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嫌なお客さんの仕事、どうする問題

例えば、やっかいなお客さんがいるとする。
(これは実在のお客さんの話ではありません。)

いつも無理難題を言ってはスタッフを困らせる。そのお客の担当になると皆、精神的に不安定になる。

お客さんに悪意があるわけではない。ただ、性格的に問題がある。相手のほうが立場が上だという認識があるのだろうが、無理難題を言うのが当たり前だと思っている。

しかし、そのお客さんからの売上や粗利は非常に大きく、会社も依存しているとする。

やっかいなお客さんだからといって取引をやめると、会社にとっては大きいダメージとなる。そのお客さんが業界にも影響力を持っているとさらにやっかいで、仮にお客さんとの取引で下手をこくと、その業界での評判にもなりかねない。そうなると、会社としては存続さえ危ぶまれるような危機に陥る可能性だってある。

お客さんには何度も交渉を行い、事情を説明し、根気強く取引内容について改善してもらえるように働きかけをしてきたが、一向に態度は変わらない。

さて、こんなお客さん。経営者はどう対応するか?

ちなみに、ボクは「嫌なお客さん」とは付き合わないというポリシーには全面的に賛成できないところがある。

もちろん「嫌なお客さん」と付き合わずに済むならそんなにありがたいことはないかもしれない。でも、「嫌なお客さん」と付き合わないというポリシーが行き過ぎると、ちょっとでも摩擦があると、それで関係をつくっていくことから一歩身を引いてしまうという、かなり消極的な対応につながりかねない。人間関係でもそうだけど、摩擦を避けて避けて、自分のことを理解してくれる人たちだけとつるんでいるだけでは、やはり成長がないのではないか。摩擦を通じて、自分の未熟さを知ることもあるし、自分の強みを学ぶこともある。自分の言葉を理解してくれない人に対して働きかけることも成長のためには必要なんじゃないか。なので、相手が嫌なお客さんだから、付き合いをやめよう、という発想にはならない。

ただし、それも限度がある。このお客さんの場合は、対応した従業員は大半がメンタルをやられ、どんどん疲弊していく。

こんな時、経営者はどういう判断をしたらいいのだろうか?

お客さんとの取引を断ることで。そのお客さんに振り回されたり、精神的に大きいダメージを得ていた従業員はそれは幸せだろう。

しかし、それで会社の経営が危うくなったらどうなるのか。それはそれで多くの従業員を不幸に陥れることになるだろう。

そのような厄介なお客さんに依存しなければ、会社が成立しなくなっているということ自体が経営の問題というのが真実だろう。

つまり、そのような状況を作らないようにすること、これが経営の意思でもあるんだろう。そういう状況に陥ってから抜け出すには相当な覚悟と決断が必要だから。そうならないようにしないといけない。

三越の仕事を断ったヤマト運輸の話

昔、ヤマト運輸はそういう決断を行った。B2Bの運輸事業がら個人向け宅配事業への転換だ。

もともとヤマトは三越、松下電器などの大会社の専属配送業者だった。三越や松下に依存していれば安定はしている。しかし、楽ではない。

発注側はお殿様となるので、相当な我がままや無理に振り回される。三越などは閑散期と繁忙期がはっきりするので余計に厳しい。繁忙期のために閑散期の赤字を耐えるみたな構図ができてたろうことは容易に想像がつく。

三越は岡田社長時代にヤマトに対して相当な無茶を言ったようだ。「三越の荷物を三越の倉庫から積む際に駐車代を払え」「高額な絵画を買え」など、完全に上から目線の無茶な要求を繰り返していた。(このへんの話は「小倉昌男 経営学」に詳しい)

最終的には当時のヤマトの社長小倉さんは最大取引先であった三越に取引中止を申し入れ、個人向け宅配ビジネスという前人未到のビジネスに取り組み、今のヤマト運輸の基礎を0から作り上げた。

今でこそ、個人宅配事業はいろいろな運輸会社がはじめているが、当時は郵便局以外では皆無、民間では絶対不可能と言われたビジネスだ。

三越との取引中止を申し入れた際には、社員がすごく喜んだ、みたいな話が書いてある。三越という頭の上がらない大取引先の呪縛に従業員がどれだけ苦しめられてきたのかがよくわかる。そして、完全に取引を停止して退路なきところにまで追いつめたからこそ、社員が一丸になって個人向け宅配事業に取り組めたということだろう。

ヤマト運輸の場合は、三越との取引停止申し入れの前に、個人向け宅配事業の可能性について小倉社長が徹底的に考えていたということがある。役員の誰一人も小倉さんが考えている事業の可能性を理解していなかったようだが。

小倉さんには勝算があった。個人向け宅配事業の成功のためのポイントを理解していた。初年度はとてつもない赤字を計上し、周りの誰もが個人向け宅配事業はやはり無理だと諦めかけていたが、小倉社長だけは違っていた。

随分、脱線しているが、ボクはこのヤマト運輸の話がすごく好きだ。またヤマトが個人向け宅配事業に進出するときにとった様々な戦略、施策はマーケティングの教科書といってもいいほどで、ここには経営のあらゆる要素が詰まっている。

だから「小倉昌男 経営学」はボクの熟読本の一つなのだが、やはりいくらすり切れるほど読んでも、ボクが小倉社長のような大胆な発想と決断ができるかというと、当たり前だができない。

上の例の「嫌なお客」がヤマトにとつては三越だったわけだけど、まったく違うビジネスを志向することで、ヤマト運輸は三越の呪縛から逃れることができた。自らの意思で逃れた。これは凄いことだ。
(昨今では、Amazonがヤマトにとっての「嫌なお客」だったのだろうか。ヤマトはAmazonの配送から手を引いた。それだけが原因ではないとは思うが、しかし、最近のヤマトはかなり苦しそうでもある)

嫌なお客さんと付き合わないで良い状況をつくること

嫌なお客との取引で従業員を犠牲にしたくないなら、そういう状況を作り出さないようにすることが、まず第一だ。

そういう嫌なお客さんに頼らずともすむようなマーケティングプラン、ビジネスのストーリーをしっかりと組み立てること。

これは「嫌なお客」どうのこうのの前に、経営のリスク管理として求められることだ。特定の仕事、お客さんを断ることができない状況、そのものが、経営的にはリスクが高い状態と言える。

例えば、発注者の大手から毎年のように値引き要求される。断ることができない。そんなことに頭を抱えてる中小零細企業は少なくはないと思う。でも、こういう状況は、その仕事が断れない状況になってることが、そもそも問題だということだ。

そういう状態に陥らないようにするには、ある種、経営の意思が試される。なぜなら、こういう状態は、短期/長期で考えた際、短期のメリットを優先しすぎていくと陥ることが多いからだ。依存度の高いお客さんが出来てしまうのは、そのお客への営業が他より効率的だったということが殆どだろう。そうすると、たとえ今は非効率でも、たとえ、短期ではそのお客さんの仕事がバラ色だとしても、トータルとして捉え、長期の視点も併せ持って、そのお客さんとの仕事にブレーキを踏むことだって必要かもしれない。あえて、他の直ぐに売上に繋がらないようなお客や市場にトライするべきかもしれない。

でも、仮に、今の状況で、そんな嫌なお客さんがいる状況だったら?

深く考え、1つ1つの疑念を潰し、自分が信じるに足りるプランを作るしかない。ヤマト運輸がそうしたように。そのお客さんへの依存度が高ければ高いほど、そのお客さんに頼らずに生きていくためには、今までとは違うビジネスを作る必要があるだろう。ビジネスプラン、ストーリーができたら、一気呵成にそれを実行に移す。そこには様々な困難が待ち受けているだろう。だから従業員にも協力してもらわなければならない。自分たちが、嫌なお客から逃れ、自らが主導権を持ったビジネスをやっていくためには、この艱難辛苦を乗り越えようと。

(この記事は、2008年9月に自身のブログに投稿したエントリーをnoteに再編集して移行させたものです)

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