おっさんの茶室探訪 - 名曲喫茶ライオン
おっさんは日々現実を生きている。それらの現実は仕事だったり家庭だったり、健康問題だったする。
それらの現実の多くはおっさんが努力の末に勝ち取ったものだ。だから、現実というものはあってよかったものなのだ。
なんにも現実がないというのは、それはそれで辛い。朝、目が覚めても布団から出てくる理由がなくなってしまう。
でも、あまりに現実が充実してしまうと疲れてしまう。仕事がノってきたと思ったらいきなり体調崩す人がいる。本人は自分はノッてるはずなのに何故だと思うけれど、現実が充実すると疲れるのだ。
現実が充実してきたおっさんにはそんな現実から逃避できる時間が必要だ。そんな時間を提供してくれるのが茶室である。
それは茶道の茶室とは限らない。とにかくおっさんに現実逃避の時間をくれればそれでいい。おっさんには茶室が必要だ。
私も一人のおっさんとして、そんな茶室を探している。
おっさんの茶室探しとして渋谷の名曲喫茶ライオンはぜひとも行ってみたいところだった。城東地区を生活圏とする私にとって渋谷は面倒な場所だったが、思い切って行ってみた。
最高だった。
渋谷の円山町の怪しい路地を入っていき、お店に入るとまず目に入るのは巨大なスピーカーが正面にそびえ立っている。
たまたまその時かかっていたのはラヴェルのレコード盤だった。座って、コーヒーを頼んで、ぼーっと座っていると曲はクライマックスに入っていった。
若干割れるような音。そうか、レコード盤で聞くとこんな感じになるんだ。
このクライマックスがもたらす感じ。陶酔とは違う。のめり込むわけではない。どちらかというと麻痺だ。頭がじんわりぼーっとする。
そこで、携帯がチャットを受信した。仕事の連絡だ。思わずやり取り始めてしまう。はたと気がついた。いかんいかん。茶室で何やっているんだ。現実というやつは油断ならないやつだ。どこにでも入り込んでくる。
平日真っ昼間だからか、パソコンを持ち込んで仕事をしている人もいる。楽しみ方は人それぞれだ。
曲はシェーンベルクに変わった。不安な感じ。その中に美しさがある。でもラヴェルの方が好きだな。
シェーンベルクもクライマックス入る。聞くものを不安のどん底突き落としてくる。そこでその場から切り離されて、冷静になっている自分がそこにいる感じ。少し眠いような、でも眠りはしない感じ。
現実から隔離される。ここは本当に茶室だ。
席はみんなスピーカーの方を向いていて、映画館のようだ。後期ロマン派って映画っぽいから余計映画館のような感じ。
ところで、私はロマン派をマロン派と毎回心の中で読み替えている。ロマンの抽象性よりもマロンの具体性方がよほど良いと思えるからだ。
自分のタイミングで入って自分のタイミングで出ればいい。なんと気軽な茶室だろう。
名曲喫茶ライオンは最高のおっさんのための茶室だ。
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