ドン、キホーテ物語 #005
ドン、キホーテはそれを拾つて、
「ああ立派な兜だ。」
といつてよろこんでゐました。
「旦那これは医者の金だらひですぜ。」
パンザはかういつて笑ひました。
ある日、二人は馬にのつて進んでゆくと向ふの方から土煙が立ちあがるのを見ました。
「あれはなんだ。軍隊がやつてくるのだ。」
ドン、キホーテはかういつて大変喜びました。ドン、キホーテは軍隊がこの広い野原で戦ふのだと思ひました。
しかしそれは沢山の羊がやつてきたのでした。
ドン、キホーテは馬に打ちのり、やりをもつてその羊の中へ攻めこみ、しやにむに、切り倒しました。
すると何人もゐた羊かひは怒り出して、ドン、キホーテを目がけて投げつけましたその一つの石が、ドン、キホーテの首の後へあたりました。ドン、キホーテはいたくてたまりませんから、さつそくふくろの中のお酒をとり出してのまうとすると、第二の大きな石がとんできて、ドン、キホーテの口にあたりました。お酒のつぼはこはれてとんでゆきました。
ドン、キホーテはいたくてたまらず馬からおちてしまひました。
この間に羊かひは残つた羊をつれてどんどん逃げていつてしまひました。
それから何日もたつてドン、キホーテと家来のサンチヨ、パンザの二人は森の中へはいりました。何しろ夜のことですから、馬もろ馬もとまつて動かなくなつてしまひました。
それで二人はそのまま眠つてしまひました。
ところがちやうどそこへぬす人が通りかかりました。そして「ほほう。だいぶん立派なろ馬だな。どうかしてのつてゐるものの目をさまさないうちにぬすみたいものだ。」と思つて、四本の長い棒を持つてきて、それをサンチヨのくらの下へ入れだんだん棒を高くして、ろ馬をはなしてしまひました。サンチヨは少しも気づかずに大きないびきをかいてねむつてゐました。
ぬす人はそのろ馬をひいて立ち去りました。
さて夜があけるとサンチヨは、目をさましました。いきなり手をのばすと四本のつつかい棒はばたばたと倒れてしまひました。
サンチヨはびつくりしてしまひました。そして、
「ああ、わしの大事なろ馬をだれがかへていつたんだらう。」
と泣きながらあちらこちらをさがしましたが、どうしてもろ馬は見あたりませんでした。
ドン、キホーテとサンチヨはいろいろ冒険をしながら体もつかれたので、しばらく休むために自分の家にかへりました。
……#006へ続く
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