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損得勘定?そんなの後から考えればいいじゃない。

「フランス政府にパイプがある。裏で交渉してみるよ。」

冒頭の台詞は「シン・ゴジラ」の中で貴重なムードメーカー・泉修一(演:松尾論)のもの。
物語終盤、時間との戦いを迫られ苦悩する巨災対メンバーに対し、何とか時間を工面するために放ったものだ。

このところ、自分がそういう役割(パイプ役)を担うケースが多いな、と感じている。
勿論、それが会社の利益として還元されれば一番いいのだが、世の中そう甘くはない。

ちなみに自分の中では、一応の棲み分けをしている。
簡単な話だが、「その人の役に立ちたい」と思えるかどうか。
そこに尽きる。損得勘定なんて後で考えればいい。

さて、今日も東奔西走。
そんな中、ある記事を読み、その考え方に間違いはない、と確信した。

【ミカド店長イケダミノロックの業務日誌】
JAEPO2019奮闘記(その3)


有料配信記事なので、誰もが読めるものではないが、どうしても触れておきたかったので、かいつまんで記載したい。

まず、ミカドとは、店長イケダミノロックとは何ぞや?という方も多数おられるだろうから、その説明から。

ミカド、というのはゲームセンターの屋号のこと。
高田馬場ゲーセンミカド、という名前はなんとなく見聞きしている方もおられるだろう。

海外のゲーマーからは「世界一有名なゲームセンター」とも称され、ゲーム好きの外国人にとっては、日本に来たら必ず寄りたい「聖地」のような存在だ。
NHKの「ドキュメント72時間」でも取り上げられた場所なので、「あぁ!あのゲーセンね!!」という方もおられることだろう。

ご存知のとおり、アミューズメント施設…いわゆるゲーセンは、年々その数を減らしている。

ゲーム開発にかかった費用をメーカー側が回収するため、ゲーム筐体自体や基板(要はゲームソフト)が高額になっているのは言うに及ばず、ネットワーク通信前提のゲームであるため、それに伴う手数料(言い方は悪いが、実質的には「上納金」)も別途発生するのが当たり前となりつつある。

しかし、店舗が客を呼び込むためには新しいゲームを導入せねばならず、また、維持していくためには、色々な費用徴収も飲まざるを得ない。

更に厳しいのが、1970年末期の「スペースインベーダー」ブームの頃から続く、「1プレイ100円」という暗黙の料金設定だ。
約40年にわたって、ゲームのプレイ料金設定は、物価の変動がまったく反映されていない(一部例外もあるが)。

そこから施設の賃料、ゲーム筐体の代金、維持費、光熱費、人件費、消費税を工面しなければならない。これはもはや、現代の日本では成り立たないビジネスモデルだ。

事実、「老舗」と呼ばれ、親しまれたゲーセンの数多くが、ここ10年で閉店を余儀なくされてきた。
中には、施設の老朽化といった外的要因もあったが、いずれにしても、儲かっていなかったであろうことは想像に難くない。

しかし、高田馬場ゲーセンミカドはその状況を逆手に取った。

家庭用ゲーム機とアーケードゲームとの間に、劇的なまでの性能差が存在していた'80〜'90年代、ムーブメントを起こしたアーケードゲームの名作・佳作・珍作をメインに据え、そこに、今の時代だからこその広報宣伝手段である「webでの動画配信」を毎日のように行った。

その動画は、対戦格闘ゲームのトーナメントに限らず、シューティング、アクションなどで1コインクリアーを目指すための攻略配信、果ては銭ゲバ配信(大人の財力にモノを言わせて、激ムズゲームを実費でコンティニューしまくってクリアーするというイベント)、アイス早食い大会(!?)など、色々なバリエーションがあり、とにかく観ていて飽きない。

また、有志による初心者向けのフリープレイ&レクチャーイベント、更には定額(条件によっては無料)で、店舗内にある大半のゲームがプレイし放題となる定期イベント「ミカド大感謝祭」などなど。

間口を拡げる施策も行うことで、かつてゲーセンに通っていた世代、また「ゲームセンターCX」をはじめとするレトロゲームコンテンツにより、昔のゲームについて興味を持った若い世代が「よし、ミカドに行ってみよう!!」と足を運ぶのだ。

我々の記憶にあるゲーセンの姿が、そしてあのゲームたちが、そこには現在進行形で存在する。

他のアミューズメント施設との明確な差別化、そして新規顧客を取り込むための動画配信やイベントの実施。
そこには場を盛り上げるため、ミカドのスタッフや常連(通称:ミカド勢)が実況と解説を行う。しかもほぼ毎日、何かしらのゲームで、だ。

聞けば簡単なことかもしれないが、数多くの老舗ゲーセンが消えゆく中、そこへ勝負の舵を切ったのが、イケダミノロックこと、ゲーセンミカドの店長であり、株式会社INHの代表取締役社長・池田稔氏だ。

昨年末には、池袋に新店舗がオープン。
更に高田馬場で、もうひとつ店舗をオープンをするという告知も。
不景気の終わりが見えない今の日本、特にアミューズメント業界に於いて、これがどれだけ凄いことか、多少なりとも伝われば幸いだ。

そんなゲーセンミカドの歴史の中で欠かせない人物がいる。
ライター、編集者であり、小説家でもある、大塚ギチ氏だ。

「エアガイツ仮面」といえば、ハッ!となる人もいるだろう。
あのルポも、大塚ギチ氏によるもので、ミカド主催のトークイベントでは、企画や構成を担う大きな存在だ。

その大塚氏が昨年、くも膜下出血を発症、更に、倒れ込んだ際に頭を強打し、頭蓋骨骨折、意識不明の重体に陥った。
その後、奇跡的に意識が回復、快癒に向かっている…とはいえ、とても以前のような働き方が出来るような体調には程遠く、大塚氏が代表取締役を務めていた有限会社も倒産せざるを得なくなってしまった。

そこで先のイケダミノロック店長の日誌である。

会社を畳むためには、あらゆる手続きが必要となる。しかし、まだ病気と怪我から回復の半ばにある大塚氏には、精神面、金銭面いずれに対しても、大きな負荷となってしまう。

それを受け、管財人との打ち合わせの場に同席していたイケダミノロック店長が、大塚氏のオフィスにある備品すべてを買い取り、廃棄を負担することで、事務所だった物件を少しでも早く手放せるよう取り計らったのだ。

そこに記されていた言葉こそ、冒頭の「損得勘定なんて後で考えればいい」、そして「その人の役に立ちたい」そのものだったのだ。

人間、損得勘定だけの関係ほど虚しく脆いものはない。
最終的にモノを言うのは、殺伐としたこの時代であっても、結局のところ、義理と人情だと思う。

精神論や死生観を語る気はさらさらないが、この年齢になって、そういう関係性こそ大事にしなければならないし、いざというとき、何物にも代えがたい輝きを放つ。

ああ、心に愛がなければ、スーパーヒーローじゃないのさ。
(「キン肉マン Go Fight!」)

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