トライアングル

 やはり一回観だすと、堰を切ったかのように映画観るようになってきた。そんな中で視聴した表題作。低予算のB級らしいが、とにかくプロットラインが良く練られている。

あらすじ:自閉症の一人息子を持つシングルマザーのジェス(メリッサ・ジョージ)はウェイトレスをしている職場の客グレッグ(マイケル・ドーマン)に誘われて、彼の友人たちとヨットセイリングへと向かう。本当なら息子と一緒のはずが、一人で現れたジェスは動揺し疲労困憊していた。
 というのも、出発前にお絵描きをしていた息子が絵具をこぼし、床が青くなったのだが、普段と違う状況を恐れる自閉症特有の息子のパニックを抑えながら掃除するというので、セイリングに着て行こうと思っていた一張羅のドレスも青く汚れてしまったりなど散々あったからだ。
 それでも息子を優しく抱きしめて「これは夢だから、もう何も怖くないから」と安心させるが、セイリングに現れたのはジェス一人。
 そんな中、彼らの乗っていたヨットが無風で完全に動きを止め、また唐突な暴風雨で転覆してしまい完全に動力が無くなり、海を漂っているところに「アイオロス号」という豪華客船が現れる。
 人影は見えるがクルーの姿はなく、それでも彼らは助かるために乗船するも、ジェスだけが嫌な予感を覚え躊躇する。それでも、大海に一人で助かる希もなく乗船。しかし、ジェスはこの船には見覚えがある違和感をずっと抱き続ける。
 誰かいないか船内を探し回る一行だが、誰かが着けてくる気配はあるのに誰にも会えずにいた。そんな中、物音がしたので必死に向かうと通路にはキーケースが落ちており、確かに誰かがいることは間違いなかった。
 しかし、そのキーケースを見たジェスは驚愕する。それは自身が嵐で失っていたキーケースと全く一緒だったのだ。謎が深まる中、覆面をつけた人物が現れて一人、また一人と一行を殺していく……。

 あらすじと書きながら完全な冒頭のみ。以下ネタバレあるので閲覧は自己責任で。

--ネタバレあり--

 この映画は俗にループ物と呼ばれる、人が同じことを延々と繰り返す物語を描いている。で、最初に書いた「良く練られている」というのはこのループの中身。
 一行は向かう先々で鏡に血で書かれた「シアターへ行け!」などのメッセージを見つけたりするんだけど、誰がなんのためになどの情報が一切開示されておらず、「え、どういうこと?」と煙に巻かれる感じで進む。
 覆面を被った人物がジェス一人を残し全員殺害に成功するも(このとき撃たれた人物は口をそろえて「ジェスに撃たれた」と証言する)、ジェスはこの人物を撃退し海へと落とすのに成功して(このときこの人物が「助かりたいなら彼ら全員を殺せ!」と言いながら海に落ちていくのも謎)、逆境を逃れたようになるのだが、それで終わりだとこの謎が未消化で「なんだこれ」ということになりかねない。
 が、この映画はここからループ物の真骨頂ともいうべき手管となる。謎の人物を撃退してほっとしているジェスの耳に、助けを求める叫び声が聞こえてくる。何事かと海面を見ると、殺されたはずの一行が船に乗り込んだときと同じように転覆したヨットから手を振っていた。むろんそこにはジェスの姿も。
 訳が分からないまま、もう覆面の謎の人物に彼らを殺させはしないと、新たなジェスと鉢合わせしないように、彼らを船から降ろそうと説得を試みるが、殺されるからと支離滅裂なことをいうジェスをみな不気味がる。
 それでも先ほどとは違いジェスも覆面の人物と同じように船に備え付けのライフルをみつけ、覆面の人物への反撃なども先ほどよりも早い段階で成功するが、やはり覆面の人物によってジェス以外は全員が殺害される(ただし殺害場所も方法も前回とは違うので、ループは解けたかのようにも思える)。
 助けようとしたのにと落胆するジェスの耳に、助けを求める叫び声が聞こえてくる。なんと海面には殺されたはずの一行が船に乗り込んだときと同じように転覆したヨットから手を振っていた。
 そう、ループの条件が「全員が殺されたとき」というもので、それで全てを悟ったジェスは、乗り込んだ全員を殺害すればまたループが始まるので、次こそは彼らを船に乗せずそのままヨットで漂流させれば誰も殺されないと決意し覆面を被るという流れ。
 で、最初のジェスが体験したのと同じ方法で仲間たちが殺されていき、覆面のジェスも最初と同じように新たなジェスに撃退され海へ落とされる。そのとき、助かる方法を新たなジェスになんとか伝えようとする。

 覆面の人物が実はジェスってのはある程度早い段階で分かるようになるのだけど、それでも唐突に殺害側に回るなんてことには納得しがたく、そこをループを何重にも積み重ねることで心情に変化を持たせる演出は見事。
 またこの段階で謎としてあった「シアターへ行け」のメッセージや、被害者がジェスに撃たれたとの証言、ジェスが撃退した覆面の人物が海に落ちるとき「助かりたいなら彼ら全員を殺せ!」の意味などがピシッとつながるという仕組み。これは見事だなぁと唸った。

 で、この映画凄いのここから。映画の始めから視点人物として描かれるジェスは一人で(ループのたびに新たなジェスが出てくるのでややこしいが、カメラが追っているのは絶えず一人)、このジェスは今回覆面を被って海に落とされた側。
 で、砂浜で目覚めたこのジェスは、戻れたのかと喜び勇んでヒッチハイクで我が家へ向かう。そこには、一張羅のドレスを着た自身の姿が。息子の様子を確認しようと窓に近づくと、さっきまで目の前にいた母親が窓から覗いているのに驚いた息子が青い絵具を床にぶちまける。
 それをみつけたドレス姿のジェスは「この糞ガキ!」と息子を殴打。そう、息子に会いたいという思いだけが船内での殺し合いでの唯一の希望であったジェスは忘れていたが、自身はDV母だったという事実。
 しかしそんなことはもう許せないジェスは道具箱よりハンマーを取り出し、ドレス姿のジェスを殺害。母親が母親を殺害している姿を見て動揺する息子を優しく抱きしめて「これは夢だから、もう何も怖くないから」と安心させる←冒頭であったシーン。

 そのあと、殺害した自身を車のトランクにつめて息子と逃げようとするも、運転中にフロントガラスにカモメがぶつかりまた息子が動揺。息子をなだめながら、カモメを砂浜に埋葬しようとすると、そこには夥しい数のカモメの死骸が(実は船内でのループでも、殺された人物がずっと溜まってたりしてた)。
 まだループから抜け出れてないのと不安に思ったジェスが車に戻ると、トラックと激突して車が大破。トランクから投げ出された死体のジェスと、同じく事故で亡くなった息子の姿がそこにはあった。
 呆然とするジェスはタクシーでヨットハーバーへと行き、疲労困憊したていでグレッグと会う。

 そう、もうありとあらゆることがループになっていて、ジェスが息子を連れてこなかった理由であるとかも最後で分かるようになるという演出。なぜヨットハーバーに来たかというのも明確で、事故で息子を失ってしまったので、息子を取り返すにはもう一度セイリングに出て、アイオロス号でのループを繰り返し、覆面を被った段階で海に落とされて自宅へ戻り、次は事故に巻き込まれないようにするのが息子を取り戻す唯一の手段だから。
 少し気になるのはこの段階でのジェスは先ほどのループをどこまで理解してるのかってのがあるのだけど、これも最初の方で疲労困憊で寝てる間に「怖い夢」というような感じの演出あったので忘れていると匂わせてはいた(船に見覚えあるのとかも)。

 これは小説で書くのとても難しいだろうな。叙述トリックの極みというか。あと、主人公ジェス役のメリッサ・ジョージがいちいち色っぽかった。

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内藤万博

映画評 No.2

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