まーにー

【cinemee】「思い出のマーニー」という映画


 心の傷は永遠に残る。だけど、それを少し癒すために私は夢の中に足を踏み入れる。

 長編映画としては、スタジオジブリが制作部門休止を出した一つ前の作品。つまり最後の作品として公開された「思い出のマーニー」。米林 宏昌監督、「借りぐらしのアリエッティ」以来、4年ぶりの作品になる今作は、アリエッティみたいな可愛らしいインテリアがふんだんに使われている。
 まずはそこを見るべきだろう。それが米林監督の良さの一つだと思う。ジブリ映画の監督としてはまだ若い人であるために、シーンとしては何かのジブリ映画で見た事あるなーという場面がいくつかあって、正直それはがっかりする要因でもあるのだけれど、美術面は非常に優れた人だと思う。実際にあんな家日本にあるのかなんてのは、とりあえす置いておこう。いや、いいんだ。ジブリ映画はきっと、夢の中の物語なのだから。

 夢、という言葉を出したけど、この映画は言うところかなりファンタジー要素が強い。なんなら映画の半分くらいは主人公の妄想の中の話なのだ。一言で”妄想”と言ってしまう程単純なものでもないのだけど、かなり非現実的な部分が多い。やはりそれも割り切ってみるしかない。「ジブリ映画は夢の中の物語なのだから」と。
 もし僕が映画を見ていながら、よく喋る人間だったら、この言葉を何度も口にしていたかもしれない。
 いや、しかしだ。またこの映画はリアリズムでもあるような気もしてしまうのだ。それが不思議。観ている人間は強制的に現実の世界と妄想の世界を行き来する事になる。だからその移動で大変に疲弊してしまった僕は、そんな言葉を口にする余裕もなかった。
 とにかく見終わった後、非常に疲れてしまったのだ。
 ジブリ映画には珍しく、最後に「ああ、そういうことなのか」という感想を持つ映画だ。どんでん返しという程ではないにせよ、「なぜ主人公はこんな妄想をしているのか」、いやはや、もはや「マーニーって誰なのか」そんな疑問をずっと持たされながら話が進んで行き、最後には「ああ、なるほど」と疑問は着地する。ジブリに限らないがその感覚は気持ちいい。

 ただ少し”狂気”や”恐怖”を感じる映画でもあると思う。
 恨みを持った主人公の人に対する、気持ちが僕には痛かった。結局最後はハッピーエンドで終わるけど、それまでの過程での気持ちの重さが辛い。そして現実の辛さだって痛い。

 この映画に出てくる人たちはとても”可哀想”な人たちが多い。
 可哀想なんて言うと、まるで僕が上から見下しているように思えてしまうけどそうじゃない。僕が入り込む余地などないくらいに可哀想なのだ。物理的な壁にぶつかる悲劇と、それを引きずってしまった精神的な悲劇。人を信じられなくなった心、信じてもらえない心。痛い心がたくさん描かれている。
 ハッピーエンドである事に間違いはないのだけれど、それらの問題が解決されたとは思えなかった。
 登場人物たちは、やっとスタートラインに立てたのだ。


 最後のジブリ長編映画がこの作品であった事に、何か意味を感じられずにはいられない。

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