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長編小説『because』 78

「どうもしないの」
私も出来る限り優しい声で言った。彼は何も悪くないんだ、私が勝手に流している涙だから、彼に心配をかけてしまう事に抵抗を感じる。
「でも、泣いてるよ」
「うん、泣いてる」
「なんで泣いてるの?」
「分からない」
「俺がいけないのかな?」
「ううん。そんな事ない」
夕日は沈み、辺りが急に暗くなった。その間私たちは抱き合ったまま、段々と消え行く夕日と共に、私たちもこのままどこかに消えてしまえたらいいのにって、その時は思っていた。でも、私たちが消える事なんてなくて、夕日が完全に顔を隠し、辺りが黒い夜に包まれてしまっても、私たちは何も変わらずその場所に居続けるだけだった。

ただ彼の体温を肌で感じ、これ程距離が近くなった事なんてなかったから、私自身は彼の香りと共に、現実から完全に消え去ってしまったのではないか?ここはまるで夢の中のようだ、そんな風に思っていた。

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