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嘘つき学生と、嘘つき企業の、意味のない情報交換―それが就活

最近『六人の嘘つきな大学生』という小説を読んだのが、勉強になること就活への皮肉が沢山書かれていたので、引用して自分の意見も少し書いていきたいと思います。

ちなみにこの小説に対する感想はこちらからご覧ください。

あらすじ

簡単なあらすじを引用させて頂きます。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

六人の嘘つきな大学生 | 浅倉 秋成 |本 | 通販 | Amazon

ちなみにスピラリンクススピラという若者がほとんど使うようなSNSを運営する爆イケのIT企業で、そんな企業が満を持して新卒採用を開始し、初任給はなんと破格の50万円という設定です。

勉強になったところ

GDの準備

当初1ヶ月後のGDのテーマは「スピラリンクスが実際に抱えている案件と似たものを提示し、それをどのように進めていくのか」だと提示されていたのですが、それに向けて会議する様子が非常に勉強になりました。

スピラリンクスが手掛けている案件を1人ずつ調べて会議で共有することになったのですが、その調査した情報は様々でスピラリンクスの案件を網羅的に調べた人海外のSNSについて調査した人などがいました。

そしてそういった資料を6人で分担して読み込んで、概要抽出してホワイトボードに箇条書きにしていき、案件を網羅出来たら傾向に沿ってカテゴリわけをして対策を練っていくという流れが見事でした。

就活への皮肉

この本の中では就活に対する皮肉が沢山書かれているのですが、僕は就活が終わったという目線から見ていて「これ分かるわ~」ということが沢山ありました。その中から5つ引用させて頂きます。

①就活の指針が曖昧

就職活動の辛さ未来への不安から嶌さんという女の方が泣いてしまう場面がありました。その嶌さんの不安な気持ちに主人公の波多野くんは凄く共感していて、このように考えていました。

大学3回生の後半になれば就職活動が始まる。就職は当然しなければならない。だから頑張らなくちゃいけない。しかし、やるべきことの指針は悲しいほどに曖昧だった。何をしたら内定が近づき、何をしたら内定が遠ざかるのか、何もわからない。
一方でそういった曖昧さに救われている側面があることも完全に否定はできなかった。小さい頃から突出した何かを持たずに、それなりに気が利くいい人――通知表を何一つ賑わすことのなかった僕に対する周囲の評価が、初めて採点対象とされる。就活は苦行ではあったが、たぶん不得手ではなかった。しかしやっぱり「どうやらうまくやれているらしい」という以上の手応えはなかった。透明な銃で透明な敵を撃ち続けていたら、思いのほか悪くないスコアが手元に表示されていたというような話で、そこに喜びはあっても具体的な根拠や確信は存在しない。そして往々にして理由の提示されない瞬利の喜びよりも、無慈悲に突きつけられる敗北の痛みのほうが、ずっと胸に深く残り続ける。
誰だって全戦全勝とは行かないのが就活だ。スピラリンクスの最終選考に残りながら、同時に僕は多数の企業から不採用の通知をもらっていた。それはおそらく嶌さんだって同じはずだ。
この会議室の中、六人で語り合っている間は根拠のない自信が細胞膜のように心を優しく守ってくれるが、ひとたび落選の通知――いわゆるところの『お祈りメール』を受け取れば、人間性をまるごと否定されたような心地になる
根拠のない自信、根拠のない安心感、そして根拠のない不安
何一つ根拠がないふわふわとした精神状態の中、おそらくは自らの人生、向こう数十年に影響を与えようかという一大イベントに直面している。冷静でいられるはずがない

p.33

個人的には就活の最も過酷な所はこの曖昧さだと思います。何をすればいいか分からないのに、内定が出ないとどんどん追い込まれていくし、それが本当に辛いです。

またこの曖昧さからサボる人は本当にサボるし、結果を出す人は圧倒的に出すし、周りと比較してもどうすればいいか分からずしんどくなってしまうんだろうなと思います。

②自分でもよく分からない上昇志向

このGDが終わってから7年後に7年前の就職活動について振り返るというシーンがあるのですが、その中で就活生に芽生える上昇志向について話されている場面がありました。

自分でもよくわからない上昇志向が芽生えるっていうか、変に意識が高い状態に調整されるっていうか。いい言い方をすれば「成長しすぎる」んだな。就活のせいで。どんな大人になりたいですか、どんなビジネスパーソンになりたいですか。何もわからないのにやたらと急かされた感じがあって、こっちも根は体育会系だからさ、やってやるぜって燃えちゃうんだな。だから仕事が忙しそうな、やり甲斐たっぷりを標榜するような大手とか有名どころばっかり受けてたなぁ・・・・・・
まあ、おかげでそれなりに大きな会社に入れたからよかったんだけどさ。でも実際、定時上がりでそこそこの収入がもらえればそれで満足だったはずなんだよな。当時はスピラにだってめちゃくちゃ入りたかったはずなんだけど、いざ月の残業が百時間超えますよ、やり甲斐たっぷりでしょ――みたいな話になったら、段々と心が腐っていってたとは思うんだよな。ただ大変なのがカッコイイと思い込んでたんだ

ほとんどの就活生がこの謎の上昇志向を持ってしまっているんじゃないかなと思います。本当に「成長」という言葉を就活中は耳が腐るほど聞いたし、それを聞いていると自分も成長したいと思い込んでしまいます

③就活期は最上の混乱期

ここでも就活について振り返ったシーンを引用させて頂くのですが、ここでは特に自己分析就活による混乱について書かれていました。

就活期は思うに、最上の混乱期だったよ。自分のことを知らなきゃなんて言って本屋に駆け込んで、自己分析の本を買うんだからね。そこで、へえ、僕ってこんな人間だったんだなんて納得したりして。今になれば何やってたんだろうって思うけど当時は大真面目だったよ。多分だけど、この世で最も就活生が詐欺に遭いやすいと思うよ。本当の混乱期だから。

p.90

僕は自己分析で見つかる自分が本当の自分だとは思いません。先程就活生は謎の上昇志向が芽生えると書きましたが、その上昇志向を持った状態で過去を振り返っても「今までも上昇志向を持ってきた!」と錯覚するだけです。

しかし、最上の混乱期である就活期は自分が本来あるはずのない上昇志向を持っていることにさえ気づけません。そんな風に就活生は自分が分からなくなるほど混乱しているので詐欺に遭いやすいと書いているんだと思います。

④人事担当は例外かも知れない

引き続き就活について振り返ったシーンを引用させて頂きます。ここでは特に人事担当と実際に働く人の乖離企業の制度について書かれていました。

あんなに無意味な時間ってなかったと思うよ――就活。
企業に気に入られるために学生はみんなしてついて、一方の企業だって自分たちにとって都合のいいことしか伝えようとはしない。それこそ、今の会社は新卒で入ったときから騙されっぱなしだよ。学生の対応をしてくれてた人事の男の人が、眼鏡のひょろっこい優しそうな人でさ、こんな人が活躍してる会社ならなんとなく雰囲気がいいなと思って、究極的にはそういう部分に背中を押されて入社を決めたわけだよ。でも中に入ってみれば、人事担当みたいな人は例外中の例外だったってすぐに気づかされた。末端からてっぺんまで軒並み脳みそまで筋肉でできてるような体育会系ばっかりだった。こんな運動部みたいな会社なら、あの人事担当の人、相当居心地悪いんじゃないか――そんなことを考えていたら、案の定だよ。人事担当、俺が入社した年に玉突きのように辞めていったんだ。傑作だろ?
人事が笑顔で話していた『女性が活躍している会社です』も『グローバルな目線を持った企業です』も『バースデー休暇など、少し変わった福利厚生も充実してます』も全部嘘だった。女性社員は営業に向かないと言われて事務系に回される。入社面接ではTOEICの点数を訊いてきたくせして、英語なんて一度だって使う機会はない。どこまで行っても内需の仕事が待ってる。バースデー休暇に至っては、取っている人間を見たことすらない。誰もそんな休暇制度の存在を知らないんだ。嘘つき学生と、嘘つき企業の、意味のない情報交換――それが就活。

p.146

これもよく聞く話ですが、人事担当実際に働く人は違う場合があります。だから人事の方の意見だけを当てにせずに、実際に働いている人の意見を聞くという姿勢を持つ必要があります。

またスピラリンクスにはビリヤードが出来る会議室があるそうですが、全く使われていなかったり、制度自体はあるけど実際には使う人がほとんどいなかったり、存在はしているが稼働していないことも往々にしてあります。

⑤見極められていない

最後も就活について振り返ったシーンを引用させて頂くのですが、ここでは学生を見極める側の人事担当者について書かれていました。

学生不完全な人間であるのと同じように、人事だって不完全な人間なのですから、やっぱりこの世界に絶対はないわけです就活生向けのマニュアルと同様に、書店には山ほど人事担当者向けの採用ガイドというものが用意されています。優秀な人材を引き寄せる採用の法則、面接質問集100、やってはいけない採用Q&A――棚を見れば一目瞭然じゃないですか。人事だってよくわかってないんです。どんな選考をすれば優秀な学生をとれるのか、相手の内面を見極められるのか、なぁんにもわかってなんかないんです。ショックを受ける学生もいますけどね、それが事実ですから。

p.248

普段就活生の目線でしか見ていなかったのですが、企業側からしても見極めるのは難しいんだなと思います。だから仮に落ちたとしても、全く気にする必要なんてなかったんです。

おわりに

僕は就活を本当に一生懸命やったような人間なのですが、この本を真に受けていれば就活めっちゃ適当にやっていたんだろうなと思います。だから今読んでいて良かった気がします。

確かに就活していた当時持っていたような上昇志向は今ほとんど持っていません。どれだけ自分の芯を持つことが難しいのか、自分の芯が簡単に移り変わっていくのかを実感しています。

本日も読んでくださりありがとうございました!

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