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ちいさな、ちいさな、みじかいお話。

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#文学

【雨と物語】雨と嫌いと嫌いと、好き Part1

【雨と物語】雨と嫌いと嫌いと、好き Part1

 雨は結構嫌いな方。だって濡れるじゃない。それに、鬱陶しいじゃない。……なんて理由を並べてみるけれど、結局は雨のその匂いを嗅ぎ、静かな雨音に耳を傾けていたりするから、私は私という人間を全然分かってない。自分のことを分かるとか分からないとかどうだっていいのだけど、この”空から降ってくる雨”に関しては、どうしても素直になれない、というか、好きなようでいて嫌い、嫌いなようでいて実は好き。……みたいな。

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第4回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第4回 /全7回

 着信があったことをバイブレートした携帯が、テーブルを揺らしたことで気付いた。

「はい」

「ああ、雄大?大丈夫、今」

「ああ、うん。大丈夫」

「真木に電話したよ。やっぱりやめるって言ってきかなかった」

「……だろうな」

「……なあ、ほんとうにやめるのかな?あいつ」

「まあ、やめるんだろう。本気っぽかったから」

「……じゃあ、どうするんだよ俺たち」

そんなこと言われても、と思った。

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第3回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第3回 /全7回

俺は電話を切り、まだパソコンのスイッチを入れていなかったことと、ドリンクバーを頼んだのに何も取りに行っていないことを思い出した。

……いや、そもそもここに何をしにきたのかもよく分からない。真木が突然バンドをやめるなんて言い出して、少し気が動転していたのかもしれない。動転していたからといって近所のファミレスに来るなんて、俺の行動範囲もほとほと大したものじゃないのだと思い知らされる。それに、落ち着く

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第2回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第2回 /全7回

「喫煙席はこちら側になりますねー。お好きな席へどーぞー」

重い体をぐったりと椅子に下ろし、バッグからパソコンを取り出した。もうほとんど常連になってしまっているいつものファミレスのいつもと同じ席だ。ここの店はWIFIが通っているから便利だ。ファミレスで、無料の電波を飛ばしてるところは珍しい。

「あ、ドリンクバーで」

いつもドリンクバーしか頼まないのに、店員は笑顔で対応してくれる。申し訳ない気持

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第1回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第1回 /全7回

「……俺さ、やめることにしたから。……え?何ってバンドに決まってんだろ」

「は?」

「……バンドやめんの」

「何言ってんだよ?お前。……は?」

「悪いな、本当に悪いと思ってるよ。……だけどな、もう俺もそろそろちゃんとしないとって思っててさ」

「……俺たちはちゃんとしてないってか?」

「いや別に、雄大(ゆうだい)のことを言ってるんじゃないよ。……なんつーか、世間的に見れば俺たちは普通じゃ

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『短編』再会はどこか不安定 最終回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 最終回 /全5回

「本当だよ。大学卒業した後に、同僚の子と少し付き合ってたけど、すぐに別れちゃったから」

「同僚と付き合ってたのか?」

「そうだよ。同期の女の子。部署は違ったから毎日会ったりはしないけど」

「なんかでもそれ、やりにくそうだな」

「別に。そんなことないよ。普段顔を合わせないから。同じ会社だって言っても、別に気にならない距離感」

「ああ、距離感ね~」

「そうそう、距離感」

将は突然くっくっ

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『短編』再会はどこか不安定 第4回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第4回 /全5回

「ところでお前最近どうだ?」

時計は深夜一時を指していた。店内は幾分落ち着き、入ってきた時の賑やかさはもうほとんどなかった。二つ隣の席に座っていた大学生らしきグループも、さっきまではしゃいでいたように見えたが、いつの間にか静かになってしまっていた。二人は机に顔を突っ伏している。寝てしまったのだろう。もう電車も走ってないから、僕に残された道は将の家に帰るか、このファミレスで朝まで過ごすか、どっちも

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『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

「おいおい、別にいいだろう?お前だってどうせ彼女いないんだから」

と何度かのやり取りをした後、業を煮やしたのか

「あの、すみません。一緒に飲みませんか?」

と気付けば将が声を掛けていた。女の子たちは一瞬怪訝な表情を浮かべ、同じタイミングで見合わせた。それからまた少しの間があって、二人は僕たち二人の顔を見定めているようだった。それからまた少しの間があり

「ああ、いいですよ」

と一人の女の子

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