ドン、キホーテ物語 #004

 ドン、キホーテは長いこと家にゐました。家には太つた心のよい下男がゐました。ドン、キホーテはその下男に冒険の話をしてきかせました。

 ドン、キホーテはこの下男を自分の家来にしてある夜そつと家をぬけ出して冒険の旅に上りました。そして下男の家来にサンチヨ、パンザといふ名をつけました。

 ドン、キホーテはロジナンテに乗りました。サンチヨ、パンザはろ馬にのつてついていきました。

 二人はずんずん進んでゆくと小山のあるところへ出ました。そこからは平野がよく見えました。ふと向ふの方に三四十の風車小屋が立つてゐました。それを見たドン、キホーテは、

「そら向ふを見ろ。あそこにわれわれの戦はなければならない大男がゐるのだ。」

と叫びました。するとサンチヨは、

「旦那、あれは大男ぢやありません。あれはたゞの風車小屋ですよ。」

といひました。

「いや、あれはたしかに大男だ。お前が恐しいといふなら、わしが一つ先きにゆかう。」

 ドン、キホーテはかういつて馬に一むちあて、一散に風車小屋をめがけて走りました。そして大声でわめきました。

「さあ、大男、こちらは騎士一人だがおそれてにげるな。」

 ぢやうどこの時風が吹いてきて風車は急にまはり出しました。

 ドン、キホーテはやりを横にかまへその風車をめがけて攻めかかりました。風車は強い勢いでまはつてゐるものですから、ドン、キホーテも馬から落ちてしまひました。サンチヨ、パンザはドン、キホーテをおこして介抱しました。

 ドン、キホーテにとつて一番悲しいことは大切なやりの折れたことでありました。

 ドン、キホーテは家来のサンチヨ、パンザと色々な冒険をしながらずんずん進んでゆきました。ドン、キホーテは一番先きに戦つた男に兜を切りおとされ耳も半分程切られてしまひました。それでちがつた兜をほかの騎士から取りたいと思ひました。

 ある日、ドン、キホーテは、なにか向ふからくるものをぢつとみつめてゐました。

「パンザ、向ふからくるものは騎士ではないか。兜が光つてゐるではないか。」

 ドン、キホーテはよろこんでいひました。

「わしには何にも見えません。たゞろ馬にのつた人がくるだけですよ。」

と、パンザが答へました。

 ドン、キホーテが騎士だと思つたのは医者だつたのです。

 ドン、キホーテは、いきなり叫びました。

「おい、まてまて尋常に勝負しろ。」

 医者はとび上つておどろきながらろ馬からとび下りて一散に逃げてしまひました。後には医者の持つてゐた金だらひが落ちてゐました。

  ……#005へ続く

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