スクリーンショット_2019-06-18_2

【デッサン講座】デッサンにおけるキャズムとは

こんにちは。
元・武蔵野美術大学空間デザイン学科のChang / 悠です。
僕であり私は、今はデザイナーとして修行をしているのですがその傍らイラストレーターや、アーティストとして活動しています。
一応、どんな絵を描いているか紹介。(・_・)

鉛筆画をメインに、ペン画やiPadをつかて絵を描いています。
受験生の時のデッサンはこんな感じ。

最近、スキルシェアである方に絵を教えさせてもらってるのですがそこで「自分としては普通なこと。だけど他人から見たら異常なこと」がいくつかあったので、デッサンのやり方を通して私たち美大生(だった人)がどうものを見て、描いているかをお話ししたいと思います。
前提として、アートとデッサンの違いは、とてもグレーゾーンですがあえていうとすれば、

●アート
現象を写すのみではなくその人個人の感情や思想を絵にのせたものであり、コミュニケーションの手段。

●デッサン
現象を忠実にうつしとり、質感や色が伝わるように描くもの。主に受験や絵画のスキルアップのための手段。

とでもしておきましょうか。そして今回話すのは、「デッサン」についてです。※詳しく調べたわけではないので、意見があればコメントなどで教えてください。🤕


余談ですが、
デッサンは、数学の微積分にとっても似ています。
起きている現象を細かく分解して、一つずつ紐解きながら、その小さな現象の一つ一つをパズルのようにつなぎ合わせて絵として一つにまとめてアウトプットする、微分と積分の関係にとても似ています。今絵を教えている人にそれを話したら、すぐに理解してくれて天才なんじゃないかと思いました。

こんなことを授業中に考えていたから理系なのに数学のテストは3点だったんですね私は笑
何が言いたいかというと、「絵がうまいのは、殆どがセンスではないよ」ということです。一つ一つ小さな現象をちゃんと見て、それをしっかり伝わるようにアウトプットできているかが大事なんです。そしてそれは回数を重ねれば誰でもできるようになるということです。センスの原石は皆何かしら持っているんです、絵描きにとっては、そのセンスをシュッシュと磨いていく作業の一つがデッサンです。エンジニアであれば、それは早く正確にキーボードを打ち込むとかもしれないし、サービス設計者でれば色々なサービスのビジネスモデルやUIをみることかもしれないし、音楽家であれば、音程をブラさずに美しい音色を保つことかもしれないし、サッカー選手であれば体力づくりをしながら他のプレイヤーのプレイを分析することだったり。

このデッサンの仕方のシリーズを通して少しでも、モノ・現象の見方や、美大生が普段意識下ないし無意識下で何をしているかなどを知ってもらえたら嬉しいです。

⑴デッサンにおけるキャズムについて
⑵デッサンのやり方
2-1 デッサンに必要なもの
2-2 構図を決める
2-3 なんとなく形をとる
2-4 影を入れる
2-5 エッジを立たせる
2-6 光を入れる
2-7 環境を作る

⑶視るスキル
3-1 どうものを見ているか

⑷描くスキル
4-1 鉛筆の使い方
4-2 練り消しマスター
4-3 光と影の魔術師になる
4-4 環境をおざなりにしてはいけない

今回は、⑴のみをまずはまとめてみました。


⑴デッサンにおけるキャズムについて


まず、前置き的なお話を一つ。
「デッサン」ひいては「描く」という現象について。

私は、目の前に起きていることを全て基本的には「現象」と呼んでいます。というのも、全ては存在、はたまた、そう「視える」だけの現象でしかないからです。リンゴは赤いですよね。でも色は吸収しきれない色を反射させて視覚情報として我々に伝達してくる。だから本当はリンゴはミドリかもしれない。何の手助けもなく自分の知識のみで言える決定的なことはと言えば、「そこにリンゴがあって、それは赤色である」みたいな、そんな現象なんです。解像度が高いお話かもしれないですが、人の脳の仕組みなどを考えても、確かなものというのはきっととても少なく、曖昧な現象のみが存在していると、少なくとも私は世界をそうみています。

そして、デッサンは、現象を視て、描くという大きな流れがあります。私なりの解釈ですが、現象を「視る」こととそれを「描く」ことの間には大きな溝があ流と思っています。IT業界にいるのでその用語を使わせてもらえば、キャズムです。
視ることと描くことがどういうふうに分かれているのかというと、

●視る
それがどんな質感なのか、硬いのか、柔らかいのか、色は、影はどう入り込んでいるか・どう重なり合っているか?など現象を細かく頭の中で分析して噛み砕き、理解すること。何枚も描くことでの慣れ・観察眼の磨きが大事。

●描く
理解したものを、絵としてアウトプットすること。
鉛筆や練り消しなどの使い方や、線の引き方、グレースケールの表現の方法、質感・色の表現方法など描くためのスキル的な面。


多分、視ることには多少慣れている人の方が多いのではないでしょうか。水はトロトロしてて、透明で、光が流れに沿って反射しているとか、透けているよねとか。バラの花びらは、赤くて柔らかそうだけど、鉄パイプは光をキラーン!と反射させていて、写り込みが強く、硬そうだよね、とか。
普段意識してなくても、なんとなく「そういうもの」というイメージはつくと思います。
対して、描くことはあまりないのではないでしょうか。美大生だったり、デッサンが好きな人じゃなければなかなか鉛筆を持って、画用紙を買って、描く人はそうそういない。一般の人にしたら、こちらの方がなじみが薄いかもしれません。


さて、少し想像して見てください。
あなたは今、実際に手に鉛筆を持ってりんごを描こうとしています。
まずあなたならどう描き始めますか?
輪郭をとる?そこから赤だから塗りつぶす?
もう少しよく見て見ましょう。りんごの表面には小さい黄色のつぶつぶがありますよね?もしくは黒のすじのようなものが。
また、茎のある部分の近くは色が黄緑っぽかったり、完熟していてもくぼみがあるので若干黒みがかった赤だったり、若干土のようなもので汚れていたりしますよね。
もう少し離れて視ると、光源に近い部分は薄い赤で、反対側はそれより濃い赤で、さらには地面に近い部分の面は少し光を持っていますね(これは地面の反射による光で明るくなっています)。それに表面はツルンッとした丸ではなく、ボコボコとうっすら凹凸がある。光源がいくつかあるから、床に広がった影も複雑に伸びています。
ちゃんと視るだけでも、意外と、たくさん発見することろはあるんですよね🍎🍏

さぁ今あなたは改めてちゃんとりんごが視えました。実際描いて見ましょうか。
そうすると、あれあれ、、おかしいな、想像してたんとちゃう。。
これは私も今でもよくあります。笑
頭で理解していても、アウトプットしようとするとおかしくなってしまう。上手く表現できない。水中で歩くように上手く前へ進みません。

リンゴの形ってまるじゃないやん、どう描いたらいいんだ?
光とかどうやって入れるの?この表面のつぶつぶ、描くのダル!?

とかとか。で、実際カキカキしたものを見ても「なにか違う。。私(僕)は絵が下手だ。。」ってなってしまう。

これが、私がいう「視る」ことと「描く」ことの間のキャズムです。
形は比較的取りやすいのですが、陰影や、質感や、色などの、その物体が持つ「らしさ」はかなかな最初からグレースケールで表現できる人はいません。
デザイナーが本を読んで理解した気になって、実務で全然アウトプットが出せない時と一緒です。(自分が痛いほど経験しております🤮)
それはなぜかというと、実はただ描写の仕方を知らないだけです。実は私たち絵描きがデッサンをするときは無意識に、鉛筆の使い方や、ハイライトの入れ方、影の付け方、色々なスキルを使っているのですが、できた絵を見てもそれは傍目にはあんまりよくわからないんですよね。正直いつも無意識で描いているので、私も最初今の教え子に指摘されるまで自分の描き方を振り返ったことなどありませんでした。
鉛筆を寝かせて描くとか、立てて描くとか、B系とH系の使い分けとか、実は色々なテクニックを使って私たちはデッサンしています。

頭で思ってても、うまくできない。これはきっとどんな職業でもあると思います。概念は理解しているんだけど、いざサービス設計になると変数がたくさんあってどこをキメにするか、キメにしたらしたで不安になったり、デザイナーの知識としてHIG(Appleが出している公式デザインガイドライン)は知っていても、実際サービスのデザインをするときは、色んなイレギュラーが発生してそうもいかない、とか。

あと、そもそも「りんごは赤い」とか「硬そう」とかそういう現象は頭の中で理解していても、それをどう描けばいいのかわからない場合もあります。赤い、を何を基準にして赤をグレースケールで描けばいいのかわからない、みたいなね。

キャズムがなぜ生まれるかというと、頭で考えていることをいい感じにアウトプットするスキルがまだ低いからです。デッサンにおいては、アウトプットする際にはしっかり、目の前の現象を鉛筆を使って再構築できていることが大事です。つまり、逆に言えば、そこのスキルさえつけば、相手に合わせて伝えたいことを伝えられたり、リンゴをよりリンゴらしく描くことができるんです。絵が上手くなくても、なんとなく味のある絵を描く人がいますよね?きっとそういう人はそのあたりの仕組みがなんとなく、上手くいってる人だと思います。ただ、僕の悔し紛れのセリフとしては、そういう人がデッサンのようにしっかりと現象を書き込めるかというと、そういうわけでもないというのを体感しています()。


この「視る」と「描く」のキャズムを超えるには
「たくさん視て、たくさん描く」
こと以上に近道はないです笑 デッサンの上達にチートはありません。。ただ、一つ一つは蜘蛛の糸のように絡み合っているので、きっと一つずつ習得していくとすぐに上達していくと思います。
実際に今教えている方も、少し教えただけでいきなり上手くなっていて底知れない魔力を感じています😈
少しずつ描き方・視方を掴んでくることで、今までできなかったことや視えなかったものがどんどん視えてくるようになり、デッサンも楽しくなるし、モノや現象について色々な発見を見つけられるようになって毎日がすごく楽しくなるのでこの「ちゃんと超えられる」キャズムをこれから説明するやり方を参考にしてもらいながら、しっかり超えていきましょう。

次回からは具体的に描いていきながら、デッサンのやり方を紹介させていただきます😀

PS
これを描き終えたところでゴキブリが出ました。泣きそうです。