュな弾きっぷり。
彼の中にあるパッションが、指先から伝わって、溢れんばかりの音色になり、客席へと降り注ぐ。
途中、トイピアノのみで弾く箇所はディズニーやくるみ割り人形を思い出すような、そんな雰囲気だったが、全体的にはパワフルな演奏が印象的だった。
そうして、続いては3分クッキングでお馴染みの、あのメロディ。
かつてのYouTubeの演奏を思い出して、とても懐かしい気分になった。
先程のトイピアノの演奏の雰囲気を引き継ぎつつ、次第に演奏は華やかに。
いつの間にか貴族の屋敷にワープして、一流シェフの料理が目の前に並んでいる。
ここまでは、過去の演奏とおおよそ同じだったが、ワープさせられてからの盛り上がり方が、より壮大でかつ華やかになっていた。
良い例えになっているかわからないのだが、貴族の料理が王族の料理へ、更にバージョンアップしたみたいな、そんな感じと言えば、伝わるだろうか。
煌びやかなピアノの音色で彩られたディナーを堪能した後も、プログラムは更に続いて行く。
Happy Birthday to Everyone
「今日、誕生日の方はいますか?」
の問いから始まったトークタイム。
それに、何と挙手された方が!
ホールのみんなから、祝福の拍手が贈られる。
その音が消えると、
「いくつになられたんですか?」
と訊く角野さん。
まさか質問されるとは思わず、驚くその人に
「言わなくて良いです!」
とすぐ続けるお茶目な角野さん(笑)。
「毎日が誰かの誕生日ですよね。それをお祝い出来る曲を作ろうと思って出来たのが、Happy Birthday to Everyone。
一年の月の数が十二ありますが、これはちょうど調の数と同じでもあるんですよね。
それぞれの調で各月の雰囲気を想像しながら作ってみました。
あ、でも、知らない人が聴いたら、今どの月を弾いてるのかわからないですよね……!
今何月ぐらいかもって想像しながら聴いて下さい(笑)。
ツアーの時みたいに電球があったらなぁ……!(会場笑)
まあ、今はないんですけど。それでは、聴いて下さい」
そこから始まる演奏タイム。
YouTubeでお馴染みのフレーズが楽しい。
でも、生だと低音の迫力は段違いだし、あの頃から現在までの進化っぷりが半端ない彼の音色は、より解像度が上がって、各月の景色が色鮮やかな絵本のように、脳裏に次々と浮かび上がって来るものだった。
毎日が記念日で、それぞれみんな愛おしい。
改めて本当に素敵な曲だなと思った。
Human Universe
「次に演奏するHuman Universeは、宇宙をイメージして作った曲です。
この曲と言えば……この前、ツアーでここに来られた方はいらっしゃいますか?(沢山の挙手)
……この話はしようか悩んだんですが、この曲って、最後めちゃくちゃ静かになって終わるんですけど、その時にすごいしゃっくりをされた方がいまして。
いや、生理現象なんでしょうがないんですけど、笑うことも出来なくて……今日はどうか出ないことを祈っております(笑)」
こんなトークの後に、演奏へ。
演奏が始まった途端、ホールが星空に包まれたような錯覚に。
そして、昨日坂本さんの訃報を聞いてから胸に空いていた穴が、何故か急に宇宙と繋がったような感覚に陥った。
そこから演奏と共に脳裏に浮かぶ、様々に移り変わる星々の輝きを楽しんでいるうちに、ある瞬間、かちっと穴が埋まったのがわかった。
色んな音を浴びて、自分の中の何かが満たされたのだと、何故かはっきりと感じたのだ。
何とも言えない、不思議な体験だった。
ちなみに最後、今回はしゃっくりは出ずに無事に終わったので、ご報告まで。
演奏後は曲の余韻に浸るように、最初は落ち着いた拍手だったのだが、ピアノの横に置いていたペットボトルの水で角野さんは吸水しながら、手を自分に向かって「もっと拍手欲しい!」と言うように振って、笑いを取りながら、客席からは改めて大きな拍手が贈られた。
かすみ草
「今放送中のドラマ、わたヒモ(私がヒモを飼うなんて)の曲で、英語ではBaby’s Breath、赤ちゃんの吐息と言うそうで……可愛らしいですよね。
元々はチェロとヴァイオリンが入った曲で、近々リリースされる予定ですが、今日はピアノ一台しかないので、特別バージョンでお届けしたいと思います」
私の聞き間違いじゃなければ、近々リリースと言われていたような。
そうなら、めちゃくちゃ嬉しい……!
と言うのも、一話目のドラマを観た時も思ったし、今日の演奏でもその思いをさらに強くしたのだが、この曲、めちゃくちゃ心に沁みる。
温かく、ほわっとした輪郭の音色が、心の奥深くまで飛んで来て、ジュワッと溶けて沁み入るのだ。
↑少しだけ、Twitterで演奏が聴けるので、是非。
いつしか、視界が涙で滲んでいた。
何て温かくて、優しい音色を奏でる人なんだろう。
奏でる音と、奏者の人柄は必ずしも同じイメージでイコールで結びつくものではないだろうが、彼が作ったこの曲には、その人柄が表れているように私には思えてならなかった。
年度末から年度始めにかけては、目まぐるしい環境の変化に、戸惑う人も多い時期で、例に漏れず、今年の私もその一人。
それを、まあ何とか乗り切れたと思っていたのだが、日々感じていたストレスは、実はまだ心に残っていて、そこに今日の演奏の音が届き、包み込むような優しさを感じて、思わず泣いてしまったのかも、と感じた。
この人に出逢えて良かった。
コロナ禍の始めに彼の音色に触れられたことが、私にとっては大きな救いだったと改めて思う。
奏鳴
「三年前にサントリーホールで弾いてから人前で弾いていなかったのですが、あの当時の僕のすべてが詰め込まれたような曲なので、弾くと、葛藤とかパッションなんかが蘇って恥ずかしいんですよ。
その頃はかてぃんと角野隼斗をどう融合させようか悩んでいて……まあ、今も悩んではいるですけど。
でも、もう三年も経ったし、ファンの皆さんの前なら、そろそろ良いかなと(拍手)。ありがとうございます。
あの頃の自分を思い出しながら、弾いてみたいと思います」
ドーンと迫力のある低音が地響きのように鳴り響いて、演奏が始まった。
YouTubeに演奏が上がったのを観た当時、これはいずれ音楽史に残る名曲になるのでは、と衝撃を受けた記憶は忘れられない。
そうして、三年ぶりに聴いて、その確信を深めた。
彼を知ってから、今までの歩んで来た軌跡を懐かしく思い出すメロディに胸を揺さぶられ、より深みを増した音色に聴き入った。
かつても美しい音であったが、あの頃はくっきりシャープなクリスタルの連なりに、彼の人生がキラキラと反射して見えるような演奏だったとすれば、今日の音色は温度によって形を変える水の如く、音の質感を自在に変化させ、水面に彼の人生が映し出されるような、そんな演奏だったように感じた。
時を経た彼の演奏により、新たな息吹を吹き込まれた奏鳴は、本当に素晴らしかった。
抽選コーナー
カーテンコール後に、「ファンクラブらしいことをしましょうか」と角野さん。
コンサートの半券が入った箱から、五枚引かれた方に、サイン入りのお写真をプレゼント(だったと思う)するコーナーがスタート。
読み上げられる客席番号。
手を挙げた当選者に、一人一人、角野さんからまさかの質問が。
「どこから来られましたか?」の他、「かてぃんチャンネルで好きな曲は何ですか?」の質問も。
これは、いきなり答えるのは難しいかも。
投げかけられた二人は、「全部!」と回答。
もしかすると、好きだと言われた曲をアンコールに弾いてくれるつもりだったのかもしれないけど、私も同じ立場なら全部って言ってたと思う。
アンコール
そうして、アンコールに彼が選んだ曲はトッカティーナ。
会場の温かい空気の中、キレの良い演奏を披露。
途中、指パッチンも入り、溢れるパッションのままにエネルギッシュに弾き切った角野さん。
カッコ良かった……!
その後、カーテンコールを何回かされた後、戻って来た角野さんは、徐にマイクを握った。
「ご存知の方も多いと思いますが……先日、坂本龍一さんが亡くなられました。
僕は彼にいつかお会いして、お話ししたいと思っていましたが、それが叶わなくなってしまいました……今はもう、そんなことを考えていても仕方がないので、僕は彼の音楽を愛して、彼のような人になりたいと思います。
実際に会ったこともない方の訃報で、どうしてこんなにショックを受けるのか……自分でもよくわかりません。
ここからはコンサートのコンセプトからかけ離れてしまいますが……他の誰のためでもなく、自分のために、坂本龍一さんの曲を弾かせて下さい」
所々、声を詰まらせながら、言葉を紡ぐ角野さん。
言葉の端々に、坂本さんへのリスペクトと悲しみが滲み出ていて、聞いていて涙ぐんだ。
ああ、これまで沢山演奏を披露し、時に笑いを取ったりしていた彼だけれど、奥底にはやはり、消えない悲しみがあったのだ。
ここまで弾き切った彼が、最後まで気持ちを押し隠したまたま、コンサートを終えることもきっと出来ただろう。
けれど、この場で気持ちを吐露して、故人を悼みながら演奏する時間を共有してくれたことが、ファンとしては何よりも嬉しかった。
そうして、演奏されたのはAqua。
紡ぐ一音、一音に温もりが宿っている。
坂本さんへの敬意、彼の音楽への愛、悲しみ……色んなものが溶け合った、祈りを捧げるような演奏。
聴いているうちに、嗚咽を堪えるのが大変な状態になる程、泣けた。
かつて彼が出演した情熱大陸のCMで、叫ぶ代わりにピアノを弾くと語っていたが、今日はまさしくそんな演奏だったのではないか。
泣く代わりに、ピアノを弾いているように感じた。
コンサートの最後に、彼が自分のために弾くことが出来て良かった。
演奏が終わった後は、スタンディングオベーションの嵐。
会場の心が一つになったのを感じた。
おわりに
色んな思いが溢れて止まらず、思いの外、長文のレポになってしまった。
まだ胸がいっぱいで、余韻が冷めない。
文章にまとまりがないけれど、一旦ここまでで書くのを終わりにしようと思う。
今しばらく、余韻に浸っていたい。
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