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退屈を呑む蛇

派手な銃撃戦は無い。組織の抗争も外地球人との触れ合いも。そういったC級以上の依頼は俺達まで降ってこない。俺達が請けるのは日々の些事。

路地裏へ逃げ出した男にタックル。ビルの壁から落書きの横綱が見下ろしている。俺達の手の届かない位置にいる神格のイコン。

超巨大都市から溢れていく小さな悲劇。求められて応えるささやかな暴力。事務的に行われる当たり前の手続きとしての、復讐や制裁の依頼は絶えない。

起き上がろうとする鳩尾に踵を踏み込む。俺の頭に埋め込まれた制御チップが余計な感情を抑え込み、醒めた心でそいつに跨る。こいつは浮気がバレて妊婦を撃ったクズ、だがこれから起こることにそれは何も関係ない。

日雇いの仕事とルビーの一欠片に満たない報酬。それらを丸呑みにする俺達始末屋にはお誂え向きの仇名がある。

振り上げたナイフは牙に似て、音も立てず獲物の胸へ深々と突き刺さった。

俺達はパイソン、退屈を押し付けられている。【続く】

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